「───あー、熱かった」
冬休みが目前迫るこの時、ようやく『剣』が完成した。
四台に増設した『炉心』。
開心術を『剣』にかけることで、かつてこれを作った鍛治師の業を記憶、再現。
本当に疲れた。
能力の向上という面ではとても有意義なものだったし、『鍵』の作成にも応用できた。
特に、物に開心術をかける、というのはとても使える技術だった。
もっとも人間にかけるより三百倍は難しいし、あまりにも昔すぎるせいで頭が爆発しそうだったが。
さて、最後の仕上げである。
ゴドリック・グリフィンドールの剣には、魔法がかけられている。
もしも真なるグリフィンドール生が危機に陥った時、組み分け帽子から現れる魔法だ。
これがある限り、ゴブリンへの真なる返還は出来ない。どこにあっても、勝手に現れる。
そこで、『鍵』(37号)の出番なのだ。
『鍵』の基礎が出来上がってからは素材探しをしていた。そして、この37号は
持ち運びは出来ないサイズだ。かなり大型化してしまった。
だが、魔法を解く能力はもちろん、この37号には素晴らしい副産物があった。
それが『魔法の移し替え』。
『鍵』を経由することで、Aにかけられた呪いをBに移すことが出来る。これを使って、最後の仕上げをする。
まず、ゴドリック・グリフィンドールの剣と、俺が作った剣を横並びに置く。
次に、『鍵』を起動し、グリフィンドールの剣にかけられた魔法を吸い取る。
最後に、俺が作った剣に魔法をくっつける。
これほど強固な魔法を移し替えることは、本来37号では不可能だった。
だが、二つの剣の品質はほぼ同じだ。同じものほどやりやすいのだ。
もっとも、37号はこの後爆発したが。
「はい爺さん。約束通り『剣』を作ったよ」
「素晴らしい。まっこと素晴らしきことよ。スリザリンに100点!」
爺さんは喜んでる。俺を信じてよかったと思ってるんだろう。
だが、冬休みに俺がやろうとしていることを考えると、罪悪感がある。
………言ってしまおうか?
「なあ、爺さん。実は───」
「良い。じゃが、人を傷つけてはいかんぞ。ほどほどにするのじゃ」
───分かって、いるのか。
分かって、くれるのか。
「パッドフット。もうすぐ冬休みなんだ。いつもはホグワーツに残るんだけど、今年は
「くぅ〜〜ん」
悲しそうに、パッドフットは鳴く。
「………ごめん、パッドフット。俺、悪いことするんだ。法律を破る」
「わん!?わんわん!」
「ああ、分かってる。やっちゃいけないって、分かってはいるんだ。でも、他に道はない」
あと一年で『闇の帝王』を復活させなければ、
俺は『誓い』によって死ぬ。
備えなければならないのだ。
「ちゃんと帰ってくる。お前を捨てたりしない」
「………わふ」
ゆっくりと、撫でる。本当に健康になった。毛並みも良くなって、さらにもふもふだ。
「またな、パッドフット。腹減ったらクルックシャンクスにちゃんと頼むんだぞ」
「………あお〜ん!」
冬休みになって、ホグワーツを出た。
「───うお、さっむ。これ行けるか?」
イギリス、スコットランド州、ヘブリディーズ諸島の島、バラ島のカッスルベイ。
北アイルランドを除けば、おおよそ西端。つまり、最も新大陸に近い場所。
とはいえ、ここから新大陸の目的地までは直線距離で約5300kmある。
では、どうするか。
「『泳ぐ』!それが俺の答えだ!」
魔法使いが国外に出る時、必ず魔法省の入国管理局に許可を得なければならない。
書類の申請、杖の登録。様々な手続きが必要だ。
だが、俺がするのは犯罪。しかも、バレてはいけないのだ。手続きをして犯罪をすれば、すぐにバレてしまう。
故に、密入国。国際魔法使い連盟が定めるところによると、手続きなしの渡航は国際法違反だ。
だからこそ、魔法使いが考えもしないような、『泳ぐ』という、原始的──マグル的──な方法を使う。
この時、魔法を使ってはいけない。俺は杖を持っていないので直前呪文*1に引っかかったりしないが、魔法の痕跡は残る。
可能性は低いが、辿られるかもしれない。
俺は独力で、大西洋を越えなければならない。
肌を刺すような寒さ。まだ10kmも泳いでいないだろうに、すでに俺の体は疲れ始めている。
大西洋の横断は、貨物船などでも平均6〜10日かかる。新年までに着ければいいが。
俺の航路(航ではない)は、カナリア海流という、アフリカ、ギニア湾に向かって流れる寒流にのる。
その後アフリカから新大陸に流れる北赤道海流にのって新大陸へ。最後に、メキシコ湾流にのって
一気に目的地に近づく。
海流の力を借りて大西洋を渡るつもりだ。もっとも、大回りしているせいで、時間はかかるが。
あー頭痛い。腹減った。
すでに、用意していた食料は無い。これからは自分で魚なりを獲って食べなければいけないのだ。
あ、鮫だ。うまそう。
うまかった。
………あ、血のせいでまた鮫が寄ってきた。
ボーナスだな。
「ごぼっ!?がばごぼごぼ!?!?」
急に流れが速くなった。おそらく、メキシコ湾流だろう。*2
急いで大陸に近づく。ここで失敗すれば、イギリスに逆戻りだ。
「───はっ、はっ。はぁ〜」
無事にアメリカに着いた。だが、ここが目的地ではない。もっと内陸に行かなければ。
「あークソ、遠いにも程があるだろうが!」
俺が泳いで着いたのはニューヨークの少し南の港だった。目的地は、ここから225kmほど北の、山にある。
こそこそ隠れて、怪しまれないように歩く。タクシーなどは足がつく。自転車くらいは欲しかった。
都市を越え、道路沿いに歩く。足がガチガチだ。休憩したい。………まあ、いいか。
あと少しで目的地だが、今は昼だ。もっと暗くなってからがいい。
店員や防犯カメラに見つかると大変だ。レストランやホテルは無理だが、野宿で我慢しよう。
………夜。マグルの世界は彼らが作り出した光に照らされ、まだ起きているのだろう。
そんなことを気にする余裕はない。急いでグレイロック山を登る。
この山の学校、そこに生えている木が、俺の目標なのだ。
───自然に囲まれている。
どこかホグワーツを思わせる学校だった。
それはもういい。興味はあるが、学校ではなく、庭に生えている木が欲しいのだから。
がさっ、と。音がした。何かが自然の中にいる。
俺を、見ている。
「───俺は、ソーン。アルバート・ソーン。
スネークウッドの木の枝が欲しくて来た。誰かを傷つけるつもりはない」
俺がそう言うと、何かは居なくなった。おそらく、警備の魔法生物だろう。
さて。
ここに植えられたスネークウッドは、いかなる方法を持ってしても切ることが出来ないらしい。
もしかしたら、俺にも出来ないかもしれない。
そうなったらここまでの道のりが全部無駄だが。
「───フ〜。よし」
ポケットから『剣』を取り出す。
枝を、切る───!
「フン!!」
少し切れた。だが、切れ込み程度だ。
強力な薬効の効果があるこの木なら、自分で治せるだろう。
切る。切る。切れるまで、切る。
「頼む!切れろ!【切れろ!】」
咄嗟に、蛇語が出た。
「………ぁ」
シュッ、という、気持ちの良い音と共に。
あれだけ固かった枝が、あっけなく切れた。
「………
材料集め、完了。