俺しかいないのにやけにでかい部屋での目覚めはかなり良い。でも、なんだか変な気分がする。俺はこんなに裕福じゃないから、違和感が半端じゃない。
部屋にあるローマ数字の立派な時計は、丁度10時を指している。手元のスマホの時刻も同じく10時を指していた。
普段は遅くとも9時には勝手に起きるんだけど、昨日はちょっといろいろありすぎたからな。まぁそういうこともあるか。どうしようもねぇや。
というか、スマホの充電がもう31%しかない。此処に充電設備なんてあるはずがないから、切らさないように気を付けないといけないな。電源切っておくか。
「京平さん、おはようございます」
「あっ、おはようございます。すみません。寝坊しました」
「お気になさらず。そういえば今日も、霊夢はいないみたいよ。明日朝には帰るらしいけれど」
「げ、まじか。終わった」
……幻想郷永住確定演出????いやまて、まだ希望がっ。
「霊夢さんがどこにいるかは分かるんですか?」
「分からないわ」
「マジで終わった」
「そんなに悲観することなのかしら?」
「いや、なんか、此処に長くいればいるほど元の世界に帰りにくくなりそうな気がして」
「貴方なら大丈夫よ、きっと」
「……?どういうことでしょうか?」
「いいえ、なんでもないわ」
聞かなかったことにしよう。うん。きっとなんとかなる!!このマインドで俺は高校生活をどうにかしてきたんだ!!
「ところで、帰れないことが分かった以上、今日はどうされるのかしら?」
「えっと、その、ちょっと考えさせてください」
まず、霊夢さんにはどう頑張っても会えないのでナシ、次に、紫を探すことを検討しようとしたが、あまりに無謀なのでナシ。でもなぁ、あの人(人なのか?)、俺のことぐらい把握してんじゃないの?顔出してくれよなぁ?
じゃぁ今日一日潰すなら?そうだな、推しに会うとか?あれ?名案??いやだって
「そうだなぁ、藤原妹紅さんに会いたいですね」
「妹紅さん……ですか。お会いしたことはありますが、どこに住んでいるかは、分かりません」
「あれ、もしかしてあまり面識がない感じですか?」
「そうですね。宴会で会ったことがあるぐらいかしら」
じゃぁここは、永夜抄が終わった直後なのかな。それに、Exのルートはどうやら紅魔組ではないらしい。あ、もしかしたら、全員出動はしたけど先行するペアが先に妹紅を倒してしまっていた説もあるな。どういう世界軸なんだろう。
「じゃぁ、人里の寺子屋なら知ってますか?」
「それくらいでしたら、存じております」
「なら、そこに行こうと思います。……あ、すみません行き方知りませんでしたそういえば」
「私がご案内致しましょう」
「あ、本当ですか。ありがとうございます」
まぁ、慧音さんに会えば何とかなるだろう。寺子屋、今日やってるのかな。休みだといいけど。やってても、農業もあるし、そんなに長い時間やってないだろうから、その間見学でもさせてもらおうかなぁ。
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ま、今日が丁度休みだなんて都合のいいことは起こりませんよね。ありがとうございました。マイナス1ポイント。
でも、飛ぶのが少し早くなったのでプラス1ポイント。トータル±0!ヨシ!
まだ手を引いてもらわないといけないぐらい遅いんだけどね。小走りしたぐらいかな?
「あと、こちらのお金は何も持っていないでしょうから、渡しておくわね」
「へ?いいんですか?ありがとうございます」
咲夜さんが、お金の入った
「こちらのお金は珍しいですか?」
「そうですね。教科書で見たような硬貨ばかりです」
「まぁ、お好きに使ってください。では、私はこれで」
「あ、わかりました。いろいろお世話になりました」
こっちの服なんて持ってないから用意してもらったし、なんならお金もかなりくれた。迷惑ばかりかけてしまったなぁ。
そういえば、もう咲夜さんにも美鈴さんにもレミリアさんにも会わないのか。帰れればね。ツーショットをお願いするべきだったな。クソっ。
さっき「見学させてもらう」とか抜かしてたけど、普通に授業妨害すぎるからやめとこ。この辺ウロウロしてようかな。
ええと、まずやること、まずやること、えっと、1.俺が来たのが何の作品の後なのか確実にする。2.ご飯を食べる。3.慧音さんに会う。そのためには?
