「というわけで、怪我を治す薬を作りたいと思ってるんです」
「………………」
いつもの自習の時、俺はそう言った。
スネイプ先生は嫌な顔をしている。
「………何が
ここでちゃんと話を聞いてくれるんだよな。
やっぱりスネイプ先生は優しい。
「
「……………その包帯は、その時のものか?」
「はい。ハナハッカとか呪文とかでなんとか心臓を治したんですけど、流石に傷が開くかもしれないので」
あれはヤバかった。二週間経つが、まだ治らない。不死鳥の涙が欲しいところだ。
フォークス、俺を憐れんで泣いてくれないかな。
「欲を言えばもっと心臓が欲しいんですよね。
というわけで、怪我を治す薬を作りたいんです」
「………素材は?」
よし、食いついた!
魔法薬学。
とても、とても繊細な技術が求められる。
材料を入れるタイミングはもちろんのこと、素材を切るか、潰すか。
鍋をかき混ぜる回し方が右回りか左回りかまでも精密に決められている。
そういう意味では。
「(………癪だが、認めるしかない)」
こちらの都合を考えないような、
誰よりも───自分よりも───優れている。
1mmの誤差もない───
人体の最適な行動は、無駄を無くすことにある。
魔法使いの決闘もそのような面があるが故に、
よく分かる。
────これは、異常だ。
マグルの言葉で言うのなら、
腕に震えは無く、その動きは正確で、まるでそのような生態の魔法生物かのようだ。
「───い。先生。スネイプ先生?」
「………なんだ」
「一応完成しました。見てもらいたくて………」
………ドラゴンの角の粉末。
錬金術で精錬され、濃度が高まった血。
その他、聖マンゴでも使われるような、効果が認められている魔法植物などを使ったようだ。
間違いなく、優れた治療効果を発揮するだろう。
失った手足を生やし、内臓すらも生成するほど。
「………好き勝手に素材を入れたにしては、上手くいったな」
「えー?厳しいなぁ」
「こんなもの、再現性がない。お前以外が同じ素材を使ったところで、作れるのは良くて毒か、悪ければ調合中に消し飛ぶ」
技術を受け継ぎ後世に残すだの言ってはいるが、これを一端でも受け継げる者がどれほど貴重か。
「でも、先生も出来るでしょう?」
ああ、やはり。この話の通じなさは。
「お前は、傲慢だ」
────
「あ゛〜〜。調子乗りすぎた」
俺が作った薬………体生薬を使えば、心臓すらも治すことが出来る。
そのために角を切り落とし、プールがいっぱいになるほどの血を用意しなければならないが。
というか、素材を用意するだけで疲れる。プールを満たすほどの血が、錬金術で精錬され濃度が高まればバケツ一杯ほどである。
まあ、それに見合うだけのリターンではある。
ドラゴンの心臓は、それほどまでに価値のあるものだ。
調子に乗りすぎて3個くらい摘出したが、使い道は無限にある。何に使おうかな。
そんなことを考えながら、夜のホグワーツを歩いていた。
「………あれ、ハリーじゃん。それにスネイプ先生も。二人っきりで一体何を?」
「………ソーン。
あー、そうだった。今更すぎて
透明機能を使っていなかった。
「校則違反をしたからには、相応の罰則を──」
「やあセブルス」
「ルーピン先生。体調はどうです?」
「ああ、君の薬のおかげで絶好調だ」
二年連続でおかしな人が就任した『闇の魔術に対する防衛術』の教師。
怪しすぎて、また開心術を使った。後悔した。
全くもって、闇に関わりのある人間ではなかった。聖人ではないが、善人。狼人間ではあるが、 爺さんが信じるくらいには温厚だ。
疑ったことを恥じた。だから、脱狼薬を作った。
「セブルス。彼らの処分は私に任せてくれないかな?」
「………ポッターはいいでしょう。しかしソーンは、スリザリンの───私の───寮生だ。ソーンに処分を下すのは寮監である吾輩の仕事だ」
「分かった。ハリー、来なさい」
「おやすみハリー。元気でね」
「来い、ソーン!」
「………最近の貴様の行動は、目に余る」
「そうですかね?他人に迷惑をかけない範囲で自由にやってるんですが」
「だとしても、お前は自由すぎる!」
「じゃあ先生は窮屈すぎですよ。もう少し自由にしたほうがいいです」
本当に、先生は不自由だ。
「貴様などに言われる筋合いはない!」
「
「先生は、気付いていますか?ハリーを見る度に、先生は苦しそうな、悲しい顔をしてます」
俺が母さんを失った時のような、顔だった。
「ハリーを通して
「前!前だと!?お前に何がわかる!」
「──────」
先生が、大声を出した。
俺に怒る時は時々大声を出していたが、ここまで大きな声で怒ったのは初めてだ。
「生きる全てだったのだ!彼女さえ居れば他はいらないと思えるほどの存在だったのだ!」
ここまで感情を剥き出しにするのは、初めてだ。
「だというのに………
俺を通して、誰かを見ている。初めてだった。
だからだ。警戒を忘れていた。
「───
灰色の、記憶。
「セブ、まさか、貴女も───」
「ホグワーツってどんなところなんでしょうね!」
幼馴染だった。
「セブ、魔法ってすごいわ!」
「ほら、こんなにお花が───」
親友だった。
「セブ、勝負しましょう!」
「えい!あー、負けちゃったー!」
あい、していた。
「来いよムーニー、パッドフット」
「
「いいぞ、ジェームズ。やっちゃえ!」
「さ〜て、スニベリーのズボン脱がせるの、見たいやついるか?」
「セブ………その、ジェームズがごめんなさい」
「黙れ!この……『穢れた血』め!」
愛していたのに。
結婚、したらしい。あの忌々しい男と。
そして、あの夜。
「リリー、ああ、そんな………!」
彼女は死んだ。
愛したリリーは、もういない。
「………ポッター」
愛した彼女と瓜二つの姿。
だが、その行動は父親………あの男と似ている。
危険なことに首を突っ込み、毎回怪我をして、死にかける。
どうして大人しくしないのか。リリーが命懸けで守ったその命を、危険に晒すだなんて。
どうして、あんな男に似てしまったんだ。
「………お前もだ、ソーン」
「お前も、あのジェームズ・ポッターのように
傲慢で、他人を下に見て、
先生が、俺の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「お前のせいで、ハリーは危険に飛び込む!
お前は止めようともしていない!」
「
「お前のせいで、
「───黙れ」
ソーンが、声を発した。
静謐な、しかし憤怒に満ちた声だった。
「いいか!もういない奴を愛し続けるのはいい!俺もそうだ!」
掴んでいた胸ぐらを外され、押し倒される。
力が、強い。
「だが、
目、が。真っ黒な眼が、
怒りがあって、それでも、優しさがある。
「
リリーの目は緑だった。この男の目は黒だ。
全く似ていない、はずなのに。
「俺を、見てくれ………!」
その優しさは、リリーの───
彼は父親ではなく、自分を見て欲しかった。