ちはっと★ホロポケ   作:たかしクランベリー   

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7話・耀かし

 

浜の名を冠する湖――『浜名湖』。

東名高速道路を経由し行けるその湖畔は、

四季と共に年中を通して

色鮮やかな絶景を堪能できる。

 

広々とした園地を歩んでいけば、

澄んだ空気と青々とした草木が

人々を歓迎してくれるだろう。

 

水族館デートを経た2人も

彼の地を練り歩き、

チルな空気を醸していた。

FG1チルい女と巷で話題の女、

輪堂千速にしてみれば当然の結果だ。

 

(あれ……『FG』ってなんだ?)

 

刹那、ニコたん以外の

見知らぬ顔ぶれが3人頭に浮かんだ。

桃色の髪と、銀髪と、青髪の小さい子……

 

ちはを含め、5人で足並みを揃え

皆一様に笑顔で何処かを練り歩く姿が。

 

どこか別の世界線……未来の話か?

 

しかし、そんな違和感はすぐさま

消え去り意識は沙花叉先輩の方へ戻った。

 

「いきなり車を走らせて

何かと思えば園地の散歩?

日も暮れそうなのに

宿泊場所探さなくていいの。」

 

「ええ、それもいいですね。

何も考えず2人きりの時間を

ずーっとずーっと、

誰にも邪魔されず過ごせる。

――でも、

それじゃあ〝ダメ〟なんです。」

 

「……ダメ?」

 

「はい。車がずーっと同じ場所に

留まってたらそれはもう『車』なんか

じゃない……ただの鉄塊なんです。

走る為に生まれたのに、走れないなんて

残酷じゃあないですか。」

 

「本当にそうかな?

売店で並んでる時の新車って

1番輝いてる風に見えるよ。

ちゃんと管理人が清潔なままを

保ってくれるし、願ったり叶ったり

なんじゃないの。」

 

やはり、沙花叉先輩とのディベートは

避けられないか。

ホロメンの中でもずば抜けて

レスバ力が高いし、飼育員など

手のひらの上で転がされて懐柔される事

間違いなしの不利すぎる土俵。

 

幸いな点は、これはそもそも

勝ち負けの話じゃない点。

つまる所、自分との勝負だと云うことだ。

 

「でも、走らないままエンジンが

少しずつ錆びていく様をちは

は黙って見てられません。

ちはのエゴなのかもしれないけど、

正常に動くのなら

人間と同じように色んな筋肉を動かして

色んな場所に行って……

思い出を創って欲しいんです。」

 

「ふーん。千速ちゃんらしい

いいエゴじゃん。やっぱ、根っからの

アウトドアっ子には敵わないなぁ。

価値観や見えてる世界って、

本当に十人十色っスねぇ……。」

 

「だから世界は豊かで面白いですよね。

あ、着きましたよ沙花叉先輩。」

「ん、何ここ。あの鐘はなに?」

 

「『恋人の聖地』らしいですよ。

まぁ、今日の用途は

まるで違うんですけどね。」

「とか言ってぇ〜、ホントは沙花叉に

告白したいんでしょぉ〜?」

 

日が水面に沈みゆく

オシャレ度抜群な夕景。

まさしく文句なしのロケーション。

例の鐘を鳴らして告白すれば

最高のロマンチストそのものだ。

 

このタイミングで飼育員の自我を

全力で曝け出しても良いが、

輪堂・千速として進むことを選んだ。

 

その選択に悔いはない。

 

「したくないと言えば嘘になります。

半分は当たってる……

耳が痛い話ですよ。」

「どっかで聞いたことある語録っスね。」

 

「ちはが深く落ち込んだ時、

たまに父さんがここに

連れてってくれるんです。

住居からもそれなりに距離があって、

朝方外出して到着する頃には

大体時間帯も景色も……

今みたいな感じになるだよ。」

 

「あ、そのまま自語り入るんだ。」

 

―――そう。あの日の夕方だった。

 

父と2人で此処に初めて訪れた日のこと。

 

細波を描く、洗朱色の

夕焼けグラデーションが掛かった

美しい水面に目を奪われていた時

ふと父が声をかけてきた。

 

「どうだ千速、綺麗だろ?」

「うん……」

 

