結界師が行くヒーローアカデミア   作:無個性な一般人

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委員長は誰だ!?

 戦闘訓練のあと皆で感想戦の続きをした次の日、学校に行くとなんかすんごい人だかりが出来上がっていた。

 

「あなた! その制服は雄英高校の生徒さんね! オールマイトについて質問が」

 

「あーはいはい」

 

 鼻息荒くこちらにマイクを向けてくる女性。

 なるほどね。オールマイトが教師なんてビックニュースに食いつかないはずがないもんな。

 

「結」

 

 刀印を結んで個性を発動させる。

 俺一人分が通れるほどの結界を校門まで伸ばす。記者? 当然押しのけるが?

 

「うぁあっ!?」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 なんか喚いてるけど知らん。

 俺、マスゴミ、嫌い。

 悠々と結界の中を通ろうとしたが、ふと後ろを見ると耳郎と八百万がいたので結界に入れて上げた。

 

「ありがと」

 

「助かりましたわ」

 

「いいって。クラスメイトだし」

 

 そんな感じで校門をくぐったところで、我らが担任相澤先生に捕まった。

 

「むやみに個性使うな、倒れたマスコミが怪我でもしたらどうするんだ」

 

 コレ俺が悪いのか?

 普通に考えてこの事態を想定して対策を講じれなかった先生サイドに問題があるだろ、マスゴミを校門に集らせなければ俺だって個性使ってないって。

 

「うっす。すんませんした」

 

 なーんて言えたらどれだけ良かったか。

 爆豪あたりならストレートに言えるんだろうなぁ、羨ましい限りだ。

 

 相澤先生がマスコミ対応に向かったあと、おずおずと二人が頭を下げてくる。

 

「申し訳ございません、札折さん」

 

「その、ごめん……」

 

 ほーら。うら若き同級生が罪悪を感じてらっしゃるじゃないの。

 

「だから気にすんなって。悪いとか微塵も思ってないし、間違ったとも思ってねえ」

 

 大人や組織が捌けない事態に学生がどうこうできるわけないじゃん。

 つまり、俺は悪くない。

 とは言っても二人の気まずさが抜けたのは教室に着く頃だったわけだが。

 

 HR開始に合図とともにげんなりとした相澤先生が入室、そして昨日の戦闘訓練についてありがたいお言葉を賜ったわけだが。

 

「札折、そして峰田。性犯罪で捕まるようなことはヤメロよ? 特に札折、最初から全力ならもっとやれただろ、そういうのは相手にも失礼にあたる。今後は控えろ」

 

 これに関しては100俺が悪いので、八百万と耳郎に誠心誠意謝罪しました。

 場の空気が先生の叱咤激励で沈殿しきったところに、更になにか話を持ってきた先生に緊張が高まる。

 

「学級委員を決めてもらう」

 

 教室の空気が一気に学生らしい活気に満ち溢れた。

 俺としては前世のこともあり面倒程度に思っていたのだが、どうしてかヒーローを目指す粒ぞろいのクラスメイト達はやる気に満ち溢れていた。

 皆が手を上げて収集がつかなかった中、飯田が誰よりも真っ直ぐに手を上げながら投票を提案したことで場がようやく落ち着いた。

 

(あの惨状を収められた時点で飯田が適任だろ)

 

 と思って飯田に投票。

 しかし結果は八百万3票に緑谷と飯田が2票。まさかの”学級委員に向かない”と”学級委員をやるために生まれただろ”、のじゃんけん対決となり、飯田が苦渋の涙を流す結果になった。

 

 

 昼、八百万、耳郎の三人で食堂に向かおうとしたら峰田がゴゴゴゴとか出てそうな立ち姿で現れた。

 

「オイラを置いてくなんざ、酷えやつじゃあねえか札折ィ」

 

「素直に一緒に食べたいって言えよ相棒」

 

 そうして、模擬戦闘で交流が深まったメンツで食堂に向かった。

 昼飯を食べながら話題のネタになったのは校門のマスゴミ、そして学級委員長決めだった。

 

「え、じゃあ札折は飯田に入れたの?」

 

