苦悩との対話   作:リーレス

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第七話『泡沫への期待』

 自動車が一台通れるぐらいの、舗装されていない道を進んでいく。両側には、地面に光が届かない程、密に森が広がっている。アマゾンを切り開いて道を作るとこんな感じになるのだろうか。

 ひとつ、おかしいのは、道の両側に屋台がポツポツあることだ。一体、こんな奥地に誰が来るのだろうか。と思ったのも束の間、パラパラとその屋台に人……いや、あれは妖怪か。とりあえず割と客足はあるようだ。

 屋台で働いているのは、人間も妖怪もいるように見えるが、客の方はぱっと見、妖怪しかいないような気がする。

 屋台と一口に言っても、焼き鳥を売っていたり、金魚すくいがあったり、射的があったりと、まるで祭りのように多様な屋台があった。

 しかし、こんなところで本当に祭りなんてやったら大変なことになるだろう。ただでさえ狭い道だし、屋台が道幅を1/3ぐらい占領しているのだから、一生前に進めなさそうだ。

 気になってふと後ろを見てみると、斜め後ろに、背の高い山々が見えた。なんか、最近見たことがある気がする。

 こんな立地じゃ、そりゃ人間が来るわけがないだろうな。第一妖怪だらけだし、周りに人が住めそうなところはなさそうだ。

 そんな道を少し歩いていったら突然、濃霧に包まれた、海?川?湖?が見えた。

 海にしてはこっちに波らしい波が全然打ち寄せてこないし、水面があまりに穏やかに流れている。おかしい。湖だとしても、波ぐらいあるだろう。

 よく見たら、右に向かって水が微かに流れている気がする。もしかして、これは河なのだろうか。河幅、一体いくらあるのだろう。濃霧で少し先までしかはっきり見えないが、ぼんやりと、遥か彼方まで空が続いているように見える。水平線はよく分からなかった。いくら大河だとしても、向こう岸ぐらい見える気がするんだけどな。多少は森とか山とか見えるだろう?

 

 河の上流の方から、大きな鎌を持った人影が見えてきた。鎌は、その人の背丈と同じぐらいの大きさで、刃は見事にきれいなカーブを描いている。

 誰だろう。なんだか、逃げた方がいいような気もする。

 

 後ろから、別の足音が聞こえてきた。走っている。こんな場所で走るほど急ぎの用事なんてあるのだろうか?

 

「おい!京平!」

 

 自分の名前を呼ばれた気がした。その声に、なんだか心が落ち着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「京平?」

 

 誰だ。

 

「良かった。良かった……」

 

 ???

 とりあえず、目を開いてみる。あ、明るいな。眩しい。

 

 やっと目が慣れてきた。……妹紅さん、どうしてここに?そもそも、ここは、どこなんだろうか。

 

「体調は、大丈夫か?」

 

 もしかして、俺は栄養失調かなんかで死にかけていたのだろうか?本当かはよく分からないけど。どうせなら、そのまま死ねばよかったのにな。

 

「一体、どうしたんだよ。心配したぞ……」

 

 そんな、別に気にしなくてもいいのに。俺が死ぬことの何が心配なんだろう?

 

「失礼するわ」

 

 ドアを丁寧に開け、部屋に入ってきたのは、永琳さんだ。それに続いて輝夜さんが入ってきた。ここは、永遠亭なのだろうか。どうやら死にかけていたらしいし、多分そうだろう。

 そうすると、なんだかさっき、ある女性に担がれたり、名前を呼ばれたような気がするが、もしかしてあれは妹紅さんだったのだろうか。夢?多分、どっちも同じ人だと思うんだけど。死に際って夢を見るものなのだろうか。

 ただ、ここは幻想郷だし、もしかしたら夢じゃなかった可能性もあるな。なんか、異世界に飛ばされてそこでの妹紅さんに逢ったとか……。

 異世界に飛ばされる。か。まさに今の俺なんだよな。夢であって欲しい。超意識がはっきりとしてリアルな明晰夢の可能性もギリギリ否定できないし。幻想郷であったら、このくらい変なことは現実でも起こるだろう。

 

「妹紅、貴方、いつまでそこにいる気なのよ。外にでも出て行ったらどう?」

「気が向いたらそうする」

「……随分とご執心なのね」

 

 そう言って、輝夜さんは部屋を出て行ってしまった。なんだか少し無愛想な気がするが、そんな人柄だっただろうか?

