結界師が行くヒーローアカデミア   作:無個性な一般人

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あっぶな、間違えて投稿する話を一つ飛ばしてしまいました。
ま、ばれへんばれへん。



第三種目、ガチンコバトル!

 最終種目が告げられ、対戦表を決める直前に尾白が手を上げた。

 

「すみません。最終種目を出場を辞退させて下さい」

 

 騎馬戦中の記憶がなく、そんな状態で最終種目に出るには彼のプライドが許さないと、ミッドナイトに直談判をしたのだ。

 

 それに続いたのがBクラス、庄田二連撃。

 彼の今回の雄英体育祭の趣旨と相反するとして、自らの出場を辞退した。

 

「俺は出る。たとえどのような状況であっても、可能性を自ら潰してしまうのは他の出場者に対する冒涜だと俺は考えたゆえ」

 

 だが、同じチームだった常闇は参加を表明。普通科の心操も声には出さなかったが辞退することはなかった。

 

「そういう青臭いの、好みよ! 許可します!」

 

 二人の申し出はミッドナイトが興奮気味に了承。

 空いた2人分の出場資格にBクラスの鉄哲徹鐵と塩崎茨が組み込まれることになった。

 

「じゃあ気を取り直して! コレが対戦表よ!」

 

 スクリーンに対戦表が映し出される。

 札折は目ざとく自分の対戦相手を確認するとニヤリと笑う。

 対戦相手は八百万だったのだ。

 

「今度こそ、リベンジさせていただきますわ」

 

「掛かってこいや! 何回でも勝ってやんよ!」

 

 そうして互いに戦意を伝えつつも、札折は心操の名前を探した。

 

「け、お誂え向きな相手じゃねえか」

 

 心操のマッチは一番最初であり、対戦相手はあの緑谷。

 札折から見てもヒーローの心を持った緑谷なら、あの捻くれ者をどうにかしてくれるのだと身勝手な確信を持っていた。

 

 

 最終種目はレクリエーションを挟んでの開催となり、その間に選手たちは思い思いの過ごし方をしていた。

 精神統一、食、運動、作戦会議。誰もが最善を尽くそうとしていた。

 

「作戦会議とはご苦労ご苦労」

 

 札折も自身がいつも行っている精神統一を済ませて、手持ち無沙汰だったため作戦会議を行っている緑谷達の元に来ていた。

 

「札折君、どうしたの?」

 

「いや、ちーっとばかしな。緑谷は尾白と二人で心操対策か?」

 

 会議室には緑谷と、何故か棄権した尾白がいた。

 二人共表情は固く、緑谷に至っては緊張のあまり顔を青くさせていた。

 

「ああ、俺が棄権した理由にも関係していることなんだ」

 

 苦々しく言った尾白はおぼろげな記憶ながらも、自分が心操になにかをされたことを覚えており、緑谷に忠告しにきていたのだとか。

 

「おーおー、お優しいことで。でも尾白達もいい経験をしたな、心操には感謝するんだな」

 

「それは、どういう意味で言ってるんだ?」

 

 ピクリと尾白の眉が動く。

 

「文字通り感謝しろってことだ。尾白、お前はあいつのお陰で最終種目に出る以上に意味のある経験ができたんだからな」

 

「ふ、札折君! 突然なにを!」

 

「だってそうだろ。1年生全員が今日の体育祭に全力で臨んだんだ、そんなかで42人が第二種目、16人が最終種目。その16人に残れたのにわざわざ出場資格を放棄したんだぜ?」

 

「それは、あのときにも言っただろ。理由とか動向じゃなくて、俺のプライドの問題だって」

 

 尾白が伏し目がちに答える。しかしその心情は白くなるまで握り込まれた拳が証明していた。

 

「そうだな。そうやって次も同じことがあったら是非とも棄権してくれ。そうすればおこぼれにあやかれるかも知れねえしよ」

 

 そこまでだった。立ち上がった尾白が札折の胸ぐらを強く掴んだ。

 

「なにが、言いたいんだ……!」

 

 温厚な尾白らしくない強い語気。しかし、札折は皮肉るように見返す。

 

「だから最初に言っただろ。いい経験ができたな、心操に感謝しろよって」

 

「ふざけるな!」

 

