結界師が行くヒーローアカデミア   作:無個性な一般人

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激闘!? 模擬戦闘!!

 入学初日の個性把握テストから翌日、ようやく雄英のカリキュラムがスタートすることになった。

 偏差値の高さからも雄英が生徒に求める基準はかなり高い。それは勉学を含めたヒーローとして求められる要素が単純な強さだけではないということでもある。

 

 だが、そんな中で異彩を放っているのがヒーロー基礎学。

 

「わーたーしーがー! 普通にドアから来たァ!」

 

 教室に登場したのは日本で絶大な人気を誇るトップヒーローのオールマイト、明らかに画風の違う憧れの存在に同級生たちの声も大きくなる。

 

「オールマイトだ! すげぇ、本当に先生やってるんだな!!」

 

「銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ!」

 

「画風違いすぎて鳥肌が……」

 

 オールマイトは生徒の反応にテレビで見るいつもの笑顔で話を続ける。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくるため様々な訓練を行う科目だ! 単位数も最も多いから気を付けてね。早速だが今日はコレ、戦闘訓練!」

 

 そう言って手に持ったbattleと書かれたカードを掲げる。

 普通に模擬戦闘とか口頭でもいいのでは、とも思う。

 

「そして! 入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえたヒーローコスチュームだ!」

 

 ババーンと壁が稼働して豪勢な見た目のケースが現れる。

 

「「おおおおおお!」」

 

 午前の授業がヒーローとなんら関わりのない普通の科目だったもあり、自分のスーツを見せられた皆が歓声を上げる。

 

「着替えたらグラウンド・βに集合だ!」

 

 HAーHAHAHAHAとアメコミ風の笑って出て行ったオールマイトに続くように、俺達は各々のコスチュームに着替えてグラウンドに向かった。

 

「ここがグラウンドとか信じらんねえぜ」

 

「流石雄英だぜ! オイラの個性が生かせそうだ!」

 

 向かった場所はグラウンドと言うには建物が乱立する舞台セットのような場所だ。

 

「にしても界支、お前のコスチュームってなんていうかアレだよな」

 

 個性把握テストで友好を深めた峰田が俺のヒーローコスチュームを見てもの言いたげにする。

 

「白の羽織とかあったら陰陽師っぽいよね」

 

 ブドウ頭の言葉を引き継ぐように横からパンクな衣装を着た耳郎が会話に入ってきた。

 

「そう! それだ! 古風っつうか、なんかいいなソレ!」

 

 俺の衣装は黒に近い紺色の袴をイメージして作ってもらった、見た目はまんま結界師の主人公と同じだ。

 個性からして衣装として求められるのは俺というキャラを印象付けるものになっている。それ以外に、自分の中にある結界師のイメージが具体的になる方が個性が使いやすいってのも理由の一つだ。

 

「ありがとよ、峰田のもマスコット感あるし人気が出そうだな。耳郎もかっこいいじゃねえか!」

 

 峰田はイメージカラーをパープルに統一して、あの性格さえ知られなければ人受けはよさそうだ。

 耳郎のは手と足に特殊なデバイスを付けている以外は、どこぞのシンガーを彷彿とさせた。

 

「おうよ! オイラに皆がメロメロになる未来が見えるぜ!」

 

「パンクでかっこいいっしょ。うちのは手足のデバイスで音を増強させられるようにしてあるんだ」

 

 なるほど、確か耳郎の個性はイヤホンジャック。個性の特性としては索敵といったサポートよりになるけど、手足のデバイスを通せば攻撃も可能ということか。

 攻撃能力が低い個性の弱点を補う。まさしくコスチュームのあるべき姿だな。

 

「すげえじゃねえか、自分の個性の弱点を克服しながら選択肢も増やすなんてよ。耳郎って頭いいんだな!」

 

「べ、別に……その、普通だし」

 

「……」

 

