仮面ライダーになれたら   作:赤椿

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あんまり続く気はなかった(インスピレーション元の歌約4分のイメージはすでに終わっているため)


その2

 フッ、フッ、フッ。

 

 

 拳を振るうたびに、切れる息。

 

「ハッ! ……おりゃあ!」

 

 近づく敵を、無我夢中になり殴り蹴り、暴力で持って沈める。

 やらなければやられる。後ろの彼女は、まだ何も事態を飲み込めていない。

 

「えっ、今絶対ッ死、だって人がッ……! 変わって……!?」

 

 

 ある程度周囲の敵を殴り飛ばしたことで余裕が生まれ、彼女に駆け寄った。

 

 

 彼女は座り込んだまま後ずさった。

 しゃがみ、目線を合わせ、手を握る。震えていた。

 

 

「怖い思いをさせてごめん、だけど俺にも分からない」

 

「わわ、わからないって! でも自分で……、しかも変身ってどういうっ!」

 

「本当にわからないんだ。でも、こんなおかしくなった街でおかしなことを問い詰める時間はないかもしれないと思わないか? 怖いと思うけど、信じて、ほしい」

 

 あのヒーローのように話せるとは思わなかったが、最後はなんだか変な喋り方だったし、途中で自信をなくしてしまった。

 

 当たり前だが俺だって動揺している。

 

「で、でも……急に信じてなんて言われても、今のあなたは……」

 

 でもそれだけじゃこの状況を飲み込めない彼女は決断ができない。当然だろう。災害ではなく、殺意を持った命の危機なんて訓練された軍人でもおかしくなるのだ。

 

 こういうとき、ヒーローならなんというか。

 

 俺なら、どんな言葉がほしい? 

 

 

 ………………。

 

 

「ごめん」

 

「……え?」

 

 一言だけ謝ることにした。

 

 人のことを考えられる余裕がないのに、気遣おうとするのは傲慢だ。自分が今できることをする。

 

 それは、目の前の彼女を守ることだ。

 

 彼女の膝裏に腕を回し、抱き寄せる。

 

「また、少し怖いかもしれないから目を瞑って」

 

「……は、はい」

 

 彼女の目がギュッと結ばれたのを見て、深呼吸。

 

 根拠はないけど、できるということだけは何故かわかった。

 

 

 空を見上げる。黒煙の先に白い雲が浮かび、青い空が見える。

 

 

 もう一度息を吸う。そして、深く深く息を吐いた。

 

 自分の中の怖い気持ちをすべて吐き出したら、もう一度大きく息を吸った。

 

 川が海へ還る様な、大きな流れをイメージして、つぶやく。

 

 

「超変身」

 

 

 腰のベルトが青く明滅し、身体組織が作り変わる。

 

 そして、跳躍。

 

 眼下には、車が乗り捨てられ、スクーターが倒れて火を吹いていた。

 

 

「た、高いです!?」

 

 彼女は目を開けていた。だが、さっきほど狼狽えてはいなかった。

 

「舌を噛まないようにして。もうすぐ、落ちるから」

 

 放物線のてっぺんまで来たところで、二人は重力に引かれて落下していく。

 サイレンが鳴り響いた方向に向かって飛んだが、どうやら警察署のようだった。入り口にはバリケードがあり、警察署の中を緊急の避難場所として籠城している。

 

 いや、そうするしかなかったのだろうか。

 

 赤い飛沫の付いた盾を怪人たちとの境界として、多くの警察官が今も建物に逃げ込む人々を守るために死んでいく。

 

 屋上に着地し、彼女を下ろした。

 

「下ろすよ。ごめん、急に跳んじゃって……」

 

「……」

 

 まだ浮遊感が抜けきっていないのか、千鳥足になりながらまた座り込んだ。

 

 自分の肩を抱きながら、こちらを見上げ、恐る恐る手を伸ばして、こちらの右手の人差し指を弱々しく掴んだ。

 

「…………お客さんは、いつものお客さん、なんですね」

 

「そうだね……不思議なことにね、店員さん」

 

「身体が変わったとき、あなたも化け物なんだ、裏切られたと思った」

 

 当然だろうと思う他ない。視線が揺れた。

 

「あんな馬鹿な発明家のせいで、おかしくなったんじゃなくて、前からおかしくなってたと思ったけど……」

 

「けど?」

 

