必要の部屋。
何も無い。ただの広い場所だ。
「じゃあ、始めるか」
「いつでも良い」
「「
開戦。声が重なる。
向かい合っていた少年と老人は、同時に、同じ魔法を唱えた。
「───強いな………!」
想定内だが、やはり強い。やや負けている。
出力では俺が少し………ほんの少しだけ上回っている。
だが、相手は『今世紀最高』の魔法使い。
俺や、ヴォルデモートすら越える経験の差がある。力押しでは勝てない。
「ぐ───!」
「ほう」
無理やり押し合いを中断させた。このままでは勝てない。小細工をしなければ。
「
「
火の波をぶつける。すぐに水で鎮火するが、十分な働きだ。
「【やれ!】」
杖を変身させたバジリスク。流石に目が合っても死ぬことは無いし、猛毒があるわけでは無い。
だが、巨体はそれだけで脅威だ。
「悪いな爺さん。こっちは二人だ」
大蛇が、爺さんを襲って───
「───あ」
突然現れた爆炎と共に、遥か後方に移動した。
「
「マジかよ」
確かに、生き物だ。元が杖とはいえ、バジリスクに変身させた以上、失神呪文も効くだろう。
だが、まさか一撃とは。
というか、今のは───
「すまぬのう、アルバート。こちらも二人じゃ」
「
不死鳥は、魔法使いの『姿くらまし』とは違う瞬間移動ができる。本来『姿くらまし』の出来ないホグワーツでも、不死鳥ならば出来るのだろう。
「それにしても、先程のバジリスクは変身術じゃな?自分以外に掛けたにしては良い魔法じゃ。
最も、君自身が変身していれば、儂は猛毒か、目を合わせて死んでいたじゃろう」
「買い被りだよ爺さん。毒液を使えるほど変身するのにも集中力と時間がかかる」
素材を集める時はいくら時間をかけても良かったが、今は戦闘中だ。
爺さんの前で、そんな隙は晒せない。
「それに、俺の実力じゃあ目が合った程度で殺すことはどのみち出来ない」
爺さんには言わないが、大きな生物に変身するだけでも疲れるのだ。特にドラゴンに魔法特性ごと変身した後は、全身が痛む。
自分の限界を越えたバーベルを上げ続けている感覚だ。変身した後はいつも辛いが、薬でなんとか誤魔化している。
そんな状態で、『見たら死ぬ』とかいう理不尽なまでの魔法特性を備えることは出来ない。
「さて………振り出しかな」
無言で魔法が飛び交う。
老人は、不死鳥を使って避けながらちくり、ちくりと魔法を放ち続ける。
少年は、自分の脚を動かして、老人に負けじと魔法を放つ。
「(振り出しどころじゃ無い!!決定打がない!このままじゃ負ける!)」
老人がしていることは、引き打ち。
魔法を放ち、危なくなったら逃げる。
地味だが、とても有効だった。
「(何が必要だ!?何がダメなんだ!?何が、悪いんだ………?)」
………そんなこと、ずっと前からわかってる。
「一年生の時!ヴォルデモートと知っていて、それでも知識を求めて手を組んだ!」
爺さんが放った魔法を避ける。
「二年生の時!
爺さんが放った魔法を防ぐ。
「そして今年、俺は………!」
「ハリーにも嘘を吐いた!」
ずっと、俺が悪かった。最初から。
「俺は、俺のせいで、愛する人を失った!」
思わずにはいられない。だって………
「今でも考える!母さんを助ける方法はいくらでもあったはずだ!」
「金がないなら借りればいい!俺がもっと、誰かに助けを求めていれば、母さんは………!」
結局、俺がやったのはただの自己満足。母さんを助けるためではなかった。
「もっと上手く出来たはずだ!俺には魔法があったんだから!」
「なのに俺は、母さんのためだと嘘を吐いて、
母さんを助けることを勝手に諦めて、殺した!」
他にも方法はあったのに。
試そうともせず、俺は殺した。
「ハリーと会って、境遇を聞いた時!俺は、心底恥ずかしくなった!」
「ハリーは、自分のせいじゃないのに両親を亡くした!俺は自分勝手に母さんを殺したのに!」
「母さんと同じ名前のあの子が、俺と似ていて違う境遇と知った時、思ったんだ!」
「
「俺が
ハリーから好き勝手に奪ったのだ。
ハリーに、返さなければ。
「そうすれば、きっと母さんも俺を許してくれる!母さんに誇れる俺になれる!」
「アルバート、君は………」
「二年前、『石』を持って倒れているハリーを見て、俺は恐れた!」
「
「去年、
「俺のせいで、また愛した人が死んだ!俺を愛してくれたのに!」
「今年、
「俺は結局、あの時のままだ!」
「身勝手に母さんを殺したあの時から、一歩も前に進んでない!」
「自分勝手に好き放題してるだけだ!そこに母さんから受け継いだ優しさなんてない!」
「何も、返せていない………」
ああ、スネイプ先生の事を言えないな。
俺の方こそ、過去しか見ていなかった。
「では、何故アストリア嬢を助けたのじゃ?