「いでっ!? 峰田! 俺の脛に恨みでもあんのか、なにしやがる!」

 

「オイラを出し抜こうとしたバツさ」

 

 こいつ、唐突に脛を蹴って来たくせに太々しい態度を取りやがって……。

 

「もしも授業内容が対戦形式だったら覚えていやがれ」

 

「あァん!? そりゃオイラのセリフだね! オイラのモギモギで汚ねえオブジェにしてやんよ!」

 

「アンタら仲いいね」

 

 オールマイトから告げられた戦闘訓練の内容は、二人一組でヴィランサイドとヒーローサイドに分かれて、設定された状況で勝利目標を目指すというものだった。

 

「設定はこうだ! ヴィランはとあるビルに核兵器を持って立てこもる! そこにヒーローが突入、ヴィランの捕縛と核の奪取!」

 

「核ってどんな世界線だよ」

 

「うちの音波だと核に影響あるのかな」

 

「オイラのモギモギにピッタリのシチュエーションだな、腕が鳴るぜ!」

 

 戦闘訓練の内容からして核に衝撃を与えないように戦闘する必要がある、耳郎の範囲攻撃や爆豪の爆破はかなり場所を制限されそうだな。

 逆に、俺の結界や峰田の直接的な衝撃を与えない個性は有利ということか。

 

「さあ! くじ引きの時間だ! ヒーローは臨時のチームを組むことも多いからね、咄嗟のチームアップも想定して個性を生かせるように! お互いの個性をよく相談して作戦を練るんだ!」

 

「「「はい!」」」

 

 くじ引きとか、最新鋭という言葉が並ぶ雄英で随分とアナログな言葉だよな。

 とは考えてみたけど、オールマイトが言っていることには賛同だ。特に俺の個性は個人で活躍できるけど、その真価は多様な場面に対応できるチーム戦にあると考えている。

 

 個性の訓練は一人で幾らでもできるけど、チームプレイの経験はどうしても機会が必要だった。

 

「チーム発表!」

 

 モニターに映し出されたチーム表にみんなの視線が集まる。

 

 チームH―― 峰田・札折

 

「札折と一緒か……チッ。ハズレだぜ」

 

 こいつ、相手が俺だからって表現がストレート過ぎるだろ。だが、互いに攻撃よりも拘束力に秀でた個性だ、ここだけ見ればチームとしての汎用性は低い。

 と、思うんだろうがソイツは違う!

 

「がっはっはっは! バカを言うんじゃあねえ相棒! お前と俺の個性の相性は完璧だ、ちょいと耳を貸しな」

 

 俺は誰にも聞かれないよう細心の注意を払い、極めて爽やかな笑みを浮かべながら峰田に耳打ちをする。

 

「ッ!? 札折……お前!」

 

「相棒、俺達ならやれる。やってやろうじゃあねえか!」

 

「ああ!」

 

 力強く握手を交わした。

 

 

 チームが決まると同時に対戦表も発表された俺達Hチームは初戦ではなかったため、緑谷・麗日チームと爆豪・飯田チームの試合を観戦することになった。

 

「なんつうか、因縁の対決感あるよな。緑谷と爆豪は」

 

 個性把握テストの一幕を思い出しているのだろう峰田が呟く。

 それに頷いたのは耳郎。

 

「確かに。ここからじゃ二人の会話を拾うことはできないけど、映像だけでも伝わってくるよね」

 

「青春ってやつだな」

 

「オイオイ札折、あれを見てそう言えるお前の精神どうなってるんだよ」

 

「テストのときは爆豪が緑谷に突っかかってたよね。正直さ、二人のあの時の光景ってその……」

 

 伏し目がちな耳郎がちらりと「分かるよね?」的な視線を向けてくる。

 

「まさしくいじめっ子と苛められっ子の関係だな」

 