「超変身って、なんか急に呟くものだから……耳元で聴こえて……その声音が、いつものお客さんのありがとうと同じだったから、その……信じようって、思い、ました」

 

「…………ありがとう」

 

「えだ、いやありがとうはこちらの方で!」

 

「ありがとう。ちょっと不安だったんだ。俺も、怪人みたいに、実は全部偽物でおかしくなってからここに立っていたのかもって」

 

 彼女の目はまっすぐこちらを見ていた。

 

 だから、こちらの青い目でまっすぐ彼女に視線を交わす。

 

「だから、貴女が俺のことを何時もと同じだと言ってくれて、すごく嬉しい。俺もちゃんとここにいる人間だって自信が持てたから」

 

「そんなこと……」

 

「だから、行くよ」

 

 彼女の指を解く。立ち上がる。

 

「警察官がいっぱい死んでる。ここの中にみんな逃げ込んでるけど、多分耐えられない。逃げるのはもう無理だ」

 

「なにを、するつもりなんですか?」

 

「みんなを……」

 

 

 ここで言葉に詰まった。

 

 みんなを守る、と言葉にしようとしたとき、その言葉に掛かる責任の重さに潰されそうになったからだ。

 

 今ならまだ逃げれるぞ。言葉だけならいくらでも出る。無理なんてしなくていい。

 

 心の中の悪魔が唆す。

 

 街を見た。

 強化された視力は余すことなく悲劇を見つけ、聴力が強化されたことで命の音が不意に止まるのに気づいてしまう。

 

 その時、様々なマシンボイスが聞こえた。

 

 発着メロディ。笛の音。呪文。システムボイス。

 

 そして、雄叫び。

 

 年若い声から、自分と同じか少し上くらいを思わせる声もある。

 

 夢は一つじゃない。顔も知らない誰かがいるかもしれないなら、ここは踏ん張ろう。

 

「おかあさん!」

 

 悲鳴が響いた。

 急いで下を見ると、母親が躓いてしまいワームがその後ろに迫っているところだった。

 

「はやく! 中に入って! お母さんもすぐ行くから!」

 

「やだ! いっしょじゃないと嫌だ!」

 

 母親の元へ駆け出そうとして後ろから警察官が子供を抱きかかえて逃げ出す。

 

「クソっ! なんで俺たちはこんな……ッ!」

 

 警察官達が母親に迫るワームを撃ち始めたが、それで止まっていたらこんな状況にはなっていない。

 

 自分という凡人でも、誰かが泣いているこんな状況は許せない。それが今の心を占めている。

 

 

「みんなの笑顔を守る」

 

 

 故に何も迷いはなく、言葉がするりと出た。彼女に背を向け、走り出す。屋上から飛び出し、構える。

 

 

「超変身ッ!」

 

 

 重力に従い、重さを増した身体がアスファルトにヒビを作った。母親に迫るワームたちの前に盾となるべく飛び降りた自身の体は紫。

 

 

 一瞬の静寂

 

 

「……クウガ!」

 

 

 子どもの声が静寂を破り、戦いの火蓋を切った。

 紫のクウガ、タイタンフォームの特徴は、固くて強いというシンプルなもの。それは剛健な壁であり、時には槌のように敵を薙ぎ払う。

 

 警察官達は自身にも銃を向けた。

 

「仲間割れだ!」「あれはどこから来た!」「空からだった。てことは飛べるのか?」

「どうする! あんな馬鹿力、俺達じゃ殺せないぞ!?」「でもあれって、まさか……」

 

 

 案の定、パニックが起きた。

 

 でも、いいんだ。

 

 笑顔を守るためになら、いくらでも頑張れる。子供の頃に見たヒーローが、ヒーローであった理由が少しわかった。

 

「……ォラァ!」

 

 気合を込めて、発声とともに拳を撃てば、ワームが吹き飛ぶ。

 

 ガーディアンの銃弾から盾となりながら近づき、胴体に風穴を開ける。

 

「オラァ!」

 

 ヒューマギアの装甲が思いの外脆いおかげで簡単に粉々にできたが、この姿の弱点は重厚な装甲と強靭な肉体と引き換えに増えたウェイトだ。

 青はまだしも、赤のときよりも体のキレが悪い。

 

 後ろからなにかに組みつかれた。解きはできるが、その隙をついてワーム、ガーディアン、ヒューマギアが雪崩のように押し寄せてくる。各々の武器を、爪をこちらに伸ばしてダメージを蓄積させていく。

