アナウンスの指示に従い
2Fフロアへ足を運んだ。
エントランスホールを抜け、
番号に割り当てられた各部屋で
試験を受けるようだ。
言わずもがな、
整理券番号の近いちはとニコたん。
かなた先輩は同室へと入室する。
すると一歩足を踏み入れて早々に、
謎の違和感に気がつく。
「!?」
祭りと称しつつも、実際は
約数万人以上の規模で9つの席を取り合う
熾烈な椅子取りゲーム。
一時期は合格者が出ない年も存在したという。
そんな話もあってか、勝手ながら
自分なりに険しい試験場の姿を
シュミレートしていた。
仰々しく陳列した無機質なテーブル席。
教卓に乗った試験用紙の厚い束。
スーツをビシッとキメたグラサン試験官。
ってな感じかと思いきや……
部屋に敷き詰められていたのは
体育マット。
胡座で待機し
試験官の腕章をつけたオッチャンは
筋トレ上がりなのか分からないが……
一枚の白タックトップに腹巻き、
ボトムはダメージジーンズ。
といったかなりラフな格好でいる。
……思わず、
アナタ何をされている方なの?
などと問いたくなってしまう。
つまりは、
イメージとかけ離れたその姿に
ちはは呆気に取られのだ。
(ヨガ教室と間違えたかな……?)
と、困惑の念を抱いていると。
ニコたんがあっさりと質問を始めた。
「なぁオッサン。ここの試験官か?
何かの手違いで出張しちまった
ヨガ教室とかじゃないよなぁ?」
めっちゃ代弁してくれたぁああ!
口では言わんけどありがとうニコたんっ!
「ヨガ教室ではない。歴とした試験会場だ。」
「良かったよ。ニコたんの一方的な
勘違いじゃなくてさ。」
「喜ぶのは合格してからだ。
期待の新人たちよ。さぁ、
この部屋に各々自由に座るが良い。」
細かい指示などはなく
シンプルに案内された。
入学早々に始まった祭りなので、
ちは自身
かなた先輩やニコたん以外には
ほぼほぼ顔見知りが居ない。
彼女らも似たような境遇だろうか?
その所為なのか、自然と3人で固まって
マットに座り込んだ。
勿論、他のチャレンジャー達も
同じように散らばってマットに座する。
遅刻者が居ないのを確認し、
担当試験官は口を開いた。
「さて、今回の試験を執り行う訳だが――
……そこの棘付きベレー帽被った君。」
「はい? ちはの事ですか?」
何故かイキナリ試験管に目を付けられた。
不味い……
帽子の着用はアウトだったか?
パンフレットにそんな記述は
無かった筈なんだけど。
「そう警戒するな。
何も退場させるつもりはない。
ただ、今回の試験をするに当たって
危険を及ぼす可能性がある。
私に預からせてくれ。」
「でっ、でもコレは
ちはの大事な預かり物で…………」
「そうか、安心しろ。
ぞんざいに扱うつもりはない。」
「…………。」
「ほーら、預けちゃいなよ
千速ちゃん。アイツが何か悪さしたら
僕がとっちめてやるからさ。」
「かなた先輩……」
「気にしすぎだぜ千速。
あの試験官の目を見ろ、
変に悪さするように見えっか?」
「ニコたん……」
確かに試験官が此方に
向ける目は優しいモノだ。
決して意地悪く振り落とそうとしてる
風には見えない。
かなた先輩やニコたんがいる。
……うん。きっと大丈夫だ。
「分かりました。
この帽子、一旦預けます。」
「あぁ、それで良い。」
迷いを切り、帽子を預ける。
試験官は満足気に頷いた。
「よく覚悟してくれた。
だが、本当の覚悟を
みせるのはこれからだ。」
「……え?」
突然の意味深言葉に
疑問符を浮かべる間もなく
試験官はモンスターボールを
パカりと開けた。
「ムシュワワァァ〜」
現れたのは、宙に浮かぶ
ぷっくりとしたピンク色のポケモン。
額から漏出する桃色の煙が特徴的だ。
この『ムシャーナ』で
一体何をするつもりなのだろう。
「今回の試験は至ってシンプル。
コイツが〝大満足する夢を提供〟した
チャレンジャーが合格だ。」
「大満足って……んなモン
アンタの裁量じゃ
測れねーんじゃあねェか。
アンタにムシャーナの何が分かる?
