…………………………遅い。
あの、空を飛ぶってもっとこう、ビューーーーンっていくものじゃないのか?多分歩くのとそう変わらないスピードだと思うんだけど。
で、俺は幻想郷の地図なんて頭に入っていない。俺は初心者だ。一体何がどこにあるのだろうか?もう日が落ちたから、早くどこかに辿り着きたい。怖いし。出かかってる月明りしかないからすっげぇ暗いし。まぁ多分恐らくきっと何とかなるか。
ふと後ろを振り返ってみると、ルーミアが崖の近くでうろうろ漂って(?)いた。てか、よく考えなくても、あいつ飛べるくね?なんでこっち来ないんだろう?
考えてみよう。えーっとね。うーん。俺が、“食べられない人類“ 扱いされたのだろうか?
そうだと仮定すると、追いかけるのをやめたのは俺が飛び始めた時だから、きっと、『「飛べる」
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俺の知っている幻想郷の湖のそばには紅魔館があったよな。湖の名前はまだ覚えてないから分からんけど。名前あったっけ?というか、どう考えてもあれだよな?紅魔館。思ってた数倍赤いし、思った数倍でかいぞ。屋根が赤いのはわかるけど、外壁も赤いってどういうこっちゃねん。でも不思議と美しさを感じるなぁ。窓から漏れ出す光がいい味出してる。
紅魔館とは違う方角にはよく分からない洋館がある。なんだあれ?俺の知識にはないな。
うーーーん。ちょっと怖いけど、紅魔館に行くしかないか。少なくとも目の前にあるし、「知っている」場所ではある。魔理沙みたいにいきなり突っ込んでいかなければ、いくらなんでも殺されはしないだろう。でも拷問とかしないでね。
ちゃんと門から入るために湖を大回りして(いきなり紅魔館の上空を通ったら撃ち落されそうだし)、門の前に来たが……
やっぱり寝ているのか。紅美鈴。寝ているイメージはあるよ。あるけどさぁ、実際に見てみるとね?なんかこう、「あっそうなんだー」ってなるよね。どういう感情なんだろう。これ?落胆?言い過ぎだな。なんだろう?残念?
眠りが浅いことを祈って話しかけるしかない。
「あ、あの~、すみません」
「(Zzz……)」
あぁ~どうしたらいいんだこれ。詰んだ。起こせる気がしない。俺は彼女を「知っている」ことにはなっているが、相手からしたら全くもって見知らぬ人なんだよな。そもそも俺には起こせそうにない。いやでも寝ている方が悪いよな?うーん。とりあえず早くなんとかしたいんですけど。えっと、何をなんとかするんだっけ?えーーっとだから、その、えーっとね、俺はさっさと元の世界に……
「あれ、どうされました?」
「ウワッッッ!!」
「大丈夫ですか!?」
マジでビビった。ずっこけた。寝てるの?起きてるの?なんなの?
あと、そんな不思議な生物を見つめるような顔でこっちを見ないでくれ。恥ずかしい。俺からしたらそっちの方がよっぽど化け物なんだよぉ……。
「えええーーーっと、紅美鈴さんですよね?」
「は、はい、ここ紅魔館で門番をしている紅美鈴といいます」
「あの、霊夢さんに会いたくてですね。俺、此処は初めてなので何も分からないんですよ」
「あっちの方……って言っても分かんないか。連れて行ってあげたいんだけど、門番をしているから、そう簡単に離れられないのよ」
「あっ、そっ、そうですよね。ごめんなさい」
「えっと、ちょっと待っててくださいね」
「あっ、はい」
コミュ障とまではいかないけど、そんな女性と話す機会なんてそうそうないから緊張してまともに話せていない。幻想郷の妖怪って99.5%ぐらい(適当)が女性だし。(香霖はともかく、雲山って性別あるのだろうか?知識不足だけど、まぁ多分男性?じゃぁ90%割るか。)
やばいな。慣れないと、誰とも話せないぞ。
とか考えてたら、向こうから2人の影が見えてくる。えっと、美鈴さんと、咲夜さん?こりゃいきなり試練だな。
「こちらが、ここ紅魔館のメイド長ね」
「十六夜咲夜と申します。よろしくお願いします」
「あっ、俺は、えええーーーっと、ん?えーっと??あ、そうだ 、えっと、
「京平さんですね」
「よ、よろしくお願いします」
「じゃ、咲夜についていってね」
美鈴さんは、こないか。まぁそうだよな。
咲夜さんのあとをついていきながら、周囲をちらちら眺めてみる。でかい。紅魔館の住民ってそんなに多くなくないか…?あ、妖精メイド用?いや、にしてもでけぇよ。
周りに咲いている花は赤系統の色ばっかり。でも、それらが幾何学的な配列をなして、整然と並んでいる。庭園とか花とか今まで全然興味なかったから、「とてもすごい」以上の感想がでてこない。このへんも美鈴が手入れしてるのかなぁ。
よく、「西洋の庭園は人工的な秩序のある風景をつくる」とか「日本の庭園は自然をそのまま再現している」みたいに言われるけど、前者の完成形がこれなんだろうな。
「さ、どうぞ」
咲夜が扉を開けたが… あれ、紅魔館の中入るの?俺、霊夢さんに会えればいいんだけど。訊いてみようかな。いや、流石に助けてもらっている身でそんなことをするべきではないか。参ったなぁ。
いいや、とりあえず入るか。おじゃましま——————
「うわ、すご」
「お気に召したようで何より」
ちょっとあまりにすごくて呆然としていた。
もしかしたら西洋に行けばこういう建築がたくさん見れるのだろうか?行ったことがないから分からないが、少なくとも、自分が見てきた内装で一番美しいと感じた。あぁ、これを表現できない語彙力の拙さが悔しい。クソ。勉強しなければ。
あ、そういえば、紅魔館って咲夜さんの能力で見かけよりも建物の中が広いはずだよな。
「あの、咲夜さん?」
「はい、なんでしょうか?」
「紅魔館の内部って見かけよりも大きいんでしたよね?たしか」
「あっはい。そうですね」
「管理大変そうですねー でも少しその能力羨ましいなって思います。そういう特殊能力があったら楽しいだろうなぁ」
「まぁ…否定はしないわ」
苦労もあるだろうに、そう返されるとは思わなかったな。能力で何を楽しんでいるんだろう?いたずらでもしてるのかな?