まず、命蓮寺や守矢の分社があるかないかぐらいは確認した方がいいか?あ、でももし阿求さんのところに行ければ全部分かるかもな。その方が手っ取り早いな。でも、肝心の生き方を俺は知らない。その辺の人に訊いてみるか。
「あの、すみません」
「おう、どうした?見慣れない顔だな」
そんな顔で警戒しないで。こわい。
「……害を与えられるほど力をもっていないので安心してください。その、稗田阿求さんにお会いしたいのですが、屋敷はどこにあるかご存知でしょうか?」
「そこの角を曲がって暫く行けば着く。仰々しい屋敷だから行けば分かるだろう」
「ありがとうございます」
「どこの人間か知らんが、問題は起こすなよ」
「はい」
こえーーーー。あんま詰められなくてよかった。もうレミリアさんの目の前みたいな状況になりたくないです。あぶないあぶない。
すっごく通りの景色の写真を撮りたい気分だが、ただでさえ部外者で目立っているのに、携帯を構えるなんて、そんなことできるわけがない。
小江戸と呼ばれる、佐原とか川越とかで見たような景色。見慣れない。観光しに来ている気分になるが、通りには全く観光客はいない。それはそうだ。幻想郷は閉鎖的な場所だから、街の観光なんて概念があるわけがない。里の人間は基本的に里の外に出ないだろうし。
もしかしたら、肉体的な強者が里の外に連れて行ってあげるツアーとかしたら、儲かるのだろうか。此処に住み着くなら考えよう。……いや、考えるなよ。俺は帰りたいんだよ。
さて、あれが稗田の屋敷だな。どう考えても。でかすぎ。ドラマかなんかのセットか?いや、にしてもでかいわ。
そういえば、今更だけど、果たしていきなり凸って会えるのだろうか?護衛とかもいるらしいし、ワンチャン門前払いされるな。自分の出自を話すことと引き換えになんかできないかな?阿求さんなら話しても大丈夫でしょ?流石に。頼む、門番さん、通してください。お願いします。
「すみません、阿求さんとお話がしたくて来たのですが」
「そのような話は聞いていない」
「……話はつけていません。難しかったら、大丈夫です」
「いや、少し待っていろ」
え、なんかいい感じ?あれかな、俺が見慣れない人だから逆に会わせる価値があると思ったのだろうか?俺が幻想郷縁起に載るような人物な訳がないが、今後何かあるかもしれないから会うだけ会うみたいなスタンスなのかな?
「入れ。ただ、問題を起こしたら容赦はしない」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
阿求さんの護衛らしき人に先導されて敷地内に入っていく。
風情の塊!日本の伝統的な(?)家、よい!……なんて浅はかな思考しかできないの、なんとかならないのだろうか。
「初めまして。稗田家の九代目当主、阿求と申します」
「ええっと、丹藤京平といいます」
「みたところ、里の人間でないように思うけれど」
「そうですね。昨日幻想入りしてきた人間でして」
「珍しいですね。私としては、幻想入りした方にお会いするのは初めてです」
そっか、阿求さんとしては初めてだけど、阿弥や阿七の時にはいたんだろうな。いろいろ話したいところだが……話すと死ぬほど長くなりそうな気がする。阿求さんが明らかにワクワクしている。興味津々といった感じか?
本当に申し訳ないが、俺の話はまた機会があったらってことで……。
「あの、それで、ここに来た目的なんですが」
「はい。どうされましたか?」
「えっと、今がいつなのか知りたくてここに来たのですが、最近、何か幻想郷で異変は起こりましたか?」
「2か月ほど前に、ずっと夜が終わらない、俗に言う『永夜異変』が起こりました」
「なるほど、じゃぁ、それより前に起こった異変は他にありますか?」
「今年に入ってからですと、宴会が3日おきに開催されたり、5月になっても冬が終わらなかったりしました」
「なるほど、分かりました」
よし、どうやら永夜抄すぐの初冬ということで合っているらしい。多分ね。「正史」という言い方は少し幻想郷の住民に失礼な感じがするが、今のところ正史であるらしい。
ええと、訊きたいことはもうこれで済んだんだが、幻想郷縁起とか見せてもらったほうがいいかな?
