結界師が行くヒーローアカデミア 作:無個性な一般人
「あーあ、やられた。ほんとに勘弁だぜ」
黒い霧をまとったヴィラン。黒霧によって散り散りにされてしまった札折は、飛ばされた先で独り言ちていた。
というのも、壊れた配管が作り出す迷路にも似た空間に飛ばされた札折だったが、そこにA組の生徒は誰一人としていなかった。
「つかあの二人勝手に飛び出してんじゃねえよ。相手の個性がワープ系だって一目見りゃ分かんのに、直接攻撃だーとかばっかじゃねえの?」
だからこそ、溜め込んでいた毒を吐き出し続けていた。
「確かにそうしたい気持ちは分かるけどよ。でもあの場には13号先生だっていたわけだし、先生の指示を聞いてからのほうが絶対正解だろ」
さすがの札折もこんなことをあの場で吐けばどうなっていたかぐらい理解している。
「上鳴も上鳴だよな。戦闘訓練でいかに個性の情報が戦術に繋がるのか理解したはずだろ。勘弁しろや……クソがよぉ」
下手をすれば何もかもを失っていたのかも知れない。ヴィランの目的が生徒であり、オールマイトであることは明白。
命の保証なんてこれっぽっちもない状況だったのだ。
だが、幸いなことに以降のA組の動きは最善だった。
「ま、俺もさっさとヤツを閉じ込めて置けばよかったと言われればソレまでなんだけどさ。自分を優先しちまってたな、反省だ」
あの場に居たのが家族であったのなら、また選択も変わっていただろう。
不幸なことに、あの場には札折がなによりも優先する存在が居なかった。故に自己保身とソレの正当化を行ってしまった。
「でも、今もアイツ等の心配してるってことは、もう少し一緒に居たらちゃんと大切って思っちまうんだろうな」
反省おしまい。と札折は肩を回し、自分の周囲にいる結界に拘束されたヴィランたちを見る。
「お前等はどう思う?」
数にして十数人。
飛ばされた直後に襲ってきたヴィラン達を札折は結界に閉じ込めていた。
捕まっているヴィランは一様に結界を叩いたり、個性を使っての脱出を試みていた。
しかし、結界が破壊される素振りは一切ない。
「どうしたもんか、俺の個性って捕まえることはできても、無力化ってむずいんだよな」
しばし札折は熟考した。
チラリとカメラの存在を確認し、死角を探す。
「お前等、大人しくしろ」
札折の声色が変わったことに対して、ヴィラン達の反応は顕著だった。
唾を飛ばす勢いで捲し立てる者、より一層結界の破壊に注力する者。
「大人しくしろ。こうなりたいのか?」
眼の前にいるのは裏社会で弱肉強食な世界に生きるクズ、札折はわかりやすい力を見せる。
手で抱えるほどの大きさをした瓦礫を結界で覆い、普段では絶対に使わない言葉を発する。
「滅」
結界の中が急激に縮小。
中にある瓦礫の存在を知らないとばかりに結界は面積を拳以下に縮めると、限界に達したのか中にある瓦礫が結界の中で爆発し、結界ごとその姿を消してしまう。
黒霧のようにどこか飛ばしたわけではない。消滅したのだ。
その光景を見たヴィランの反応は顕著だった。
「俺の個性は殺しに関して一級品だ。お前等の血肉を一片すら残さずに消せる。俺がこの場でお前等全員を殺しても、証拠はなにも残んねえ」
決して、札折が好んで使いたい手ではないし。今までだってこの力を人に向けて使ったことはない。
だからこそ考える。コレを人に向けて使ったらどうなるのか、そして自分はどう感じるのか。
人生初の殺人に心を痛めるかも知れない、数日間は寝込むかも知れない。だが、その程度だろうと。なんせ相手はヴィラン、自分達の命を文字通り狙っている存在だ。
高台から下を見下ろしたときに感じる一種の好奇心も、少なからず存在していた。
「この中で拘束、もしくは相手を無力化できる個性を持ってるやつは手を上げろ」
およそヒーローらしからぬ言動にヴィラン達は怯えるばかり、そんな中で一人のヴィランが手を上げた。
「お、俺の個性はコンクリートの接着ができる。上手くやれば手足を拘束できる、はずだ」
「よし、じゃあお前と隣のヤツの個性を解く。分かってると思うが変な気を起こすなよ、連帯責任って分かるよな?」
そう言えば結界に囚われている他のヴィランから鋭い、というよりは懇願する視線が件のヴィランに向けられた。