 誰に対しても柔らかい対応を見せる尾白とは思えない剣幕。

 それでも札折の態度は変わらない。尾白から目をそらすことはなく、その様に歯軋りの音が聞こえる。

 

「お前だったらどうしたんだ! 今日の日のために特訓を重ねた! 自分の個性が地味だってことを理解して、それでも爆豪や轟、飯田たちと戦えるように! あの日! USJにヴィランが襲ってきて、相澤先生があんな怪我をして。緑谷が酷い怪我をして……それなのに、俺はなにもできなかった!」

 

 個性が尻尾という極めてシンプルな力。コレが竜の尻尾であれば極めて強力だったのだろう。しかし、尾白の尻尾は足以上の力を発揮するが、それのみだった。

 それでも、鍛え上げられた尻尾を見れば普段から尾白が鍛錬を怠っていないのは明白。

 彼のプライドは、今日一日で培われたものではなかった。

 

「だから鍛えたんだ! 次は俺も皆と戦えるように! 爆豪と切島みたいに前に出れるように! 活躍して、プロヒーローの目に留まって! でも、アレじゃダメなんだ! 自分の力以外であの場に立っても意味がないんだ!」

 

「ふざけんじゃねえ! テメーは同じことをヴィランの前でも言うつもりか!? プライドが許さねえって言ったら奴らは手を抜いてくれんのかよ! お前が戦った連中はそんなぬるい奴だったんかよ!」

 

「それは……くっ!」

 

「あのとき、少しでもなにかが狂っちまってたら、誰かが死んでたかも知れねえんだ。気ィぬいてんじゃねえぞ、尾白」

 

「……すまない」

 

 悲痛に顔を歪め、掴んでいた手を放すと力なく椅子に座り込んでしまう。

 ギイと軋むパイプ椅子の音がやけに響いた。

 

「お、尾白くん」

 

「すまない。緑谷、少し一人にしてくれ」

 

 そう、今にも消え入りそうな尾白の言葉に、緑谷の口がなにかを言いたげに動くが、ついぞ何かを言うことはなかった。

 

「札折君、あの言い方はあんまりだよ!」

 

「うるせえ。俺のやり方にいちゃもんつけんじゃねえよ」

 

「でも……!」

 

 廊下。尾白を置いて出てきた直後に緑谷が口を開いた。

 札折の言い分も緑谷は理解していた。あのとき、あの場で、命を奪われかけたのだから。

 町中で屯する不良でもなく、いたずらに暴力を振りまく乱暴者ではなく、どこまでも深い悪意を間近で受け、戦ったからこそ緑谷は札折のやり方に苦言を呈した。

 

「お前。あのとき死柄木とかいうやつがオールマイトを攻撃したとき、一人だけで飛び出したよな」

 

「そ、そうだけど」

 

「実はさ、あのとき見ちまったんだよ。オールマイトの姿が変わっちまうところ」

 

「えっ!?」

 

 思って見もなかったカミングアウト。ソレも世界を揺るがすと言ってもいいほどの特ダネ。

 緑谷の瞳は飛び出す直前だった。

 

「勘違いすんなよ。言いふらしたりなんかしねえ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

「お前のどんな事情があるかは知らねえ。だが、お前だって背負ってんだろ。だったら、他人なんか気にしてる余裕はねえんだ。特に今はな」

 

「それって……」

 

「俺にはまだ皆を守る力が足りねえ、だからお前等にも強くなってもらうしかねえんだよ。じゃねえと、次は本当に誰かが死ぬかもしれねえ」

 

 ヴィラン連合と名乗る存在。その中核には死柄木がいるのだ。

 彼はまだ捕まっていない。

 USJ襲撃の一件で大量のヴィランが捕まった。しかし、その元凶は脳無以外捕まっていない。

 札折は暗に言っているのだ。また、奴らが襲ってくると。

 

(殺しちまうかもしれねえ)

 

 だからこそ、次はためらわないかもしれない。

 

「札折君が皆を想ってるってこと、よくわかった」

 

 呟く緑谷は思わず拳を握ってしまう。

 

「でも、僕達だってヒーローを本気で目指してるんだ。君にだけ守ってもらおうなんて誰も考えてない、僕だって君に一方的に守ってもらうつもりなんてない」

 

 体育祭開始直前、轟に宣戦布告を受けたときと同じ迷いのない意志を持って、緑谷は札折の前に立つ。

 

