「じゃあ、本当にゴブリンに教わったの?」
「ああ。あれは凄かった」
なぜ魔法界に銀行が一つしかないのかを思い知った。考えてみれば当然だったが。
魔法界の『金銭』が紙幣ではなく硬貨である以上、金属加工の技術は欠かせない。
しかも、違法な複製などを防がなければいけないのだ。
魔法に頼り切りで大雑把な魔法族に、このようなことをするのは難しいだろう。
「それで、ハリーは?なんか大変だったらしいじゃん」
「そう!ついマージおばさんを膨らませちゃって───」
ガタン、と列車が止まった。
なんの前触れもなく、明りが一斉に消え、あたりが急に真っ暗闇になった。
「いったい何が起こったんだ?」
「故障しちゃったのかな?」
「
コンパートメントのドアが急に開き、誰かが入ってきて、倒れた。
「やあ、ネビル」
倒れていたネビルのマントをつかみ、助け起こす。ネビルが犯人では無いようだ。
「アルバート?君なの?どうなってるの?」
「分からない。ただ、明らかに異常なことが起きているのは確かだ」
この列車が故障するとは思えない。絶対に運転前に点検をするはずだ。
つまり、外部からの接触があったのだろう。
「動かないで」
窓際で寝ていた男───カバンにはR・J・ルーピンと書いてあった───が立ち上がって、ドアに近づいた。
彼が触れる前に、ドアが開く。
マントを着た
マントから突き出している手。それは灰白色に冷たく光、汚らわしいかさぶたに覆われ、水中に腐敗した死骸のような手。
頭巾に覆われた得体の知れない何物かが、ガラガラと音を立てながらゆっくりと、長く息を吸い込んだ。まるでその周囲から、空気以外の何かを吸い込もうとしているかのようだった。
ふと、母さんとの思い出が脳裏をよぎった。
俺のために仕事をしてくれた母さん。
疲れているのに、家で家事をしてくれた母さん。
病気で倒れて、それでも俺のために。
俺を愛してくれた、母さんのことを、思い出した。
「◾️◾️◾️ーーーーー!!!!」
おかしいな。声を出したはずなのに、ドラゴンの咆哮のような音が聞こえた。何故だろう。
………ああ、しまった。
つい感情が高まって
まあ、少しドラゴンの角が生えたくらいだろう。誤差だ。
いつの間にか、
「わたしは運転手と話してこなければ」
「なら、俺は後ろに。他に
ハリーは倒れてしまった。まだ起きない。
「………ハーマイオニーとロンは、ハリーの側にいてくれ。婆さん………婆さん!」
「若いの。どうしたんじゃ?」
車両販売の婆さんを呼び、適当にガリオン金貨の入った袋を渡す。
「これで、みんなにチョコをあげてくれ」
「あいよ」
結局、他に被害は無かった。
「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーッとなる前に片付けてしまう方がよかろうの………」
「ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通り、わが校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ」
「
だろうな。あれは人の感情などを察知する。
姿を消してどうにかなるわけがない。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、ディメンターには生来できない相談じゃ。それじゃから、一人一人に注意しておく。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ。監督生よ、男子、女子それぞれの信任の首席よ、頼みましたぞ。誰一人としてディメンターといざこざを起こすことのないよう気をつけるのじゃぞ」
重苦しい話に、誰も声を出すことは出来なかった。
「楽しい話に移ろうかの」
爺さんが言葉を続けた。
「今学期から、うれしいことに、新任の先生を二人、お迎えすることになった」
「まず、ルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった」
パラパラと、拍手が起こった。
「もう一人の新任の先生は」
「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ。そこで後任じゃが、うれしいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭をとってくださることになった」
グリフィンドールから割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「さて、これで大切な話はみな終わった」
「さあ、宴じゃ!」
「最悪だ!なんであんな野蛮な原人が授業を!」
「えー?面白そうじゃないか?」
「お前にとってそうでも、僕にとっては違う!
基準が違うんだよ!」
ドラコはハグリッドが授業をすることに不満があるらしい。
いい奴だけどな………。
「まあまあ。実際に授業を受けてから、また考えれば良いだろう?」
「うるさい!それより、新入生に話しかけるなよ!ただでさえ、列車のことがあったんだから………!」
「分かってるって。確かに、新入生に
ハードだしな」
「いや、それより───」
………?どうしたんだろうか。
「………なんでもない」
あいつは、気づいていないようだ。
「な、なんだ!?何があった!」
「………ドラコか」
あの時。あいつは、確かに───
「お、お前、何して……」
「新入生が怖がってないか、見に来たんだ」
───
母との思い出に土足で踏み入った。
許すわけがない。