結界師が行くヒーローアカデミア   作:無個性な一般人

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集う! 騎馬戦!!

「ふ、札折君……いったいいままでどこに」

 

「上を見ろよ緑谷、上」

 

 頭上を見た緑谷が目を見開く。

 そこには等間隔で空に展開された結界が無数に存在していたのだ。

 

「そうか、結界は足場になる。札折君がわざわざ地面を走って行く必要はない。頭上なら誰かに邪魔されることもないし、かっちゃんみたいに爆破の騒音がないから見られなければバレない。たとえバレたとしても空中なら自在に結界を作ったり消せたりするから、アドバンテージは揺らがない。問題は結界の展開許容量だけど、それも見る限りじゃ消費はほとんどないんだ。かっちゃんと違うのは爆発の推進を利用しないところ、だから速度自体が早くなるわけじゃない。でも足場と推進じゃ踏ん張りもリカバリーとかも考慮すれば、応用力と汎用性が突出しているんだ。気付くべきだった、あのときの疑問をそのままにするべきじゃなかった。いや、でも。僕がたとえ気づけたとしても空中に対しての手札が僕にはない。サポートアイテムとかがあれば、だけどヒーロー科の出場者はアイテムを使えない。なら」

 

「うわ、高速詠唱が始まっちまったよ」

 

「おい札折! てめえんなことができんならオイラも連れてけよ!」

 

 一人の世界に入っていった緑谷に引いている札折に、今度は峰田が私欲の混じった苦言を発する。

 

「そんな羨まなことして何いってんだこの野郎」

 

 八百万にベッタリと張り付きながら。

 

「くっ……、このようなはずでは……!」

 

「オイラのモギモギはそう簡単には外れないぜ! 一石二鳥! ヒャッフォオオオ!」

 

 背中に付けられたモギモギを忌々しげに睨む八百万は、ついで峰田にゴミでも見るような視線を向ける。

 

「にしてもこの手の障害物だと札折の個性は相性いいよな」

 

「あぁ、それに自身の個性とよく向き合っている証拠なのだろう」

 

 そこにゴールを終えた瀬呂と常闇が合流する。

 

「直接的な戦闘ならこうは行かねえがな。でもお前等も上手く個性で対処してたと思うぜ」

 

「上から見てたのかよ、余裕じゃねえか」

 

「二回戦目以降で当たる連中の個性を分析する必要があったからな、面白いこともわかっちまったぜ」

 

 頭上からの移動、それは見張り台のように地上では見きれない範囲を射程に収めるということ。

 他者からの妨害がないフリー状態であった札折は、頭上から上位に食い込むであろう出場選手の分析も行っていたのだ。

 

「さあ! 一回戦のランキングを発表するわよ!」

 

 そんな問答や、お互いの健闘を称え合っているとミッドナイトがステージに上る。

 映し出されたのは上位42名の出場者。

 

「そして第二種目はコレよ!」

 

 一回戦目同様スクリーンに投影された次の種目。

 

「騎馬戦!」

 

 ルールは通常の騎馬戦とほとんど変わらず、そこに個性の使用と騎馬が崩れても失格にはならないこと。故意に騎馬を攻撃して崩すのは一発アウトということが説明される。

 

「騎馬戦にはチーム全員のポイントを合計したハチマキが配られるわ! 上位4チームが第三回戦に出場することが可能! そして、割り振られるポイントは一回戦目の通過順に高いポイントが割り当てられていくわ!」

 

 42名の下から順にポイントが表示されていき、上位と下位では10と100という桁が違うポイントが割り振られていた。

 

「そして1位に与えられるポイントは1000万ポイント!」

 

 一回戦目を突破した出場者が、自分の順位とポイントに一喜一憂していた中に告げられた爆弾。

 静寂、次いで札折に集まる獲物に向けられる視線。

 

「まじかよ……」

 

 そのポイントの高さに、普段から物怖じしない札折でさえもたじろぐ。

 

「1000万ポイント……」

 

 明らかなエサ。それもソレ一つで二回戦目を1位で通過できるほどに輝くりんごだ。

 皆が獲物を見るなか、緑谷だけが安堵と後悔を滲ませる。

 

「お互いの個性とよく相談して、チームを組んで頂戴!」

 

 場の空気を読んでか読まずか、ミッドナイトが口早に進めると出場者達はすぐさま行動を開始する。

 

「ま、そうなるよな」

 

 唯一札折を除いて。

 チーム編成はすぐに決めるもの、お互いの個性を話し合いチームを組むもの。十人十色の流れでチームを組んでいくなか、札折だけが例外となっていた。

 

(1000万ポイント。普通に考えりゃ最後までキープできるはずがない、なら試合中、それも後半で奪うのが安牌ってか?)

