龍虎戦記 項羽vs劉邦【翻案・通俗漢楚軍談】 作:外清内ダク
章平配下の
予想だにしなかったこの事態に、章平は目を白黒させ、ツバを飛ばして、わめき散らす。
「貴様ら!? どういうつもりだ!?」
だが
これには散関の兵士たちも、大いに驚き騒いだ。章平を救い出そうと近寄る者もいた。
しかし
「漢王は仁徳の君主だ! 天下の人々は、ことごとく心服している!
お前たちも、すぐに降伏するなら命は助けてやる!」
大将の章平は拘束されているし、門の外には漢の大軍が殺到している。
このままでは無駄に殺されるだけ……
そう悟った
散関の制圧が完了したのを見て、
「よし! 城門を開け! 韓信大元帥をお入れしろ!」
章平は、
「
「ようやく気付いたか。
私の本当の名は、漢の大将
一緒に来た100人の
ここまで全て、韓信大元帥の策略だったというわけだ。
お前が私らを重用してくれたおかげで、実に仕事がやりやすかったぞ、章平!」
*
かくして、難攻不落の大散関は、たったの一晩で陥落した。
韓信は、散関の中に入ると、まず降伏した
さらに、守将の章平を引き出させて言う。
「章平。
汝は
しかも
すぐに首を斬ってやろうかとも思ったが、貴様ごときは
軍政司
中国において、相手を犬(
ここで章平に屈辱を味わわせ、しかも殺さずにおいたのも、もちろん次の戦いを見すえた韓信の策。
ちょうどそのとき、伝令が韓信に報告を持ってきた。
「漢王陛下の後軍が到着しました!」
漢軍の大将たちは、
早くも散関が落ちた! と聞いた劉邦は、おおはしゃぎである。
「散関は
対する韓信は、戦果を
「散関は取りましたが、これは始まりに過ぎません。
陛下は、この散関に留まり、後方支援をお願いいたします。
臣の方は、これから
その後、
それから韓信は、拘束していた章平を引き出し……
「この犬の耳を切れ。
命だけは助けてやる。
と、章平の耳を切り落として解放した。
章平は、血の
その背中を見送りつつ、韓信は考える。
「よし……弟の章平をこのくらい
こうして次の戦いの仕込みを済ませると、韓信は、すぐさま命令を
先鋒たる第一陣は
そして韓信みずから本隊を率い、名将
*
この戦いから、兵法の極意の一つ、『明修
『明らかに
偽装工作によって敵を油断させつつ、素早く展開して奇襲を仕掛ける……そういう戦術のことである。
たちまちのうちに要害を落とし、歴史に武名を刻んだ韓信……
だがこれほど見事な戦いすら、大元帥韓信の快進撃の、ほんの始まりにすぎない。
ここから韓信は、数々の戦場で数限りない功績を立てていくことになる。
*
思えば、ここまで多くの出来事があった。
始皇帝の死。
反乱軍の蜂起。
項羽と劉邦の出会い。
理不尽な
そして、静かに力を養い続けた漢中での日々……
激動と苦難の
次なる天下の支配者は、
龍虎
(巻七へ、つづく)
■次回予告■
散関陥落の勢いに乗り廃丘へ迫る韓信の大軍。だがその前に分厚い壁が立ち塞がる。
戦場を駆けること三十余年、
次回「龍虎戦記」第三十八回
『韓信 対
●注釈
韓信が、章平に対して『貴様ごときは
以上の事情は承知の上で、今回は、あえて『
ここの表現を新約聖書の訳本などにならって『重い皮膚病』などとするか、あるいはいっそ省略するか……と、かなり悩んだうえでの決断である。その責任は全て筆者の外清内ダクにある。批判があれば甘んじて受け入れる覚悟である。ただ、ハンセン病患者に対する差別を肯定・助長する意図は一切無い、ということだけは、言い訳がましいが申し添えておきたい。