仮面ライダーになれたら   作:赤椿

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世界は進む、されど戦士は目覚めず

 フェニックスとの激しい戦いを制した仮面ライダーウィザード=晴は、傷ついた体を癒すために深い眠りについた。

 連戦を重ねていたクウガも同様に、気絶したせいか白い姿に変わってから人に戻り今は晴の横に寝かされている。

 文字通り泥のように眠っている彼らを置き去りにするように、避難所と化した警察署を取り巻く状況は変わりつつあった。

 

 

 

 署内、会議室。警官とその後ろに控えるように仮面ライダー2人が机を挟んで青年と向かい、新しい客人と対面している。ウィザードとクウガが眠りについて3日、小規模の怪人襲撃を仮面ライダーゼロワンとマッハによる尽力でなんとか日々を繋いでいる状況だった。

これがもし一週間も続けば、食料もそうだが、おそらく人の心の方がもたないだろうと誰もが諦めかけた時に、彼は来た。

 

 

「つまり、ずっと暴れてた怪人たちはその実フェニックスの脅威から本能的に逃げてきていたってことか……」

 

「簡単に言えばそうなります。あくまで共に戦っていた者の推測になってしまいますが、他の地域からも集められた情報を合わせるとそうなるようです」

 

 黒いスーツを着こなして銀フレームの眼鏡を掛けた青年、蔵馬 遊助(クラマ ユウスケ)と名乗る彼の話した情報。怪人にはテリトリーがあり、縄張りを守る動物のようにそれぞれお互いに牽制しあっているという。それは、なにも解らずに戦い続けていた警察署の面々にとっては、現状の理解という面で非常に大きな意味合いを持つ。

 

 

「ってゆーことは⋯マジシャンくんが倒してくれたフェニックスって本当にヤバかったってこと?」

 

 仮面ライダーゼロワンこと斉藤 紗綾(サイトウ サヤ)は蔵馬の話を聞きながらようやくフェニックスというファントムの脅威の大きさについて理解してしまったようだ。

 

 

「いやだから話したじゃん⋯普通倒せないんだってアレ」

 

 シグナルバイクを右手で弄りながら、姉である紗綾に対して斉藤 光(サイトウ ヒカル)は呆れたようにため息をついた。彼もまた仮面ライダーマッハに変身する戦士の一人、ゼロワンに変身した紗綾の実の弟だ。

 

 

「もう、だからため息禁止! 仕方ないじゃん! 私、ゼロワンからしか見てないんだからあんたみたいにすぐ聞いて「あぁ、あいつね」みたいな超速理解とかできないんだってば!」

 

「だから、説明しただろ! 不死身の怪物だから本編でも太陽に落とすしかなかったんだよ!」

 

「そんな本編がどうとかの話なんかされても分かるわけないでしょ!」

 

 姉弟喧嘩が始まりかけたところで警官が2人の間に割って入り、無理矢理止めさせる。今は一刻の猶予もない。そんなことで時間を消費するのは得策ではないからだ。

 

「2人の仲の良さはわかったから、話を進めるぞ……。蔵馬さん、あなたの話した提案について、ここからの避難計画について話を詰めたい」

 

 警官は机に地図を広げながら彼に問いかける。

 

「単刀直入に言う。本当にこの署内の住人約60名。無事に逃げられる保証はあるのか?」

 

 彼の指が地図上の警察署を指差しながら、紙面を滑る。そして、ある場所で止まった。そこが、蔵馬の提案した避難先だ。

 

「私一人では難しいでしょう」

 

 直線距離で8キロ、道なりに行けば12キロはある。

 警官は思う。ここで耐えることは現実的ではない。だが、安全な保証もない。

 今の警察署は本来避難所としての機能は不十分だ。最初の戦いの際の怪我人の対応や、連絡の取れなくなった人員のリストアップ。さらに避難民の健康確認から始まる全体数の把握と食料等配分の管理。医者の協力があったことでまだ動ける人員は多少は増えたが、防衛を担えるほどではない。

十分な蓄えもないし、医療品もこれ以上怪我人が増えればまともに治療すらできない。

八方塞がりな状況で彼の顔は険しくなってしまった。

 

「リスクはあります。この状況での集団での移動は、狙ってくださいと言わんばかりの的ですからね。投げ網で魚群を捕まえるよりも簡単でしょう」

 

 ですが、と蔵馬は続ける。

 

「幸いにも、ここには人を逃がすためには適任となるライダーが2人もいる。密に連携を取り、ベストを尽くせば必ず成功できる」

 

 彼はそう言って、今もなお掴み合いをしている姉弟へと眼を向ける。

 

「悲しいことだけで世界は回らない。人が力を尽くせば、困難な状況だって逆転できる。そうでしょう?」

 

 

 

「そうだな。……確かに、マインドの問題でもあるか」

 

 蔵馬の言葉を聞いた警官は、頭のなかで凝り固まっていた凝りがほどかれるような、少し安心を得た気分になった。

 

 予断も油断も許さないが、見えている希望も諦観で見つめては絶望でしかない。人の命が懸かっていることだからこそ慎重さは大事だ。しかし、このまま殻に籠っても何も出来ずに終わりを待つだけかもしれない。

 蔵馬は、そんな状況から抜け出せるかもしれないアイディアを持ってきてくれた。

 自分たちだけでは作れなかったチャンスを持ってきてくれたのだ。一度ここは信じてみるのもいいかもしれない。

 

