「では予定通りこの周囲のエーテリアスの掃討を開始します。万が一に備えてカリンはアカリ様の近くで待機を」
「お願いね、カリンちゃん」
「はっはい、かしこまりました!全力でお守りします!」
ここはとあるホロウの中。
満月が足元を照らす中、車椅子に乗った女性を守るように周囲に展開していく執事服とメイド服の集団がいた。
彼らの名は『ヴィクトリア家政』。
お茶の提供から施設の整備、お客様のメンタルケアなどあらゆる家政業務、そしてお客様の安全を確保する護衛・戦闘行為まで全てを完璧にこなす全能な従者達。
彼らは今回車椅子の女性『アカリ』に依頼され、ホロウの中への同行及び道中の護衛を行っていた。
「周囲の安全の確保、完了。全員そのまま警戒を続けつつ待機を」
「はぁ…ねむ…手応えなさすぎでしょ」
「エレン、お客様の前です。はしたない態度は慎みなさい」
「ワタンナッ」(アカリ様こちらの紅茶をどうぞ)
「あらありがとう、頂くわ。皆さんも楽にしていただいて大丈夫ですよ」
人のいないホロウの中は不気味なほどに静けさを纏っており、だだっ広い空間に自分たちの喋り声や体を動かす音だけが広がっていく。
「そういえば今回のご依頼はホロウへの同行・護衛でしたが、アカリ様は何故このホロウの中に?
差し支えなければ、教えていただけないでしょうか」
「ええ、かまいませんよ。と言ってもそんなに深い事情ではないのですが…最近、あるホロウについての噂話を聞いたことはありませんか?」
「噂話、ですか?」
「あっ、私聞いたことがあります!確か、もう一度だけ会いたい人に会えるホロウがあるとか」
「えー何それ嘘くさ…」
曰く、『会いたい人にもう一度だけ会える』、『リアル霊界通信』、『思い出が蘇る地』。
インターノットではそう噂されている最近ホットな場所だ。
「確かに信じ難いのですが、実際に会えたという方が既に何人かいらっしゃって、インターノットでも小さく話題になっているんです」
「あら、でもそこまで話題になっているのならかなりの人がそのホロウに入ってしまってもおかしくないのでは?」
「実は場所は明かされてないんです。それが敢えてなのか意図的なのかは分かりませんが、実際に会ったと言われる人に聞いても『答えられない』の一点張りらしく…」
「誰かに口止めされているということでしょうか…ふむ、少々興味深いですね。…おや?ということは、我々が今入ってるホロウはもしや?」
「ええ、お察しの通りここが『会いたい人にもう一度だけ会えるホロウ』です」
「なるほど、しかしどうしてこのホロウだと確信を?」
「…私の友達の妹が第一発見者で、彼女から詳細を聞いたからです」
全員がびっくりしたように目を見開いたが、なるほど道理でと納得もした。
第一発見者本人の証言なら確実だろう。
ましてや親しい間柄で嘘をつかれている心配も少ない。
「どなたか会いたい方がいらっしゃるのですか?」
「そうですね…会って、言いたいことが。できることなら姿も見たかったのですが…」
そう憂うように笑ってみせるアカリの目には何も映さない。
旧都陥落の日、エーテルが目に侵食。
なんとか一命は取り留めたものの、失明をしてしまっていた。
「心中お察しいたします…恐れながら今回は我々が貴方様の目となり、可能な限り見たことをお伝え致します」
「ええ、どうかお願いします」
ふと、そよ風が頬を撫でていく。
満月を流れてきた雲が覆い周囲は薄暗くなった。
周囲にエーテリアスの気配はなく、ただ会いたい人に会える時を待っている。
不意にカラン、と金属が落ちたような音が響き渡った。
「あらごめんなさい、私ったらスプーンを…」
「いえ、こちらで回収致しますのでなにも──っ!全員、警戒を!」
月を覆い隠していた雲が退き再び明るくなると、先程まで何も無かった目の前の広場に、人型の何かがいた。
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呼んだ?呼んだよね?ってことで呼ばれて飛びててジャジャジャジャーン!
ゆーまちゃんですっ!
とか言ってる場合ではないんですよね、絶賛人間とエンカウント中です。
ええそうです、ただいま例の死者蘇生!(大嘘)活動の真っ只中。
今回のご要望はこの前のシオンちゃんの時とどう見ても同じ人物のユリちゃん。
同じ人物を求めるとは世間は狭いですなぁ。
それよりも僕は今とても見過ごせないことがありましてぇ…。
ではあちらの護衛の方々をご覧下さい。
左からべっぴんさんべっぴんさん、一人イケメン、べっぴんさん。
そしてこの人たちみーんな執事服&メイド服ときて僕はとてもじゃないけど大興奮。
なにあれ?見た目最高かよ。てかリアルであの格好を見ることになるとは思ってなかった。
心のカメラで永久保存っと…。
そんなこんなで彼女らの前に降り立ってみたもののちょー警戒されてるぅ!
