結界師が行くヒーローアカデミア   作:無個性な一般人

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入学と個性把握テスト!

 俺が前世を思い出したのは5歳の頃。

 

 それは眼前に迫りくるドッチボールに恐怖して我武者羅に手を突き出したときにそれは起こった。

 

「……え?」

 

 友人の投げたボールは本来なら俺の顔面にぶち当たるはずだった、しかしボールは俺にぶつかることも地面に落ちることもなく、空中で静止していた。

 

「界支(かいし)すげえ! ボールを止めてるよ!」

 

「個性だ! 界支の個性だよ!」

 

 その場にいた全員から凄い凄いと誉めそやされるなか、俺は発現した個性の性質を理解していた。

 空間支配。それが俺の手にした個性。

 

「これならできる……」

 

 同時に前世のことを思い出す。といってもどこで生まれて、何処に生きて、何処で死んだのかは思い出せなかった。

 唯一、結界師というアニメのことだけを思い出した。俺の好きだった作品。

 

 この日が俺の人生における大きな転換期だった。

 

 

 前世を思い出して、個性を手にした日から俺の日常は修行の日々だった。

 あいにく生まれた家はごくごく普通の家庭であり、ご先祖を辿っても平々凡々。だけど凄くいい両親に恵まれたと思う。

 

 前世には無かった個性という力の概念。そしてノンフィクションで存在するヒーロー。

 俺の個性はそんな世界から見れば少し強い力程度であり、ナチュラルボーンヒーローのオールマイトと比べればその他大勢の一人だ。

 

 でも、そんなことは関係ない。

 前世の偏見を持っているためか、ヒーローに対しての憧れなんてなかったし、個性1つで他人を評価するなんて物差しが作られることもなかった。

 

 いや、思い浮かべたシステムとか、新しい技術や概念を見つけられる個性なんかがあれば別かな。

 

「おーい界支! 雄英からの封筒来てるぞー!」

 

 嬉しそうな声で父親が封筒を片手に部屋に入ってくる。

 入試倍率300を超えるやべー高校を受験してから時を置いて、ようやく通知が届いたのだ。

 

「さーんくす」

 

 寝っ転がっていたこともありぐでーっと封筒を受け取ると、なにやらもの言いたげな父の顔。

 

「お前の心臓は毛だらけだな。もう少しこう感情の起伏と言うのをだな」

 

「いやいや、滑り止めは受かってるし。雄英に入れなくてもヒーローには成れるからな、気にしたって疲れるだけだろ」

 

 おおよそ俺、札折 界支(ふだおり かいし)は子供のころから同年代と比べて可愛げのないガキンチョだったことだろう。

 父のこうした小言も数えきれないほど聞いてきた。

 

 不気味、とは思わないのだろうかとも邪推した。なんだったらそれを聞いたときがある。

 

「テメェのガキが可愛くない親なんかいるかよ」

 

 酒で顔を赤くした父にそう言われてなければ、もう少し可愛げのある振りをしていたのかもしれない。

 だが、そう言われてしまってから俺は僅かばかり残っていた遠慮を忘れることになったわけだ。

 結果を見ればそれが良いことだったのだと、今もこうして気兼ねのないやり取りができる関係を見ればそう思える。

 

「ほれほれ、早く結果を見よう! 俺はこの日を待ってたんだ!」

 

 なんで当事者じゃない父のテンションが高いのかは分からないが、結果が気にならないわけでもない。

 

 数分後、俺の雄英入学が決まり父の喜びの声が響いた。

 

 

 話が逸れてしまったが、俺がヒーローに憧れないひねくれたガキであるのに、こうしてヒーローを育成する学校である雄英を受験したのには理由がある。

 

 それは個性を気兼ねなく使うためだ。

 確かに人を助ける仕事は崇高だと思うし、それで大金が稼げるなら諸手を上げることができる。

 しかし、それはあくまでも副産物。俺は結界師になりたいのだ、そして結界師としての能力を活用して人を助けて金を儲けたい。

 

 こんな可愛くないクソガキを愛してくれた両親に少しでも恩返しだってしたいしな。

 

 大概不純な動機に塗れているわけだが、受かってしまったのだからその道に進むしかない。

 嬉しさのあまり父と母が記念撮影をした雄英の制服に身を包み、雄英の校舎の前に立つ。

 

「にしても、でっけぇ……」

 

 日本最候補の学び舎にいつなれるのかと考えを巡らせながら、クラス割表に従ってA組に向かう。

 

「机に脚を掛けるな!」

 

「あァん? テメどこ中だよォ!」

 

「……」

 

 クラス札を確認する。

 A組だよな? どこぞの不良ドラマなクラスに配属されたのかと思ってしまった。

 ないない、だってここには将来ヒーローになる言わばヒーローの卵がいるクラスだよ?