 なんだか、声低めだし、ボソっとした感じ。あまり似つかわしくない。

 そんな彼女を無視するかのように、妹紅さんは俺の方をずっと向いていた。

 

「完治するまでにあと2週間ぐらいはかかると思うわ」

 

 永琳さんは事務的な態度でそう伝えた。なるほど。別に治らない方がいいんだけど。

ここに居たら治ってしまうだろうし、どうやって逃げ出そうかな?空間を弄られていたら 終わりだが……。

 

「何をどう思ってこんなことをしたのか知らないけれど 、食事は確りとることね。あと、その能力。使い慣れていないのか知らないけれど、練習して慣らしてから使うように」

 

 これがマシンガントークか。話す隙がないな。

 

「ひとまずこんなところかしら。まぁ、ゆっくりしなさい」

 

 去り際にそう言い残して、その薬師は部屋を出て行った。

 部屋には妹紅さんだけ残った。病床の傍の椅子に腰かけている。なにやら、目を閉じて心を落ち着かせているように見える。どうしたんだろう。

 窓の外は明るい。でも、竹林に囲まれているから大した光量はない。けれど、赤外線の暖かさをほんのりと感じる。外は多分昼だと思う。二階にいるとはいえ、竹林の背丈があまりにも高くて空は角度的に見えなかった。

 

「ひとつ、話したいことがある」

 

 ほう。そんなに改まらなくても。

 

「そうだな、本当に、本当に申し訳ないんだが、まず、こんな状況にしてしまってすまない」

 

 なんで彼女が悪いみたいな言い方をするのだろうか。あと、話し方にまとまりがないような気がする 。妹紅さんってそういうことなさそうだけどな。なんだろう。

 

「これで、京平がどう思おうと私は受け入れる。どうとでも言ってくれ」

 

 は……はぁ。

 

「私は……私は、京平が帰れないことは分かっていた」

 

 え?

 

「そうだな。その、私自身、『異世界出身なら、博麗神社に行っても絶対に帰れない』と思っていたし、その他の手段もあるはずがないことは分かっていた。何より、あったら私が使っているからな」

 

 え……え?

 

「多分、レミリアとか慧音にも同じようなことを話したんだろう?彼女たちもこれは分かっているはずだ」

 

 じゃぁ、どうして……。

 

「レミリアの真意は測りかねるが、慧音に関しては、全く悪意はないはずだ」

 

 な、何がどうなっているんだ?

 

「慧音は恐らく、このまますぐに事実を伝えて京平が絶望してしまうのを避けたかったのだろう。ただでさえ見知らぬ異世界に来ているのだから。結果としてあまりよくないことになってしまいはしたが……」

「じゃ、じゃぁ一体妹紅さんは」

「あっ、そ、そうだな……」

 

 返答によってはちょっと考えないといけない……。

 

 妹紅さんは、腕を組んで少し俯いて、難しそうな顔をしている。そんなに、言いづらいことなのか。別に、どんな回答だろうが、俺の彼女に対する考え方 が少し変わるだけで、どうせ俺はここから消えるから変わらないが。

 

「……もう少し、言いたいことを整理させてほしい。このまま喋ってもうまく伝えられる気がしない」

「そうですか」

「暫く、外に出てくる」

 

 

 

 

 

 

 そういえば、今日は一体いつなんだろう。いままで、どのくらいの時間が経ったんだろう。ここにいる時間だけ、前の世界でも時間がたっているのだとすれば、既に俺は捜索を諦められているかもしれない。そうしたら、もし、仮に前の世界に戻れたとしても、俺の居場所はあるのだろうか。第一、帰れる未来はまったく見えないが。