 

「くっ、数が多い……!」

 

 母親はもう逃げたようだ。敵の注目はこちらに向いた。

 

 後のことを考えていなかった

 

「でも、コイツらを何処かに引き離せば……!」

 

 そうすれば、少なくとも警察署のみんなは守れる。

 

 だからこそ、力を振り絞り腕をふるった。

 

 顔を誰かに掴まれ殴られる。振動までは防げずにくらくらする。

 

「クウガ! 負けるな!」

 

 声を耳にしたとき、気づけば右手を掴み抑えたやつのことを振りほどきながら、ワームの手の爪をへし折り、力を込めた。

 

 クウガの力でそれはタイタンソードへと変身し、それを片手で思いっきり振りかぶりながら地面に叩きつける。

 そして、もう片方の腕も振りほどき、両手でタイタンソードを握りしめて風車のように回転、周囲の敵を斬り伏せながら、バリケードに近い順に斬り続ける。

 

「ハァ……ッ! ハァァアアア!」

 

 言葉にもならない雄叫びを上げながら敵を一体ずつ斬り続けた。

 

 だが、もう少しというところでワームに変化が現れる。

 

 蛹が孵化する。異常な熱を放ちながら、5匹のワームがその本性を表した。

 

 屋上からこちらを見る目が、またも心配の表情を浮かべている。

 そんな顔をさせるために戦っているわけじゃないとは思っていても、誰かの笑顔を守りたいとカッコつけたはいいものの番組のように補正などかからないものだなと自嘲する。

 

 

「頭を下げて!」

 

 不意に声が聴こえて、とっさに言う通りにする。

 

「これでも喰らえ!」

 

 頭上を黄色のラインが入った黒いブレードが通り過ぎる。

 

 ワームのサナギ達がブレードにより切り刻まれながら、爆散し、そのままのスピードでブレードの切っ先は壁に突き刺さった。

 

 

 とっさにワームの成虫たちは姿が見えないほどの高速移動を行うが、一秒もしない程の時間で気づけば眼の前から消えて……。

 

『必殺! フルスロットル! マッハ!』

 

『ライジング テラ インパクト』

 

 白い光と蛍光色の光が目の前を走り、影が現れたかと思えばワーム達が爆散。

 

 

 

「それ使いな!」

 

 

 とっさにブレードを掴み、タイタンソードへと変身させる。

 右腕のタイタンソードと左腕のタイタンソード。剛腕を以て思い切り振り回し、バリケードまで近づいた奴らを真っ二つにした。

 

「良かった。なんとか中の人は守れたみたい」

 

 入り口のガラス越しに親子の姿が見えた。母親に抱きしめられた子どもがこちらにサムズアップを向けてきた。

 

 気恥ずかしいが、こちらも返す。

 

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!」

 

 後ろから思い切り背中を叩かれる。

 

 仮面ライダーゼロワンの下から出てきたのは、髪を染めた若い女性だった。

 

「ねぇねぇねぇ! よくあんなでかい剣持てたよね!? その姿ってやっぱり仮面ライダーなん!? うちら以外にもやっぱ変身できた人がいたんだ!」

 

 ……ちょっとテンションに追いつけないかもしれない。

 

「おい、落ち着けって」『オツカーレ』

 

 白い仮面ライダー、マッハも変身を解き歩いてくる。中から現れたのは、マッハのときとは対象的に黒い服で統一した若い男だった。羽織った革ジャンには埃が被って、擦り傷がついていて、ここに来る前に彼も大変な目にあったんだなと言うことがわかる。

 

「とりあえず、あなたも変身解いて。いたずらに刺激しちゃうから」

 

 彼が俺の後ろを指差すと、そこには盾が並んでいた。

 

 

「手を上げて武器を捨てろ!!」

 

 …………今変身の解き方がわからないなんて言えないな。

 

 

 

 

 

 

 




感想から見える期待に応えられているのか不安ではありますが、少し続けようかと思います。

プロットもなにもないまま、感動した歌の流れに沿ったので続きを全く考えてませんでしたが区切りがつくまで書いてみようと思います。

もう少しお付き合いくださいませ。

2025/07/16
次話保存したつもりでページ遷移したら、1万字くらいのもの消えちゃったのでちょっと心折れちゃったのが踏ん切りついたので復元なんとか頑張ってます。もう少しお待ち下さい。
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