ぺとりこーる 作:サカサマ
「……6号。そう呼んで」
イアスを襲っていたエーテリアスを屠った彼女はそう言った。彼女は、見るからに重体であった。エーテル侵食により腹や肩から結晶が生えていて、見つめる目が自然と険しくなってしまう。
結晶が生え始めるのは、侵食症状の最終段階。それ以上侵食が進めば、エーテルエネルギーの結晶体——つまり人間ではない存在、エーテリアスになってしまう。
そもそも、今こうして受け答えができていること自体が奇跡に近い。侵食症状は体調不良から始まり、次に神経系の麻痺による歩行困難、失神。脳系統への影響で健忘に似た記憶障害。その次に行くと後遺症を伴う障害を負うことになる。そして最終段階が、今の彼女だ。身体の至る所から結晶が生え、時間が経つとエーテルエネルギーのコアが現れて…異化する。
彼女の生気のない目が、こちらを覗く。
イアスの安全を考えるなら、まずは距離を取るべきだ。
——彼女、6号こそが最もエーテリアスに近い存在なのだから。
「…迷子?」
そう尋ねられる。プロキシがホロウで迷子だなんて笑えない。そういう類のジョークだろうか?
「まさか。僕はプロキシだからね」
苦笑しながらそう答え、視線を戻す。
「……6号、大丈夫? エーテル侵食、かなり進んでるけど」
「モーマンタイさ。エーテル?侵食?まあ、大丈夫だとも……プロキシって…?」
そういい、彼女はしゃがみ込んでイアスをやさしく撫でた。
手のひらにまで結晶があるのか、少し引っ掛かりがある。それに気づいたのか、彼女は手のひらを確認する。その手を見て、彼女は目を伏せて、沈黙。やがて、イアスを見た。
その様子に無性に悲しくなった。侵食による死が迫っているのに、イアスを案じているように見える彼女。
彼女に生きてほしい。死んでほしくない。
「…僕が案内する。ホロウを出よう」
「…?」
僕の言葉に首を傾げる。連れていく必要はないと、そういうことだろうか。でも、危険だとしても、ホロウを出ることができるのなら可能性はある。異化していないのなら対処できる。だから。
「だから道中、僕を守ってくれるかい」
あくまで交換条件だと伝える。あなたがいないと出れないからと。ギブアンドテイクなら、首を縦に振ってくれると思ったから。
「…了解。それが命令なら」
6号は、基本的な知識が欠落しているようだった。
ホロウの侵食によるものか、脳系統への影響で部分的な記憶障害になっているようだった。分かるのは自分の名前らしいものだけ。話をしていると変な知識で斗出しているけれど、本当にそれだけだ。
先ほどから「プロキシとはなんだ」「エーテリアスってなに」「侵食…それ死んじゃうのか?」と聞いてくる。僕はできる限りそれに答えた。最後の質問は…悪いけれど、誤魔化すことしかできなかった。あなたはこれからまもなく死んでしまう。だなんて、伝えられなかった。それに知らない方がいいこともある。
「プロキシ」
短く呼ぶ声がする。先ほど覚えた言葉を早速使いこなしているようだ。なんだい、と続きを待った。
「ホロウってなに」
「…どう説明したものか、簡単にいうなら時間制限付きの迷路みたいなものだね。チップは命の」
「なるほど。先ほどから景色が変わらないのはそれが原因?」
「そうだね。ホロウの特異性とも言える無秩序に行われる空間連結。最近支持されている一説だと空間が流体状…液体のように溶けて混ざり合っている説がある。コップの中の水は厳密に言えば止まっているわけじゃなく常に拡散を続けているように、ホロウもそうとする考えが…この説なら外的変化を起こせれば安全な経路…キャロット作りも簡単になるから早く実証実験をしてほしいんだけど……はっ!」
久しぶりに仕事の話題で熱弁した気がする。聞かれてしまうと答えたくなる性が…子供に聞かれると答えたくなるようなものだろうか。
肝心の6号は顎に手を当てて唸っていた。その様子を見て少し安堵する。特別引かれたわけじゃなさそうだ。むしろ、少しでも学び取ろうという姿勢が見て取れて好感を抱く。
見ていると、再び口を開いた。
「エーテリアスって化け物がいて、道も迷宮みたいでしょ。なのに、どうして一人で?」
それを聞かれると、弱い。困ったようにあははと笑うことしかできなかった。ただどうやら、誤魔化せるわけじゃなさそうだ。
「…僕も有名でね。嫌がらせみたいなものだよ。護衛を依頼していたエージェントにホロウで逃げられてしまってね」
「…悲観する必要はない。なにせ私に会ったんだ」
励ますように、歩きながら少し腰を下げてポンポンとイアスを叩く。イアスも心なしか嬉しそうだ。
「プロキシ。人だ」
6号の後ろに隠れるように入り、目線の先にあるそれを見る。そこにいた人物は、件のエージェントであった。数刻前と違うところがあるとすれば、下半身の有無だろうか。