 ずっと時間が経ってから帰っても、浦島太郎みたいな状態になるんじゃなかろうか。果たして、信じてくれるのだろうか。

 でも、そもそも、幻想郷の時間軸から考えて、ここは2000数年とかのはずだ。そうすると、前の世界で俺は生まれていないことになる。異世界に来た上に過去に遡っているのか。いや、なんとも複雑だ。一体どうなってるんだ。

 

 

 

 

 

 

 ……俺が倒れてから数年とか経ってないよな?急に心配になってきた。そんなに俺に執着するとは思えないが、妹紅さんが何年も俺の傍にいた可能性が出てきた。や、やめてくれ……罪悪感で潰されてしまう。

 さっきまで、窓から光が差してきて暖かいと思っていたが、全然暖かくない。さっきの俺の神経はどうなっていたのだろうか。

 ふと外に目をやった。いつの間にか、外の光の色温度は低くなっていた。単に気温が低くなっただけだったかな。

 よく見たら、外に生えている植物は春でも夏でもなさそう。あまり詳しくはないが、雰囲気がそう言っている。冬かな?じゃぁ、大して眠っていなかったか、数年単位で眠って偶然冬に起きたかの2択だな。まぁ、どうでもいいが。

 

 

 

 

 

 

 妹紅さんが、ゆっくり、覗き込むように扉を開けて部屋に入ってきた。

 

「京平、遅くなって、すまない」

 

 何か言ってあげた方がいいと思った。でも、彼女なりによく考えただろうから、その邪魔はしない方がいいだろう。なんでそんなに焦っているのか分からないが、予定を狂わせちゃいけない。

 

「……私は、知っての通り藤原家の人間だ」

 

 な、何を言う?いきなりどうした……?

 

「輝夜に家族を壊され、恨んだ」

 

 ……そこまで酷かったのか?

 

「復讐しようとした。けれど、京平が前言っていたように、小さな人間は魔が差すってことがあるのさ。後先考えずに動いても永遠の時間でどうにかなりそうな魔法の言葉に嵌められてしまった。そして人間に嫌われ、この世を恨み、生きる気を失い、宿敵と再会した」

 

 どうして、どうして彼女は俺にこれだけ話すのだろう。俺が、ここに来た時に彼女に話した以上のことを語っている。

 妹紅さんは、自分のことを滅多に話さないはず。一体、どうしたっていうんだ。

 

 

 

 

 

 

「自分から、言いたくなかった」

 

 どういう意味だろう。突っ込みたい心を抑えて、次の言葉を待つ。とにかく、焦らせてはいけない。

 

「私が『帰れない』と伝えることで、また、離れていってしまうと思ったんだ」

 

 直接的に言いたくないのか、なんだか主語をぼかして話している。

 

「……伝わったか?」

「もう少し、詳しく話してほしいです」

「……そうか」

 

 外からの光はもう、なくなっていた。けれど、屋内の光が、空からしんしんと降ってくるものに反射して、再度屋内を照らしていた。

 

「貴方にまで、私のもとから消えてほしくなかったのさ。私の過去をよく知る者は、慧音と、京平しかいない」

「俺がいなくても、他の人と打ち解ければいいのでは?そこに、俺である必要性はあるんですか?」

「自分から話すのと、もう既に知っていて話す必要がないのじゃ天と地ぐらい違う。あと、京平は私のことを全く悪く思っていなかった……少なくとも10日前はね。そんな人を自分の手で傷付けたくなかった。どのみち、後で知ることになるとしても。本当に、独りよがりだと思う。私は一体、1300年間何を学んで来たのだろうな」

 

 そういって彼女は苦笑する。俺はもう、口から出かかっていた言葉を我慢できなかった。

 

「いいんです」

 

