ちはっと★ホロポケ   作:たかしクランベリー   

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10・5話 - この世界は好都合に未完成

 

時は遡り。

 

STPG試験2F合格者指導の30分前。

 

〜SIDE『博衣こより』〜

 

「――え?」

 

1人カフェで休憩をしていた

博士……博衣こよりの

前に現れたのは、狐の剥製頭部を

被った怪しげな白衣の男だった。

 

突如向き合う両者。

 

数秒見つめ合い……

男は持ってきた珈琲カップを

丁寧に円卓へ置くと。

機嫌を伺うように尋ね、

こよが座す

テラス席の向かい側へ着席した。

 

「久しぶりですね。博衣博士。

余ってた椅子、少々お借りします。」

 

椅子が2個置いてあるタイプの

テラス席を選択してしまった

自分に対して今、地味に後悔している。

 

彼とは数回の面識があるものの、

それは研究者同士が定期的に

催す交流会のみでの話。

プライベートで自発的に

交流を図るような

印象の人物でもなかった。

 

今回、アポだって取られていない。

……そんな目的が見えない彼に

内心警戒しながらも、

僕は疑問を漏らすしかできなかった。

 

「貴方は……

白上クリニックの『白上医院長』!

どうしてこんな所にっ。」

 

彼、もとい白上医院長は

被り物越しに珈琲を嗜むと

ひと呼吸置いて答える。

 

「いやはや、新聞雑誌で

掲載された彼女の合格報告……

それで舞い上がってしまってね。

つい、ここまで

足を運んでしまったよ。」

 

医院長はこれ見よがしに

新聞を差し出した。

誌面に映っていたのは、

今回のSTPG試験で

合格を勝ち取った面々だ。

 

こよが誌面を眺めてから

2秒くらいして、

彼はスッと1人の合格者を指差した。

 

まるで、我が子を自慢するような

不器用親父の態度そのものだ。

 

「『輪堂・千速』、過去最難関の

STPG祭にて81点を叩き出し合格。

ふーん、やるじゃんこの子。」

 

「素晴らしいだろう。

流石私が認めた逸材だ。

彼女がチャンピオンに至るのも

そう遠くはない未来だろうな。」

 

「いやいやいやぁ、

それは過大評価し過ぎだって。

合格は実力なのかもしんないけど、

本当の地獄はここからさ。」

 

「ふっ、そうかもしれません。

ですが博士……

会ってみれば分かりますよ。

彼女にはそう思わせる程の力が、

オーラがあると。」

 

「へー、分かったよ医院長。

取り敢えず頭の隅っこに

置いておくね。その言葉。」

 

僕はあの時の会話を

ふと思い出しながら、

彼女のガチャを見守っていた。

 

(魅せてくれ千速ちゃん。

医院長が太鼓判を押したその実力……

とくと見せて貰おうじゃあないか。)

 

 

「ナンジャモナンジャモナンジャモ……」

 

バッ。

 

迷いなく、彼女は勘の赴くままに

モンスターボールをサッと拾い上げる。

 

「――テールナーじゃねぇかぁァア!!」

 

(嘘でしょ……この位置、

あの〝ゴマゾウ〟をピンポイントで

引き当てたというの!?)

 

そう。

この20/23テールナーガチャ。

目印としてテールナーを

含んだモンスターボールに

赤い付箋を付けた。

 

という開示情報に間違いはない。

 

しかし、嘘も織り込んでいた。

そもそも全てのモンスターボールの

底に赤い付箋を貼っていたのだ。

 

この催し自体は冗談半分で、

後ほどちゃんとした

ガチャを提供するつもりであった。

それなのに、1発で当てるとは……。

 

俄には信じ難い豪運。

 

医院長の言っていた言葉は、

本当だったのか…………。

 

 

「えぇえええ!?

