結界師が行くヒーローアカデミア   作:無個性な一般人

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プロローグ

 

「はい、スタート」

 

「へ……?」

 

 雄英高校の実技の入試試験会場で、プレゼントマイクからぬるっと告げられた開始の合図に、間抜けな声と共に呆けてしまったのはほぼ全員。

 先ほどまで緊張感に包まれていたライバルたちが困惑する中、スピーカーからはプレゼントマイクの声が続く。

 

「そんなのありかよっ⁉」

「出遅れた!」

「あんなスタートとかありえない!」

 

「ふあぁ~……ねむ」

 

 初対面のライバル達が悪態をつきながら走り出す中、紺色の和服を着た少年だけが大きな欠伸を零す。

 表情に焦りや戸惑いを見せることなく走り去っていくライバル達の背を眺める。

 片手で頭をポリポリと掻き、もう片方の人差し指と中指をピンと伸ばしていた手を解く。

 

「おー、けが人はいないみてーだな。物見遊山の記念受験でもワンチャン狙ってる感じかー?」

 

 物の数秒で閑散とした試験会場入り口に立つ和服の少年は、ゆったりとしたジョギングのペースで走り出す。

 

「しゃーらら、ららー。やっばい森にさそわーれ」

 

 この世界には存在しない曲を口ずさむ。

 とても入試倍率300と評される雄英高校を受験しているとは思えない足取りで、和服の少年は試験場へと踏み出していった。

 

 

 

 人に個性というものが宿るようになり、個性が日常的なものとなった日本。

 ヒーローという夢の職業が現実の物となった世界で、国内トップと評される通称雄英と言われるヒーロー養成学校雄英高校。

 その雄英に勤務するプロの名だたるヒーロー達がなにをしているのか。それは先日行われた雄英の入試試験の採点だ。

 

 実技試験で撮られた記録映像と、各教員の手元には受験生の資料が束となってまとめられている。

 

 レスキューptと呼ばれる隠された評価項目を0点とされながらも、ヴィランptのみで入試トップに輝いた爆破の強個性を持つ学生。

 ヴィランptが0点に対して、レスキューptのみで入試のボーダーラインを超えた、自身の四肢を粉々に破壊するほどにピーキーな強個性を持つ生徒。

 

「ほう……」

 

「これは……」

 

 他にも多種多様な個性を扱う受験生たちの評価が進められていく中、先の受験生に負けない注目を集めた生徒に教師陣の手が止まる。

 

「個性、結界ですか」

 

 映像では和服を着た服装以外は至って平凡な男子生徒が映し出されていた。

 右手の人差し指と中指をピンと伸ばし、それ以外の指を握る刀印にも似た構えをする学生は仮想ヴィランに向かい手を振り上げる。

 

 すると仮想ヴィランを囲うように青色の半透明な板が出現し、正方形を形成しそこに仮想ヴィランがスッポリと収まってしまう。

 

「指定した空間を隔離、結界内からの脱出は青色の板を破壊する必要があり」

 

 採点者のひとりであったぼさぼさの頭をしたヒーロー、イレイザーヘッドが映像に合わせて口を開く。

 

 映像では仮想ヴィランが自身を囲う板を破壊しようとするが、薄く張られているとは思えない強靭さでヴィランの攻撃が跳ね返されてしまう。

 

 学生がそのまま何かしらの言葉を吐きながら手を振り下ろす。

 仮想ヴィランを覆う結界が解かれ、別の結界が今度は棒のように伸び、仮想ヴィランを破壊する。

 

「結界は伸ばすことが可能。それによる打撃が攻撃手段」

 

 仮想ヴィランは受験生が素手でも破壊することを前提としているため、凶暴な見た目と違い破壊することは容易だ。

 事実、他の映像でも仮想ヴィランは受験生によって、多種多様な最期を迎えている。

 

 和服の学生が見せた結果は特筆する所は確かに存在しない。

 

「結界は空中に出すことが可能、足場にも壁にすることもできる。汎用性がかなり高いわね」

 

「スタート開始のときは舐めてんのかと思ったが、コイツは飛んだ食わせもんだゼ!」

 

 しかし、映像を見ているのは現場で活躍していたヒーローであり、映像から読み取った情報はかくも多い。

 