んまぁそれはそう!
だってこんなとこに子供がいるの明らか違和感ありすぎて警戒するわ。
どうか攻撃しないでクレメンス。
とりあえず笑顔で手でも振っとけばええか…お、ゆっくり近づいてきた。
「そこに、いるの?ユリちゃん」
「うん。久しぶりだね、アカリちゃん。おっきくなったねぇ…でも車椅子に乗ってるから今は身長同じくらいかな?」
僕が喋るやいなやみんなびっくりした顔をしている。
また僕なんかやっちゃいました??
なーんて、この反応はもう見慣れましたねぇ。
会う人会う人みーんなこんな反応。
「えっと、そっちの人達はアカリちゃんの家の人?初めまして!私ユリって言います!」
今回のアカリちゃんという方、記憶によるとどうやらいいとこのお嬢様らしい。
なるほどだからメイドさんとかが控えてるのか、納得!
「これはご丁寧にどうも、ユリ様。私共は『ヴィクトリア家政』です。今回はアカリ様とユリ様の面会の時のため、自己紹介は省かせて頂きます。
アカリ様、我々は後ろで控えておりますので、何かありましたらお呼びください」
「ありがとうございます」
くぅ〜っ!カッコイイ!!
なにあのイケケモ執事さん!?紳士でカッコイイ上に声までイケボとかお前最強か〜?
ヴィクトリア家政かぁ…みんな所作が優雅でいいなぁ…。
家政ってことは家政婦、ってことだよね?てことは雇えるのか。
もし外に出て安定した暮らしができるようになったら雇ってみたいな〜。
ま、無理だろうけど。
「…ねぇ、ちょっとおしゃべりしない?」
「え、したい!アカリちゃんの最近あったこととか聞きたいな〜!」
「ふふ、じゃあまずは───────」
…………………………………………………………………………
「───────で、結局そのボンプのお陰でお父さんは助かったの」
「まさかあの時助けたボンプが役に立つなんて…お父さんも運がいいんだね」
おしゃべり楽しー!!
いやー今回はただおしゃべりしてるだけだから楽しいったらありゃしない!
というのもですね、僕に会いに来る人って知っての通り思いが重いんですわ。(激寒)
それ故に当時の懺悔だったりとかを聞いてあげたり、こういう慰めもしくは励ましの言葉を求めてるんだろうなって囁いてあげたりするばっかりだったんですよ。
多少なりともコミュニケーションはとれてはいるかもだけど、あんまり喋った感はなかったんですよね。
それに対してアカリちゃんはただおしゃべりしに来ただけ。
こっちの言うことにも色んな反応してくれるもんだから、危うく自分が他人の思い出から故人を騙ってるカスであることを忘れて楽しんでました。
会話にちゃんとしたキャッチボールがあるって大事なんだぞ!分かったかお前ら!!
「ねぇユリちゃん。私の手にあなたの手を置いてみてくれる?あなたに触れたいの」
「うん、いいよ!はい!」
女性らしい細くて綺麗な手だな〜、傷一つないや。
それに比べてユリちゃんの手はちっちゃいね〜。
思い出当時のユリちゃんと成長したアカリちゃんとじゃやっぱりサイズに差がありますなぁ。
それはそれとして手をギュッとして指でスリスリするのちょっとこそばゆいのでやめてもろて…。
「うん、やっぱり、そうね…」
「うん?どしたの?」
「ううん、やっぱりあなたは」
「ユリちゃんじゃないわね」
「え」
え
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話していく度に何となく気づいていた。
「ア、アカリちゃんったら何言ってるんだか。お、面白い冗談だな〜あはは」
目の前の彼女は声も、雰囲気も、喋り方も、ライカンさん達に教えてもらった容姿も全て、思い出の中にあるユリちゃんそのままだった。
「ああ、ふふっ、誤魔化し方が違うわね。あの子は嘘をつく時は抱きついたりして過剰にスキンシップをとる癖があるのよ。口先だけで誤魔化そうとするほど器用じゃなかったわ…」
「え゛っ」
だけどなんとなく。
なんとなく、ユリちゃんではない別の誰かを感じた。
会話が進んでいくごとにその感覚は増していった。
多分、目が潰れていなかったら、こんな細かいことに気づくこともなかったかもしれない。
「あなたはどうしてユリちゃんになってるの?」
「……」
「ごめんなさい、別に怒ってるわけじゃないの。ただ、何を思って姿を騙って私の前に出てきたのか気になったの」
「……あなたが、ユリちゃんを求めていたから」
「それは私を喜ばせるため?」
「あなたの未練を晴らしたかったから」
「─────ぷっ、あはははは!」
目の前の存在がもし幽霊なのだとしたらとんだ笑いものだ。
この世に未練を残したから存在するはずの幽霊が、生きたものの未練を晴らして回っていたのだから。
「ああお腹痛い。こういうこと今までにもやったことあるんだよね?全部同じ理由?」
「…うん」
