ちはっと★ホロポケ   作:たかしクランベリー   

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1話・生ける伝説と千速

 

ポケットモンスター、縮めてポケモン。

この星の不思議な不思議な生き物。

空に、海に、森に、街に、世界中の至る所で

その姿を見ることができる。

 

ここホロスサントス地方も

その例に漏れない自然豊かな大陸である。

 

西風が穏やかに吹くこの長閑な町、

スターテンドタウンも依然……平穏。

 

現在、とあるレストランは貸切状態。

退院祝いで集った

白上クリニックの面々と輪堂一家が

宴に明け暮れていた。

 

和気藹々と盛り上がる宴の中。

幼き少女、輪堂・千速は狐の被り物をした

医院長に根性を見せるため

イヤリングをつける準備をしていた。

 

「チハは医院長みたいな

立派な大人になる!

遊び半分なんかじゃないっ!

だから見てて! 

今からイヤリングつけるだよ……!!」

 

「この年で!? 

無理はやめようよぉ千速ちゃん!」

「BAUBAU〜……」

 

「………………。」

 

キツネ医院長の取り巻きである

双子の番犬ナースが

辞めるように促すものの、まだ幼く

衝動的に動き易い年頃である

千速の耳には入らなかった。

 

ザクっ。

 

「……っ。

――いたぁああああああいっ!」

 

「ふははははっ……!

キミ本当に面白いね。

実に良いものを見せて貰ったよ。

さぁ諸君よっ、

彼女の勇ましい大志に乾杯だ!」

 

「「「乾杯ーーーッ!!!」」」

 

カンッカンッ!

 

医院長が大っぴらに両の腕を広げると、

一同が待ってましたと

言わんばかりの笑みを浮かべ

ジョッキを持ち上げる。

 

そうして

所々で歓喜の声を上げるグループは、

盃を交わし合い

軽快なグラスの音を立てる。

 

「あー痛くなかった。」

「「「嘘つけェエ!」」」

 

「チハは強いだよ!

だから、もっと強くなりたい。

師匠になってさぁ〜あ↑

ずっと付きっきりで

色々教えてよ医院長……!」

 

「ふはははっ!

それは立派な大人になる為かね?

こう見えて私、

相当なダメギャンブラーですよ。」

 

「BAUBAU〜♪

そうですよ! この人、大のつくほど

運に恵まれてないダメ医院長で……」

 

「フワモコーぉおお! コラァ!

それ以上は言うなぁぁあああ!」

 

「「あははははははっ♪」」

 

響き渡る談笑と食器の騒音に

心地良く揺られてる最中だろうと、

悪いヤツは関係なく突然やってくる。

 

バンッとドアが力強く開けられ、

ぞろりぞろりと見覚えのない

怪しい大人達が店内に足を踏み入れた。

 

「邪魔するぜェ。」

 

「「「「………………。」」」」

 

リーダーらしき人物が医院長の方を向き、

嘲けるように口を開く。

 

「おう、久しいなヤブ医者。

改めて見ると

やっぱり馬鹿げた被り物してんな。

狐の剥製みてぇなモン頭に被ってヨォ……

救えねぇ患者共から

目ェ逸らしてんのか。」

 

「…………。」

 

「「……医院長。」」

 

犬耳の双子ナースが心配げに呟く。

何か知っている様子だ。

 

そんな周りの様子を気にも留めず、

彼はのそのそと店員に歩み寄った。

 

「俺は近場を仕切ってる

ギャングの若頭だ。――が、

別に店を荒らしに来た訳じゃあねェ。

酒を売ってくれ。一升瓶を10本ほど。」

 

店員は慌てふためきながら応答した。

 

「すみません。

お酒は今、丁度切らしてまして……」

 

彼は怪訝な顔で

辺りを一瞥すると、即座に難癖をつけた。

 

「んん? 可笑しな話だな。

周りの奴らが何か飲んでるようだが……

ありゃあ『水』か?」

 

「――ですから、

今出てるお酒で全部ですので。」

 

「これはこれは悪い事をしてしまいました。

申し訳ないですねぇ。

我々が全て頂いてしまい……

栓も開けてない中瓶が一個あるので

良かったら――」

 

バリィんっ!!