「映像を見る限り開始時も同じ印を作っていた。凡そ他の受験生同士の事故に備えていたんだろう」

 

 個性だけではなく、本人の終始落ち着いた姿勢。一番最後に試験場へと踏み入ったのにも関わらず、他の受験生に遅れることは一切なかった。

 

「証拠に、他受験生が危険なときは結界で助ける行為もしている。よく周りを見ているな」

 

「チッ、俺は好かねえな。ガキらしくもっとテンション上げてげってんだ!」

 

 イレイザーヘッドに反応したのは試験官も担当していたプレゼントマイク。平然としたイレイザーヘッドとは対照的に、眉をひそめる姿は彼の心情をありありと表現していた。

 

「まーまー、千差万別の個性があるのと同じように、性格にも個性はあるものさ!」

 

 服を着た鼠。根津校長が手をピッと上げる。

 

「最後の0ptヴィランでは一目散に撤退、ここは普通よね。判断としては正しいけど、彼みたいにどうにかしちゃうのかと思っちゃったわ」

 

 つまらなそうに口を開いたの容姿を含めて界隈に名を轟かせている、18禁ヒーローのミッドナイト。

 しかし、対してイレイザーが今度は眉をひそめる。

 

「彼が例外的なんですよ。確かに破壊するほどの威力には目を見張りますが、あの巨体が倒れればそれだけで街に大きな被害が及びます。適切な選択とは言いづらいですね」

 

「ハッハッハ! そこまで求めるのは酷というものだよ相澤君! そこまでできてしまったら彼はここに来るのではなくてそのままヒーローに成るべきだね!」

 

 体格から画風まで他の教師とは違う黄色と黒のストライプが入ったスーツを着たヒーロー、オールマイトが豪快に笑う。

 

「ま、そうですね。そこら辺は入学後に我々が指導するべき事案ですね」

 

「話がそれてしまったね! 結界の彼も素行は極めて優秀! 獲得ポイントもトップではないけど十分に合格ラインを超えているのさ!」

 

 根津校長の言葉に反論する教師はおらず、彼の受験合格が決まった。

 

 

「あー、毎年のことだが多すぎんだよなー! 肩が凝って仕方がねえゼ!」

 

「あら、私は全然辛くないわね。なんたってあそこには青春が――」

 

 そうしてすべての採点が終わった教師たちが退出していく中、オールマイトは席を立とうとしないイレイザーヘッドに気が付く。

 

「どうしたんだい相澤君。資料とにらめっこしちゃって」

 

「オールマイトさん。実はさっきの映像について少々疑問がありましてね」

 

 イレイザーはそう言うと先ほど見ていた結界の個性を持つ学生が、0ptヴィランから逃げていく映像が再生される。

 しかし、何度見ても映像に不可解な点はなくオールマイトは首を捻る。

 

「ここですよ、彼は個性を発動する際に決まって印を結んでいます。逃げるときには必要がないのに印を結んでいます」

 

 映像を再び見れば、イレイザーの指摘通り和服の学生の手は刀印の形を保っていた。

 

「あ、本当だ。でもこれは有事に備えて、いつでも対処できるようにしているだけじゃないかな?」

 

「確かにそうかもしれません、ですがこの試験会場だけ0ptヴィランの挙動がおかしいんです、0ptヴィランはその巨体もあり安全性を考慮してそれほど大きな動きはしない設定になっていますが」

 

 映像が0ptヴィランを映し、それを見たオールマイトが「おや?」と反応を見せる。

 

「まったく……動いてないね」

 

 映像では出現して少し動いた0ptヴィランが、ピタリと動きを止めていたのだ。

 

「正確には動こうとしています。ただ、まるで何か動きを阻害されているようにも見えるんです」

 

「なるほど、相澤君はそれをしたのが彼だと考えているんだね?」

 

「えぇ、ですが確証もないので試験場にいた受験生の資料を確認していたんです」

 

 そう言いながら首を振るイレイザーの反応から、該当しそうな受験生は存在しなかったらしく、そこから暫くオールマイトも頭を悩ませた。

 しかし、映像から確認できる情報も少なく、最終的にシステムの不具合ということに無理矢理落ち着くことになった。

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