「でもよ、それにしちゃ緑谷の反応おかしい気がするんだよなぁ。苛められてたならもっと怯えたりするはずだろ。でも緑谷っておどおどはしてるけどちゃんと受け答えしてるぜ?」

 

 映像では爆豪と緑谷が一対一で向かい合っているところだった。

 個性を活用した爆豪の攻撃を緑谷が凌ぐ。格闘技経験皆無な俺には五十歩百歩に感じる攻防に驚いた声が上がる。

 

「まるで読んでいたみたいだぜ」

 

 切島の言葉に皆が一様の納得を見せる。

 お前ら天才肌すぎるだろ。

 しかし爆豪の爆破、緑谷の超パワー、飯田の脚、それぞれに対して自分の結界をどう当てていくかを考える必要はあるな。

 真正面から当たるならどれを相手取っても防戦一方。もしも結界がアイツ等の攻撃に耐えられないようなら厳しい、俺が取れる手は一気に少なくなる。

 特に厄介なのは個性で3次元移動が可能な爆豪、次点で速度に秀でた飯田、緑谷はあの超パワーは警戒するべきかもしれないが逆に言えばそれ以外は普通。

 一人で練習していたときには気づかなかった個性の弱点が浮き彫りになった気分だ。

 

「だめだ全くわからん」

 

「アハハ、ウチもよくわかんなかった」

 

「へっ、オイラには分かったぜ」

 

 そんな感じで映像が続いてくと緑谷が腕を破壊しながら大技を繰り出して、チームメイトの麗日が動揺していた飯田の隙をついてハリボテ核を確保して試合が終わった。

 

 負傷した緑谷以外の全員が集まって行われた総評で、八百万が歯に衣着せぬ物言いでバッサリとぶった斬って次の試合に進んでいく。

 

 上鳴の電気、轟の氷、芦戸の酸、砂藤のパワー、同級生の試合を見れば見るほど一つの解釈がそそり立つ。

 それは俺の個性に置いて相手の攻撃を結界でどこまで防げるか。

 現状、火力の一点で俺は大きく劣っているのだ。

 防げなかった場合の手段を考える必要があるな。

 

「おい札折!」

 

 突然聞こえた大きな声に思考にハマっていた顔を上げる。

 写ったのは眉をひそめた峰田。

 

「お?」

 

「お? じゃねえよ、オイラ達の番が来たって言ってんだろ」

 

「すまん。ちょっと自分の個性について考え込んでた」

 

 いつの間にか最終試合になっていたみたいで、俺は峰田と指定されたビルに向かった。

 

「オイラ達がヴィラン、そんで八百万と耳郎のチームがヒーロー側だからな。忘れんなよ?」

 

「ふむ……峰田」

 

 頼もしき相棒を見ればヤツも同じことを思っていたのだろう、不敵な笑みではなくいやらしい変態の笑みを浮かべていた。

 

「ああ、オイラ達は賭けに勝ったんだ!」

 

「しかも俺達はヴィラン側」

 

「ヴィランならしっかりとヴィラン役をやんねえとだよなぁ?」

 

 まさしく悪役の顔で俺達はオールマイトの開始の合図を待った。

 

 

 

 

「おかしい……足音が全くしない」

 

 開始の合図を聞いた耳郎達ヒーローチームが取った行動は、耳郎の個性”イヤホンジャック”を使った索敵だった。

 しかし、開始早々に個性を使った耳郎は訝しんでいた。

 

「どういうことですの?」

 

「チッ、やられた。札折の個性だ」

 

 体力テスト、そして観戦室で話していた耳郎は札折の個性の特性からあたりをつける。

 

「札折さんの個性は確か”結界”でしたね」

 

「テストのときに結界の上に立っていたから多分それ。峰田も同じだと思う」

 

 本来であれば耳郎の個性の強みでもある索敵によって、ヴィランチームの位置とそこからおおよその核の位置を割り出すつもりだった。

 制限時間が決められているため最初に目標の位置を把握、そこから作戦を練る腹積もりだったために、出鼻をくじかれた状況になってしまったのだ。

 