 

医院長が気を利かせて差し出すが、

速攻でソレは粉々に粉砕された。

 

「おいおい医院長、俺を誰だと思ってやがる?

この俺を不快にしなきゃ

気が済まねェのかぁーオイ。

……ナメた真似するな。

中瓶一本じゃあ寝酒にもならねぇ。」

 

「あちゃー、床がびしょびしょだ。

フワモコ、ハンディタオルを3枚ほど

私にくれないか。

後始末は任せてくれ。」

 

「――ッ!!」

 

医院長の態度が不服なのか。

彼はモンスターボールを構えた。

 

ポカンっ!

「べたぁ!」

「ベトベター、やれ。〝ヘドロ爆弾〟。」

 

BOOM!!

 

ベトベターから吐露された球体が

破裂し、周囲に紫色の粘液が飛び散った。

酷い汚れようと悪臭に一瞬、ウッとする。

 

「掃除が好きらしいなァ医院長。

土産だ。これくらいの方が

やり甲斐って

モンがあるだろう……!!」

 

「…………。」

 

「――ケッ。じゃあな腰抜け共。

酒がねぇんなら話にすらならねェ。

別の町に行くぜ。」

 

嵐のようにギャングらは荒らし去り、

ボロボロになったレストラン内で

医院長は1人ぷるぷる震えていた。

 

こんな状態でチハが出来るのは、

気にかけて声をかけるくらいだ。

 

「医院長さん、大丈夫……!?

ケガはないの!?」

 

「ふっ、大丈夫大丈夫。何も問題はないさ。

――ぷっ。」

 

(え? 今微笑んだ?)

 

「っだーっはっはははははぁ!

なんてザマですか医院長ー!」

「BAU〜っ! 派手にやられましたねぇ!」

 

「こらーフワモコぉー!

――ったーっはっはぁ、ダメだぁ。

私も愉快で笑いが止まりません……!」

 

「――なんで笑ってるだよ!!」

「……ん?」

 

「あんなのカッコ悪いじゃないか!

何で戦わないだよ!

幾らアイツらが強そうで大勢でもっ、

あんな事されて笑ってるなんて……

凄いダサいだよ!!

医院長はホントは凄い人なのにさぁ!」

 

「……こらこら、千速ちゃん。

気持ちは分からんでもないが、

酒をかけられただけの事だろう?

別に怒るほどの事じゃあない。

ほら、ささっと

掃除をやってパーティを再開し……

――って何処へ行くんだ! こらっ!」

 

もうチハの怒りの

エンジンは全開だった。

お兄を難病から救った医院長を……

『救世主』をコケにされて

黙っていられるほど

チハは恩知らずなんかじゃない。

 

折角の退院記念パーティまで

めちゃくちゃにされて……。

 

あの人が過去に医院長と

何かあったとしても、

この態度だけは本気で気に食わなかった。

 

だから全力で走って追った。

 

そうして遂に追いつき、

埠頭の付近で移動準備する

彼らを前に、チハは啖呵を切った。

 

「おいっ! 医院長たちやチハに謝れだよ

オジサンたちっ!!」

 

「はぁ? 何だテメェ……ん、待てよ。

テメェ、さっきのトコに居たガキか。

謝れだと? そりゃあ御免だな。

アイツは俺の兄を亡き者にした

『ヤブ医者』だ。

優しくする道理が何処にある。」

 

「うるさいだよっ……!!

医院長は救世主なんだ!!

ポケモン勝負で負けたら、

オジサンたちが謝れ……!」

 

「見かけに寄らず脳筋だなぁ嬢ちゃん。

もし負けたんならよォ〜、

俺らの要求を飲めよ。」

「もちろんだ!!」

 

PONっ!!

 

「いけっ! モクロー!」

「相手しろ、ベトベター。」

 

両者のポケモンが目を合わせる。

勝負の火蓋は、今切られた。

 

「先手で来い。」

 

余裕のある顔つきでリーダーの男が挑発する。

どの道先手を打つ方つもりでいた。

 

「じゃあ遠慮なくっ!

いけモクロー、〝このは〟っ!!」

「もくぅーーー!」

 

シュンッ!