 

「聡明ィ? クッソエリートじゃねえか! ぶっ殺し甲斐がありそうだな!」

 

「なっ! ぶっ殺し甲斐、君ひどいな!?」

 

 ひっでぇ。会話から明らかに初対面だと分かるのに、初手でそんなセリフを吐けるなんて。

 おそらく中学は学校の番長的な感じで、個性も野蛮な性格に見合うものなんだろう。

 

「ん、君は」

 

 野蛮な生徒を注意していた真面目そうな生徒がこちらを、正確には俺の前にいる緑髪の男子とボブヘアの女子を見て気づいたように近づいてくる。

 

「俺は私立聡明――」

 

 話を聞く限りこの三人は入試の実技が同じだったようで、入学早々に打ち解けていた。

 いいなー、俺なんかぽつんと1人で黙々と仮想ヴィランの討伐をこなしていただけだし、0ptヴィランも倒すのが面倒と判断して動きを止める程度にしてたから、彼らのように協力して――なんてなかった。

 

 ……決して、小中学校で個性の修練に明け暮れていたせいで友達が殆どできなかった自身と比較して、謎の劣等感と嫉妬心が芽生えていたわけではない。

 

 そんな仲睦まじいやり取りから逃げるようにそそくさと自分の席に向かう。

 見れば彼ら以外のほとんどの生徒は席についているようで、俺が無言で席に着くのもそこまで不自然と言うわけではなさそうだった。

 

「お友達ごっこがしたいならよそに行け」

 

 このままチャイムが鳴るまで微妙な緊張感を堪能するのだろうかと思っていると、低く重みのある声が緑頭の男子生徒たちのやり取りを遮る。

 

 教室中の視線が集まる、そこには寝間着にくるまったミノムシ。ではなく無精ひげの生えたボサボサ髪の大人の男性がいた。

 

「ここはヒーロー科だぞ」

 

 だらけた声色で呟くと、十秒チャージのゼリーをジュッと吸い込む。

 

 ここって本当にヒーロー科? 速攻で不審者紛れ込んでんじゃん。

 俺は机の下で刀印を作り推定不審人物がナニカを仕出かす場合に備える、あのジッパーの中が裸の可能性もある。

 

 しかし、推定不審人物はチラリと俺を見るとニヤリと笑みを浮かべやがった。

 ……え、まさかバレた? ウソだろ本当に何者だよ。

 

「はい、静かになるまで10秒掛かりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」

 

 そう言ってジッパーが開いて出てきたのは真っ黒の服。

 見ればそこらかしこにポケットが付いていて、首に巻かれた季節外れのマフラーが印象的な風体だ。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 さも当然とばかりに名乗った推定不審人物、もとい相澤先生に流されるまま、俺達は学校指定のジャージに着替えてグランドに連れ出されることになった。

 

 

 

 

「個性把握……テストォ!?」

 

 グラウンドに出た俺達を迎えた相澤先生の第一声に、同級生の困惑の声が上がる。

 

「入学式は、ガイダンスは?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出てる時間ないよ。雄英は自由が売り文句、そしてそれは先生側もまた然り」

 

 相澤先生はポケットから携帯機器を取り出して画面を見せてくる。

 画面には体力測定の各項目が表示されていた。

 

 ぐちぐちと体力測定の基準やらにグチグチと文句を垂れた先生は、おもむろに野蛮人生徒を見る。

 

「実技入試成績のトップは爆豪だったか」

 

 マジかよ、あの態度で入試トップとか世も末だわ。

 あの入試は明らかに攻撃的な個性にアドバンテージがある内容だった、つまり爆豪の個性は思いっきり戦闘向け。しかも、短い時間の間ではあるが多量の仮想ヴィランを相手に戦闘が可能、と。

 

「個性を使ってボールを投げてみろ」

 

 相澤先生の指示に従って爆豪が手を爆発させながらボールをはるか彼方に吹き飛ばす。

 死ねとかなんとか言っていた気がするけど、気にしたらいけない。

 

「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 結果は700メートル超えと純粋な筋力では弾き出せない数値に、個性がもたらす恩恵の大きさが証明されていた。

 

 とは言っても、結局はこの個性把握テストも個性が威力を伴うものに有利なことに変わりはない。

 あそこにいる服が独りでに動いている子なんかは、おそらく透明になれる個性なのだろうけど、もしもそれだけなら一般人がここに紛れているのと変わらない。

 