脳みそでも繋がってんのか。」
「…………。」
「そういやァ、
合格0人の時代もあったらしいじゃん。
まさか……〝落とすだけの試験〟を
やるつもりか?
今んとこ、ただの八百長に見えるぞ。」
ニコたんズカズカ言い過ぎじゃない?
即摘み出されそうで逆に怖くなってきたよ。
代弁してくれるのは
ありがたいけどさ。
「昨今のテクノロジーの
進歩を侮るな。専用の計測器を
きちんと用意してある。」
ポチッ、ガガガガガ…………。
試験官が謎のリモコンを押すと、
天井のシャッターが開き
厳ついメカオブジェクトが現れた。
「わーお。
マジで金かけてんじゃん。
スゲェなこのお祭り。」
「これで分かっただろう。
そして、話は以上だ。
諸君らの素晴らしい得点と健闘を祈る。」
ガコッ。……ポチッ。
試験官は懐から取り出した
ガスマスクを装着し、
再びリモコンを操作した。
するとオブジェの空洞から
小さいノズルが現れ、白い霧を散布する。
(ん……あれ。めっちゃ眠た……zzzz)
次々と受験者が眠りの世界へ誘われる。
「「「zzzzzzz…………」」」
…………そして。
ピリリリリっ!
試験官以外が
寝静まる一室で着信音が響いた。
彼は専用トランシーバーを
手に取り応対する。
「もしもし、
こちら第二フロア担当試験官です。」
『こんこよー!
そっちの調子はどうかなー♪』
「ええ、至って順調ですとも。
採点要員のムシャーナも、
カゴの実を喰らって目覚めました。
計測器との波長リンク……良好です。
しかし、何故こちらに電話を?
――『博衣博士』」
『個人的に気になる
チャレンジャーが3人くらい居てさ。
まっ、一先ずそれは置いといてぇ……』
「何です?」
『ムシャーナが〝最も美味と感じる夢〟は
何だと思う?』
「甘い夢……でしょうか。」
『ぶっぷー! 今回の装置は
ポケモン専用の味覚計測装置を
独自改良したモノでね。沢山利用したら
面白いサンプルが幾つか採れたんだよ。
これを基に、僕には一つの仮説が立った。』
「…………と、言いますと。」
『――最も〝覚悟の強い夢〟が
美味である。って仮説だよ。
しかしね、
この仮説にも未だ確証はないんだ。
だから、今回の試験は臨床試験の
側面も大いに含まれる。』
「ほう。」
『それを前提として話を続けるね。
人が最も強い覚悟を決める瞬間って
どんな時だと思う?』
「今際の際ではないでしょうか。」
『あははっ! 一理あるねぇ!
でもこよが思うにはぁ……〝別れ〟かな。
別れとは則ち、過去の栄光・幸福との訣別。
その性質上、
苦渋の決断と大きな覚悟が迫られる。』
全てを察した試験管は、苦言を呈した。
「まさか博士、貴女……
残酷な真似をしますね。」
『いやいやぁ、そもそもの話……
実験に道徳や倫理を
持ち込む方が御門違いだよ。
科学の進展の為に殉じたコラッタたちに対し
一々墓碑建てたり木魚叩くなんかしてさ、
1匹1匹真摯に悼んではいないでしょう?』
「えぇ。」
*
〜夢の世界・SIDE『輪堂千速』〜
ピトッ。
「――うひゃぁっ!?」
頬にひんやりとした感覚が伝う。
びっくりして身体を跳ねらせながら、
辺りを見まわし元凶を探す。
元凶は悪びれる様子もなく、
悪戯っ子のようにちはの前で笑った。
「あっははっ!
良いリアクションするねぇ千速ちゃん!」
「笑い事じゃないですよぉ!