 いきなり喋ったからか、彼女は困惑している。俺は、手を差し伸べた。

 

「忘れましたか?俺は、『俺が居なくなっても、常に俺は妹紅さんの全てを受け入れますから』って、言いましたよね?」

 

 俺の信念は揺らがない。

 

「ダメージがゼロと言ったら嘘になります。でも俺は、いつでも妹紅さんの味方です」

「そうか……そうか……」

 

 今まで読んできた数多の二次創作の中でも見たことがない表情を、彼女は見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 暇だ。暇すぎる。暇すぎて死にそうだ。

 最近、何回か永遠亭からの脱出を試みているが、複雑怪奇な永遠亭の構造や、鈴仙さんにことごとく阻まれている。

 その度に永琳さんから軽く叱られているが、右耳から入って左耳に抜けていっている。とにかく、暇。やることが、ない。ずっと部屋にいろと言われても、やることがなさすぎる。

 最初の1日はよかった。自分のこれからについて少し考え直す時間がとれたから。

 結論としては、今すぐには死なないことにした。前も考えてたきがするけど、まだ、本当の本当に俺が前の世界に帰れないと決まったわけではない。

 いまのところ、俺はこの世界が、「俺の知っている東方の正史世界」だと思っている。でも、俺がここに居る以上どうなっているのかよく分からないし、所謂「外の世界」が、「前の世界」である可能性を否定しきれていない。だからといって俺がその「外の世界」にすら行けないのは解せないが。

 そこで、考えた。守矢神社が越して来るまで待とうと。仮に、「外の世界」⇔「前の世界」であるとするならば、彼女、東風谷早苗は幻想郷がゲームの世界であることを知っている可能性がある。彼女が来る時点で、旧作はもちろん終わっているし、永夜抄まで終わっているから。

 もちろん、この予想が正しい確率は著しく低い。考えれば考えるほど、この理論は辻褄が合わなくなる。まず、そうすると、「元の世界」に超能力者が大量に存在することになる。おかしい。いくらなんでもそんな非科学的なことが俺の昔いた世界で起こるはずがない。だから、本当に、本当に、気休め程度でしかない。そもそも、帰れたとしても、俺がまだ生まれていない世界に帰ってどうするんだ。という問題もある。

 言い方を変えれば、「風神録時点での俺」に、判断を丸投げしたともいえる。何年先の出来事だったか詳しくは覚えていないが、3年はかからないだろう。その時点でどういう状況にあるかは全く予想できないが、それまではここ(幻想郷) に居ようと思う。一応、幻想郷だし、どんなに変なことでも起こり得そうなので、微かな可能性を信じてみることにした。

 今回の出来事があったから、本当は「未来の自分に任せる」なんて愚かなことはしたくない。したくないし、本当に悩んだが、妹紅さんが多少心を開いてくれているという事実が、俺を強制した。

 あてが外れて絶望したら死ぬだろうし、もしかしたら何か縁があってここに永住するかもしれない。本当に全く予想できないが。

 

 望外だったこともある。さっきあったように、どうやら、妹紅さんは俺にかなり心を開いているらしい……。あの日、彼女は廃人同然(あの瞬間は彼女がいたのでそうでもなかったが)だった俺に、いろいろ話してくれた。もし、俺の体調がよくなっても、彼女が居なかったら、多分俺は精神的に死んでいただろう。今も、よく永遠亭に来ていろいろ世話してくれている。ありがたい。

 という感じで、彼女の信頼、期待をそう容易く裏切りたくても、俺の心が絶対に裏切れない。

 もちろん、風神録時点で絶望に絶望したらどうなるか分からないけどね。まぁ、数年ぐらいはここにいると決心できた。一度ついた傷はなかなか癒えなくて、時々本当に泣きたくなるんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 扉が音もたてずにゆっくり開いた。

 

「京平、晩御飯だ」

「ありがとう」

 

 竹林のほんの僅かな隙間から、繊月がこちらを覗いていた。

 

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