ぺとりこーる   作:サカサマ

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 瞬きの間に、すべてが変わってしまった気がした。

 

 夜空の下、電灯が私に向かって白い光を垂らしている。背中に伝わる感覚から察するに、私は電柱にもたれ、地面に座り込んでいるようだった。光源の周囲では羽虫たちが力なく飛び、いくつかがふらりと落ちていく。それを見送ってから、ようやく私は視線を巡らせた。

 

 店はすべて閉まり、通りには灯りが等間隔に灯っているだけ。ようやく頭が働き始めたそのとき、暗がりの向こうから、ふたつの光がこちらへ近づいてきた。手に持っているライトの光だ。

 

「先輩、あそこの街灯までって言ったじゃないですか! ……いつまで立ってるつもりです? 本当にもう!」

 

「待ってくれ! ワタシだって行きたいんだ! だが足が……痺れて、今動かしたら取れそうなんだ!」

 

 男の必死な訴えに、後輩らしき女性のため息が夜気に溶けた。

 

「だいたいシータ、あの街灯はどうなんだ。暗がりを照らすには心許なさすぎる。それに……見ろ。光の下に、まるでワタシを罠にはめんとする幽霊まで……」

 

「酔っ払いでしょうが、ふざけないでください!」

 

 女性はそう呆れたように言いながら、駆け足で私に近づいてきた。声を出そうとしても、出てきたのはうめき声だけだった。

 

 制服姿の彼女がそっと肩に手を置き、覗き込むようにして尋ねる。

 

「大丈夫ですか? 風邪ひきますよ。立てますか?」

 

「シータ! 急に置いていくのはやめてくれないか……!」

 

「お、来れましたね先輩。成長ですよ」

 

 そのやりとりに引きずられるように、意識がまた緩んでいく。だが、その空気を切り裂くように、先ほどの男の声が、急に真剣味を帯びた。

 

「……シータ、今すぐ車を回すよう連絡を頼む。ワタシはこの方の事情を伺おう」

 

 雰囲気が数秒前とは打って変わっていた。後輩の女性も戸惑い気味に問い返す。

 

「え、先輩……?」

 

「この方、肩に包帯が巻かれている。治療跡も多い。意識も混濁しているようだ。このまま放ってはおけん」

 

 男性は真剣な眼差しでシータに告げた。彼女は狼狽えながらも軽く頷いて無線に向かい始める。男性は私の前に膝をつき、目線を合わせる。

 

「失礼、私は巡回中の治安官員、ゲラントと申します。意識が優れないようでしたら、あと少しで車が来ます。……お名前を伺っても?」

 

「……名前……?」

 

 その問いに、私は驚くほど素直に答えた。わからない。自分の名前すら。

 

「……差し支えがなければ、治安局までお越しいただけますか?」

 

 その申し出に、私は逆らう理由も見つけられず頷いた。間もなく到着した車に乗せられ、赤と青のランプに照らされながら、その場所へと向かった。

 

 車の中、次第にはっきりしてきた意識の中で、私はぼんやりと思った。

 

 ……これ、連行じゃない…?

 

 

 

 

 

 

 そうして、翌朝。

夜間病院で軽く検査を受け、治安局というところへついたときには意識はバッチリと覚醒していたが、夜遅いこともあり取り調べは翌日となった。

 いやちょっと待って? 私は取り調べられることなんてしてないと思うんだけど。これ任意ですよね?(負けフラグ)

 そういうこともあり、私は局内の独房のような所で待たされている。寝泊まりもここだった。どこへ帰るべきかも分からず、誰の足跡もない閉じられた空間でひとりきりになると、妙な不安だけが天井に染みのように広がっていく。

 

 それを振り払い、朝の習慣として洗面台へ向かう。部屋に備え付けのこぢんまりとした洗面台だ。用意されたホテルとかに置いてある使い捨ての歯ブラシを携えて。しかし、視界に映る手がなにかしっくり来なかった。

 鏡の前に立ち、連行された事実に項垂れながら鏡を見た私は、突然息を飲んだ。むしろ先ほどの違和感への納得が勝った。人は驚くと声が出ないと言うが、本当にそうなんだと私は場違いに思った。

 

 鏡に映るそれは、私であって、私じゃない。顔が違う。白髪、童顔。少々生傷が目立つ、でも整った顔。

 身体もそうだ。すらりとした体型と、焼け跡や切れた跡の目立つ白色の服——幾らか血が滲んでいる——に服の隙間から覗かせる包帯。

 

「……はぁ?」

 

 寝起きの頭はまだ混乱していた。むにむにと頬をつまんでみると、やけに柔らかい。見慣れない顔なのに、確かに自分の顔だ。鏡越しに映る変な顔が、なぜか可笑しくて思わず笑った。

 

「んふ。ふふ」

「失礼。お客人、朝早くも事情を伺いたいのだが——」

 

 薄緑の光る、長いツインテールを携えた小柄な女の子がドアを開けてきた。ちょうど私は両頬を両の手で挟み込んで間抜けズラを晒している最中、鏡越しに彼女が見えるのだから彼女からもそうであると言うことで……。

 うわああああ! ていうかノックは!? 