もっとこよちゃんから

聞きたい事ないのぉおおおおお!?!?」

 

「「「――無い。」」」

 

そんなかんやで

一連の希少ポケモン配当も終え、

気が済んだ合格者たちは

こよを後にラボから去っていく。

 

新たな門出へ踏み出す背中を見て、

僕も初めての

冒険の情景が頭に蘇る。

 

不思議と

引き留める気にはならなかった。

 

まさか、あの〝ゴマゾウ〟が

今日トレーナーの手に渡るなんてね。

思いもしなかったよ。

 

(見てますか、『オーリム博士』。)

 

遂にトレーナーの手に渡りましたよ。

 

 

 

―――数十年前。

パルデア地方、とある研究所。

 

こよはオーリム博士に招待され

ホロサントス地方から

パルデア地方の研究所へ訪れた。

 

「遠方からの招待に

応じて感謝する、博衣博士。

上質な紅茶ではないが、

ゆっくりしてくれ。」

 

「気にしなくて良いですよ。

こよもパルデア地方の生態系に

興味を持ってたところだし。」

 

向かい合うように無機質な

スタッキングチェアーへ

座り、紅茶を味わってみる。

 

彼女が卑下するほど

紅茶の質は悪くなかった。

むしろ、普通に嗜好品としては

高ランクな部類だ。

 

謙虚だなぁ……ホント。

 

「そうか。なら良かった。」

「で、

折り入ってしたい話っていうのは……」

 

「ああ。今から話そうと

思ってた所だ。……単刀直入に言おう。

私は今、タイムマシンの

最終調整に勤しんでいる。」

 

「――え?」

「冗談じゃないさ。本気で勤んでいる。」

 

「待って待って待って。

そんなことしたら……」

「〝コンゴウ団〟の

残党宗派が許すはずがない。

そう言いたいんだろ?」

 

オーリム博士も知っていたか。

コンゴウ団の残党宗派、その存在を。

 

活動地域や教団の各支部長によって

教団名が異なるが……

異端に対する

裁きの姿勢は一致している。

 

彼らは時を司る『シンオウさま』を

猛烈に信仰しており、

人類が時を司る装置の開発に

着手するのはシンオウさまに対する

冒涜であるとして重罪。

……と、

多くのメディアを介し公言している。

 

これまでも、

タイムマシンの開発・研究に携わった

研究者らが忽然と姿を消した

事例が後を絶たない。

 

陰謀論者たちは、これをコンゴウ団の

残党宗派・異端審問官による

仕業だと唱えている。

 

一連の流れや繋がりに対して、

単なる陰謀と片付けるには

あまりにも筋が通り過ぎている。

 

故に、

携わる事そのものが禁忌級の大罪。

 

彼女もそのリスクを把握した上で

僕に情報を共有したんだ。

 

「そうだよ。今から手を引いても

遅くはない……考え直そう。」

 

「杞憂は要らん。表向きでは

別の研究資料を提出してる。

現に、勘付かれた気配が一切ない。」

 

「泳がせてる可能性は?」

 

「……ああ、無きにしも非ず。

それも充分に考えられるな。

――だが、嬉しいことに

私の飽くなき探究心は

遁走の道に壁を立ててしまった。」

 

壁……か。

なんという恐るべし決断力。

 

「新しい発明や実験、

それらに伴なう当事者への

絶大なリスク、ケミカルリアクション……

故に科学者は、

常に死と隣り合わせだ。

ならば、より面白い〝隣り〟へ

身を投じた方が良いだろう?

君も同業者なら分かる筈だ。」

 

「…………。」

 

覚悟と探究心に燃えるその瞳に

嘘は無かった。

そしてそれを否定する意見も、

未だ未熟な僕は

持ち合わせていない。

 

「私には、自身の原動力ともいえる

大いなるモットーがある。

それは『温故知新』だ。

この世界は好都合に未完成……

人類が見落とした

古代のパズルピースを拾い、

現代の知見に当て嵌める事こそが

我が使命だとも思っている。」

 

「…………。」

 

紅茶を一口飲んで、一呼吸置き……

彼女は口を開いた。

 

「さて、私の長い長い前置きは

もう充分だろう。

早速本題に移らせて貰うぞ。」

 

オーリム博士は体全体を捻らせ

懐から出したリモコンを操作。

モニターに電源を入れた。

 

表示されたのは、彼女の

実験経緯や展望を

図解化したスライドだった。

タイムマシンに関する記述や

動作テストの試行回数、データ結果まで

詳細に見やすく纏められている。

 

だが、展望を示す図の中に

異質な予定が1つ組まれていた。

 

「自己クローン型のアンドロイド開発……?