「仕方がない。結界の個性がどれだけ保つかわからないから、定期的に索敵しながら1階から探していくしかないね」

 

「はい。分かりましたわ」

 

 作戦とも言えぬ行き当たりばったりだが、目標物が取り扱いに細心の注意を払う必要がある。

 八百万の創造はほとんどの場面に対応できるほどに万能ではるが、戦闘に対しての経験値が圧倒的に不足している状態では後手に回ってしまう。

 

「無手では危険です。とりあえず武器を持ちましょう」

 

「オッケー。て結構いかついね」

 

 八百万は個性によって創造した警棒とライオットシールドを耳郎に渡し、自分のも用意する。

 

「峰田さんの個性は投擲が必要。であれば盾で峰田さんの個性を対処、札折さんの結界は不確定要素がありますからそちらに注意しましょう。最も注視するべきは結界の防御力と展開性能。後手に回らざるを得ませんが闇雲な突破は困難ですわ」

 

「さすが八百万。多分今のところ取れる最善手なんじゃない?」

 

「そ、そそ、そんなことございませんわっ」

 

 分からないなら分からないなりに備えることはできる。

 相手の個性に最低限備えることができた二人は慎重にビルの中に入っていく。

 

「戦いになったらどうしようか、ウチが前に出たほうがいい?」

 

「いえ、耳郎さんは後ろでお願いいたしします。明確な遠距離攻撃を持っている耳郎さんが後ろにいてくだされば、札折さん達の行動をある程度牽制できます。私は創造にある程度の集中と時間が必要にはなりますが、お二人にはまだバレていないはずです」

 

「なるほど。近距離でなにを作り出してくるのか不明な八百万を、攻撃方法がバレてる遠距離のウチが援護するってことね」

 

「ハイですわ! 本来であればヴィランの個性情報を入手するのが最善手、ですが制限時間等を考慮するならばある程度の力押しは致し方ありません」

 

(うん。八百万はかなり戦略を組むのが上手いのかも。悔しいけど今のウチじゃそこまで考えれられない)

 

 推薦入学は伊達ではない。

 改めて実感する壁に耳郎は強く拳を握った。

 

 定期的にイヤホンジャックで音を確認した耳郎は頭を横に振る。

 それを見た八百万は口を開けることなく頷く。

 敵の位置情報が不明、待ちに対して圧倒的に向いている個性持ち達が相手ということもあり、二人の歩みは遅々として進まなかった。

 

(制限時間のこともありますし、ここは危険ですが強行していくしか)

 

 八百万がそう考えて耳郎を見たときだった。

 

「わーっはっはっは! ヒーローがヴィラン相手にビビってるぜ兄弟!」

 

「全くだぜ兄弟! こりゃオイラ達の楽勝ってもんだぜ!」

 

 聞こえてきた方を見れば吹き抜けになっている広い部屋に札折と峰田が堂々と立っていた。

 

「待ち伏せしないとか、ウチ等を舐めてるってことか」

 

 ヴィランチームが持つメリットを全て捨てた行動が暗示する意味。

 二人の警棒を握る手に力が入る。

 

「作戦通り行きましょう、耳郎さん」

 

「任せて。危なかったら言ってね」

 

 高笑いをする札折と峰田に聞かれないよう、小さな声で端的に言葉を交わした二人は当初想定していた陣形を取る。

 

「ふっはっはっはっは! どうやら作戦を立てていたようだが無駄だァ!」

 

「オイラ達の戦術の前にはどうあがいたって無駄だぜ!」

 

「くっ。ヴィラン役がお上手ですわ、負けていられません!」

 

「違う、張り合うとこそこじゃないよ八百万」

 

 いざ戦闘開始! と耳郎達が勢い込んだところで札折が待ったと手を掲げる。

 