「君が言ったんだろ。俺達は強いって」

 

「……ああ、そうだな。わりぃ、無粋だったぜ」

 

「ううん。でも札折君が尾白君のために怒ったんだって、わかって良かったよ」

 

 皮肉もなにもない純粋な言葉に、今度は札折が驚いて照れる。

 

「ば、ばか言ってんじゃねえ! お、俺はもう行くからな! そんな啖呵切っておいて一回戦で負けんじゃねえぞ!」

 

「うん、見てて。絶対に勝つから」

 

 その場にいるのも辛くなった札折は、緑谷をビシッと指差すとそのまま廊下の奥に消えていった。

 

「緑谷……」

 

「うわっ!? お、尾白君、どうしたの!?」

 

 一人にしてくれと言われて部屋を出たのに、まさかの本人が廊下に出てくるとは思わなかった緑谷はめちゃくちゃ慌てた。

 先程までのキリッとした表情は消え、いつものキョドリ緑谷になってしまった。

 

「いや、その。ここ、部屋の前……」

 

 尾白が指さした先には出てきた扉。

 

(し、しまったーーーー! もうすこし奥で話せばよかったあああ!)

 

 まさかの大失敗。あわあわと慌てふためく緑谷を見ていた尾白が、ついに我慢できないと吹き出す。

 

「悩んでるのが俺だけなはずがないよな。俺だけ色々と考えているなんて思い込んで、馬鹿みたいだったよ」

 

「そ、そそそそそんなことないよ!?」

 

「ああ、でもありがとう。緑谷、頑張ってくれ。来年は俺が一番にならせてもらうぞ」

 

 そう言って晴れやかに笑う尾白を見て、緑谷も笑った。

 

「来年だって、僕が勝つ!」

 

 

 

「ちなみになんだけど、どこから……その、話を聞いてたの?」

 

「俺にはまだ皆を守る力がねえってあたりからだったけど、どうしたんだ?」

「い、いや!? な、なんでもないです! はい!」

 

 

 最終種目、ガチンコバトルトーナメントの第一回戦の開始も近づき、会場の熱気も徐々に温まってきた。

 Aクラスの面々が集まる場所でも、学友の戦いを見るためにクラスメイトが集まっていた。

 

「札折」

 

 トーナメントを自ら辞退した尾白がやってくると、真っ直ぐに札折のもとに向かう。

 辞退したことで若干の視線を集めていた尾白が、ピリついた空気をまとっていたこともあり、クラスメイトの視線が集まる。

 

「……んだよ」

 

「俺も、お前に守ってもらうつもりなんてないからな」

 

「ちっ、聞いてやがったのかよ」

 

 誰にも理解されないやり取りに周囲が疑問を浮かべる中、何故か二人が仲良く座って観戦を始める。

 

「ケロッ。尾白ちゃんと札折ちゃんどうしたのかしら。葉隠ちゃん分かる?」

 

「分かんないけど、青春ってやつだね!」

 

「ケロッ。ミッドナイト先生に感化されちゃったのかしら」

 

『ヘェイガイズ! エビバディ!? 体育祭大注目の1戦が始まるぜ!』

 

 プレゼント・マイクの宣言に会場の熱気が一気に高まる。

 

『色々やってきたが! 結局はこれだぜガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ! わかるよな! 心技体に知恵知識! 総動員して駆け上がれェ!』

 

 天井を知らない歓声に包まれる中、待ちに待った選手の入場。

 

『最終戦まで残った普通科唯一の出場者! ここでも普通科の意地を見せてくれんのか!? 普通科一年、心操人使!』

 

 不敵な笑みを浮かべて心操が舞台に上がる。

 

『対するはヒーロー科一年! 第一種目を2位、そして騎馬戦で1位をもぎ取った実力者! 緑谷出久!』

 

 緊張しつつも戦う顔をした緑谷が上がる。

 両者が位置に付き、プレゼント・マイクが解説を始める。

 そして、試合がようやく開始された直後。

 

『おおおおおっと! 緑谷が開始早々に動きを止めたぞ! どうなってんだコレ!?』

 

 心操の術中にハマってしまった。

 

 

 我慢できなかった。

 答えちゃいけないって、尾白君が教えてくれたのに。

 

「あの猿もプライドだのなんだの、バカな真似するよな。ああいうのを負け犬の遠吠えって言うんだよ。お前もそう思うだろ? 緑谷」

 

「なにを言っているんだ!」

 

 わかっていたことじゃないか。個性を発動させるために挑発してくることなんか。

 途端におぼろげになった視界で、心操君が嗤った。

 

「俺の勝ちだ。振り返って場外まで歩け」

 

 その言葉に、体が従ってしまう。

 

(だめだ、意識が……こんな、こんなところで……!)