 髪を耳にかきあげながらうどんを啜っていた耳郎が驚いたとこちらを見る。

 

「委員長って雑用ばっかりなイメージなんだよなー」

 

「重要なお役目ですわ。委員長に選ばれたからには全力で頑張らせていただきますわ!」

 

「ヤオモモなら安心して任せられるよ」

 

 耳郎が仲良くなったということで昨日から呼ぶようになったあだ名を口にする。

 なんとも仲睦まじい光景なのだが、俺の隣から禍々しいオーラが漂っているぞ。

 

「チィッ! オイラがクラス委員長の座に就けば……」

 

「峰田、お前は分かっていない。ルールで縛られたリビドーに価値なんてないんだ」

 

 ギロリとこちらを睨む峰田に俺はいつになく真剣な顔を作る。

 

「創作なら委員長命令で女性にアレやコレやを強要するなんて話はよくあることだ。だが現実を見ろ、相手が本当に嫌悪する所業で得た果実に価値なんてないんだ」

 

「ケッ! ただの綺麗事だな、オイラ達弱者には弱者の救済があるべきなんだ」

 

「分かっていないのはお前の方だ。能力把握テストのときを思い出せ、あの長距離走で俺達はなににリビドーを燃やした?」

 

「それは……」

 

 思い出せ、思い出すんだ峰田。俺達が感じたあの情熱は、ただ眼の前にぶら下げられたバナナに向けられた食欲なんてものじゃなかったはずだ。

 

「超倍率の入試を突破した将来のヒーロー達が、年頃なら汗一つでさえ避けようとする昨今に流されることなく、ひたむきに目標を見据えて自身の限界を越えようとしていた。あのとき耳郎達が流していた汗はただの汗じゃない、アイツ等の純粋な気持ちが流した思いなんだ」

 

「思い……。札折、お前……」

 

「そうだ、そうなんだ。流れた汗で薄っすらと浮かんだ布地の跡が、ただ水に濡れたものだったら俺達はあそこまで熱く思いを馳せられたのか? 違う、断じて違う!」

 

 普段表に出すことのない生物の雄としての欲求。

 

「俺達はただ眼の前に置かれた生肉を料理とは呼ばねえ。下心のない、純粋無垢なアイツ等の姿がなけりゃどれだけ火にかざしても肉の旨さは出てこないんだ」

 

「そうだ、あの時のオイラは確かに感じていた。あぁ、オイラはなんてことを……! あの時のオイラならこんなことしねえ! 究極の料理を味わっていたあの時のオイラなら!」

 

「俺達が渇望したのは下半身を満たすためのネタじゃねえ! アレは芸術だ! あの時あの瞬間にしか味わうことのできない、額縁に入れて鑑賞される無機物なものじゃなく! 生きた芸術なんだ!」

 

 峰田の瞳に涙が浮かぶ。

 分かってくれたか、相棒!

 

「オイラ決めたぜ! 来年だ! 来年は委員長になってやってやる! 芸術を! 究極の料理を味わうための一方的じゃない政策ってやつをよお!」

 

「相棒! 俺はいつだって協力するぜ!」

 

「相棒! オイラ達ならやれる! やってやるぜ!」

 

「うるさい」

 

「イギャアアアアアアアアアアアア!」

 

「メガ燃えるようにィイイイ!」

 

 突如襲ってきた眼痛に俺と峰田がビタンビタンとのたうち回る。

 目を真っ赤に充血させた俺達が見たのは、顔を赤くしてこちらを睨む委員長と耳たぶが特徴的な同級生。

 コレはいけない。

 早く誠心誠意謝罪しなければ、素早く五体投地の構えを取ろうとした俺を止めたのは、防災訓練とかで聞くけたたましい警報だった。

 

『セキュリティレベル3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

 最初はなにかのイベントかと呆然と事態を見送っていた食堂だったが、次第に困惑が動揺に変わっていくのが感じ取れた。

 アナウンスが入るとせきを切ったように、食堂に集まっていた生徒たちが出入り口に我先にと群がる。

 

「やばいよ! 皆パニックになってる!」

 

「ど、どうしましょう!?」

 

「どうもこうもねえよ! オイラ達も逃げるしかねえだろ!」

 