いきなり冷たい缶が触れたら
誰だってビビりますって
『沙花叉先輩』っ!!」
そう。何を言おう、
その元凶とは沙花叉先輩だったのだ。
風呂キャンセル界隈とは
思えない滑らかな白肌にサラサラの銀髪。
ちはを見通す鮮やかな灼眼に
気がつけば引き込まれてしまう。
こんな美人を独占してるのが、
本当に夢みたいな状況だった。
(あれ……夢? 夢だっけか。
何か、ちは自身大事なことを
忘れてるような……)
「どしたんスか?
もしかしてぇ〜、
沙花叉に見惚れちゃった。」
「はっ、はぁっ!? ち、違いますよぉ!」
何もかもを見透かされてるのか、
ニヤニヤしながら沙花叉先輩は
肘をぐりぐりとちはに当ててきた。
「うりうりぃ〜♪
そんなこと言ってぇ〜、
ホントは照れてんでしょ〜?
ほぉら❤︎ 正直に言っちゃいなよぉ。
沙花叉先輩の近くに居れて
ハッピーハッピーハッピィ♪
なんじゃないのぉ〜??」
扇状的に問いかけるその声は、
完全に〝分かってる側〟の言い方だった。
メンシ3年で調教された
ちはには
あまりに強烈で耐え難い刺激である。
こればかりは、
主君に腹を晒す飼い犬に
ならざるを得ない。
「あぁっ、もううっ! そうですよぉ!
ガッチガチに照れてますよ
こちとらァ!!」
「あっははっ♪ 声野太ぉっ❤︎ 」
ダメだ。鼓動がめちゃくちゃに
早くなってきた。
早々にガス抜きしないと
ペダル踏む前に
心がパンクしちまうだよ。
絶賛ピンチ陥り中なチハに、
沙花叉先輩は耳元で
官能的に囁き追い討ちをかける。
「太ももはむちむちなのにぃ〜
身体がガチガチなのは
なぁ〜ぜなぁ〜ぜぇ?」
「――ムッシュムラムラァ!!」
グサッ!!
「ヱっ!? 何してんの千速ちゃん!」
自我を出さまいと、
ちはは決死の抵抗を行う。
咄嗟に閃いた奇策。
ベレー帽の鉄棘に自らの手を
思いっきりブッ刺したのだ。
痛みは人類が生まれながらに持ち合わせた
警鐘機能であり、ストッパー。
勇気の自傷が功を奏した。
……ふぅ、間一髪だった。
同志である飼育員たちに
背後から刺されるリスクに比べれば
幾分か軽微なダメージだ。
オマケに、沙花叉先輩が
予備のアイマスクをちはの手に包んで
応急手当てしてくれるし……
実質プラマイゼロだ。
「……こ、こんくらい
なんて事ありませんよ。
怪我は慣れっ子なんで。」
「強がっても傷は治んないっスよ。
一体なんのつもりで
こんな真似したの。」
本気で心配してる様子なので、
強がりを通すのも気が引ける。
申し訳なさでいっぱいになり、
素直に答えた。
「すいません。ちょっと
気が動転しただけです……。」
「もうっ、暗い顔しないでよ。
折角のドライブデートなんだから
切り替えてこ?」
「――え?
それって何かの冗談ですよね?」
「マジだって。
なんでそんな悲しい事言うの?
もしかして、沙花叉のこと嫌い?」
「だぁあああいっ好きっ!」
「ラプラス以外でその
イントネーション聞くの初だわ。」
「ん、何か言いました。」
「いや、なんも。
ほら、気を取り直して沙花叉とデートいこ。
大洗にある水族館と
明太子のテーマパーク……
楽しみだなぁ〜♪」
そのキラキラとした顔つきは、
とても嘘を
ついてるようには見えない。
改めて、デートの実感が湧く。
すると再び、心の中で
興奮のドラムがドンドットと
鼓動を素早く脈打たせる。
(マ、マジだ……。)
さささ、沙花叉先輩とぉ、
ふ、ふ、2人きりで
ドライブでででデートぉぉお!?
【後書きとお知らせ】
どうも、たかしクランベリーです。
最近ポケGOで色違いウソハチ孵化して
謎にウソハチに対し愛着湧いてる果物でございます。
では、お知らせいきましょう。
次回は本編からそこそこ乖離するので番外編(6・5話)
として近日中(出来れば今週中)に公開する予定です。
千シャチワールド全開れっつごーでいきます。
よろしくお願いします。