ちはっと★ホロポケ   作:たかしクランベリー   

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6・5話 - クロヱにゅ〜むを突破せよ

 

ヴーン!!

 

日本、国道6号経由で首都高を走行する

黒塗りの乗用車。

 

彼の名を、輪堂千速の愛車『ふぐ太郎』。

天候は快晴、奔り日和のジャンクション。

威風堂々

時速約110キロのスピードで風を切る。

 

河豚どころか、クロマグロを

凌駕する速さで車道を駆けるのだ。

 

バイクだろうと構わない。

あなたはあなたの宜しいように。

 

そんな車内では、2人がテンションを

上げて風を感じていた。

僅かに空いた車窓から吹く

隙間風が心地良いんだ。

 

「沙花叉遠く行く時、フライトや電車

ばっかだったけど……

ドライブでの移動っても

風情があって良いっスね。」

 

「ですよねですよね!

めちょ良いですよねぇ!?

実はちは、速度感重視で

風の受ける感じとか

タイヤやフレームとか結構弄ってて――」

「――zzzz」

 

「寝るのはやっ!?」

 

本人がロングスリーパーと

宣言していたが、ここまでだったとは……

あ、でもこの距離で

沙花叉先輩の寝顔拝めるの超ラッキーじゃん。

 

アイマスク越しなんだけど、

そこも含めて愛嬌が合って

尚良しというか……

 

って待てよ、なんてこった。

もし運転席に今居なかったら

100枚くらい盗撮できてたじゃないか。

 

(く、惜しい……!)

 

後悔しても現状は変わらない。

気分の切り替えも時として重要。

 

こういう時はラジオに限る。

ゴールド免許千速にとって

片手ハンドルなど

何のハンデにもならない。

ほぼ直進のような形の

道なりであれば尚更だ。

 

慣れた手つきでポチポチと

車載端末を操作し、ラジオを開いた。

今日はこれにしよう。

 

『寄ってらっしゃい見てらっしゃいっ♪

hololive DEV_ISは

ReGLOSSの賑やかしネタ枠担当、

儒烏風亭一門は前座見習い!

儒烏風亭らでんでございます!』

そうそう。この挨拶だよ。

 

『さぁ〜て、本日も始めていきましょう

〝らでんのきまぐれ薄明ラジオ〟

今回はらでんの放浪記噺、

募集したお酒の失敗談、#書庫らでんの

感想会振り返りなどなど……

以上の3本構成で

話していくっちゃん。

えーじゃあ先ず、らでんの話から――』

 

「千速ちゃんって『でん同志』なの?」

「うぉぉっ!? 

起きてたんスか沙花叉先輩!」

 

「んまぁ、なんとなくね。

眠りが浅かったりする時もあるんすよね

沙花叉って……

で? 実際のところどうなん。」

 

危ねー。

危うく狸寝入りに釣られて

ライン越えしかけてた。

 

丁度近場のサービスエリアに停まって

スマホカメラを回そうと画策してた

最中だっただよ。

 

くっ、恐るべしだ。沙花叉先輩。

 

「んー。ちはは別に単推しと

いうわけじゃないですよ。

ReGLOSSというグループ自体の

ファンって感じです。

何も心配は要りませんよ。

なんせ、世界で一番の推しが

真隣に居るんでね。(キリッ)」

 

フッ、決まっただよ。 

ちは。やはり天才なのでは?

 

「zzzzz……」

「んもぉおっ! だろうと思っただよぉ!!」

 

(実際のところ……か。)

 

本当は自分自身、

『プレゼンテーション力』を

伸ばしていきたい。高めていきたいと

心の奥底……無意識下で

思ってるのかもしれない。

 

鷹嶺ルイ先輩やらでん先輩、

と●お先生のような

プレゼンテーションの達人から

少しでも何かを吸収して

自分に活かせればと……。

 

無理に押し付けるつもりはないけど。

 

そうすれば、より多くの人々に

自分の好きや興味を

更に深く共有できて……

豊かな配信を

見せられるんじゃないかと。

時間を作れるじゃないかと。

 

(まぁ、そんな余計で邪な話は

今すべき事じゃないし……

無駄に雰囲気を壊すだけだ。)

 

そっと心に留めて置くが吉。

 

雑念を払うようにハンドルを握り直し、

アクセルを少し強く踏む。

風音は速さを増し、邪気を振り払う。

 

今は只、

この涼しい向かい風を浴びて進もう。

 

 

 

薄明ラジオが終わる頃には、

目的地へ難なく到着していた。

 

 

これが、噂に聞く明太子のテーマパーク。

四角い建造物に乗った

巨大明太子のオブジェが

とてつもない存在感を放っている。

 

気がつけば、沙花叉先輩が

車外に飛び出してその施設の

風貌を堪能していた。

 

「あぁ……やっと着いた。

ずっと楽しみだった…………。」

 

感嘆し何かを呟いてるようだが、

車内からじゃよく聞こえない。

ちは自身も続くようにして

ふぐ太郎のエンジンを切り鍵を回収。

財布を懐にしまい車外へ出る。

 

至急そのまま沙花叉先輩の方へと

駆け寄った。

 

「どーしましたぁ沙花叉先輩っ!」

「見て見て千速ちゃん!