パッドフットに優しくしたのじゃ?セブルスにあそこまで反発してでも助言し、ローブまで贈った訳は?あれは優しさではなかったと?」
「それ、は──────」
だって、
「アストリアは血の呪いにかかってた!先祖の因縁で今を生きる人が犠牲になるなんて、馬鹿らしい!」
アストリアは悪くないんだから。
「パッドフットは俺のペットだ!飼い主はペットの命に責任を持たなきゃいけない!」
パッドフットはペットだから。
「スネイプ先生は、根暗で、陰険で、俺と同じで過去を見ている人だけど───」
でも、俺たちは違う。
「俺は他に道がないから母さんに縋ってるだけだ!先生は、愛しているから過去を見ている!」
先生が過去を見ているのは、それほどまでに愛していたからだ。
「だから、哀れんだ!それほどまでに愛していた人を失った先生を!優しさじゃない!」
「では、ハリーに対して行って来たことに、一切の優しさは、愛は無かったと?」
「あるはずがない!優しくしてたら、愛していたのなら嘘なんて吐かない!」
「本当に?では君は、君の母上を愛していたのかね?君が嘘を吐いた母上を」
「───ぁ、いや、俺、ただ───」
だって、だって───
「幸せになって欲しかったんだ!もっと笑顔になって欲しかった!笑って、幸せそうに、俺の名前を呼んで欲しかった!」
「
ただ、それだけだったのに………
「アルバート………それこそが愛じゃ。他者の幸せを思うその心こそ、愛なのじゃ」
「違う………違う違う!そんなのじゃない!愛なんて綺麗なものじゃない!」
「何故そこまで否定するのじゃ?君の行為は確かに、他者を助ける要因になっておるというのに」
だって、俺が愛したら───
「母さんは死んだ!
「ハリーを、殺したくない………!」
負けた。初めて会った時のように。
「アルバート。これだけは言うておく。たとえ君が認めずとも、君はハリーを愛しておる」
「そして今、ハリーを殺すべくヴォルデモートが復活しようとしている」
「君の愛する者が、危機に晒されておるのじゃ」
俺のせいだ。不用意に契約して、手助けをした。
「だからこそ、君がハリーを助けるのじゃ」
「俺が………?」
どうして、俺なんだ。
「アルバート。君がどう思っているかに関わらず、このままではハリーは死ぬ。残酷だが、君のせいでもある」
「君の行いが、ハリーを苦しめるじゃろう」
「………ああ」
「故に、君が守るのじゃ。他でもない、原因を作った君が。愛する者を守り抜くのじゃ」
でも、でも………
「母さんの時は失敗した!
もう、失いたくない。
「君は成長しておる。儂に迫る者など、どれほど居ようか」
「でも、負けた!」
「それはの、アルバート。君が最も得意とする戦いが、守るための戦いだからじゃ」
「愛する者を守るため。その時、君の力は驚くほど発揮されるじゃろう」
「何故そんなことが言える!俺がハリーを殺すと、何故思わない!」
「スネークウッドの杖は、善良で、誠実で、友誼に厚く、何より冗談と笑顔が似合う人間の手にあるのが最も相応しいのじゃ」
──────。
「スネークウッドが君を選んだのは、君にもそのような心があったからなのじゃ」
「───は、ははっ。はははははは!!」
まったく。ふざけた話だ。
「しょうがないなぁ。わかったよ」
「俺が、ハリーを守る」
「何かあれば、相談するといい。一人で悩んでいても解決しないものがあるのじゃ」
「───ああ、そうだな」
愛に関わるとメンタルよわよわになるアルバート君