結界師が行くヒーローアカデミア 作:無個性な一般人
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他のクラスメイトとの合流するため移動を始めた札折達は、早くも見知った顔に出くわすことになった。
「いやー! ヤオモモ達も無事で良かったー!」
透明になる個性を持つ葉隠が唯一見える手袋と靴をあらん限りに振る。
「葉隠さん、障子さん、それに轟さん。皆さんもご無事でなによりですわ」
合流したのは山岳ゾーンの隣にある火災ゾーンから出てきた、轟、葉隠、障子の三人と合流した札折達は、情報共有をしつつ移動を開始していた。
「じゃあヤオモモ達は他の皆を探してたんだ! さっすがー!」
「耳郎さんの個性がなければ難しかったですわ」
「まあ、コレぐらいなら、ね」
(照れてる)
八百万と葉隠に見つめられた耳郎が頬を赤らめる。
そんな三人から少し離れた場所にいた男三人はというと。
「な、普段はツンとしてる子が照れたときって萌えない?」
「……知らねえ」
「札折、今はそういう状況じゃないと思うが」
男子高校生の会話を繰り広げていた。
「馬鹿野郎。こういうときだからこそ肩肘張っちまうのがダメなんだよ、少しくらい力を抜かねえとだろ?」
「そういうもんなのか」
「そういうもんだ。で、轟はどう思う?」
「よくわからねえけど、札折がいいと思うならいいんじゃないか」
「轟、乗るな」
表情筋一つ動かすことなく淡々と返す轟に、障子が頭を抱えた。
「なんだよ障子。お前はどうなんだよー?」
「……いい、と思う。やっぱり今のはなしに」
「だよなー! お前は分かるやつだって信じてたぜー!」
男子特有の無駄なテンションに耳郎達が気づき、首をかしげる。
「なにかございましたの?」
「三人で可愛いなって、じろんぶっ」
「札折! ちょっとこっちこい!」
複製腕に口を塞がれ強制連行されていく札折。
幸いにも名前を言わせないことに成功した障子は安堵した。しかし、ここに伏兵が紛れ込んでいるとは思いもしなかった。
「轟さん、なにかございまして?」
「札折と障子が照れた耳郎が可愛いって話てた」
「んなっ!?」
顔を真赤に染める耳郎。
「とどろきぃいいいい!」
障子は吠えた。
「いてて……。なにも殴らなくていいじゃん」
「うっさい」
誰によってかは不明だが、頬を赤く晴らした札折がぶつくさと文句を垂れる。
ちなみに、障子は直後に弁明したことによって難を逃れていた。
「轟さんよ、俺って別に悪口とか言ってないよな?」
「悪口は言ってなかったな」
「だよなー。女子に可愛いって言ってなにが悪いんだって」
「ちょっ、だ、だからそういうことを言うな!」
「お、もじもじしてどうした? トイうぉおおお!? めにぷすって、ぷすってぎだあああ!」
ビタンビタンとのたうち回る札折だったが、中央から聞こえてきた音にすぐさま立ち上がる。
「耳郎、さっき音が減ってきたって言ってたよね」
「切り替え早すぎて怖いんだけど」
轟達と合流する直前、周囲の音を拾っていた耳郎が音が減ったと言っていた。
「もう一度音を拾ってくれ」
訝しげにしながらも耳郎は言われたとおりに音を拾う。
だが、顔色を変えた耳郎がバッと顔を持ち上げる。
「音が中央からしか届いてこない」
「中央……相澤先生が戦っている場所ですわね」
口に手を当てて考えていた轟がポツリと呟く。
「連中、オールマイトを倒すって言ってたよな」
「だが、俺達が飛ばされた場所にいたヴィラン達にソレができると思える奴はいなかった」
「えーっと、つまりどういうこと?」
見えないがきっと首を傾げている葉隠に、轟が答えた。
「中央だ。中央にオールマイトを倒せる手段がいるってことだ」
緊張が走る。
オールマイトの実力はテレビで散々見た。とあるオタクはその映像を何十何百と見回している。
だからこそ言える。オールマイトが負けるはずがない、と。
「そんなもん奴らだって同じはず。だが、自信満々って様子で言っていた。連中はオールマイトの強さを知った上で、勝てると考えている」
誰かの生唾を飲む音が聞こえた。
平和の象徴を打倒しうる手段。それが今、中央にいる。
平和の象徴がいない状況で、相澤先生が一人で戦っている場所に。
「いきましょう!」
ここにいるのは幼くともヒーローを志す者。
八百万の言葉に反対する者はいなかった。
「うそ……」
「そんなっ!?」
急いで駆けつけた場所で見たのは、脳をさらけ出した巨漢が相澤先生を一方的になぶり殺しにする光景だった。