どういう事ですか……。」

 

「そこに目を付けるとは……

流石博衣博士、お目が高い。

私が協力を申し出たのは、まさしく

アンドロイド製作の為だ。」

 

「まさか……過去の世界に

トリップするつもりなの……。」

「ああ。でもそうなると、

突然姿を消したことになる。

それは他者から見て明らかに

不自然に映るはずだ。」

 

「ええ。それは間違いないですね。

要するに、

その為の影武者作りって訳ですか……」

 

「如何にもだ。表向きの研究活動と

タイムマシンの最終調整、

アンドロイドの作製……

それらを同時並行となると、

私1人では手に余るプロジェクトだ。

多忙のあまり、綻びを拾われてしまう

可能性があるかもしれん。」

「そうですね……。」

 

ガンッ!

 

テーブルが刹那、小刻みに揺れる。

オーリム博士は卓上に両の掌を

密着させ首を垂れていた。

 

「だから頼むッ! 

後生だッ、手を貸してくれ!

私が生涯をかけて記した

機密書全てを見せても良い……!!

書斎の鍵は今持っているッ!!」

 

(プライドの高い彼女が

ここまで懇願するなんて……

一体どれ程の使命と探究心なんだ。)

 

不思議と僕は、

その結末を見届けたくなった。

 

同じ研究者として。

ただ純粋で直向きな熱意に、

魅せられていたのかもれない。

 

「頭を上げてくださいオーリム博士。

確かに僕たち研究者にとって、

先人や他者が心血注いだ研究資材は

かけがえのない宝です。

けれど……情を忘れるほど

こよも腐ってはいません。

此方こそ、是非手伝わせてください。」

 

「恩に切るっ……!!」

 

熱い承諾の握手を交わしたのち、

こよはオーリム博士が秘密裏に管理する

地下ビオトープへ案内された。

 

地上の植生とは異なり、

葉が大きく幹の高さが短めの雑草たちが

群生している。

 

更に最奥……いや、外れにある

平坦な芝生が広がる場所まで歩いた。

岩肌に密着した

用水路のような自然の水場には、

数匹のゴマゾウが

集い水分補給をしている。

 

その微笑ましい様子に

目を奪われていると、

オーリム博士は彼らに指を差した。

 

「あの子たちは〝特別〟だ。」

「へ?」

 

特に珍しくもないポケモンに対し、

彼女は真剣にそう告げた。

 

「私がタイムマシンのテスト起動を

行った際、現代に連れてきてしまった

『太古の生態』だよ。

謂わば、事故のようなものだ。」

 

「そうですか。

でも、苦しくはなさそうです。」

「ああ、太古の環境や植生を

再現したこのビオトープだからこそ

問題なく庇護下に置ける。」

 

「ゴマァ!」

 

僕らの会話を遮るように、

水を飲み終えた1匹のゴマゾウが

此方に駆け寄ってきた。

 

スリスリ……。

 

そして、

愛らしくこよの脛に頰を擦ってくる。

なんだか妙に擽ったくて、和む。

 

「話を続けよう。

彼らは現代のゴマゾウが有する特性、

そのどちらをも有して居ない。」

 

「ものひろいと砂がくれを

持たないとなると……

一体どんな特性を持っているんです?」

 

「天候を色々とシュミレート結果、

この子らは雨天時、霰時、砂嵐時に 

一部ステータスの

パフォーマンスが低下していた。

否……晴天時のパフォーマンスが

通常のゴマゾウより

一部突出していたというべきだな。」

 