 個性の有能性を正確に測れているかと言われれば……。なんてつまらない考えを持っていたのは俺だけのようで、他の生徒たちの表情は一様に歓喜に染まっていた。

 

「個性を思いっきり使えるのか!」

 

「なにこれ! すっげえ面白そう!」

 

「流石ヒーロー科!」

 

 日常生活において個性の使用は禁止されている。それは好奇心旺盛な若者にとって相当なストレスだ。

 前世を持っている俺は我慢できずに隠れて訓練してるぐらいだ、この中にも俺と同じような奴は多いのだろう。

 

 前回の実技試験のこともあり、そんな大っぴらに個性を使える機会を前にテンションの上がらない生徒はいなかった。

 

「おもしろそう……か」

 

 しかし、それに別の反応を見せたのが相澤先生だった。

 

「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのか? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しとして」

 

 不敵な笑みを浮かべて、

 

「除籍処分としよう」

 

 俺達を現実に叩き落とすセリフを続けた。

 

「「「は、はあああああああああ!?」」」

 

「いつどこから来るか分からない厄災、そういった理不尽を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎。雄英はこれから三年間、全力で君たちに苦難を与え続ける」

 

 これがプロヒーローの矜持なのだろう、相澤先生の言葉に俺を含むみんなの緊張が一気に張り詰める。

 

「plus ultra、全力で乗り越えてこい」

 

 そうして栄えある雄英高校の入学初日の授業が始まった。

 

 ……とはいっても、俺の個性はその特性上直接的な記録を作ることが難しい。と

 

 ――第1種目、50メートル走

 

 普通に走る。脚から結界を如意棒みたいに伸ばせばとも思ったけど、土壇場でできることじゃない。

 

 ――第2種目、握力

 

「そんなんありかよ!? 手、使かってねえじゃん!」

 

 グリップ内で結界を生成、伸ばして100キロ以上を記録できた。

 個性が電気とこれまた強個性な上鳴に文句を言われたけど、相澤先生基準では問題ないと言われた。

 

 ――第3種目、立ち幅跳び

 

 地面に足が付かなければいいということで、結界を足場にして移動。

 これもOKらしい。

 

 ――第4種目、反復横跳び

 

 結界の硬度を変えれば疑似的にバネを作れないかやってみたけど、未だその領域に辿り着いてないので肩が超痛かった。あと記録もあんまり伸びなかった。

 

 ――第5種目、ボール投げ

 

 「62メートル」

 

 普通。というかこの世界の身体能力ってつくづく前世と大きく違うよな。

 前世だとたしか20前後だった気がするのに、軽く3倍だぞ。

 

 個性に見合うために体も超人染みた調整が入っているとしか思えない。

 そんな多分この世界で俺だけが気にしなくていいことに気にしていると、緑頭もとい緑谷の番になった。

 

「電子レンジ……電子レンジ……」

 

 危ない人みたいにぶつぶつと焦っている姿を見れば、あいつの成績はそこまでふるっていないのだろう。

 入学初日で同級生を一人失うのは悲しいな。

 

「あれ、なんで……っ!?」

 

 緑谷は意を決したようにボールを投げるが、想像と違う結果になったのか慄いていた。

 どうやら緑谷の個性は超パワーと引き換えに、その威力に体が耐えられず個性を使うたびに体を傷つけてしまうのだとか。

 

 なんとしてでも記録を残して除籍を免れたい緑谷と、それを見越した相澤先生。緑谷曰くイレイザーヘッドの個性でもある抹消で事前に打ち消したと。

 

「あんまり俺に個性を使わせるな、俺はドライアイなんだ」

 

 個性社会において他者の個性に直接干渉できる強個性なのだが、身体的特性がまさかの勿体なさを演出していた。

 

「まだ……やれます!」

 

「こいつ……っ」

 

 ま、その後なんやかんやあってスポコンよろしくな展開となり、晴れて緑谷も700メートル越えとかいうふざけた記録を打ち立てたのである。

 

 指先1つでどんだけパワー出せてんだよ。そんな力を十全に使いこなしたらそれこそトップヒーローであるオールマイトじゃねえか。

 

「お前、ミニオールマイトだったのか」

 

「うぇっ!? ど、どどどどどどどうしてそんな!?」

 

 思わずそう言ったら本人にめちゃくちゃキョドられた。

 そんな変なこと言ったか? むしろこの世界なら最高の誉め言葉だろ。

 

「だってよ、その個性を使いこなせればまんまオールマイトじゃねえか。単純な増強系じゃない身からすれば羨ましい限りだよ」

 