そっとイアスのカメラ…目に手を当てられる。べつに見慣れた光景だからそんな必要はないのだけど、受け入れることにした。しかし、一つ気にかかる。
「…エージェントは3人いたんだ。今そこには1人しかいない」
どこかで金属がひどく歪んだ音がした。不安な音に周辺の空気が張り詰める。6号も、自身の武器へ手を伸ばしていた。
周辺に音が反響して、音源を見つけることは困難。まるで囲うように移動しているようにすら聞こえる。
不安を煽る音が、ぴたりと止まる。
次の瞬間——影が飛ぶ。それは空を裂き、真っ直ぐに落下した。地面が悲鳴をあげ、ヒビが走る。死体と僕たちの間に、それは降り立った。
右腕は刃物のように尖り、振り下ろされれば一瞬で何もかもを両断しそうだった。緑色のマントのような部位がゆらめき、その下に隠れる胴体の肌は漆黒に染まっている。左腕は根本から失われ、足はまるで獲物を貫くためだけに進化したかのように鋭く、地面を突き刺して立っていた。
「タナトス…!」
出てきたエーテリアスに狼狽えてしまう。そのとき6号は真剣な様子で見つめながらヒーロージャンプ…! と呟いていた。幸運なことに、狼狽えていたイアスの集音器には拾われなかった。
「6号! ホロウを出ることが先決だ! 逃げながらいなすことはできるかい!」
「撤退戦ということね。了解」
そういうとすぐに踵を返し、イアスを横抱きに走り出す。イアスの目に、6号の腹にある結晶がよく見えた。目に見えないところで、金属がぶつかり合うような音がする。走りながら、追撃をいなしているのだろう。
ここからは僕の仕事だ。
プロキシは今までのホロウで蓄積したデータから、ホロウの空間連結の法則性を見つけ出し安全なルートを見つけ出す。データと重ね合わせて、演算式を立て、あとは演算。簡単なようだけれど、誰でもできるのならこの仕事は誰だってやらない。
データはどこにでも落ちているわけではなく、経験か買取りでしか得られない。法則性を見つけ出すことも簡単なことではなく、海面の波紋を予測するようなものだ。演算は、機械の馬力による。
考えろ。
データの収集は今回できていない。データスタンドはここまで一本もなかった。逃げながらデータを得る必要がある。
考えろ。エージェントの脱出にはプロキシは絶対に必要なのだから。
「……そうだ…!」
裏切ったエージェントはどうやって脱出するつもりだった?
エージェントのみで脱出はできない。つまり、事前にキャロット…脱出ルートを得る必要がある。もしくは、エージェントたちの中にプロキシがいたか。後者ならばすでに脱出したか死亡した可能性が高い。前者であることを祈りながら六号に叫んだ。
「6号! 僕はキャロットを取りにいく! タナトスを頼む!」
「…了解っ!」
飲み下したような返事。そして足で地面を抉るようにブレーキをかけ、イアスからそのまま腕を離す。イアスはぽてっと落ちた。そのまま走り出す。速くキャロットを見つける一心で。
「プロキシ!」
背後からの叫び声で足がゆるむ。
「…もういいから」
そんなのダメだ!
6号の言葉に、思わず声を荒げそうになった。彼女は、自分を置いてホロウを出てもいいと、そう言っているのだろう。そんなわけない。そんなはずがない。そんなこと、あっていいわけがない。こんな場所で死んでほしくない。死ぬべきじゃない!
でもここでその問答をする時間はない。6号の侵食状況は末期だ。きっと先ほど走るのだってそうとう体にこたえたはずだ。戦闘する余力があるようには思えない。なら僕は走らなければ。
どれほどだったか、先ほどの死体に辿り着く。周辺を見れば、切り捨てられたであろう下半身もそこにあった。
早くキャロットを見つけなければ。焦りに駆られ、荷物を漁る。上半身にはない。すこし離れた下半身へ向かう。ない。ない。
「……っ!」
探しても探しても、キャロットは見つからない。指先が震える。時間がない。6号がまだ持ちこたえている保証なんてどこにもない。
「頼む…どこだ…どこにある…!」
焦りを噛み殺しながら、必死に荷物を漁る。ここまででどれだけ時間が経った。6号はまだ無事か。キャロットはどこだ。
過去の自分の発言がリフレインする。エージェントは3人いた。一人はここで死亡…あと二人は……?
そうだ。タナトスはどこからきた? 誰かを襲い終わり、こちらを捕捉して出てきたのだろう。なら出てきたところにあるはずだ。まだ空間が変わっていないならそこにいるはず!
タナトスの出てきた方向へ走る。タナトスは飛び上がってきただけに、飛ぶことのできない身では時間がかかってしまった。
ただ、見つけた。キャロットを!