試しに結界を解除して拘束を命じる。
ヴィランは手近にあるコンクリート手繰り寄せながらもう一人のヴィランの腕を覆っていく。
形を変えることはできないのか、瓦礫同士が接着することで報告通りに腕と足を拘束する。
「よし、最後に足と手を地面か壁にくっつけろ」
「そ、そこまで」
「いいからやれ。早く。それともなんだ、気絶するまで無抵抗なお前等を殴れって言うのか?」
有無を言わせない札折の態度に、ヴィランは悔しげに頭を垂れた。
そうして全員の拘束が終わり、拘束したヴィランだけが残った。
「よし、じゃあお前は少し離れたところでこの紐で縛る」
床や壁にくっついているヴィラン達から離れた場所で、ヒーローコスチュームにサポート用に付けていたロープで縛る。
「じゃ、ヒーローが来るまで大人しくしてるんだぞ」
札折は身動きの取れなくなったヴィラン達を尻目に走り出した。
黒霧に飛ばされた時点で札折の優先事項はヴィランの無力化、ではなくA組もしくはヒーローとの合流となっていた。
とどのつまり、札折からすればヴィランがこの後逃げ出そうがどうでも良かったのだ。
(カメラがなければ色々試しても良かったんだけど)
ちらりと周囲に設置されたカメラを見る。
USJという広大な敷地、そして訓練を目的とした施設にカメラがないわけがなかった。
札折がヴィランに危害を加えなかった一番の要因はコレだった。
(別に快楽殺人者じゃないし、命大事。早く皆のところに戻らねえと)
周囲の音を聞きながら走り出した札折が聞いたのは、ヴィランの声。ではなく耳郎の個性が生んだ音波だった。
☆
「くっ! ヤオモモ! 追加の頂戴!」
「はいっ!」
USJの数ある施設の一つ、荒野ゾーンに飛ばされた耳郎と八百万は必死の防衛を行っていた。
二人共直接的な攻撃力を持っていないことも有り、戦況は不利の状態が続いていた。
「ヤオモモが居て助かったよ! ウチだけじゃどうしても個性に隙が生まれちゃう、しっ!」
「私がもっと早く創造できれば、もう少し有力な武器を提供できましたのに、申し訳ございませんわ!」
視界を奪わないためのポリカーボネート盾と、長めな棒を即座に展開できなければ一方的な戦況となっていただろう。
二人の劣勢とは言え十人以上のヴィランを相手取ってなお、戦闘不能となっていなかったのは奇跡に近かった。
しかし、
「おいおいお嬢ちゃん達、最初の威勢はどうしたんだぁ?」
「面ァは上等なんだ、上手なお願いをしてくれれば俺達だって手心の一つは上げられるんだぜ?」
数的有利、相手が女という精神的な優位を持ったヴィランの行動は陰湿的なものだった。
程度を弱めた攻撃で安全に体力を削り、むしろ怪我をあまり負わせないようにさえしていた。
「あんた等みたいな奴に、誰が……!」
「本当に、品性を疑ってしまいますわ!」
「アァン! テメェ等、俺達が優しくしてりゃあ調子乗ってんじゃねえぞ!」
「しゃあねぇ、傷物は嫌だが、ここまで抵抗されちゃあなあ?」
明らかな油断。自身が優位だと思い込むがゆえの慢心。社会の爪弾きにされた己が、将来を約束された優等生を下せる優越感。その全てが明確な隙であり、相澤を含むヒーローであれば格好の状況。
だが、二人にはソコを突く力がなかった。
ギリリと耳郎が食いしばった時、
「結」
聞き慣れた言葉が聞こえ、次いで眼の前のヴィラン達が見慣れた板に包まれていた。
「これって……」
「よう、楽しそうな会話してんじゃん」
聞こえたのはUSJの数ある施設の中で高所となっている崖の先、本来であれば人がいるはずのない場所に、結界を足場にした札折が挑発的な笑みを浮かべていた。
「俺も混ぜろよ」
動きやすいようカスタマイズされた和装に、刀印を保持した状態の札折が二人の前に立つ。
「札折!」
「札折さん!」
劣勢な状況、負けの道しか見えなかった状況が一転した。
安堵した二人だったが、耳郎が途端にジト目で札折を見る。
「……いつから見てた?」
「1分ぐらい前だな」
「ならさっさと助けに入ってくれても良くない?」
本気で思っているわけではなかった。ただ初めての実践に、直接向けられた悪意に焦燥とした心を隠そうとしただけだった。