ピクリとも動かなくなった相澤先生の姿は瀕死。殺そうとすれば1分と待たずその生命を刈り取ることができる。
「轟さん!?」
皆が目の前の光景に固まっている中、轟だけが飛び出した。
足から氷を生み出して加速する。
「間に合わねぇっ……!」
だが、距離に対して速度が絶望なまでに足りなかった。
一刻も早く巨漢のヴィランから相澤先生を助けなければならない、そんな焦りが轟の心中を満たす。
しかし、
「結っ!」
後方から聞こえた声の直後、結界が巨漢のヴィランの各関節の一部分を覆う。
「あぁ? なんだぁ、これ」
一瞬だけ気をそらしただけで、顔に手を付けたヴィランは慌てた様子はなく無造作に手で結界に触れる。
すると札折自身硬度にはある程度の自信持っていたはずの結界が、ボロボロと崩壊していく。
「ちっ、なんだあの個性」
殴るといった衝撃を加えられたわけではなかった。単純にヴィランの手が触れ、結界が破壊された。
詳細は不明だが、手が触れるだけで結界を破壊するほどの個性には変わりなかった。
数秒程度しか持たなかった結界に札折は歯ぎしりをした。だが、壊されたのは一つだけ、まだ巨漢のヴィランを拘束する結界は残っている。
「脳無さっさと」
「ケロッ」
その数秒が、相澤先生の命を救った。
水難ゾーンから様子を窺っていた蛙吹が、持ち前の跳躍を活かし相澤先生を長い舌で巻取ると、瞬く間に離れていく。
「ちっ……。次から次に、うじゃうじゃと……」
ヴィランがゾッとする声を発して蛙吹を見る。
「させねえよっ!」
ここでようやくたどり着いた轟が氷でヴィランと蛙吹の間に壁を作る。
間一髪。
札折が数秒間だがヴィランを足止め、蛙吹が相澤先生を救出、轟が離脱の援護。
その場にいた生徒が担任を救うため、自分にできることを果たした土壇場の連携。
「はぁ……バリア、成人男性をあの速度で運べる身体能力、おまけにこんなデカい氷。強個性ばかりじゃん、ずるいよなぁ……」
ヴィランが視界を覆う巨大な氷に触れると、氷が溶けることなく崩壊していく。
「皆! 気を付けて! そのヴィランは手で触れた物を崩壊させる個性だ!」
蛙吹が撤退していった方向から聞こえたのは緑谷の声。
それは朦朧とした意識の中、蛙吹に回収された相澤先生が残した決定的な情報だった。
「んだよ……ネタバレとか最悪じゃん」
強力な個性。しかし発動するための条件がさらけ出されたのにも関わらず、ヴィランは動揺することはなかった。
代わりに、苛立ちを隠すことはなく、肌の荒れた首をガリガリと掻く。
「なら簡単だ、俺の個性ならやれる。この距離でやりあえば」
「ほんとかなァ?」
ねっとりとした声に轟は迷うことなく氷を生み出した。
自分を中心に全方位に向けた個性の発動。ヴィランが眼の前にいるのに、なぜそうしたのか。
「冷たっ……!」
「死柄木弔、気をつけてください」
「うるさいぞ黒霧。お前がミスしなけりゃもっと上手く行ってたんだ」
手を顔につけたヴィラン、死柄木弔の手が、黒霧と呼ばれたヴィランの個性であるワープゲートから引き抜かれた光景を見れば理解できるだろう。
死柄木の手に轟の氷が所々に付着していた。
「ワープゲートってさ、個性の中じゃ最強だよな。俺の個性と合わせたらオールレンジ攻撃のできあがりィ」
手で触れるという戦闘距離に対する圧倒的不利。それを覆す手段を持った死柄木にとって射程外は存在しなかった。
「結!」
この場に空間を支配する個性を持った存在がいなければ。
巨大。死柄木と黒霧を巨大な結界が囲む。
「さっきのシールド、そんなのしたって」
「く、やられましたね……!」
死柄木は先の攻撃で簡単に破壊できた結界に肩透かしといった反応を見せるが、黒霧はその真逆。
「死柄木弔、この個性の中では私のワープが使用できません。注意してください」
「はァ? んだよ、メタ個性かよ……壊せば関係ないけどな」
確かに死柄木が触れば容易に破壊できる結界。強度を無視した結界ともなれば男性の拳ですら破壊可能だ。
(甘えんだよ。結局お前は俺の結界に触れる必要がある、無駄にデカくしたんだ、数秒は動かねえと破壊できねえだろうよ。そんだけ時間があれば轟も態勢を整えられる)
「つか、これの個性持ちどこだよ。おい、黒霧」
「和装の少年です。和装は彼しか着用していませんでしたから、一目見れば分かるはず……ですが」
黒霧が周囲を確認するが、ぱっと見当たる位置に札折の姿はなかった。
それもそのはず、札折は最初の結界を生み出した時点で物陰に隠れていた、後は隙間から対象を目指して死柄木達を囲む結界を生み出していた。