めちょデカい明太子だよ!?

凄くなーーーい!!」

 

最早そこに、アイドルの姿はない。

先輩や後輩などという隔りを越えた

純粋無垢な彼女の姿があった。

 

童心に帰るほどの『楽園』が

目の前に在る。

それ以外の理由が何処にあるだろうか。

 

懐かしいな。

幼い頃、初めて観戦した

サーキットレースの日を思い出す。

ちはも無我夢中で……こんな感じだった。

 

「そうですね!

それじゃあ行きましょうか……!」

「言われなくともっ!」

 

入ってみると、見かけに寄らず広い。

否――そう思わせるほど

内部に施されたアミューズメントが

豊富というべきだろう。

 

明太子に焦点を当てたショップ。

子供を退屈させない

工場見学コーナーやギャラリーコーナー。

 

そして何より欠かせない、

フードコーナー。

 

「ねぇねぇ千速ちゃん!

コレとアレと……あとそれも買って!

沙花叉ぜーんぶ食べるんだぁ!!」

 

買い物カゴ2つ、パンパンに積まれた

商品の数々に戦々恐々とする。

 

ちょっと意識を離した隙に

これだけの行動を起こせるとは……

流石holoXが誇る掃除屋。

身のこなしが常軌を逸している。

 

「食べるって全部!?

てかそれ全部ちはが支払うのぉ!?」

 

「あっはははっ、冗談冗談。

そんな事したら沙花叉酷い先輩じゃーん。

勿論多少はみんなに分けるしぃ、

領収書は

秘密結社holoX(株)で切りまーす♪」

 

「それでも

まぁまぁ酷いですけどねっ!?

てか秘密結社なのに(株)マジぃ!!」

「細かい事ァどーでもいいんスよ。

ほぉら、ささっとショッピング済ませて

ランチと洒落こもー♪」

 

「――っ!!」

 

千速の腕に自らの腕を滑り込ませ、

色気でゴリ押す。

 

あちらは狙ってやった

スキンシップだろうが、

ちはには効果抜群だ。

 

「ち、ちちちょっとぉ!?

沙花叉先輩っ! 」

「なーに驚いてんだよぉ。

さぁー、ご飯ご飯〜♪」

 

くっ……人の気も知らずに。

もうちはの頭はオーバーヒート寸前だよ。

訓練された猛き飼育員じゃなきゃ、

卒倒モノだ。

 

そんなかんやで煩悩を上手いこと

精神統一で受け流しつつ、

フードコーナーへ辿り着く。

 

互いに向き合う形で座席へ座り、

店員に配られたメニューを見る。

 

赤赤しい明太子然としたメニュー。

上部には明太子の汎用性を

活かした特大お握り4種。

下部には明太子を

混ぜ込んだ肉まんや

ソフトクリームといった変化球もある。

 

「すごいバリエーションだね

千速ちゃん。ねーどうする?」

「んー、じゃあちははこの焼き鯖と

明太子が入ったにぎりにしよっかな。」

 

「折角なんだし、

もっと明太子感マシマシなの

選ぼうよ!!」

 

「それはちはが選ばなくとも、

沙花叉先輩が注文しますよね?

ちは自身、そこまで好きな食べ物

じゃないですしね。」

 

「あー、確かにそっすね。

ほんじゃあ注文してこっか。

――って訳でぇ、

沙花叉はコレにしよっかな。」

「うっす!」

 

ピンポーン!

 

テーブル備え付けのチャイムを鳴らし、

店員さんが注文を伺いにくる。

迷いはない。

 

事前に打ち合わせした注文を通し、

待ちがてら一声かけようと

沙花叉先輩をみると……

また例のアイマスクが装着されて

居たのでそっとして置くことにした。

 

夢の中でもばっくばっくばくーん

しているに違いない。

水を差すなんて言語道断だ。

 

「――お待たせしました。

スーパー明太子丼、サバ明太にぎり、

明太子入り豚まんです。」

 

「ぅぉおおおお!

