宇宙を放浪するスローライフを目指します 〜巨大な宇宙戦艦とアンドロイドを添えて〜 作:八雲ネム
「広告や営業のメールはアドレスをジャンル分けした後でブロック。メールの方はゴミ箱に入れちゃって」
「ハイ」
「スパムメールはアドレスをブロックしてからメールを即削除して」
「ハイ」
1億クレジット*1、と言う大金を動かした後からやたらとメールが来る様になったので首を傾げながらミネルバに聞いてみると、内容は広告や各種営業のメールが大半を占めて後はスパムメールが少しと面倒な事になった。
何しろ、それだけのお金があるんだったらまだまだあるんだろう判断してその内の1%、9億クレジットの場合だと900万クレジット*2だけでも動いただけでかなりの利益になるからだ。
いわば、金の亡者達が俺の資産を狙っている訳だが俺としてはグータラできるスローライフを送る為、びた一文だって渡す気はないが一々反応するのも面倒なので自己進化型AIに処理する様に頼んだ。
これが金儲けをする方向だった場合、広告や営業を仕掛けてきた企業を調査して彼らの株式を買収して資産を増やす事も考えたかもしれないが、今の俺には性に合わないので距離を取る事にしたのだ。明日生きているのかもわからない傭兵でもある訳だしね。
それに、未開の惑星の原生生物を殲滅したら産業用ロボットや建設用ロボットを運用して、惑星を開発して自分だけの艦隊を運用するつもりだから下手に手を出して大損害を被ると、精神的なダメージで開発にも影響するだろうから関わらない方が良いと思っている。
その為、広告や営業のメールに一切の反応を示さずにスルーするのと同時に傭兵ギルドで依頼を受けると受付の人から声を掛けられた。
「軍人さんが来てるんですか?」
「恐らく、勧誘の類いだろうね。君の場合は輸送輸送の依頼ばかりだけど傭兵ギルドの中ではかなりの変わり者だから」
「まー、あれだけデカければ当然ですね」
下手に目立つと困るので、宙賊の討伐などには目もくれずに物資の輸送ばかりを引き受けていた為、ランクとしてはプロンズのままなのだが宇宙船の割には巨大すぎるのでそれが逆に悪目立ちしているらしい。
こちらとしては、傭兵として目立っても嬉しくないんだがねと思いながらギルド内にある応接室に入ると金髪の美女もとい、そこそこ位の高そうな若い女性が座っていたので挨拶をした。
「オーガスト・ジャレッド・ムーアヘッドです。軍人さんが一介の傭兵に何用です?」
「シビル・オリーヴ・リンジーよ。随分な変わり者が居ると聞いてやってきたのだけれど、冴えない感じの男ね」
「冴えなくてすみませんね」
確かに、イケメンなどの目立つ顔立ちではないのは事実だが挨拶がてら直に言われるのには流石にカチンと来たので、軽いジャブとして返すと彼女はキョトンとした表情を浮かべてからクスリと笑みを浮かべた。
「物怖じしないのね」
「世間知らずな若造ですから」
「そう」
「それで、本当にここに来た理由って何ですか? 勧誘とかならお断りですが」
まぁ、この程度のジャブなんて若くて20代前半、多く見積もって30歳前後の彼女からすれば可愛い物だろうと思って放ったのだが案の定、軽くいなされただけだったのでここに来た理由を促すと予想した答えが返ってきた。
「えぇ、私は貴方を勧誘しに来たの。あの宇宙戦艦に乗ってる貴方を」
「お断りさせて頂きます」
「あらどうして?」
「そちらに入ったら入ったで色々と面倒じゃないですか。貴族社会ですし」
「それはそうだけれど、来たら今より遥かに豊かな生活が送れるわよ?」
「良くも悪くも庶民階層出身ですから、そちら側の生活が想像できないんですよ。立身出世の欲もありませんしね」