 こういうとき前世の経験があると便利だよな。

 全くの平常なんて冗談でも言える状態ではなかったが、自分以上に周りが騒いでくれたおかげで比較的落ち着けた。

 

「結っ!」

 

 俺達四人を包むように結界を張る。

 そうでもしないと暴徒と見紛う人の波に飲まれそうだったからだ。

 

「一旦落ち着け。ここにはヒーロー事務所以上にヒーローがいるんだぞ。オールマイトだっているじゃねえか」

 

 学校に爆弾が仕掛けられていてとかでない限り、たとえヴィランが学校を襲ったところで本当の意味で学校が落とされることはない。

 今の状況は群集心理から生まれたパニック状態。災害とかで無秩序に人が動くことで発生する二次被害が今は最も危険。

 俺の言葉で次第に三人の様子が落ち着いていく。

 

「た、確かにそうだよな……。オイラとしたことが焦っちまったぜ」

 

「ウチもどうしようってなっちゃってた。ありがとう、札折」

 

「感謝いたしますわ。それで、私達はこれからどうすれば……」

 

「できればアナウンスに従って外にってところなんだが」

 

 出入り口を見る限り生徒が集中しているせいで、本来なら何人もが同時に出られる設計のはずなのに、人の数が減る様子がまったくない。

 

「人の波を止めようにもアレじゃどうしようも……あ」

 

 こうなれば八百万に爆竹とかメガホンをと思っていると、出入り口にごった返す生徒の頭上を一人の生徒がすっ飛んでいくのが見えた。

 しかも見覚えのあるその姿に俺達は驚愕した。

 

「飯田じゃねえか! アイツなにしてんだ!」

 

 重力を無視した軌道を描いて飯田がそのままビタンと壁に張り付く。

 非常口マークの人みたいになった飯田に混乱していた生徒たちの意識が飯田に向き、好機とばかりに飯田がいつも以上に声を張り上げる。

 

「だいっじょーーーーーぶ!」

 

 その日、飯田は伝説となった。

 

「……」

 

 

 

 飯田のファインプレーにより食堂の騒動は解決し、落ち着いた生徒達は雄英高校の学徒らしい秩序だった行動を開始。

 アナウンスで警報の理由が案の定一部のマスゴミが校内に侵入したことが告げられ、俺の中のメディア界隈に対するイメージが地の底を潜ることになった。

 

「ヤオモモどうしたの、浮かない顔だけど。もしかしてさっきの騒動で体調崩したり……」

 

 耳郎のそんな言葉に八百万を見れば、表情を固くした姿。

 しかし、心配された八百万は首を横に振る。

 

「いえ、そうではありませんの。ご心配をおかけして申し訳ございません」

 

 俺、耳郎、峰田の視線を受けた八百万は深呼吸をした。

 

「私決めました。委員長の座を引かせていただきます」

 

 クラス委員長就任早々にトップが降板宣言するなんて思ってなかった俺達は、口をあんぐりとして決意を固めた様子を見せる八百万を見ることしかできなかった。

 

「委員長とはクラスメイトの旗であり、旗頭の振る舞いは総じてA組に対する評価になります。警報が鳴ったあのとき、私はクラス委員長としてヒーロー科の生徒として場の混乱を鎮めるべきでした」

 

「ヤオモモ、あの状況じゃどうしようもなかったって」

 

「それなのに私はただ混乱するばかりで、札折さんに沈めていただかなければ他の生徒と同様に我先にと逃げていたかもしれません」

 

 八百万の口は止まる様子を見せない。

 自責しているわけではなかった。あの時を思い出し、自分がどういう立場でどういう行動をするべきだったのか。一つ一つを丁寧に確認していたとのだと俺には見えた。

 

「お恥ずかしいです。私の個性はあらゆる状況に対応できる物ですのに。メガホンを作り、声を張り上げれば言葉が届いたかもしれません。大きい音は更に混乱を助長させてしまいますが、他にも有効な手は思いつくのです。今なら……」

 

「ヤオモモ……」

 

「飯田さんが手段はどうであれ、あの場の混乱を鎮めたとき。私は安心しましたの。安心して……しまいましたの……」

 