 

「…失礼した」

 

 脳内でどったんバッタンしている私を置いて、ドアはそっと閉じられた。死にたい。

 なんだか以前にも目覚めたと同時に恥ずかしい思いをした気がすると、私は静かに布団の中に姿を消したのだった。

 

 

 

 二度寝ることは許されるわけもなく、大きめのノックが響き、十分に時間を空けてから開かれる。先ほどの子が来た。むしろ何もなかったように対応してくれた方が助かるところだが、いそいそと布団から這い出て、事情を伺われに向かう。

 

 事情聴取というか、取り調べというか、あれだ。カツ丼が出てきそうな部屋に通された。マジックミラーがあって、後ろに刑事さんが何人か見てるやつ。これ任意ですよね!?

 通された薄暗い部屋には机が置いてあり、促されるまま対面になるように座る。

 

「そこまで緊張されんで良い。我のイタズラ心がこの部屋を選んだ故」

 

 あっそうなんだぁ安心! じゃないよ!

 

「そう慌てなさるな、白湯でも飲んで落ち着こうぞ」

「えとあの私別に悪いことはしてないというかこれ任意ですよね…?」

 

 後半ものすごく震えた声が喉を張って出て行ったが、対面に座る彼女はほほほと上品に笑っていた。なんだよぉ!

 

「いやはや失礼。我は治安局、都市秩序部捜査課・特務捜査班の玉偶(ぎょくぐう)青衣(ちんいー)と申す」

「…多分、6号です」

 

 口をついて出た名前は、それしか知らなかった。名前の由来も、誰が呼んでいたのかも思い出せない。ただ、それだけは最初から脳裏に貼りついていた。

 詳細に述べられる自己紹介、難しそうな肩書きに慄きつつ、そんな相手に対し、自分があまりに空っぽであることを痛感する。

 

「ほう。名前……は思い出せている様子。ゲラント殿から引き継いだ際には記憶にどこか問題があると聞き及んでいたが……名前以外は、思い出せない様子か」

「ぜんぶ、まっしろです。ハイ」

 

 私は、問われるままに答えた。住所、職業、身元、負傷の理由……どれも「知らない」としか言えない。逆にこれは楽なのでは? と、ちょっと投げやりになる。

 

 青衣は情報がまるで掴めず、眉間に皺を寄せていた。

 そこへ、コツコツとノックの音。入ってきたのは背の高い黒髪に赤のメッシュが目立つ治安官風の人だった。ファイルを小脇に抱え、それを開いて読み上げる。

 

「先輩、顔認証のみですが調べた結果市民登録には一切載っていませんでした。6号、という名前も探してみましたが過去記録も参照しましたがデータベースには載っていません。…言われた通りに防犯カメラも調べましたが死角が多く…六分街もそこまでカメラはありませんので…」

「ふむ…顔写真の登録漏れか、本当に戸籍が無いか…」

 

 取り調べをされている身分ゆえ、あちらが停滞すると何もする事がない。私が所在なげにしていると、彼女はこちらに顔を向けて名乗った。

 

「治安局捜査課の朱鳶(しゅえん)です。紹介が遅れてすみません」

 

 これは丁寧に、と頭を下げる。

そのまま淡々と進むかと思うと、すこし億劫だ。

 

「…先輩。どうしますか? 進展がないなら——」

「6号殿」

 

 言葉を遮るように声を上げ、一泊空けて青衣は言った。

 

「我はこれより休憩時間とする。朝から何も口にしておらぬようだし、少し食事にでも出かけんか?」

「喜んで!」

 

 光の速さで即答した。朱鳶さんの「先輩……」という声が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをしてその場を飛び出す。こんなところにいられるか! 気分が陰鬱になっちゃうよ!

 一緒に出て行ったはずが、青衣が少し遅れてやってくる。不思議なことに朱鳶さんは追いかけてこなかった。どんな魔法を使ったのだろう。あの様子なら止めに来ると思うのだけど。

 そう疑問を口にすると。

 

「我も先輩。とだけ言っておこうかの」

 

 ゴリ押しか。何はともあれ。

 

「流石ですチンイ!」

「? 青衣だ」

「チンイ!」

 

 なんだかあだ名みたいになったぞ。これは多用していこう。相手は治安官だけれども。

 青衣は唐突につけられたあだ名に困惑した様子だったが、いつの間にか手を引かれて街へ飛び出していた。

 

「チンイ! あれ食べたい!」

「これこれ。6号殿の身体はおそらく病み上がり、ラーメンよりも少し軽いものを食べようぞ」

 

 初めて見るものに子供のような反応をした。そんなこんな、軽いお昼ご飯をとりそのまま観光が始まる。記憶がないからか、目に映る街並みがまるで初めてこの世界に触れているような感覚で、私は無邪気にはしゃいでいた。

 