「父さんの友達はな、この湖に

妖精が居るって信じてんだ。 

時折り、鐘の上で座ってるらしい。」

「妖精さん……本当にいるの?」

 

「見てみろ。あの鐘の上を。」

 

父さんが指を差したので

誘導されるように目を向ける。

気を緩ませるためのジョークだろうと

内心思いつつも、

半分信じている自分がいた。

 

「いないよ、父さん。」

「そりゃあ心が暗いからだ。

心が綺麗になったら見えるぞ。」

「なにそれ……」

 

「じゃあ、心が綺麗に〝おまじない〟を

教えてやるよ。まぁ、実を言うと

父さんの旧友が

教えてくれたまじないなんだがな。」

 

おまじない。

小さい頃の少年少女、

誰もが夢見る特別な行為。

 

日曜日の朝、テレビに映る

同い年くらいの少女が

ステッキを振って唱えて……

とっても不思議な力を行使するんだ。

 

心が、震える……。

 

隆起する童心に抗う術などなく、

その魅力的な発言に

ただただ惹かれてしまっていた。

 

「やりたいだよ……

ちはもとっておきのおまじないっ!」

 

あの日の父の面影を重ね。

手のひらに

とびっきりの『黒』を掻き集める。

 

今も昔も、やり方は変えない。

 

「千速ちゃん。急に何やってんスか?」

 

「言ったでしょう。おまじないですよ。

悲しい気持ちも苦しい気持ちも

まぜまぜ練って

黒いお団子にしちゃうんです。」

 

「へぇ〜、そしたらどうすんの!」

「あとは痛いの痛いの飛んでけーっ!

と同じ要領ですよ。

こんな感じにっ…………」

 

ダッ、ダッダッ!

 

「ちょいちょちょちょいっ!?

いきなり走ってどーすんのっ!

落ちるってぇ!!」

 

ある程度助走をつけ、足を踏ん切る。

慣性の力をフル活用し

握りつぶした

ソレを全力で湖に投球した。

 

「行ってこーーいっ!!」

 

当然、手の中に質量がある訳もなく。

虚空に空気を投擲した可笑しな奴に

見えてしまうだろう。

 

「何やってんの千速ちゃん?」

「心をリフレッシュする

『おまじない』です。」

 

「へー、おまじないねぇ。

何々ぃ〜? 沙花叉と新鮮な気持ちで

第二ラウンド迎えたいの〜?」

 

「いいえ。迎えるのは未来です。」

「沙花叉との?」

 

「違います。果てしない出逢いが

広がり続ける未来です。

だから進みますよ、ちはは。」

 

身体を打ち付ける『雨』だって

いつかは晴れる。

船も進めないような荒波だって

いつかは綺麗に凪ぐ

穏やかな『海』になる。

 

ハンドルを握った

先に待つ世界はいつだって無限大だ。

酸いも甘いも

存分にしゃぶり尽くしてやるだよ。

 

「………………。」

 

「先の未来にはきっと、ちはの想像を

遥かに越えた

出逢いがあると思うんです。

銀髪のおじラッパーや

ピンク髪のレジェンド農婦だったり、

自分の事を虎だと信じてやまない

成人女性、はたまた自分の事を

成人女性と信じてやまない女児だったり、

色んな女子の罵詈雑言で

ご満悦になるどすけべ猫だったり……

――それに。」

 

ファサッ。

 

頭に被っていたベレー帽を片手で

優しく外しだき抱える。

こうしてると、あの日に貰った

希望と温かさを思い出して心が和む。

 

そして、ちはに一歩進む勇気をくれる。

 

「よっぽど大事なんスね。その帽子。」

「何で分かるんですか?」

 

「その顔見りゃあ

沙花叉でも丸わかりっスよ。」

 

そっか。

そんなに分かりやすいんだ、ちは。

 

「何より、この預かり帽子を返すという

使命がちはにはありますから。」

 

「はぁ……そんな顔されちゃあ、

止められそうにないっスね。」

「応援したくなりました? ちはの事?」

「うん。応援したくなった。」

 

「じゃあ、一足先に行かせて貰いますね。」

「…………。」

「――あ、そういえば。」

 

「?」

「沙花叉先輩がいつもやってる『アレ』

ちは大好きなんですよ。

良かったら一緒にやりません?」

「??」

 