「もしよろしければ、幻想郷縁起を読ませてくれませんか?」
「構いませんが、何故私がそれを書いていることをご存知なのでしょうか?」
「あっ、その、えっとですね、うーん。後日にパスということでいいですか?」
「……分かりました」
一通り読み終わった。なんか難しそうな書物のイメージがあったけど、想像以上に読みやすかった。挿絵もなんだか漫画みたいな雰囲気がする。
……ずっと読んでいたから、腹が減ってきた。今何時だ?スマホは写真撮りたいとき以外開きたくないしなぁ。外の太陽は?うーん。多分昼!!
蕎麦屋とかないかな。あの町並みを見たからか蕎麦食べたくなってきた。んで食い終わったら寺子屋行くか。そのくらいならもう授業も終わっているだろう。
――――――――――――――
阿求さんの屋敷をでて、めっちゃうまい蕎麦食って、その辺うろうろして寺子屋の前に来た。いい調子。妹紅さんに会えるといいな。入るか。
「すみません、慧音さんいらっしゃいますか?」
「なんでしょうか?」
「丹藤京平といいます。いろんな事情によって昨日幻想入りしてきた者なんですが」
「……なるほど、珍しいけれど、稀にあることね」
「妹紅さんに会いたくて、どうしたらいいでしょうか?」
「何故でしょう?」
「ええーっとですね、その、興味本位?で、ただただ会ってたくさん話したいんですよ。ちょっとうまい伝え方が分からないですが」
「なるほど……?」
妹紅さんは、確か慧音さんに気を許して出自とかを全部話していたような気がする。「数少ない理解者」らしい。じゃぁ、彼女は相当信頼していいはずだ。妹紅さんがそうなんだから、間違いない。
「うーん。まず、俺の出自について簡単に話してもいいですか?」
「分かりました」
「ええっと、まず、一昨日寝た後、そのあとに見た夢で、なんか夢の中で急にある駅に出かけたくなって、その日の勉強もやらないで普通列車でノロノロ行きました」
「列車ですか。幻想郷にはないけれど、博麗大結界が張られる前に、存在は聞いたことがあります」
「まぁ、私の世界では画期的な移動手段って感じです。それで、行きたかった駅に降りて、前から少し気になっていた、寂れた神社に行くために森の中の獣道を多分1時間ぐらい歩いていたら、知らないうちに幻想郷に来ていました。何でなのかはさっぱり分かりません」
慧音さんは少し考え込んでしまった。なんだろう?俺を会わせていいような人間なのか考えているのかな?なんか多少しんどそうな顔をしている気がするけど、どうしたんだろう?
「分かったけれど……あまりそのことを他人に話さない方がいい」
「何でですか?」
「知られない方が、事が有利に進むこともありますから」
「というと、どういうことでしょう?」
「ただでさえ自らの状況がよく分かっていないのですから、この状況で無闇に人に話せば、どう利用されるか分からないですよ」
「でも、俺はあくまで助けがほしいだけだから、自分の状況を話すのは当然なのでは?」
「此処がどこか理解しているの?」
「幻想、郷、ですね」
「そういうことね」
「はい」
「付き合う人はよく考えた方がいいです。幸いにも、その元の世界で得ている知識が多少は役に立つでしょうから」
「全然詳しくないですが、まぁ頑張ります」
「あと、効果があるか分からないけれど、あとでその歴史はなかったことしておきますよ」
「あ、『歴史を食べる(隠す)程度の能力』ですね」
「まぁ、そうね。こういう使い方はしたことがないけれど、念のためにやっておきます」
「ありがとうございます」
「ええと、それで、妹紅に会いたかったのですね?」
「そうです」
「その件ですが、今からご案内します。一緒に行きましょう」
「あ、ありがとうございます」
ありがたいが、永夜抄で慧音が言った、『あの人間には指一本触れさせない!』の台詞からして、超が付くほどの部外者がいきなり会っていいのだろうか?なんで許されたんだろう?会えるならいいけど。
そういえば、今現在の妹紅の口調はどうなっているんだろう?永夜抄直後だからまだ女性的な口調なのだろうか。少なくとも儚月抄では中世的な口調に代わっていたから、永夜抄あたりで何かあったのかな?
妹紅の家へ向けて飛び立とうとしたが、よく考えたら俺の飛行速度はまだ小走り程度だぞ。またああなるのか?
「あ、すみません、あの、俺飛ぶのが遅くてですね」
「なら、手を貸しなさい」
……またか。