 

 確かに合理的。勝つという一点で見れば誰もが取る、誰が見ても欠点が最も少ない作戦。

 

(つまんね考えしてんじゃねえぞ? やるなら全力最初から最後までトップを狙ってくれよな)

 

 だからこそ、札折からしてみればつまらなく見える。

 最終的な目標が有名なプロヒーローのお眼鏡に叶うこと、それは担任の相澤先生ですら意識させるほどに将来を左右する重要な要所。

 

「1位になりたいやつ。この指止まれ」

 

 確かに雄英体育祭で注目を長く、目立って見られる必要はあるだろう。

 将来を左右する重要なターニングポイントだろう。

 だから何だというのだ。

 今に全力を、常に天辺目指す心構えがなくてどうするのだ。

 札折は天井を指差し、告げる。

 

「一番になって、一番に目立って、一番に注目を浴びてェヤツ。俺のところにこいや!」

 

 吠える。

 個性の相性ではなく、作戦のためではなく、ただ一番で勝つために。

 たった一つのシンプルなゴールだけを見て、前だけ見て走れる仲間を求めた。

 

「……」

 

 だが、そんな無鉄砲に誰が付き合うのか。

 もともとの今日に掛ける意識が、根本から違うのか。

 

「あんの野郎ォ……!」

 

「……チッ」

 

 すでにチームを組んでいる爆豪や轟は後者なのだろう。共にではなく、自分が一番になるため、札折とはチームを組まず真っ向から勝負を挑むつもりなのだろう。

 

(は、おもしれぇ。掛かってこいよ!)

 

 やってみろ。そう睨み返せば見えない火花が散った。

 

「ふ、札折君……!」

 

 そして集まる。

 

「ウチ、一番に目立ちたいんよ!」

 

 札折と別の目的のため、

 

「貴方1位ですよね! ワタシのベイビーを見てもらうなら貴方が一番です!」

 

 同じ手段を選ぶ仲間が。

 

「よっしゃ! いっちょかましてやろうぜ!」

 

 チーム結成。札折チーム。

 騎手、札折

 騎馬、緑谷、麗日、そしてサポート科の発目 明(はつめ めい)

 

 

「よ、やってっか?」

 

「お、お前……」

 

 チームを作った札折は、とあるチームのところに訪れていた。

 USJ襲撃からの初登校日、A組の教室前で起こった騒動、そこで唯一前に出て宣戦布告を行った普通科の生徒。

 

 彼のチームにはAクラスの尾白と常闇、そしておそらくBクラスの眼鏡をかけた、じゃっかんポッチャリ体型の生徒。

 しかし、彼らの様子は一様に正常とは言えなかった。

 

「俺は札折、お前の名前は?」

 

「心操人使だ」

 

 思っても見なかった客人に普通科で唯一2回戦目に残った生徒、心操人使は驚きと若干の気まずさを見せた。

 それは札折に対してなのか、自身の行いに対してなのか。

 

「まどろっこしいのは嫌いでな。お前の個性、洗脳系だろ?」

 

「なんでそう思ったんだ?」

 

「お前のチーム、尾白と常闇、それとB組の誰かさんをみりゃすぐに分かるぜ」

 

 今の札折は色々な意味で注目を集めている。

 クラスメイトが顔を出したのにも関わらず、近くにいる尾白も常闇もぼーっとした表情を浮かべるばかりで、札折の存在事態認識していないようでもあった。

 

「そう警戒すんなよ、別に邪魔するつもりはねえ」

 

「……いいのかよ。お仲間なんだろ?」

 

 今洗脳を解かれたら試合どころかチームすら組めなくなる。

 自覚しているからこそ心操は札折の様子を窺うのだが、札折は鼻で笑う。

 

「助け助けられが仲間なもんかよ。コイツラにはいい経験になるしな」

 

「随分と薄情なんだな」

 

「舐めんなよ。今は実践じゃねえんだ、洗脳されるなんて経験そうそう味わえるもんじゃねえ」

 

 実践。ヴィランからの襲撃を経験した今の札折だからこそ言える言葉だった。

 それ以前であれば、今すぐにでも叩いて目覚めさせたことだろう。

 

「俺の目的はお前の個性が洗脳だって確定させることだったしな」

 

「俺がお前を洗脳するとは思わねえのかよ」

 

「バカ言うんじゃあねえ。やれるもんならやってみろ」

 