「バカ言え。俺の個性からしてコレが最善手だ、二人の近くにヴィランが居たんじゃ個性が使いづらかったんだよ」
「札折さん。助けていただき感謝いたしますわ。それでですが……」
八百万が捕まった結界の中で脱出を試みるヴィランを見る。
「あー、どうやって無力化するかだよなぁ」
「札折が飛ばされたところもヴィランがいたんだよね、どうしたの?」
殺すと脅しました。なんてヒーローの卵として言えたものではない。
「無我夢中に殴ったりしてたら倒してた。仕様がないから気絶するまで殴ってくか?」
「い、いや。それはちょっと……」
(おかしい、言葉を選んだはずなのに引かれてる)
「では、耳郎さんの音波ならどうでしょうか。アレならば外傷なく気絶させることができるかと」
「う、それでも抵抗感が……。でもウチが適任だよね……」
多少予想はしていた耳郎が渋々と了承し、八百万が気絶したヴィランを拘束するためのロープを創造する流れとなった。
そうしてヴィラン達の無力化が成功した後、三者はこれからの動きについて話し合っていた。
「最優先目標を決めよう」
話し合いの一手目は札折だった。
エントランスホールでの一幕で、取った手段に過失があるとすればその一点だと考えたためだ。
「優先、か。ウチ等だとこのままヴィランの無力化を続けるとか?」
「もしくは他の皆さんと合流を図るか、ですわね。一人で戦っておられる相澤先生のこともありますわ」
(ここで逃げるって考えないあたり、さすが雄英生だな)
峰田なら即座に撤退を提言していただろう。自己保身といえばソコまでだが、サポート能力に秀でた峰田であればそれも最善手だと札折は考えていた。
札折は創造とイヤホンジャックの二人がその選択をとっても肯定するつもりだった。
「八百万、どうする?」
この三者の中で戦術に秀でているのは自分以上に八百万だと札折は考えていた、先のエントランスでの一件でもそれは顕著だった。
耳郎もそう思っていたため、自分のできることを考えながらも八百万に意識を向ける。
「幸いにも私達はバランスが良いですわ。防御に秀でた札折さん、索敵と範囲攻撃に秀でた耳郎さん、そしてどの戦況においても対応可能な私の個性。爆豪さんや切島さんといった近接に秀でた方はおりません。ですが、お恥ずかしながらコレ以上ないチームだと考えております」
「ウチもそう思うよ。それに八百万は作戦考えるのがやっぱり上手いと思うし」
普段の八百万ならば謙遜していたかも知れない。だが、クラスの委員長として笑って見せる。
「ありがとうございます」
「で、決まったのか。副委員長」
「最優先目標は散り散りとなった方々との合流ですわ。飯田さん達が外に脱出できた以上、オールマイト先生を含む雄英のヒーローが駆けつけていただけるのは必定。ですから、私達はA組としてヒーローの救出を待つためにも、A組として皆さんの安否と所在を明らかにしなくてはなりません!」
拳を握りしめ、意思の籠もった瞳が決意を顕にする。
「わかったよ、ヤオモモ」
「中央、そして俺と八百万達を待ち伏せしていたヴィランの数を考えれば、ヴィランの総数は100を上回る可能性もある。爆豪とかならともかく、単純な戦闘に向かない奴がヴィランに囲まれれば軽くて人質、悪ければ最悪な結果も考えられるか……」
特に、口田や峰田と例を上げると、二人が頷く。
「こちらには遠くの音を聞き取れる耳郎さんがおります。誰かまではわからずとも、そこで誰かが戦っていることは分かりますわ」
「任せて。ようはさっきの札折みたいに皆を助けて、合流していこうってわけね」
「前衛は盾を持った私、中央を耳郎さん、後方を札折さんにお願いします」
この中で真っ先に倒れられると不味い札折が後衛に付き、前方二人に少しでも異変を感じたら結界を使い防衛。
八百万は個性の特性から咄嗟の対応が難しいため、前衛で盾を持ち索敵と防御を最優先。奇襲されたとしても一撃でも防げば札折の結界で防衛が可能。
中央の耳郎は音を拾うため、近辺に対しての注意が散漫になってしまうため、二人で前後を守る。
「倒すことを考えず、生存を第一に考えていきましょう。もしもの場合は指定の場所で合流いたしましょう」
決まればと三者は行動を開始した。