見つけたデータをイアスに取り込む。これで動きやすくなった。早速近くの空間連結を利用して移動する。もちろん場所は、6号の元へ。
幸運にも空間は、6号の近くへつながっていた。裂け目を抜けると、激しい金属音が響き聞こえてきた。その現場へ走る。
向かう道中は血が撒かれ、建物への傷が戦闘の苛烈さを伝えている。そうして見つけた6号はあらゆる場所が裂かれ、血を流している。満身創痍だ。そんな彼女に叫ぶ。
「6号! こっちだ!」
一瞬驚いたような表情をしたが、そのまま向かってくる。時間を無駄にしないよう、向かうために使った裂け目に飛び込む。6号も間に合ったようだった。
傷だらけで息も絶え絶えの彼女が、か細い声で尋ねてくる。
「…どうして、戻ってきたの?」
6号の声はかすれていた。驚きよりも、戸惑いが滲んでいる。まるで、自分でも信じられない、とでも言うように。
「…君を見捨てるわけないだろう?」
その言葉に、6号は一瞬だけまばたきをした。それから、ほんのわずかに口元を緩める。けれど、今にも崩れそうな笑みだった。
「…そう」
たった一言だった。でも、その声はどこか、安堵したようにも聞こえた。短くそういうと、再び歩き出す。
出口はすぐそこだ。
ホロウの出口は都合よく人目のつかない路地につながっていた。
外の空気に触れた瞬間、6号の足元がぐらついた。
「6号!!」
叫び声が届く前に、彼女は膝から崩れ落ちる。そのまま地面へと沈み込んだ。疲労や緊張が緩んだからなのだろう。少し安心できることはこれ以上エーテル侵食は進むことはない。急いで信頼できるエージェントと、裏稼業や事情のあるような人を受け入れる病院に連絡する。
担架に乗せられた彼女を見送り、ようやく息をつく。HDDの接続を切り、やっと緊張が解けた。
「お兄ちゃん…6号はきっと大丈夫だよ」
「…そうだね」
一緒に戦ってくれた妹の頭をそっと撫でて、その日は静かに眠りについた。
転生者「案内できるん? サンガツ」
アキラ「死なせない(迫真)」
転生者「ファッ!?」
タナトス参上!
転生者「かっけぇ!」
アキラ「にんじん取りにいくね!」
転生者「もうええわ」
そんな話。
もしかしたらこの作品、勘違い要素も入っているのかもしれない。ということでタグ追加しといたゾ。
あとエージェントの件は適当です。そういうこともあるよねってことで。これ二次創作だし(無敵)
アキラくんのお早口お説明はわたくしの自論ですわ。実際新エリー都の市民に説明されるホロウなんて、空間連結で迷子、時間経つと異化、エーテルエネルギー超お高い! ってことだけじゃありませんこと?
というかわざわざ調べましたけれどあんまり要領を得ませんでしたわ。これは私の頭のせいかも知れませんけれど…。
異化…エーテリアス化についてみなさんどう思います?
怪物になる系で趣味が分かれるのは、その人の面影残る怪物化か、周辺の物品や癖でその人と分かる怪物化がありますわよね。わたくしは周辺の物品や癖でわかる後者が好みですわ。倒した後に遺品がドロップしたりするのもグーなのです(かわいい) それに癖でわかるのも戦っている途中に気づいたりするととてもグーなのです(やかましい) そういう話じゃありません。
わたくしがお聞きしたいことは、ゼンゼロ世界でエーテリアスに識別名…というか種類別に名前はあるのか。そこが気になりますわ。
例えば「ニネヴェ」あれは零号ホロウの主人とも言えるエーテリアスですから、唯一性と脅威から名がつくのは当然。わたくし気になるのゲームの雑魚キャラども…ただのエーテリアスとかとボスキャラ…デットエンドブッチャーとか。あれストーリーじゃエーテリアスと一括りなんですわ。
なんかこう…違うっ! ゾンビゲーだって特別足の速いゾンビをランナーというように、エーテリアスもその特徴から名前分けしてもよく思いませんこと!? たしかにプロキシ図鑑などエネミーネームを知れるところにはご丁寧に区別され名がついておりますわ。しかしストーリーでそこまで区別はありませんわ。あげるなら脅威的なとか強大なとかfairyがいうところ……いやストーリーなどで読者様たちを混乱させないための対策が一括りにするってことなんでしょうけれど……うーん。ので、わたくしの二次創作では名前はついているものとします。
というわけで、わたくしのためのボス紹介と行きましょう。
二対で一体! Shall wa dance! マリオネット・ツインズ!
第二形態がカッコいいぞ! 武器ブンブン! デットエンドブッチャー!
クローンとの絆が美しい! かわいそうはかわいい! パリクス!
お薬ずっと守っててえらいぞ! でも犯罪者! トラキアン!
片手が刃物! タイミングむずくてキレそう! タナトス!
盾と剣の盤石装備! お前じゃねぇ座ってろ! デュラハン!
四足歩行! 甲羅めんどい! アーマーハティ!
正直理屈が意味不明! これからも増えるよ! ドッペルゲンガー!
はい。エーテリアスのボス限定で紹介しました。
これでストーリーでちゃんと区別されてるゾ。と指摘されたらもう恥ずいですわ。そのときは失踪します。
ツイッギーさんは何号だと思いますか? 6号の姉か妹か決まるだけですのでテキトーにお選びください。
-
1〜5号
-
7〜10号