 札折が心操の個性を見抜いたのは第一種目、頭上から観察していた際に見た他生徒に担ぎ上げられた心操を見たからだ。

 虚ろな目で心操の馬になっている生徒達を見た札折は、あの日の宣戦布告が虚勢ではないと知った。

 だから見ていた。チーム決めのさなか、心操と一言会話した三人が途端に洗脳されたことで、ある程度の条件を確認していた。

 

「会話、もしくは目を合わせる。ここらへんが条件だろ?」

 

 結界術。その根底にあるのは空間の支配。

 空間を支配するのは術者であり、支配という絶対の領域で強者である札折にとって、洗脳を含めて自意識の侵害に敏感だった。

 だからこそ確信している。万全の自分が洗脳されることがないということを。

 

「それがわかっててよく会話できるな」

 

「試合になれば一言も口なんざ聞いてやらねえよ、俺が知りたかったことは知れたからもう行くわ」

 

 心操からしてみれば突然やってきて、個性当てを一方的にされる。

 結局なにがしたかったのかと困惑するばかりであったが、続いた去り際の言葉ですべてが吹き飛ぶ。

 

「お前のそれ、ヴィランみたいだな」

 

 図らずも、心操にとって地雷を踏み抜いたのだ。

 

「……お前も」

 

「あ?」

 

「お前も、そうやって差別すんのかよ。偏見で、個性だけ見て……」

 

 札折は知らない。無個性がこの世界において差別的な視線を集める中、個性によって差別を受ける者がいることを。

 個性が世界に発現する前、ファンタジーに置いて主人公と敵対するヴィランが、作品を際立たせるために設定される凶悪な力。

 心操自身でさえそう思ってしまうほどに、洗脳は個性の中でも分かりやすくヴィランが使いそうな力だった。

 

「勘違いしてんじゃねえぞ。俺が言ってんのは個性の使い方だ」

 

「一緒だろ……! 俺の個性はヴィラン向きだって、お前が思ってるだけだろ!」

 

 小中学校で子ども間の関係に個性は大きく影響を及ぼす。

 幸いにも苛めにつながることはなかったが、無自覚に行われる差別は当事者のみにしか理解できない傷になる。

 心操が自分の個性を話したとき、決まって言われた。

 

『ヴィランが使いそうな個性』

 

 その言葉はあくまでも個性に向けられたものであり、学友である心操がそうだと誰もが決して思っていなかった。

 だが、言われた側はそうではない。個性は自分を映す鏡だと言われる。

 個性の否定は個人の否定でもあったのだ。

 

「お前みたいに、個性がヒーロー向けなら……俺だって……!」

 

「めんどくせえな。俺が言ってんのはお前の個性の使い方だ」

 

 札折は知らない。無自覚に行われる暴力を。

 結界という守りに特化した個性と認識されている札折には、ヒーローが使いそうな個性を持つ札折には、経験がないのだ。

 

「チームの仲間を信頼しねえで。ヒーローが、自分のためだけに仲間を洗脳すんのかよ」

 

「……ッ!?」

 

 だからこそ、札折は個性に偏見を持たない。

 個性は個人を映す鏡だからこそ、個性の使い方を見て人を判断する。

 

「USJを襲ったヴィランによ、触れただけで人でも物でも関係なく崩壊させる個性を持ったやつがいた」

 

 思い出すのはUSJで出会った死柄木弔。

 相澤先生を下し、生徒の命を躊躇なく奪おうとしたヴィラン。

 

「お前はその個性を聞いて、ヴィランぽいって思ったか?」

 

「……だったらなんだよ」

 

 全てを問答無用で崩壊させる強力すぎる個性。

 それを聞けば誰もが警戒し、恐怖する。

 もしも、そんな奴が触れてきたらと。

 警戒し、手の届く距離には近づきたくないと。

 

「俺はな、勿体ねえって思っちまったんだ」

 

「勿体ない……?」

 

「なんもかんも、全部崩壊させられるなら。瓦礫に埋まっちまった人とか、物理的な障害を問答無用に崩壊させて、どんな場所でもその手で助けに行けるってことじゃねえか。俺の個性にはできない、人の助け方だ」

 

 それはブラックホールを個性に持つ13号先生を見たからかも知れない。

 ブラックホールが持つ破壊性は、死柄木弔の持つ崩壊以上に危険なものだ。

 13号先生はその一歩間違えれば簡単に命を奪える力で、災害に見舞われた人の命を救っている。

 

「なんか話が臭くなったな。ワリィ、俺が人様に言えることなんざ、なんもねえのにな」

 

 じゃあなと、今度こそ去っていく札折の背中を、心操は見つめることしかできなかった。

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