龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
漢の大軍が、
漢から投降してきた2人の将、
それでも漢の動きは気になると見えて、章平は、ときどき
その報告によれば、
「最近、漢の大将の孫興という者が、
しかし、
とのこと。
「漢の軍勢が出てくるというのは、みんな誤報でしょう」
「漢中は、よく治まっていて、漢王劉邦は思うがまま
章平は大笑いした。
「そうだろうな。
軽々しく韓信などを用いて大元帥にしたところを見ても、漢王が人間というものを分かってないことは明らかだ。
しかも、300里もの
たとえ漢王が攻めてきたとしても、恐るるに足らぬわ」
そういうわけで、章平は、毎日酒を飲んで暮らしていた。
仕事は、放っておいても
*
などとふぬけていた、その時である。
早馬が散関へ転がり込んできて、慌てふためき報告した。
「ただいま漢軍が! どこから出てきたのか、さっぱり分かりません!」
章平は眉をひそめた。
「なに? 落ち着いてしゃべれ」
「漢軍です! ここから50里(20km)離れたところに、漢の大軍が現れました! 野にも山にも敵兵が満々に満ちております!
『先鋒
章平は
「なんだと!? 漢軍が……一体どこから来たというんだ!?」
「いやいや、5万騎だの、攻めてくるだの、そんなのは、おそらく見張りの者の
私が推量するに、
ここは、もう一度よく状況を調べ、軍を動かすにしてもその後にすべきです」
「なるほど、そうか……」
章平は納得し、調査のために
だが、この様子見が、結果的には大失敗だった。
モタモタしている間に
章平は、心臓が飛び出て魂が消えるほどに驚き、大慌てで
「とんでもない事態になってしまった!
もはや一刻の
血路を切り開くため、まず私が打って出て一戦する。
汝ら2人は、固く四方の門を守って、散関を敵から守り抜くのだ!」
「章平将軍、心配無用です。
それがしが千人の兵を分配し、昼夜問わず四方を巡回させておきます。どうして敵に散関を奪われることなどありましょうや」
章平は、この頼もしい言葉に喜び、3千余騎を率いて門を開け、打って出た。
*
章平の
「
そのうえで、みだりに
ゆえに天罰を下すため我ら
章平よ、さっさと門を開いて降伏せよ! さもなくば、1人ずつ首を
対する章平も、笑って言い返す。
「漢王劉邦は、漢中に
「命を失うかどうか、試してみるかァッ!」
かつてあの項羽をさえひるませた
その
刀を舞わして打ちかかる
火花を散らして刃を打ち合わせること20合あまり。
「逃がさねえ!」
さらにその後ろから、
この追撃で、章平の兵はみるみるうちに討ち取られていった。
章平は、ほうほうのていで逃げ走り、わずかな残兵だけを連れて、どうにか城門の中へ転がりこんだ。
追ってきた
鉄砲や火矢を打ち込んで、休む間もなく攻め立てる。
しかし、さすがの要害、大散関。守りは堅固で、そう簡単には落ちそうもない。
そのとき、伝令が来て、
「大元帥の軍が追いついてこられました」
「……というわけで、とりあえず勝つには勝ちましたが、あの散関は、ちょっとやそっとで落ちそうにはありませんぞ」
韓信は平然として報告を聞くと、近くの山に登って地形を観察した。
東西南北、四方を
韓信は、ニィッ……! と会心の笑みを浮かべた。
「――章平、すでに我が計に落ちたり!」
*
韓信は、大軍を手配して、散関へ再度攻撃を仕掛けた。
大勢で火矢を射かけ、さらに10座以上の風火砲(大砲)を構えて一斉に発射した。
その威力によって山は崩れ、崖は破れ、城内の者たちは震えおののいた。
章平はますます驚き恐れ、兵に
そこへ、韓信がみずから馬を出し、城の前で声をはりあげた。
「散関を守る大将に
これを聞いた章平は、城壁の上に姿を現した。
章平の背後には、
その様子を見ながら、韓信は鞭を
「項羽は無道である! 暴虐を
しかも義帝を
それゆえ今、漢王様は兵を起こして項羽の罪を正そうとしている。
章平! 汝は、なぜ投降してこないのか!
どうしても城門を閉じて我ら
これを聞いた章平は、激怒して言い返した。
「この私は、
どうして汝のような
「そうか」
韓信は、冷たく笑った。
「では、しかたないな」
その時である。
突如、
(つづく)
●注釈
韓信が散関を攻撃するとき、『風火砲』(「西漢通俗演義」では『風火大砲』)なる兵器を使用している。作中の描写から、これは火薬によって砲弾を打ち出すもの、要するに大砲なのだと考えられる。
しかし、火薬兵器の実用化は12世紀のこと。紀元前の楚漢戦争時代に大砲などあるはずもない。ここまでたびたび登場している鉄砲(爆弾)と同じく、時代考証を(おそらくはわざと)無視して登場させられている兵器である。
なお、『風火砲/風火大砲』なる名称は、「水滸伝」からの引用と思われる。梁山泊百八星の一人轟天雷・凌振は火器の専門家だったが、彼が大砲から打ち出す三種の砲弾が『風火炮・金輪炮・子母炮』であった。