 

 一歩、また一歩と場外に近づいていく。

 思考にすらモヤが掛かる。

 

(クッソォ、チックショォ……!)

 

「なに言っても聞こえてないだろうけど、憧れちまったんだ」

 

 聞こえる。心操君の声が。

 

「初めてだった。俺の個性がヒーローに向いてるって」

 

 でも、心操君の声すら霞んで聞こえてしまう。

 

(せっかく、尾白君が忠告してくれたのに……。札折君に勝つって、約束したのに……!)

 

 負けたくない。勝ちたい。動け、動け、動け……!

 

(あれは、なんだ……)

 

 見える。場外の先、入口にナニかがいる。

 

(かげ、人の?)

 

 そのときだった。全身にとめどない力があふれる。

 胸の内から膨れ上がるような力の本流。

 

(これは、なんだ……!?)

 

 爆発しそうなエネルギーが、指先に集まる。

 あと一歩。場外に足が出そうになる。

 でもその前に指が、爆発した。

 

『な、なんだ緑谷! 場外あと一歩のところで踏みとどまっているゥ!?』

 

 一歩。あと一歩のところで意識が覚醒した。同時に、指を覚えのある激痛が襲う。

 

「指!? これは……」

 

 個性把握テストのボール投げ、USJの水難ゾーン。あのときに使った指だけのワン・フォー・オール。

 

「いったいなにをした!」

 

 答えそうになる口を慌てて手で覆う。

 

(あれは、ワン・フォー・オールの継承者の意志? 僕を助けてくれた?)

 

 だめだ、今はそんなことを考えている余裕はない。

 嫌な痛みを堪えて敵から目を放すな。

 

「なんか言ったらどうなんだよ! 指先一つであれだけの力、羨ましいよ!」

 

 わかる。理解できてしまう。

 

「お前は恵まれてるんだ。個性に! お前には俺の気持ちなんてわからないだろ! お誂え向きな個性に恵まれたお前には!」

 

 そうだ。僕は恵まれた。人に、個性に、なにもかも恵まれていた。

 だからこそ負けられない。

 走り出す。恵まれたからこそ、僕は勝たなくちゃいけないんだ。

 

「放せよっ!」

 

 顔を殴られた。でも止まるわけにはいかない!

 

「こんな個性を持っちまったせいで、俺はスタートから遅れたんだ!」

 

 ワン・フォー・オールを使った指が殴られ、我慢できない激痛が走る。

 

「があああっ!?」

 

 だから何だ。ただ痛いだけじゃないか。

 心操君は僕以上に痛いんだ。今日までずっと、耐え続けてたんだ!

 指が痛いから何だ、まだ動くじゃないか!

 

「っぐぅ!!!」

 

 心操君の腕を掴む。紫に変色した指に激痛が走るけど、そんなの耐えればいい!

 

「うぁらあああああああ!」

 

 相手の力を使った背負投げ。

 それは最初から狙っていた勝ち筋。

 かっちゃんにされた技だ。

 

「がっはっ!?」

 

『心操場外ィイイイ! ガチンコ勝負第1試合を制し! 一番に二回戦進出を決めたのはヒーロー科一年! 緑谷出久ゥウウ!』

 

 割れんばかりの歓声が鼓膜を揺らす。

 勝てたのは偶然だ。ワン・フォー・オールが助けてくれなければ、あのときに僕は負けていた。

 僕は、恵まれてた。

 僕達の思いを残して、進行が進む。

 先生の指示に従って礼をした僕は、去っていこうとする心操君に思わず声を掛けていた。

 

「その、心操君はどうしてヒーロー科に……」

 

 答えてくれないかも知れない。でも、心操君は僕の方を振り返ってくれた。

 

「こんな個性でも、憧れちまったんだよ」

 