「それで、自分はクラス委員長に相応しくないから、委員長を辞退するってか。そりゃなんか無責任じゃねえのか?」

 

 あえて強めに言うと、ムッとした峰田が口を開く。

 

「ヤメロよ札折。言い方ってのがあるだろ」

 

「構いませんわ。ですがコレは自身の無力さに逃げるわけではございません。ですが、また同じ騒動に遭遇したとき、今の私では適切な行動が取れないと思い至りました。被害が私だけなら構いませんが、クラス委員長ではそうも行きません」

 

 ですので。と八百万が続ける。

 

「委員長の座を引き、飯田さんにその座に就いていただきます。そして、私は飯田さんから学びたいのです。人を率い、落ち着いて行動を起こせる人になるために。このような身勝手を許していただけるのなら」

 

 八百万の瞳には熱が籠もっていた。

 嫌だから辞めるのではない。自分の足りない部分を学ぶために、成長するために。

 

「なんて言ったらいいかわかんないけど。ウチはいいと思う、かな」

 

「ま、食堂には3年生とかいたはずなのに、唯一行動できたのは飯田だけだったのは確かだよな、オイラもあのときはそんなことを考える余裕もなかった」

 

 役が人を成長させるなんて言う言葉がある。

 それになるのなら八百万は委員長として、失敗しながらも与えられた席にしがみつくべきだとも言える。

 無責任だと思わなくもない。しかし、ソレは部外者の身勝手な意見ってやつだ。無責任だと言うならその口から続けて「代わりに俺がやる」と言わなければ筋が通らない。

 

 そして、成長の仕方は一つじゃない。

 

「他人のいいところを素直に認められるのは八百万の美点だな。それを自分の物にしようとするんだからすげえよ」

 

「ありがとうございます。その評価に見合うよう粉骨砕身いたします」

 

 八百万の選択を、少なくとも俺達は肯定しよう。

 自分で考えて選んだ選択は決して間違っているなんてことはない、なら友人として応援するだけだ。

 

「では、早速飯田さんにお話してきますわ!」

 

 迷いのなくなった八百万が早速とばかりに飯田を探し始める。

 そこに待ったをかけたのは耳郎。

 

「ウチも行くよ。応援したい。それに、ヤオモモのそういうところをウチも学びたいからね」

 

「俺も行くぜ。飯田の非常口ポーズをからかいたいしな」

 

「これじゃオイラも行く流れじゃねえか」

 

 耳郎と俺に続いて少し不貞腐れ気味な峰田も追従。八百万の瞳がキラリと潤んだ。

 

「皆さん……ありがとうございます。心強いですわ!」

 

 結果。クラスでその話をした八百万は謝罪とともにクラス委員長を飯田に渡すことになった。

 クラスからの反応はどこぞの爆発野郎が唾を吐いていたが、流石にヒーロー科なだけあって殆どが理解を示してくれた。

 飯田なんかは涙ながらに「任された! 八百万君の思いを俺が引き継ぐ!」とスポ根全開。

 しかし、そこで話が終わるわけではなく。

 

「あ、あのぉ……」

 

 目をギョロギョロさせ、手を高速でワキワキさせ、汗を流してどもりながら緑谷が挙手。

 実は緑谷も同じことを考えていたらしく、なんと副委員長の座を八百万に渡したいと提案してきたのだ。

 だが、八百万はソレをやんわりと断る。が、緑谷は八百万の目的が見て学びたいのなら、飯田と一緒に行動できる副委員長になるべきだとカウンターを繰り出した。

 あとは泥仕合が続くこととなり、

 

「もうオイラお腹いっぱい。二人で副委員長やりゃいいじゃねえかよ」

 

 げんなり顔の峰田が繰り出した意識外からの折衷案が天啓のごとく採用。A組皆で相澤先生に直談判。

 

「ん、いいんじゃないか。お前等が話し合って決めたことだし、雑用要員が増えるのは先生嬉しいぞ」

 

 の一言で1分で可決。さすが雄英高校、自由が売りとはよく言ったものだ。

 こうしてA組だけ副委員長が二人となったのだった。

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