 

嘴に咥えた木の葉で、モクローが

ベトベターに切り掛かるが……

あまり効いた様子ではなかった。

 

「もう理解しただろ。

レベルの差が全然違うのさ。」

「くっ…………」

 

 

 

 

ホロサントス地方・サクナ湊近辺――

 

ヴーー。

 

モーター搭載の小舟が

エンジンを鳴らし海を進み出す。

見知った街の風景が遠ざかっていく。

 

「どこに向かってるの。」

「俺の勝手だろ。要求を飲むと言ったのは

嬢ちゃんなんだしなァ。

それに、詮索は許可してねェぞ。」

「…………。」

 

きっと、何も答えるつもりはないのだろう。

 

自ら蒔いた種。

もうあるがままを受け入れるしかない。

そう思ってた矢先。

 

「「「ピィーピィー!」」」

 

複数の鳥ポケモンの鳴き声が木霊した。

上を見上げると何十匹のキャモメが

バタバタと羽搏いていた。

 

「チッ、ヤケにキャモメが多いじゃあねぇか。

鬱陶しいにも程があんぜ。

ん、もしや……」

 

彼は水面を覗くと、

納得したように頷いた。

 

「成る程……ヨワシの〝大量発生〟。

奴等にとっては、恰好のご馳走会場と

言ったところか。」

 

ザバァン、ザバァン!!

 

次々とキャモメが水面へ飛び込み、

ヨワシを

クチバシに抱えて飛び上がる。

 

そんな食物連鎖の風景に

目を奪われていると。

 

「きゃもぉっ!」

「――!?」

 

ばしゃあんっ!

 

突如チハは

キャモメに衝突して海に落ちた。

必死にジタバタして沈まないように足掻く。

 

「ヤダっ! チハ溺れたくないっ……!」

 

バタバタバタ……

 

「へっ、ざまぁねぇなァ〜ガキィ!

この際だッ、

抵抗出来ェくらい

弱りきったら引き上げてやんよ!」

 

ザザザザァ……

 

「―――!?」

 

ジタバタを続けていると、

一際大きな魚影がボートに寄ってきた。

 

ぶくぶくと気泡が浮かび、

ぞろりと海面から這い上がる巨大な生物は

長い長い首を海上に晒した。

 

「大きくて赤いギャラドス!?

嘘っ、アレはタダの噂話のはず……!」

 

この町で知らない者は居ない、

『紅蓮の貪食ギャラドス』。

目に映る凡ゆるモノを食らい尽くす

伝説の凶暴ギャラドス。

 

「ヘェ……タチの悪い『都市伝説』だと

思ってたが、まさか〝実在〟するとは。

――面白ェ。」

 

「ぎぎぎぉぉおお……」

 

男と顔を合わせ、低く唸る。

恐らく捕食者として

餌を吟味しているのだろう。

 

「少なくとも通常個体のギャラドスの

5〜6倍はある巨体……しかしこの風貌。

〝メガ進化〟や〝キョダイマックス〟とは

関与してなさそうだ。

『ハード・ビオトープ』以外で

このようなヌシ個体と

出くわすなんざ

運がいいんだか悪いんだか。」

 

「ぎゃぎゃぉおおおおっ!」

 

「まぁ、何はともあれ。

捕獲して売りゃあ一攫千金。

今ここで、シバくか…………。」

 

嬉々として感嘆を上げるオジサンに対し、

捕食者は大口を開け飛び込む。

 

彼はモンスターボールを構え始めたが。

 

バクゥううんっ!

 

「……あ、、ああ。」

 

(人が……食べられた。

あんなに、あっさり。)

 

ギロっ。

 

次はチハの出番とばかりに

捕食の目を向け、口を開く。

 

(ヤダよ。どうしてここで

チハは食べられなきゃ行けないの?

まだまだやりたい事

いっぱいあるのに……!!)

 

「ギャオオオン!」

 

迫る捕食者の牙を前に、

最後の望みをかけた。

 

どうにかして無事に生きたいと。

心の中で、強く強く。

 

ばしゃぁああああん―――!!

 

爆発のような水飛沫が上がり、

意識が一瞬だけ止まる。

 

次に瞼を開いた時、誰かに

抱き抱えられる形でチハは護られていた。

海水が染みきったダボダボの白衣に

ぶらりと首から揺蕩う聴診器。

 

彼が何者かは

その特徴的な被り物を見ずしても分かる。

 

そう。彼は―――。

 

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