すると、こちらも想定していた通りに勧誘して来たのですぐにお断りの申し出を行った。
この銀河系には、多数の国が存在していて程度の差はあっても各々の国力で多数の星系を版図に組み込んでいるのだが、恒星間航行で行われる交易からもたらされる利益が膨大な為、基本的には宇宙を旅する人々の交通を自由に行える国家間の協定、自由通商協定に参加している。
例外は閉鎖的な自治領だったりする訳だが、そう言った例外も含めて貴族や金持ちなど階級社会が構築されるのは人間社会では自然の流れであり、オリーヴさんが所属する軍隊を持つ国では立憲君主制を敷いている国だと言う。
その為、王族の他にも貴族が普通にいる国なので兵や下士官は庶民などの下流階層が担い、少尉から大将までの士官は上流階層の貴族が担う軍隊になっている。
勿論、複数隻の宇宙船を率いるオリーヴさんも大佐と言う上から数えた方が早い士官であり、彼女の実家は伯爵の爵位を持つ貴族なので立身出世がしたいと考えれば貴族の争いに巻き込まれる事が前提となってくる。
それがなくとも、率先して嫌な事をやらされる可能性が高いのでスローライフを送りたい俺からすれば入る理由がない。傭兵ギルドは副業としてやってるしね。
「あらそう。だけれど良いのかしら? 貴族からの誘いを断って。何をされるのか、判ったものではないでしょう?」
「えぇ。ですが、そちらに事情がある様にこちらにも事情があります。なので今回の誘いには乗れません」
「それは未開の惑星を開発する為かしら?」
「いやはや耳が早い」
「私達の間では話題になっているわよ? 大金を持った若造が危険な惑星を購入したってね」
どうやら、宇宙船の他にもスローライフを送る為に購入した惑星の方でも悪目立ちしていた様で、少し軽率だったかねぇと思いながらも話を続けた。
「そうですか。とするなら、誘う理由が分からなくなるんですが」
「それに関しては単純よ。私にも一枚噛ませてほしいのよ」
「………あまり他人に踏み入れたくないのですが」
「でしょうね。だからこちらで用意できるものは用意するわ」
「具体的な物は?」
「そうね。資金面や技術などを用意しましょう」
要約すると惑星の開発は好きにして良いし、技術供与するから自分達にも利益を分けろと言う話なので一見すると魅力的な誘いではあるが、貴族の話である以上は何かしらの意図がある筈なのだ。
「うーん、魅力的な誘いではあるのですが今すぐに決めれませんし、あまり良い返事はできないと思いますよ?」
「そう。なら今日はここまでにしましょう。ですが、近いうちに私の誘いと似た様な物が沢山来る可能性があると思いますので、ご注意を」
「ご忠告、ありがとうございます」
その為、今すぐ決めない事を伝えるとオリーヴさんはそれ以上は言わずに忠告をして立ち去ったので、俺も安堵のため息を吐いてから今後の事を考える必要性を認識した。
何しろ、相続として転がってきた土地を売ったら人生100回は豪遊できる大金が懐に入ったので、宇宙船に乗って未開の惑星を開発しに行く成金の若造と言う創作ならもっとマシな設定にしろ、と言いたくなる状況を作った張本人なのだ。
そうなれば、自ずとその金に集ろうとする輩は勿論だが危険な原生生物を排除して惑星の開発が軌道に乗れば、惑星に眠る資源に目を付ける輩がわんさか出てくるのは明白。
幸い、惑星の所有権を持っているから無法地帯にならずには済むが、それでもデカい資本が活発に動くのは確かなので何かしらの後ろ盾が必要になるのは確かである。
(おかしいな。スローライフを送ろうと惑星を購入したら面倒な事に対して対処しないといけないんだ?)
当初、思い浮かべていた計画には全くなかった面倒事を抱え込む事になって悩みの種ができた、と思いながらミネルバに戻った。