「まあ待て、まだ俺達のターンは終わってない! 俺達が隠している核についての話だ!」

 

 悪辣な笑みを浮かべ、札折は後ろに佇む核兵器を指さす。

 

「な、なんですの……!?」

 

「八百万律儀すぎない?」

 

「がっはっはっは聞いて驚け! …………結ッ!」

 

「なっ!?」

 

 札折が手を掲げながら刀印を作り、八百万と耳郎を囲うように結界を生成する。

 

「バカめ! 俺達が待ち伏せをしなかったことで油断したなヒーロー!」

 

「くっそ!」

 

 耳郎たちはすぐさま警棒で結界の破壊を試みるが、想定以上の硬さを持った結界は壊れる様子をみせない。

 と、二人がどうにか結界の破壊を試みていると札折達が近づいてくる。

 

「げっへっへっへ……こりゃ上玉だなァ、兄弟よォ」

 

「うぇへへへへへ、オイラ達がかわいがってやるからなヒーローォ」

 

 なんだったら手をワキワキとさせながら近づく様はまさしく変質者。

 核兵器を盗み、ヒーローにセクハラを仕掛ける様はまさしくヴィラン。

 

「ちょ、二人共これ授業なんだから真剣にやりなよ……」

 

「そうですわよ! いくらヴィラン役を演じているとはいえ、あくまで演技。オールマイト先生が求めているのはヒーローとヴィランの」

 

「う、うるせい! 正論ばっかり並べんでねぇ! やるぞ兄弟!」

 

「おうさ! 兄弟! 八百万の八百万を八百万してやるぜ!」

 

『峰田少年、並びに札折少年。今が授業の一環であり、君たちの一挙一動に至るまでが記録されていることを忘れてはいけないぞ! ワタシの言いたいことが分かるかね?』

 

 インカムを通して頼れる先生から差し込まれる杭。

 オールマイトの注意により、不愉快な笑みを浮かべていた二人の表情がピシリと固まる。

 

「お、オイラ達はそんなことしないぜ! 札折! ちゃっちゃとヒーローを倒すぞ!」

 

「そ、そのとおりだな峰田! 我らは圧倒的に優位な立場、速攻で決めるぞ!」

 

 正気を取り戻した二人は言い訳のごとく捲し立てると、片や頭皮のモギモギを手に、片やや刀印を構える。

 

「最悪なことに二人の油断がなくなっちゃったね、八百万」

 

 オールマイトのソレはヒーロー側を慮っての行動だったが、奇しくもヴィラン側が持っていた油断と慢心が消え、圧倒的な優位性からくる時間を掛けるといったチャンスがなくなる形になった。

 

「仕方がありませんわ」

 

 しかし、だからといって二人が諦めることはなかった。

 言葉は少なく、当初から決めていた作戦のみに意識を向ける。

 

(ウチ等を捕まえるために結界を解く必要があるはず)

 

(ならばその一瞬に勝機を見出すのみですわ!)

 

 結界は1度展開すれば内外問わず干渉を拒絶する壁、たとえ札折ですら例外ではない。

 勝利条件の捕獲用の紐を巻き付けるか、戦闘不能にするためにはこの結界が札折達にとっても邪魔な存在となる。

 

 ヒーロー側にとって一番の問題はタイムアップまでこの結界を解かないことが挙げられる。しかし、

 

「このままタイムアップ、なんてつまらない真似は無しだよね?」

 

「そうですわ。コレは試験、ヴィランとして核があるこの部屋でヒーローを拘束しておくのはリスクにしかなりませんもの」

 

 精神的に選択肢から消せばいい。

 

「安心しな、そんなダセェ真似はしねえからよ。実践なら別になるが、コレはあくまで授業だからな」

 

「オイラなんか実質なにもしてないもんだからな、カンベンだぜ」

 