「隠れるとか、ヒーローらしくないじゃん。卑怯なやつ、ヒーローなら正々堂々こいよ」
(誰が行くかよ。奇襲してきたやつが正々堂々とか片腹痛ェんだよ)
滅。その一言が言えたらどれほど楽なのか。
口に出さず心中で吐露する。
「黒霧、面倒だからさっさと壊して、殺すぞ」
「はい」
(はてさて、こっからどうすっかな。最善手はオールマイトが来るまでの時間稼ぎ、なんだろうけどさぁ)
先の戦闘を思い出す。
頭目と思われる二人は確かに危険だ。距離という概念を無視できる個性、そして触れるだけで崩壊させる凶悪な個性。
(そしてアイツだよな)
ちらりと結界の外にいる脳がむき出しの巨漢を見る。
札折の結界は相手の一部分を覆うことで擬似的な拘束を可能とする。しかし、脳無と呼ばれたヴィランは圧倒的なパワーで結界を破壊してしまっていた。
「はぁ、気張れよ轟」
死柄木達の前にいるのは轟ただ一人。
札折が結界でどうにかできるのは黒霧ただ一人、逆に死柄木や脳無では分が悪すぎた。
死柄木達が結界を破壊し、距離を取っていた轟に接近しようとする。
「くっ!?」
死柄木の姿から戦闘能力が低いと判断していた轟は、驚異的な速度で接近してきた死柄木に驚愕し、咄嗟に氷を間一髪で展開する。
「ヒーローが見た目で判断するなんて、差別じゃないか。よくないなぁ?」
死柄木が氷に触れ崩壊させる。
視界を覆っていた氷が崩れていき、轟は至近距離で死柄木と視線を交わす。
「っちぃ!」
見えた瞳に写ったどこまでも渦巻くドス黒いナニカに、轟は逃げるように氷を放出した。
並のヴィランであれば氷に飲み込まれ無力化されるであろう攻撃に、死柄木は下卑た笑みを浮かべて回避する。
「いま、怖がったよな? ヒーローが、ヴィランにィ!」
堪らなく愉快だと死柄木は口の両端を吊り上げる。
予想外の戦闘能力の高さ。ためらいはなく、相手を害するただ一点に研がれた追撃に、轟は身を守ることを最優先にして個性を使用し続ける。
そこに戦術と呼べるものはなく、ただ迫りくる脅威から逃れる防衛本能が働いていたにすぎなかった。
「轟くんから、離れろぉお! SMASH!」
緑谷の怒声。
顔を悲哀と決意で染めた緑谷が、いつの間にか戦う両者の近くに立って腕を死柄木に向けて突き出す。
突如現れた第三者の攻撃、しかしそれを別の第三者が止める。
「なっ……!?」
相澤先生を一方的に蹂躙してみせた脳をむき出しにした巨漢。
脳無が平然と緑谷の拳を受け止めた。
「君ィ、オールマイトのフォロワー? 個性も増強系っぽいけど、残念だったね」
珍しく自壊せずに放った攻撃を止められた緑谷は驚愕し、死柄木は当然と嗤う。
「コイツは脳無。対平和の象徴、オールマイトを殺すための兵器ってやつさ」
「ぁ、ぁあ……」
緑谷は突き出していた腕を脳無に掴まれ、片手一つで持ち上げられてしまう。
すかさず轟が氷で脳無を拘束しようとするが、
「よそ見してていいのかなぁ?」
死柄木がそれを許さない。
触れられるだけでアウトな個性を無視することもできず、轟は緑谷から視線を外すしかなかった。
「お待たせいたしましたわっ!」
そんな死柄木に向けて黒い球体、ゴム弾が飛来する。
見れば三人。八百万と耳郎と障子がそれぞれランチャーを手にしていた。
「少々時間が掛かりましたが、このような場面でも対応可能でしてよ!」
それぞれ1丁、障子は複製腕分も手にして銃口を死柄木に向けていた。
「は、ヒーローがそんなもん持っていいのかよ」
「少々痛いですが、殺傷性はございませんのでご安心ください!」
「おい、お前等」
八百万達の登場で人数差はひっくり返る。しかし、中央のヴィラン達が全て無力化されたわけではない。
死柄木の声に残りのヴィラン達が八百万達の前に立ちはだかる。
「時間も少ないことだし、平和の象徴が持つ教示を2つぐらいは貰っていくね」
底知れぬ悪意が、ヒーローの卵ににじり寄る。
☆
緑谷は脳無に捕まり、轟も死柄木に少しずつ追い詰められていく。
そんな光景を遠く、一人安全な物陰から伺っていた札折は歯噛みをしていた。
(殺しちゃダメなんてハンデどころじゃねえな。犯罪者なんだから正当防衛ってことで見逃してくれてもいいだろ)
刀印を構え、黒霧の行動に注意を払いながら脳無に結界を張っていく。
結界を張った先から破壊されていくが、それでも関節を狙うことで緑谷への攻撃を少しでも遅らせることには成功していた。
(滅ってめっちゃいいてぇ……言っちまっていいかな、いいよな? バレても友達が危ないからって言えば見逃してくれるよな?)