「あ、あははは……。そう、だよね。うん、僕には不釣り合いな、本当に凄い個性なんだけどね……」

 

 俺の言葉に意味深な反応を見せる緑谷だけど、ごめんな。俺はオールマイトと同じ個性と空間支配の個性のどっちかを選べと言われたら、迷いなく後者を取るんだけどな。

 

「自己紹介がまだだったな、俺は札折 界支って言うんだ。よろしくな、緑谷であってるよな?」

 

「え、あ、うん。緑谷出久です、よろしく」

 

 そんな感じで他の生徒とも自己紹介をしつつ迎えた持久走。

 

「ほっほっほっほ」

 

「はっはっはっは」

 

 男女混合で走ることになったのだが、俺は走りながらも視線は今までにないくらい集中してあたりを伺っていた。

 

 勿論視線は女生徒の胸に集中していたさ。中学まではそうでもなかったけど、雄英だからなのか成長期だからなのか皆さん大変発育の良いことで。

 本来なら辛いだけの持久走もこうなれば話は別だ。

 

 大中小、それぞれの良さがよく演出される種目に感涙していると、隣から猛烈な視線が送られてくる。

 

 見ればそこには見下ろすほどの身長を持った紫色のブドウの実を彷彿とさせる頭が特徴的な男子生徒。さほど身長の高くない俺よりも小さいソイツはジッとこちらに視線を向けてきていた。

 交わる視線、交わされるシンパシー。

 

「札折界支」

「峰田実」

 

 俺達は熱い握手を交わした。

 

「オイラのおすすめは葉隠だな、顔が見えないって言うことはそれだけで想像力が掻き立てられるってもんだぜ」

 

 と峰田は服だけが独りでに走っているように見える生徒を指す。

 確かに、顔は見えないのに服のラインで葉隠の体が実り豊かなのは見て取れた。しかし、俺はそれに同意を示しつつ別の見解を提示する。

 

「同志よ、俺はあの耳がイヤホンの子を推すぜ」

 

 俺が指したのは成長豊かなA組の中で唯一の貧、慎ましやかな果実を持った女性とだ。

 

「耳郎かお前、そっち専だったのか」

 

 耳郎って名前なんだ。フルネームは耳郎響香っていうんだ、教えてくれてありがとう。

 

「彼女はこの修羅の世界における唯一のオアシスなんだ」

 

「そいつは……どういう意味だ同士」

 

「峰田、お前は極上に甘い多種多様なケーキを前に目を輝かせているのだろう。しかしだ、常に甘いケーキを食べ続けたお前の体が欲するのはなんだ、次の甘味を十全に味わうためにお前は何をする」

 

「そりゃお茶とか水で口の中を綺麗に……はっ!」

 

「そう! 常に同傾向にある物を味わった人間の感覚とは鈍感になるもの! ケーキで言えば渋い茶葉! 甘味は茶葉の良さを引き出し、茶葉は甘味の良さを引き出すということだ!」

 

「オイラ間違ってたぜ、デカけりゃいいと思ってた。柔らかくて、それだけが魅力だと思ってた!」

 

「お前の考えは間違っちゃあいないさ、だけどな相棒。それじゃダメなんだ。男に生まれたなら大きさだけじゃねえ、そいつが持つ唯一無二の魅力って奴を見なくちゃいけねえんだ!」

 

「ぉお! 相棒! お前のおかげでオイラは目が覚めたぜ! これからはオイラもチッパイを愛そう!」

 

「そうだ! その意気だ相棒! 俺達ならできる! 世界に眠る多種多様な果実をその手に収めることが!」

 

 俺とお前の友情は永遠だ! 相棒、いや兄弟!

 

「お前等、除籍になりたいのか?」

 

「じゃあな相棒! 俺は先に行くぜ!」

 

「あ、待てこらテメエ!」

 

 楽しかったぜ! お前との友情ごっこはよォ!

 

「オイラの個性は反復横跳びだけじゃねえぜ!」

 

「なにィ!? 頭皮ボールで跳ねるだと!? テメェ1人で先に行くとかそれでも相棒か! この裏切り者ォ!」

 

「あっはっはっは! 楽しかったぜ! お前との友情ごっこはよォ!」

 

「クソヤロオオオオオオオ!」

 

 結果は緑谷が最下位で除籍になるのかと思ったが、除籍は嘘だったらしく緑谷の除籍はなかったことになった。




相澤先生って個性が抹消だから、個性を使うってことに関して滅茶苦茶敏感な気がする。
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