 相手が相澤先生のような合理性を求めるロジックを持っているのならば、手っ取り早い勝利条件を選択するだろう。

 だが峰田は貪欲に、札折は実直な性格からヒーローチームに残されたチャンスが降ってくる。

 

「と、思っていそうだが関係ねえんだよ! 峰田ァ!」

 

「おうよ!」

 

 呼応した峰田は結界の上に登り、自分の頭部に実っているモギモギを結界の上に敷き詰めていく。

 

 頭上で瞬く間に出来上がるモギモギの蓋。隙間なく埋めることはできずとも、もしもソレが一斉に降ってくれば避けることが困難な程度にモギモギが敷き詰められた光景に、ヒーローから苦しげな声が上がる。

 

「名付けてグレープレイン! 一度に降り注ぐオイラのモギモギから逃れることはできねえ!」

 

「解ッ!」

 

 解かれた結界が消失し、天井に敷き詰められたモギモギが雨のように降り注ぐ。

 切島がいくら固くなろうと、砂藤がいくら力を増幅させようと、触れた時点でアウトなモギモギに対抗することはできない。

 耳郎のイヤホンジャックとヒーローコスチュームの合せ技であれば、モギモギを音波で吹き飛ばすことができたかもしれない。しかし室内であり、整備されていないビルで行えば自殺行為に等しい。

 それこそ、轟の氷がなければ完璧に防ぐことは不可能。攻撃力を一切持たない峰田の攻撃は、対抗するには有効となる個性が極めて限定されるものだった。

 並のヒーローであれば個性で負けていた、だが

 

「八百万!」

 

「お任せください!」

 

 八百万の個性もまた、轟同様かソレ以上に強力(チート)だった。

 屈んだ八百万の背中から個性によって巨大な布が創造され、二人の姿が布に隠される。

 

「ハッ、やるじゃねえの!」

 

「うああああ! オイラのグレープレインがー!」

 

 八百万と耳郎を包みこんで余りある布にモギモギの雨が降り注ぐ。

 攻撃力を持たない回避困難な攻撃は、同じく直接の攻撃力を持たない万能な個性に完封されることになった。

 

「八百万、大丈夫?」

 

「ええ、少しばかりエネルギーを使いましたが」

 

 しかし、咄嗟に作り出した巨大な創造は八百万に多大な負荷を掛けていた。

 個性の酷使。

 個性の仕様を制限されている子どもにとって、練習無しにマラソンを走らせるのと同義。

 

「コレで勝負はわからなくなりましたわ!」

 

 布を取り払い無事な姿を見せたヒーローには闘志が湧き出ていた。

 不利な状況から一転して見えた勝機。ヒーローの卵にとってはソレだけで炉にくべる薪たりえた。

 

「解」

 

 静かに発せられた一言は、ボロボロの一室でやけによく聞こえた。

 

「え……」

 

 耳郎達が事態を理解するよりも早く感じたのは不思議な感触。

 頭に、肩に、腕に、脚に柔らかいクッションに触れたときを彷彿とさせる感触が襲う。

 

「方位、定礎、結」

 

 まずい。そう思った二人が動くよりも早く、落ち着いた声が聞こえた。

 足を踏み出すよりも早く、布に隠れるために肩がぶつかるほど近くにいた二人を押し出すような衝撃が襲う。

 

「んぐっ!?」

 

「つぅ~!?」

 

 構えることもできず、もつれて倒れた二人が衝撃と痛みに耐えてすぐさま起き上がろうとするが、不可能。

 全身に引っ付いたモギモギが仲間から、床から、強力な接着力で離れることを許さなかった。

 

「オイラ達は攻撃が1回だけなんて、一言も言ってないんだよなー」

 

「俺らの作戦勝ちってことで」

 

 捕獲用の紐を手にしたヴィランが近づく。

 それから1分と経たず、オールマイトの試合終了が宣言された。




長くなり申した。
今回だけ、今回だけなので……!
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