「葉緑素やサンパワーに近い

特性を有してる……という事ですか。」

「うむ。私の推測では、

太古を生きるポケモン達は

同様の特性であると踏んでいる。」

「…………。」

 

「私は独自に 

それらの特性をこう命名した。

――『古代活性』と。

いずれはこの特性を強制展開させる

アイテムを発明する予定だ。」

 

「古代……活性。」

「ゴマァマァ!」

 

遂にはゴマゾウが僕を見上げて

笑ってきた。

 

「ははっ、どうやらその子は

君をとても気に入ったみたいだ。」

「でも、僕にできる事なんて……」

 

オーリム博士は首を横に振った。

 

「いいや、できる事はきっとある。

この子と君がこうして

巡り会ったのも何かの縁だ。

外の世界に連れてってやれ。」

「本当に……良いんですか?」

 

「良いに決まってる。

パートナーを決めるのは

人間ではなくポケモンの方だ。

少なくとも私は、そう考えている。」

「ゴーマァ♪」

 

「………………。」

「ゴンマァ……?」

 

「博衣博士、もし君がその子を

誰かに譲渡したくなったのなら……

それも何かの縁だ。

そのバトンには絶対意味がある。」

「…………。」

 

「そう肩肘を張らなくてもいいさ。

私たちは研究者らしく、

その行く末を観測したらいい。」

「……ですね。」

 

そんな他愛のない会話を交わし、

彼女との

初めの交流はあっさりと幕を閉じた。

 

ゴマゾウを入れた

モンスターボールを懐に仕舞い、

オーリム博士の研究所を後にする。

 

研究所から離れて

早々に出くわしたのは、

ヘキサゴン状の眼鏡を

かけた白衣の男だった。

 

「どーもどーもぉ、

異端審問官の『ジニア』でーす。

なんつって★ へへっ!

ぼく、オレンジアカデミーの

講師やってまーす★★」

 

(嘘でしょ……何で異端審問官と

こんなタイミングで……)

 

「僕に何の用ですか?」

「いやはや、あの博衣博士が

オーリム博士とコンタクトを

取るなんてタダ事じゃあないと

思ってね。なんか

面白い発明でもするのかなーと。」

 

「別に、貴方が首を突っ込むような

話でもないですよ。」

 

ジニアと名乗る男は

腑に落ちないといった感じで

片手で頭を軽く掻いた。

 

「うーん。そうですかねぇ?

研究学会の開発トップとして

名を馳せるお二人の事です。

ちょっとやそっとの研究内容で

顔を合わせるなんて、あり得ない

気がするんですよねー。」

 

「貴方の杞憂ですよ。それ。」

「例えば――『タイムマシン』の

研究とか、やってないですか?」

 

「ただの女子会です。

荒唐無稽な妄想は、

掲示板の中くらいにしたらどうですか。」

 

ヒュゥウウウ。

 

突風が吹き、木々の葉や

大地の草を揺らす。

さながら、西部劇のガンマンが

撃ち合う数秒前の空気だ。

 

「「………………。」」

 

沈黙のチキンレース。

 

彼の疑念の照準が一瞬、

こよを捉える。

しかしそれは、すぐに照準から

外れて下を向いた。

 

風が収まると同時……

パッと顔を上げ、

ジニアは全身の力を抜いて笑う。

 

「左様ですか。失礼しましたぁ〜★」

 

気怠げな姿勢で去っていく

彼の背中には、言い様のない

異質さが静かに漂っていた。

 

* *

 

時は戻り、現在。

あの時の緊迫感を

今でもこよは鮮明に憶えている。

 

(あのゴマゾウの持つ因果が、

彼……いや、彼らをまた

惹きつけてしまうかもしれない……)

 

その時、僕にできる事は……

 

うん。絶対に彼女たちを助ける。

それだけだ。

 

きっとこの先には、

誰しもが予見しない

険しい闘いの日々が待ってる。

 

 

かなたん、ニコちゃん、

千速ちゃん……。

陰ながら健闘を祈るよ。

 

 

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