手段はある。だが実質的に場に出せないカードにフラストレーションが溜まっていた。
(よし、決まりだ。やるぞやるぞ、滅って言うぞ。殺すつもりはない、ちょっと手足が不自由になるだけだ。お前等から仕掛けたんだからな)
精一杯無茶な言い訳を重ねた札折はついに決心する。
それはヒーローが決して取ってはいけない手段。
(すまんなヴィラン。お前等より友達の命の方が優先だ)
「滅」
ボソリと小さく、震えた声で言い放つ。
そして、緑谷を捕まえていた脳無の腕が、関節をくり抜くように消滅した。
☆
それを見ていたのは緑谷唯一人だった。
(札折君の結界にはこんな使い方があったのか、対象の一部分だけ覆うことで結界内の部位を動かすことができなくなる。黒霧のときもそうだ、札折君の個性はただ結界を張るだけじゃないんだ、神経伝達の阻害って効果じゃない。もっと広い範囲でナニカを操作しているんだ。黒霧の個性はワープ、つまり出入り口を作ることでその間を移動する。在り来りだけど、だからこそわかりやすい。移動先の指定、それを札折君の個性が弾けているということは、指定を阻害しているということ。考えられるのはいくつかあるけど、脳無の腕を拘束できるってことは結界の中は実質的な別空間とも言えるってことだ。繋がっているようで、結界の中と外は別の繋がり、だから関節を動かすための信号が届かない。でも指先は動かせているってことは……)
極限状態で死の淵にいるにも関わらず、緑谷は札折の個性を推察していた。
自分の個性は脳無に通じない、唯一札折の個性だけが効果を見せている。だからこそ考えを巡らせる、札折が隠している特性を見つけてこの場を脱するために。
そんなときだった。
「え……」
緑谷を掴む腕に何度目かも分からない結界が張られ、収縮した。
初めて見る現象に瞬いている間に、脳無の拘束が外れて緑谷が地面に落ちる。
「脳無、お前その腕はどうした」
次いで変化に気付いたのは死柄木だった。
腕から先を失っている脳無に首を傾げるが、関係ないとばかりに轟に掴みかかろうとする。
なぜ死柄木が仲間であり、平和の象徴を打倒しうる人材の負傷に興味を示さないのか。
「な……治って」
緑谷が疑問に思うよりも早く、脳無の腕が回復。いや、再生してく。
十秒もしないうちに元通りとなった腕が、再び緑谷を襲う。
今度は掴むなんてことはない、固く握られた拳が緑谷に迫る。
しかし、USJ内部全域に伝わるほどの破壊音が入口から上がる。
あまりの出来事にエントランス、そして中央にいた全員の視線が煙を上げる入口に向けられた。
落ち着いた革靴の音を鳴らしながら、煙を体で切って徐々に乱入者の姿が顕になる。
方やその姿に緊張を滲ませ、方やその姿に安堵と希望を湧き立たせる。
「皆、もう大丈夫」
成人男性が見上げるほどの体躯がスーツの上からでも分かる肉体、オールバックに固められた金髪。
「私が来た」
安心と希望を与える笑みが似合う顔に阿修羅の顔を貼り付けて現れた存在、オールマイトの登場に場の空気が反転した。
アニメでオールマイトの登場するシーン、めっちゃテンション上がったのを憶えてますね
「うぉおおおお!」て叫んだのは自分だけじゃないはず
アレはアニメじゃないと味わえない感動ですよね~