 そう言って去っていく心操君に、恵まれていた僕はなにかを言うことができなかった。

 でも、心操君は途中で足を止めて、

 

「それにな、初めて言ってもらえたんだ。俺の個性がヒーロー向きだって」

 

 気恥ずかしそうに頭を掻いて、嬉しそうに心操君は笑って言った。

 僕には言えなかった言葉だ。個性に対して人一倍憧れを持っているはずなのに、彼の個性を知って最初にしたのが警戒だった僕には。

 

「ぼ、僕もそう思う!」

 

 だからせめて、心操君に自分の個性を嫌いになってほしくなかった。

 無個性だった僕には分からない苦しみかもしれないけど、持たない人の気持は痛いほどよく分かるから。

 心操君は一瞬ポカンとして、また笑った。

 

「ありがとな」

 

 そう言って去っていく背中から僕は目を離すことができなかった。

 

 

 

 負けちまった。

 でも、俺としてはよくやったほうだよな。

 普通科で、ヒーロー科ばっかりの中で最後まで残ったんだ。俺は頑張った。

 負けただけじゃない。俺の個性をヒーローに向いているって言ってくれたんだ。

 二人もだ。

 

 それもヒーロー科のやつに。

 犯罪者じゃない、ヒーローに向いてるんだ。

 それならちょっとは、俺の個性に胸を張れる気がする。

 今日はいいことばっかりだ。悔しくなんかない。

 

 満足だ。

 

 ひと時だけでもアイツ等と同じ場所に立てた、だから後はこのまま会場を後にすればまた元通り。

 ちょっと違うのは、少しだけ自分の個性を気に入ることができそうってことだ。

 

『だったらうだうだしてねェで歯食いしばって、動けなくなるまで動いて、血反吐はいてヒーロー目指せや根暗野郎!』

 

 頑張ったさ。

 動けなくなるまでじゃなくても、血反吐を吐いてなくても、俺なりに俺のやり方で歯を食いしばって頑張った。

 

「……そう! ……しん…………!」

 

 出口に近づくにつれて声が聞こえた。

 なんだよ、せっかく人が気分よく去ろうって思ってんのに。

 アイツ等みたいな奴は少数。ほとんどがあの視線で見てくって知ってんだ。

 いつもは適当に愛想笑いで返してたけど、今日ぐらいは胸を張って言い返してやろう。

 そう思って顔を上げた。

 

「心操! お前すっげえよ!」

 

「心操! お前は普通科の星だぜ!」

 

「きゃー! 心操君ー!」

 

 違う。初めて感じる視線だ。

 知らない。これはいったい……。

 

「洗脳か……かなり強力な個性だな」

 

「あぁ、ヴィランを戦闘することなく無力化することができるし、有事の際に取り乱したり暴れたりする民間人を迅速に移動させることもできる」

 

「雄英高校も見る目がないな、俺のとこなら一発でヒーロー科に欲しい個性だ」

 

 ヒーローの服を着た人が、俺の個性を褒めてくれている。

 なんだ、なんなんだよ……これ。

 

「聞いたか心操!? 他のヒーローがお前の個性めっちゃ褒めてるぞ!」

 

「ヒーロー目指しなよ心操君! 絶対に成れるよ!」

 

 やめろよ。止めてくれよ……。

 俺は卑怯なやり方で戦って、負けたんだぞ。

 

『羨ましいならヒーロー科にこいや!』

 

 せっかく諦めようって思えたのに……。

 満足だって思えたのに。

 これじゃ。諦め、きれないじゃねえか……!

 

「結果によっちゃ編入を検討してくれるかもしれない」

 

「え……」

 

「覚えてろよ。今回はダメでも諦めねえ。体動かなくなるまで頑張って、血反吐を吐いても頑張る。ヒーロー科入って、資格取得して、お前等よりも立派なヒーローに、絶対になってやる!」

 

「……うんっ。あっ」

 

 ふっ。甘いな。

 一瞬だけ、俺に答えた緑谷を洗脳する。

 

「普通、ここは警戒するんだけどな。俺の分まで勝てよ、緑谷」

 

「うん! あっ……」

 

 もう一度洗脳した。

 ヒーローってのは皆お人好しなのか?

 

「不思議、だな」

 

 前って、こんなにも明るいのか。

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