謎が深まったばかりと言わんばかりに

首を傾げる沙花叉先輩。

普段から習慣付いた行為というのは、

どうにも意識の外に行ってしまうもの。

 

その何気ない彼女の当たり前が、

ちはにとってはお気に入りの

ルーティンだったりする。

 

答え合わせとして、

千速は両の手を合わせた。

 

「あー、それかぁ。

初配信で餃子作り披露するくらいだし

らしいっちゃらしいっスね。

イイっすよ。ちょっくら付き合っても。」

 

互いに同じ姿勢をとり向き合った。

 

「この世の全ての食材(出逢)いに、

感謝を込めて……」

 

「「―――〝ご馳走様〟でした。」」

 

(沙花叉先輩、

ちは絶対に忘れないだよ……!)

 

進もう。まだ見ぬ未来に。

あまりに眩しくて先の見えない、

〝耀かし〟い世界に。

 

よーしっ、エンジン全開れっつごーだ!

 

パァッ―――。

 

 

 

 

世界が光り輝き視界が白に染まる。

次に瞼を開いた時には、

無機質にマットが敷かれた

試験会場へ居た。

 

否、戻ってきたというべきか。

 

「……216番、間一髪であったな。」

 

試験官は寝起きのちはに顔を向け

そう告げる。

彼の背後で制限時間を刻む

特大モニターは既に20秒を切っていた。

 

「ったく、マジで危ねーじゃんかォ千速。

虎だっつーのに

ヒヤヒヤしちまったぜ。」

「ふぅ、僕も7秒前くらいの僅差……

中々に苦しい戦いだったよ。」

 

「ニコたん、かなた先輩……!!」

 

「おおっと、安心するのは

まだ早いんじゃあないか諸君。

この試験の趣旨が早起き

RTAでない事はよく理解してるだろう?」

 

「にしても、みんな

ぐっすりスヤスヤしてんな〜。

こんなに寝てて夜眠れんのかねぇ。

あれ、グラサンどこに置いたっけ?」

「あっ、それ僕も思った。

やっぱ昼寝って程々にするべきだよね。」

 

「――人の話を聞けェ!

脱落したいのか貴様らァ!!」

 

「「すんませぇん!!」」

 

トントン……

 

静観してるちはをニコたんが肘で小突く。

何の用かと視線を向けると

小声で真面目に訴えてきた。

 

「ほら、千速も謝っとけよ。」

「やる道理がないだよ。

ちはを巻き込むな。」

 

「おいそこの2人ィ!」

「「すいませぇん!!」」

 

結局巻き込まれた。何も悪くないのに。

 

「……うむ。宜しい。

見ての通り、2Fフロア内で

制限時間内に

起床できたのは諸君ら3名だ。

ビル全体を含めると7名だな。」

 

「おいおい、枠余ってんじゃねェの。

まさかだがよォ、この期に及んで

赤点だの何だの難癖つけて

振るい落とす気か?

振るい落とすのは、精々ニコたんの

サングラスについた

ホコリくらいにしてくれよ。」

 

なんでまだこの状況で

イキれるんだよニコたん。

こんなブラックジョークで脱落したら

たまったもんじゃないぞ。

 

「我々にそのような企みはない。

トレーナーたるもの、

最後まで気を抜くなという教訓だ。」

 

試験官は懐からオレンジのグラサンと

ベレー帽を取り出して返却した。

 

「201番81点、

216番78点、218番61点……

以上3名の当2Fフロア試験者を、

合格とするッ……!!」

 

(やっとだ、遂に手にしたんだ……!)

 

三者三様、互いに目を見合わせ

勝利の喜びを噛み締める。

そして、嬉しさのボルテージが

最高潮に達し

みんなの手がぶつかり合った。

 

ハイタッチだ。

 

パンっ!!!

 

「「「――うぅぉっしゃあああ!!」」」

 

 





【後書き&お知らせ】

どうも、たかしクランベリーです。
今緊急で後書き書いてるんですけども。
えー、何が緊急かと申しますと、ちはっと★ホロポケの
原稿ストックが0に達したので
来週中に投稿できるか危ういです。

筆めちゃおそ果物なので
こっから先、ガチの不定期更新になるかもしれません。
改めてよろしくお願いします。
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