「そっかぁ…あ、じゃあさ、あなたって幽霊なの?」
「違う」
「じゃあ人間?」
「私はそう思ってるけど多分違う」
「なにそれ?うーん、じゃああとは……えっ、もしかしてエーテリアス?」
「……多分、そう」
にわかには信じ難いことを言うものだと思った。
こんな知らない人のために尽くそうとする子がエーテリアスなどと。
というよりエーテリアスが自我をしっかり持っていて話せることの方が興味深いところではあるけど。
「ふーん……なんかさっきからちょっと不機嫌そうじゃない?」
「勝手に自分のこと丸裸にされたら誰でも不機嫌になると思いますけど…」
「まぁそれもそうね。で、ここからが本題。というか私がここに来た理由なんだけど……まずあなたの本当の姿は?今なれる?」
「え……いや、なれはするけど、アカリちゃ…さんは見えないんでしょ?」
「そんなこと気にしなくていいから本当の姿になってくれない?さっきから声とかはユリちゃんなのに気配は知らない誰かで違和感がすごいのよ。あとアカリでいいわよ」
「…わかった」
そうして目の前で何か姿が変わっていくような気配を感じるとあっという間に今まであった違和感が消えていった。
「これでいい?」
「ああ声も全然違うわね、ありがとう」
「で、僕を元の姿に戻して一体何がしたいの?」
「それはこっちのセリフよ、他人に化けてあなた何がしたいの?」
「いやだからそれはここに来た人の未練を晴らさせたいって」
「それは建前でしょう?なんの見返りも求めずにただ未練や後悔の嘆きを聞き続けれるほどの聖人なんて今の世の中にいるはずがないわ。あなたの本当にやりたいことを教えなさい」
「……」
言うかどうか迷っている気配がする。
何を迷っているのか…いや、まだ迷う要素はあった。
こうなったらとことんお膳立てしてあげようか。
「あなたがエーテリアスかどうかとかそういう関係なくやりたいことを言って。ここには私しかいないわ」
「!……いろんな人と沢山おしゃべりしたい」
「それだけ?」
「ジャンクフード食べたい」
「おいしいものね、他には?」
「映画見たい、人と遊びたい、パーティーしたい!」
「それで終わり?」
「外に出て、人と変わらない普通の生活がしたい!!!」
「──やっと言えたじゃない」
ただ普通の生活をしたい。
たったそれだけの事を願った。
いつか何か自分に報いがあると信じて人に尽くし続けた彼女が心から願った。
現状から変わりたいと願ったのだ。まるで昔の私のように。
ならば助けてあげるべきだろう。
「その願い、私が協力してあげる」
「え?」
「まずは外に出れるかどうかよね。エーテルってホロウの外に出ると霧散するんでしょう?あなたそこはどうなの?」
「え、いや、多分出れると思うけど…じゃなくて僕多分エーテリアスだよ?外に出たら人が危ないかもしれないじゃん」
「なに、あなた人を襲う予定があるの?」
「いや無いけどぉ!そ、それに何か対価を僕に要求してくるんでしょ?僕何も出せるものないよ」
「あらそれならもうあてはあるわよ。なんならもう既に貰ってるわね」
「え」
「…ユリちゃんからもしもの時はって頼まれてたのよ、あの子を妹をお願いって。この前の事件で危うく約束を破るところだったわ。私、親友との約束破るくらいなら死を選ぶわ。だから、あなたがシオンちゃんを守りなさい。それが私が求める対価よ」
戸惑っているのが声からわかる。
都合が良すぎるとでも思っているのだろうか。
でも私は最初からずっと本気で言っている。
「え、いや、でもぉ…」
「でもじゃない!こんなにおいしい条件ぶら下げてお膳立てしてるのに何時までも足踏みしない!ここを出たいの!?出たくないの!?」
「〜っ出まぁす!!!!」
「そう!それでよし!!何か困ったら私に頼ること!いいわね!?」
「はぁい!!!存分に頼らせていただきますぅぅぅぅ!!!!」
はぁ…変わろうとしてる子をその気にさせるのって案外面倒くさいものなのね、ユリちゃん。
あなたが私にそうした時も同じ感じだったのかしら?
もしそうだったらちょっと恥ずかしいかも。
…本当のあなたにも幽霊のあなたにも会えなかったけど、なんだか心がスッキリした気分。
あなたが私を支えてくれたように私もこの子を支えてみせるから、見ててねユリちゃん。
「そういえば重要なことを忘れてたわ。あなた、名前は?あと敬語不要ね」
「え、今更ァ?一応ゆーまちゃんと名乗ってますケド…」
「ふぅん、ユーマね。え、待ちなさい自分で自分にちゃん付けして名乗ってるの?」
「なんだよ…いいじゃん別に…個性じゃん…」
「別に悪いとは一言も言ってないわよ…これから宜しくね、ユーマ」
「…こっちこそ宜しく、アカリ」
青衣に続いてヴィクトリア家政も喋り方というか言葉遣いがわからん…難しい言葉使うのやめようぜ
てことで次回、外に出ます