きたきたきたきたきたぁっ!!」

「起きるの早っ!」

 

突然テンションをぶち上げて

飛び起きる沙花叉先輩に

びっくりしつつ、

テーブルに並べられた品々を見る。

 

丼の方はその名前に恥じないほど

真っ赤な山を魅せていた。

 

いくら明太子愛好家といえど、

食べ切れるのか心配になる。

 

「うっひょ〜〜〜!!

ほらほら、

千速ちゃんも一緒に食事しよ?」 

 

掌を合わせて、

沙花叉先輩はこちらに微笑む。

こんな可愛らしい誘惑に

耐えられる訳もなく。

 

倣うように、

ちはの手も同じ構えとなっていた。

 

「よーしっ、ではではぁ〜〜」

「「―――いただきます!!」」

 

 

**

 

 

ばっくばっくばくーん。

うめうめと2人きりの食事を満喫し、

次なる目的地は水族館。

 

水族館は先ほどの施設と比べ

特徴的な巨大オブジェがあると

いうのは特にない。

 

寧ろそういうオブジェや模型などは

館内に展示してこそ趣がある。

 

そしてやはり、

水族館と沙花叉先輩は

切っても切り離せない。

海に潜らずとも、自身のルーツや

故郷に触れられる数少ない施設なのだから。

 

まさに、2番手のデート場として

うってつけだろう。

 

「おー、水族館かぁ。

テーマパークに来たみたいだ。

テンション上がるなぁ〜。」

 

どこか既視感のあるセリフを

言い放ちながら、

沙花叉先輩はちはと一緒に

館内を練り歩く。

 

「……ですね。」

 

実際テーマパークは既に寄っているのだが、

細かい指摘はナシだ。

スタンスを変える気はない。

今を楽しもう。

『タイミング』が来るまでは……

 

「――にしても、何かこの水族館

サメの仲間が多いっスね。

千速ちゃんは知ってたりする?」

 

ふっ、それも事前に調査済みだ。

 

「はい。なんとここの水族館、

サメの飼育種類数が日本一なんですよ。

約60種類くらい居るらしいです。」

「はえー! 凄いじゃーん!」

 

「いえいえ、まだまだ

凄いのはこれからですよ。」

 

テクテクと進むこと数十分。

次は多様な種類のクラゲが泳ぐ

水槽コーナーへと着いた。

 

「ここは……

クラゲコーナーっぽいっすね。」

「はい、良いですよね海月。

あの自由でふわふわとした感じが。」

 

パッ!!

 

「うぉっ!? 今度は何っ!」

 

海月の泳ぐ水槽一帯が

突然桜色に照り輝き出す。

煌びやかなイルミネーションの光を

受け止め纏い、海月は悠々と泳ぎ回る。

 

光の軌跡が水中で描かれては溶けていく。

 

コレこそが、サメの特大レパートリーに次ぐ

当水族館の目玉サービス。

最新のモニターとライディング技術が

成せる現代の御技。

 

幾ら生涯の多くを海中で過ごしたと

いえども、絶対に見れない光景の筈だ。

 

……幻想的な水中世界を前にして

ふと思い出すのは、

入学式当日に受けた

らでん先生との特別授業だった。

 

【らでん先生! アートって

なんで●●●――】

 

【がはははっ! 

面白い質問するっちゃんねぇ。

絵画によって

写実的に表現された〝雄大な自然〟

それも一つの魅力やけんが……

時代は無情に進み移ろうモノ。

カメラの技術進歩で絵画の世界にも

おおきな分岐が現れた。

いや、より抽象画などの

創作絵画……そういったものの価値が

見直されたというべきですな。】

 

【?】

【――創作されるからこそ、

絵師が抱く強い感情や魂、

メッセージが絵画に乗るっちゃん。

時として其れは、自然に匹敵する

『感動』を多くの傍観者に与える。】

 

 

ちはの粋な計らい……届くと良いな。

 

「…………綺麗。」

 

あぁ、良かった。上手くいったんだ。

 

「ですよね。因みにこの

イルミネーションは、

四季によって演出される

光の色が変わるそうですよ。」

「へー、中々凝ってんじゃん。」

 

「季節の移り変わりも、時間の進みも。

誰が何を言おうと行動しようとも

変えることはできない。

時間は平等に進んで

誰しもが未来を享受できる。

だから未来は美しくて魅力的なんです。

レースのように。」

 

「どったの千速ちゃん?

急に痛々しいポエムしてさぁ……

プロポーズの前置き?」

 

「違います。沙花叉先輩、

水族館を出たら話し合いましょう。

ちはのこれからと……

―――伝えたいこと。」

 

そうだ。もう決着を

つけなくちゃいけない。

夢のような時間に甘えていた自分に。

 

チェッカーフラッグを立てる時は

目前まで迫っている。

 

 

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