 観光なんて、こんな状況でおかしいのかもしれない。記憶がないことも、名前すら曖昧なことも、この人と一緒なら忘れられる気がした。それだけで、この時間はとても大切に思えた。

 これは知っているのだなとか、これも知らんのかとか、多少のリアクションがありながら、それら全てに丁寧に答えてくれる。穏やかな声がそれらを乗せて届けられるので、落ち着いた気分で青衣とずっと話していた。

 

 夕日に染まり始めた頃、ようやく青衣は戻る気になったのか、さてと前置きをして歩き出す。そういえば、お昼手前に出てきたのにすでに夕暮れ時で青衣は大丈夫なのだろうか。ふと青衣の目が虚を突くような色を見せた気がした。

 

 

「確認が取れた」

 

 

 背筋が反射的に伸びる。青衣の声は変わった。穏やかだった水面が、いきなり底知れぬ深さをのぞかせたような声音。笑みを浮かべていたはずの顔に、冷たい仮面が貼り付いている。ふと気づけば、私の鼓動だけが騒がしく響いていた。深緑の髪色が西日に染められて揺れている。

 

「6号殿の目新しい手術痕にあるそれ、人工皮膜は昨今TOPSから発表された技術…で、あろうな」

 

 傷を無意識に撫でる。包帯越しで何も分かるはずがないのに、不安は消えない。

 

「生体が受け入れられる皮膜は、まだ高価で稀少。通常の病院でそう安易に施されるはずもない」

 

 私は知らない。何を言おうとしているのかも、どこへ向かう話なのかも。

 

「少々後輩を荒く使い、時間がかかったが新エリー都の全公的施設に確認を取った。この一週間、人工皮膜の施術記録はどこにも存在しない」

 

 

 

 

「——6号殿は……一体どこで、施術を受けたのであろうな?」

 

 青衣の声はいつの間にか静まり返った大通りに静かに落ち、顔には影が作られ、その暗闇から翡翠の目が私を貫いていた。その瞳は、まるで見透かしているかのようなまなざしだった。

 

 





 ここからがメインストーリー。


 普段おろおろしてる人がキリッとしだす瞬間が好き。ゲラントもそうだと思う。そうした。

 なーんか主人公さんテンション違くない? と思った方いらっしゃいますわね。私がそう。
前回までは6号の記憶の上に転生者がいましたが、今回はまっさらに消えた上に転生者がいるので、テンションが違うわけですわ。魂と身体なら身体の方が強いと思いますの。
 11号のように記憶の復元は徐々に行われるので、以前の6号に勝手に戻りますの。取り調べで馬鹿正直にクローンのこととか姉妹とか言われると治安局と防衛軍が倫理とかで対立原因になりそうなので、展開的にこれがわたくしは助かりますわ。
 ゼンゼロ運営の設定が原作から便利すぎるっ!!! 天才ですの!? 天才ですわ!!

 でもわたくしの都合的にすぐには戻らずギャグテイストで少しの間進められたらなぁーって、感じ。ギャグとかわたくし書けないんですけどね! わたくし、あとがき詐欺には自信がありましてよ! へぇーそうなんだ(はなほじ)的な感じで読んで遊ばせ!

 そういえば、6号さんホロウからでてまだ二日目くらいなんですわ。ホロウからでて二日三日でこれって…苦労してはりますわ6号はん。
 今回の朱鳶さんはマジの青衣の後輩ですわ。立場的にも経験的にも。遊びに行く先輩に新エリー都全ての病院を調べろと言われた後輩の心は如何に。
 あと青衣さんエミュマジでむずいですわ。今回あまり違和感がないのなら喜ばしい限り、物理的に脳絞った甲斐もあるというわけですわ。

 あとあとあと! みなさまのおかげで評価に色が付いていましたよ! アクセス数もヤッベェですわ!! お気に入り数もやばいわよ!!! 感想書いてけ〜。非ログインでも書けますわよ〜。

 あそうそう、感想をいただいて疑問に思い解決したのでここに書きます(自己満)
 ツイッギーさんってすっごく痛い手術をされたと思います。四肢欠損のえっちな達磨状態に機械義足義手をつける、麻酔の効かない身体の神経をいじくる行為は死にかけ判定にならないのか。ツイッギーさんの記憶はなんで無くなっていないのか。
 おそらくツイッギーさんの苦しみはじわじわと蝕むような苦しみだったんじゃないかなと思います。苦痛にならされてさらに苦痛が与えられることで死の判定にならないというか、そんな感じ。飼殺し的な。

 今回更新が少し早いのは、稀によくある。そんなものだと思ってくださいまし。気分が乗ってるときと構想が固まっているときにバーっと書くタイプですのよわたくし。

 あとシルバー小隊破棄からシルバーの復活まで何年経ってるんでしょうか。2、3年かな?

サンクス誤字報告

ツイッギーさんは何号だと思いますか? 6号の姉か妹か決まるだけですのでテキトーにお選びください。

  • 1〜5号
  • 7〜10号
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