「蔵馬さん、計画について詰めさせてください。あなた達の計画に対して、警察としての経験と知恵で補強出きるかもしれない」

 

「えぇ、勿論です! むしろこちらからお願いしたいことでもありましたよ。素人の浅知恵が作った大枠を、是非警察官としての眼で見て隙をなくして欲しい」

 

 蔵馬は少々お堅く見えるその見た目からギャップを感じるほどに破顔した。

 

「えっ、メガネにスーツなちょっと強面イケメンの超スマイル、なんかイイ……」「アホ姉貴……お前何をこんな時に萌えてんだよ……」

 

 

「いや、ちょっとそう言われると恥ずかしい……。まぁ、私も警察署なんて初めてだから緊張しちゃってて。少しだけ知っていたんです。ここにいる、あの2人の仮面ライダーのこと。フェニックスの戦いの余波はこっちでも見えてたので。こっちもこっちで死に物狂いだったから助けに行けなかったことを死ぬほど後悔したけど、結末を聞いて本当に、あんな強敵をも倒した二人はまるで本物の仮面ライダーみたいに思っちゃって、自分もそれに及ばずとも近づけるようにと知らず意気込んでしまったいたようです!」

 

「(急にしゃべりはやっ!)」

「(なんか親近感を感じる…)」

 

 言い訳のように早口で捲し立てた蔵馬の様子に、光はなんとなく同族の気を感じる。なんとなくこの人話してたら仲良くはなれそうだ、と。

 

「では早速ですが、ここの正確な人数を……」

 

「あぁ、こっちにリストが……。あとは怪我人の内訳も、逃げてきた中に医者がいたからそちらもリストにしてある」

 

「怪我の度合いも纏めてある……。これはありがたい。ルート選定に役に立ちます」

 

 机を挟んで書類を手にホワイトボードに情報が書かれては消され、より纏まった情報になっていく。地図を見ながら、状況を整理してより確実なものにするために言葉が飛び交うのを見て姉弟は眼が回りそうなほどだ。

 ドラマで会議室の上層部を叱責する主人公が良く出てくるが、こう見ると会議室にも戦いの場があるのかと思う。

 

「2人とも、少し来てくれ。君たちの力に関して改めて聞きたい」

 

「えっ、あ、はい!」

「あっ、え、ハイ!」

 

 改めて机の側まで来た2人は、地図に貼られた付箋と走り書きまみれの裏紙を覗き見る。

 

「あぁ、この内容はわからなくても良い。君たちに聞きたいのはそこまで難しいことではないんだ」

 

 蔵馬の言葉に続けて、警官が口を開く。

 

「2人とも、変身してからの最高速度はいくつだ?」

 

 スペックを暗記していた弟が即答して姉は引いた。

 

 

 

 

 

 

 その頃、怪我人用に開放された一室。

 平時であれば留置所として機能する部屋は今は簡易的な診療室になっていた。

 時折怪我人の痛みを堪える声や、子どもの泣き声がする。

 

 そんな中で、他の人とは離れて寝かされているウィザードとクウガに変身した2人。

 彼らの枕元には子どもが作ったであろう家電量販店のチラシの手裏剣と鶴が並べられている。

 

 見える肌に絆創膏やガーゼが貼られており、見た目は痛々しいが、特に苦しそうな様子はなく、本当にただ深く眠っているようだ。

 

 声が響く。

 

【……ふむ】

 

 指輪の表面に反射した風景が歪み、ドラゴンが現れる。

 

【晴はまだ魔力が回復しきっていない】

 

【隣の男も、体を限界まで酷使したことでまだ眠りからは目覚めそうにないか】

 

その時、足音が響いた。

 

「……2人ともまだ起きない、か」

 

 ドラゴンがドアの方を見れば、そこには足音の主である少し汚れた白衣を着た医者が入ってきた。

 ドラゴンが写っていた指輪の表面が揺らぎ、そこには元の風景が映り込む。

 

「病院の機材使えたらもう少しちゃんと見てあげられるんだけど、贅沢言えないか」

 

 医者は独り言を呟きながら、彼等の怪我の具合を確認する。

 

「胸の切り傷……やっぱり治ってるな。怪我をしてからの経過時間を考えたら瘡蓋ようやく出来てるくらいなのに、もううっすらしか傷跡が残ってない」

 

 治療のためと貼っていたガーゼ達が既に意味を成さなくなっていることを確認して治りが遅い火傷の方を再度診察する。

 

「頑張って治して、目覚めてくれよ。」

 

 医者はそう言って、治療のためにはだけさせた彼等の服を戻して、静かに片付ける。眠れるヒーローの邪魔をしないように、静かに彼は片付けを終えた。

 

 そしてポケットから、今度は交通安全ポスターで作られた鶴を何羽か枕元に添える。

 

 

「おやすみヒーロー、よい夢を。お大事に」

 





更新できていない間も評価もお気に入りも数字が増えていってて、なんだか期待に応えられるのか怖くなっていました。
でも、期待に応えられるかも確かに大事ですが、セイバーを久しぶりに見ていたら自分で作りたい物語と登場人物に込めたメッセージを描き抜くことも大事だなと思い直したので、頑張ります。
また、良ければお付き合いください。
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