「こちらへ」
「あっはい」
あれ、もう着いたの?いや、どこに行くかは知らなかったけど、建物の大きさからしておかしいだろ?
あ、咲夜さんがいるんだった。そうかそうか。空間をいじったのかな?
恐る恐る部屋の中に入るが、なんか、すごいオーラを感じる。えーっと、なんかすっげぇ嫌な予感がする。
……レミリアさんですね。あー、うん。一体何をされるんだ?終わった?
「貴方は、どこから来たのかしら?」
俺の曖昧な記憶ではそんなに凶暴な人 (?) じゃないはずだけど、ちょっと存在の圧が強すぎて答えざるを得ない。いや、そもそも助けてもらう立場なんだからそれ以外の選択肢は元々ないのだが。
「えーっと、こことは違う世界から来まして、ん??違う世界?ん?????」
「?」
「あーちょっと待ってください」
そういえばさっきからちょくちょく引っかかってたけど、間が悪くてよく考えられなかったんだよな。
えっと、俺は今日、朝起きて普通列車を乗り継いである駅に向かって……なんか知らないうちに幻想郷に来てたんだよな。うん?なんでだ???ここはどこなんだ?何故ゲームの世界にいるのだろうか?えっと、八雲紫って確かそういうことできるんじゃなかったっけかな?でも何で俺?いや、それよりなんて言えばいいんだよ。でもこれ以外言い方が思いつかない。
「多分、異世界?から来ました」
「さっきも聞いたわよ」
「あ、すいません。えっと、私が前にいた世界では、この世界はゲームの世界なんです」
「ふうん……」
「えっと、それで、どうにかして元の世界に戻りたいんですけど、もしよかったら霊夢さんのところに案内してほしいな、と。」
「……私の力も、知っているのよね?」
「『運命を操る程度の能力』でしょうか?」
「まぁ、そんなところね」
よく考えたらこれ、終わったな。俺の人生いじられたかもしれない。でも、彼女の能力は正直わからないことの方が多いから、そんなに心配しなくてもいいのかな?
「咲夜、連れていってあげて頂戴」
「かしこまりました、お嬢様」
まぁ、帰れるならいいか。帰れれば。
咲夜さんに連れられて紅魔館を出てきたが、えっと、勿論飛んでいくんですよね?俺、歩くのと大差ないぐらい遅いんだけど、うーん。
「あの、俺、飛ぶのかなり遅いんですけど、ついていけるか分かりません」
「それなら、手を貸しなさい」
??????俺に手伝えることなんてないが???
咲夜さんが手を差し出してきた。えっと、その、物理的に手を貸すってことですか?あの、そういう経験ないのでちょっと、その、恥ずかしすぎるんだけど、やばい。
「……どうしたのかしら?」
「あっ、はっ、はい、ど、どうも」
何言ってんだ俺。
ええい!此処は幻想郷!どうせ誰も気にしないし気にしてるのは俺だけさ!!!はっはっは!!なんとかなるさっ!!
「本当に大丈夫ですか?」
多分、頭をぶんぶん振ったんだろうな、癖なんだよな。
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博麗神社に霊夢 は、いなかった。クソ、よりによって何でこう、運がないのかな。なんか、幻想郷に染まれば染まるほど帰りにくくなる気がするんだけど。
今日は紅魔館に泊めてもらえるらしい。超ありがたい。俺、いきなりサバイバル生活なんてできないから。受験生だったんだし。ああ……まだ数時間しかたってないはずなのに、もうどこか元の世界が懐かしいな。これ、帰れるのだろうか?
ふと、窓から空を覗くと、満月が南中していた。あ、そうか。だからレミリアさんあんなに恐ろしかったのだろうか?此処の人達って大抵、満月だと力がいつもより増すだろうし。
満月といえば、自習の帰りで、自転車に乗りながら少しは眺めたものだけど、ここでは建物が全然ないからよく満月が見える。いいな。風流だ。あの駅でも感じたけど、やっぱり自然の中にいると心が洗われるなぁ……心地よい。
でも、明日には帰れるといいな。いつまでも此処にはいられない。何より俺は受験生だ。一日も無駄にしたくない。