大学祭で出会った美人が官能小説家だった   作:古野ジョン

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第1話 官能小説研究会

「ふあ~あ……」

 

 俺は床に敷かれた薄いマットの上に寝転がり、本棚に置いてあった官能小説をひたすら読む。ここは森宮大学の非公認サークル、「官能小説研究会」が根城としている部室。俺以外のメンバーは――「会長」を名乗る水島(みずしま)(あおい)という変な女だけだ。

 

 水島は学部こそ違うが同じ学年で、髪型は茶髪のボブだ。背は低いがすらっとしており、かなりの美人だとキャンパスでも評判らしい。俺の学部は水島の所属する文学部と違うキャンパスにあるので、このサークルに入るまではコイツの存在すら全く知らなかった。

 

「な~んか違うのよね……」

 

 水島はちゃぶ台の上に置かれたノートパソコンに向き合い、うんうんと唸っていた。どうやら会長様として執筆活動に勤しまれているらしい。誠に結構なことだ。……でも、中身はエロ小説なんだよな。

 

 「官能小説研究会」という名が示す通り、ここのサークルはえっちな小説の読み書きを目的としている。まだ入ったばかりの俺は読み専だが、水島は随分前から官能小説を書いているらしい。

 

「やっぱりこの体位じゃ無理かしら……」

 

 思わずぴくっと反応しそうになるが、何か言ったら負けな気がするので黙っておく。これを言うのはなんだか悔しいのだが、やはり水島は座っているだけでも絵になる奴だ。だからこそ――そんな女が官能小説を書いているという事実に悶々とさせられる。

 

(りつ)!」

「へっ?」

 

 水島が声を掛けてきたので、思わず振り向いた。ちなみに俺の名は春風(はるかぜ)律人(りつと)なので、俺は律と呼ばれている。これはコイツに限らず、もとからの友人達も同じだ。

 

「なんだよ?」

「ちょっと体を貸しなさい」

「は?」

「いいからそこで横になってなさい!」

「はあ!?」

 

 何をする気だ、と聞き返す間もなく、会長様はこちらに向かって飛び上がった。避けようとしたが時すでに遅し。水島は俺の下半身に跨るようにして――着地した。

 

「ぐえっ!?」

「あら、悪いわね」

「悪いと思ってるなら最初からするんじゃねえ!」

「えーと、騎○位だと……」

「話聞けよ! つか降りろよ!」

 

 俺の股間に乗っかったまま、手を口元に当ててぶつぶつと呟いている水島。コイツは小説の世界に入り込むといつもこうだ。まだ入部して数週間だが、何度こうやって実験台にされたことか分からない。

 

「こうやって動くのよね……」

「ちょっ、おま」

 

 水島はそれっぽく上下に動き始める。これはあくまで実験、小説のネタのため。そう思っていても――美人が自分の股間に跨って上下動していたら変なことが頭をよぎる。おまけに今日の水島はぴっちりとしたジーパンを履いているから、「形」が生々しく伝わってきてしまう。

 

「うーん、やっぱり無理かしら……」

「無理なのはこっちなんだが?」

「何よそれ?」

「お前には関係のない話だ」

「もうちょっと試すわ!」

「試すって今度は――」

 

 何をするんだ、と言いかけた瞬間だった。水島は俺の上半身に向かって倒れこんできて、ぐいっと顔を寄せてきたのだ。あまりに整った顔が目の前に現れたので、素でビックリしてしまう。

 

「うおっ!?」

「やっぱりこっちの方が良さそうね……」

「ち、近いだろ……!」

「律は黙ってて!」

「えぇ……」

 

 水島は眉間にしわを寄せ、ああでもないこうでもないと考えを巡らせていた。互いの息が吹きかかるくらいの近距離なのに、コイツは何も感じていなさそうで腹が立つ。こっちは気が気でないのだが。

 

「ふーん、なるほどね……」

「気が済んだか?」

「まだ終わりじゃないわよ?」

「何だよ」

「律、このまま私を抱きしめなさい」

「……へっ?」

 

 唐突な提案に戸惑う。抱きしめる? ……なんで!?

 

「なななな、なんだよ急に!?」

「いいから早く抱きなさいよ。簡単でしょ?」

「簡単って……お前はいいのかよ?」

「小説のためよ? 何を遠慮することがあるのよ。さ、早く」

「分かったよ」

 

 わけもわからぬまま、水島の背中に両腕を回す。ニットから伝わる温かい感触に思わずドキリとしてしまった。

 

「何よ、もっとぎゅーっとしなさいよ」

 

 意外と可愛い擬音を使うんだな、などと考えつつ、腕で水島の身体を抱き寄せる。柔らかな感触がさらに広がっていって妙な気分になる。

 

「んっ……」

「へ、変な声出すなよ!」

「律が急に力を入れたからじゃないの!」

 

 ああだこうだと言い合いつつも、互いに離れようとはしない。水島はいったい何を確かめようとしているのだろう。

 

「……でも、不思議ね」

「不思議?」

「こうやって律に抱きしめられると動けないの。思った通りだわ……」

 

 俺に抱きしめられると動けない……などと言われても困る。困るというか、何を言えばいいのか分からなくなる。俺たちはまだ出会って数週間なのに、こんなに身体を密着させて、しまいには――

 

「やっぱりこの姿勢だと騎〇位で動くのは無理よね!!」

「は?」

 

 次の瞬間、水島は雰囲気をぶち壊して俺の両腕を振り払った。思いついたことを忘れないうちに――ということなのか、大急ぎで俺の身体から降りてちゃぶ台の方に向かっていく。

 

「やっぱり無理だと思ったのよねー!」

「な、何が!?」

「茂みに隠れて交わるカップルを書きたかったのよ! だから姿勢を低くした方が良いかと思ったの!」

「つまり――」

「律には青〇の実験台になってもらったってわけ!」

「せめて野外○○○○って言ってくれない!?」

 

 美人の会長様から次々に飛び出す淫語に対し、ただただ唖然とするばかりだった。これがここ最近の日常。水島という女に振り回され、悶々とさせられる日々を送っている。

 

「で? 小説は進みそうなのか?」

「それが微妙なのよねえ。今のでイメージは出来たんだけど、臨場感に欠けるというか……」

「へえ、そりゃ大変だな」

 

 官能小説を読みはするが書くことはしないので、水島の執筆上の苦労は理解することが出来ない。まあ、ここは会長様自身に頑張ってもらうしかなかろう。そう思って、再び読書に戻ろうとしたのだが――水島が勢いよく立ち上がった。

 

「そうだ、いいことを思いついたわ!」

 

 水島がなんだかキラキラとした目で俺のことを見つめている。……嫌な予感がする。コイツの「いいこと」がいいことであった試しがない。コンビニに行って避妊具をあるだけ買って来いとか、散々な無茶ぶりをさせられてきたんだ。いったい今度は何を――

 

「青〇の取材に行くわよ!!」

「……はっ!?」

 

 官能小説研究会に入って初めての野外活動が決定した瞬間だった。

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