「君の純血に対する考え方はわかってるさ。今のままでは純血、ひいては純血主義に未来はないと」
その通りだ。あと
千年先に純血はいない。
「だが、それは
「俺様が、純血に栄華を齎す。俺様の力があれば、千年先にも純血は存在し続ける」
夢のような話だ。
だが、
「純血がいなくなるのは勿体無いだろう?」
「受け継ぐべきだろう?この尊い血筋を」
出来るなら、そうするべきだ。
純血は長い歴史を持つ。その刻の中で生まれた技術や道具もあるだろう。
無くすには惜しい。
「そういえば、そこの小娘も
その眼には、複雑な感情があって───
「そう、そうだ………
「アルバートが、
───信じられない。
あの
「悪い話じゃないはずだ、アルバート。君はその小娘のことを───」
「………愛して、いるんだろう?」
「………まあ、そうですね」
その通りだ。
俺は、ハリーを愛している。
そして、同時に。
「『日記』の
………仲が良かった、程度ではない。
俺は───
「
「アルバートが
「全部、分かってるよ」
「
それは、二年前に俺が言った言葉。
俺が
「確かに、前までの俺様ならそうだった」
「でもアルバート。今の
「
「デルフィーニなら、我が娘なら。
………確かに、デルフィーニは優れた魔女だ。
あと数年もすれば、俺や爺さん、そして母である
「でも………嗚呼。悲しいね、アルバート」
「
「君は優れている。だからこそ、君を受け継ぐことが出来る存在がいない」
………………。
「
「でも、ちゃんと受け継げるのかな?君の力を、君の知識を、君の心を」
………………。
「ねえアルバート。
「君と
………………。
「
「ハ───ハハハッ」
男が笑う。
女は、思い出した。
あの時、賢者の石を目前にして裏切った時も。
男は、こんなふうに───
「『闇の帝王』ともあろうお方が、ずいぶんと
───
「───なんだと?」
あの時と同じように、男は女を嘲笑う。
「受け継ぐ存在がいない?一体何を言ってるんですか、『先生』」
女の間違いを、男が笑って訂正する。
「いるでしょう、そこら中に。数えるのも馬鹿らしくなるほど多く」
「なぜ一人に全て受け継がせようとしているんです?それぞれに素質があるでしょうに」
小さな考えを持つ女に、男は夢を語る。
「俺の力も、知識も、心さえも」
「必ず
女が考えもしなかった夢を語る男。
「───どうやってそれを為すつもりだ!そんなことは魔法を使っても不可能だ!」
女は反論する。
魔法を極め続ける女が考えても、不可能だ。
魔法にも、限界はあるのだ。
だが───
「本当に老いぼれましたか?魔法など使わなくても、この夢は実現できます」
「は───?」
できる。男は断言した。
「まあ、確かに難しい道です。常人では不可能に近いでしょう」
「立場も、資金も、発想も必要です。手始めに、そうですね………」
男は、夕飯の内容を思いつくような気軽さで──
「────王になります」
「────というわけで、
「君は、本当に………!」
でも俺しもべにはなりたくないし。それにハリーのこと好きだし。
「分かってるだろ。たとえ仲間になっても、俺たちは戦わなきゃいけなくなる」
お互いに譲れないものがある。
そして、それは致命的な違いになる。
一方が生きる限り、他方は生きられない。
「………手足を捥ぐ。動けないようにして、服従させて、
「相変わらず、思想が過激だな………!」
開戦。
「逃げるぞハリー!」
「え、ええーー!?」
嘘でしょ!?あんなにかっこよく啖呵を切ったのに、逃げるの!?
「走れハリー!」
アルバートがドラゴンに変身する。
あまり大きくない。そのまま、ハリーを掴んで急いで翼を広げて飛び立つ。
だが………。
「
「うお………うおおおい!?」
「アルバート!?落っこちてるよ!?」
ヴォルデモートがアルバートの変身を解く。
空中で解かれた変身。そのまま落下する。
「
「
その隙を見逃す闇の帝王ではない。空中で身動きが出来ないところに、死の呪文を放つ。
死の呪文はアルバートに当たった。
アルバートは死───
「───っ!いってぇな!」
「───ハハッ!相変わらずの魔法力だね!」
死なない。
閉心術の応用、感情の保存。
保存していた感情を燃焼させ、アルバートの魔法力は爆発的に向上した。
魔法は、両者の魔法力に大きな差があれば正しく作用しない。
感情を燃焼させる一瞬。一瞬ではあったが、アルバートとヴォルデモートには大きな差が生まれた。
だが、無傷ではない。
「アルバート!燃えてる!」
「くっそ、めちゃくちゃしやがる───!」
ヴォルデモートが放った死の呪文は、アルバートが張った護りの呪文を貫き、彼が着ていた魔法のローブすら破壊した。
「
息つく間もなく、今度はデルフィーニが悪霊の火を放つ。
「面倒だな………!」
爺さんと戦ったときの反省を生かし、変身術を戦闘に使えるように訓練してきた。
実際、あの頃よりスムーズに変身出来るし、変身後の疲れも少なくなってきた。
まさか変身を解かれるとは。確かに、直接攻撃するより効率的だ。
思いつかなかった俺が馬鹿だったな。反省だ。
「
「
ハリーと
今のうちに死喰い人達を黙らせるか。
「
1、2、3、4 ………光線が次々と死喰い人を貫き、失神させた。
「火よ………!」
「火遊びはほどほどにしろよ!
だがデルフィーニは失神呪文を防ぎ、悪霊の火を放ち続けている。
あれなら、俺の
まあ問題ない。あれくらいなら、避け────
「ふふっ………
「ごふ────ッ!?」
「アルバート!?」
ハリーと押し合いをしている状態で、
二年前の、ハリーを庇ってバジリスクに噛まれた時の傷が、
くそ、相変わらず嫌な手を打ってくる………!
突然のことで、一瞬動きが止まった。
「燃えなさい!」
「あっつ!
連携が上手い。流石に母娘だな。
「アハハハハハハ!!アルバート!早くなんとかしないと、小娘が死ぬよ!」
「チッ………
先に悪霊の火を消そうとしたが、ハリーはもう限界だ。ハリーに加勢する。
「
デルフィーニも
「くっそ………あつい………!」
「大変そうだねアルバート!」
煽られる。
実際大変だ。
ドラゴンへの変身、死の呪文の直撃。
死喰い人の盾の呪文をぶち抜く失神呪文の行使。
開いた傷口。そして、まだ燃えている悪霊の火。
正直悪霊の火を消したい。
だが、杖の時に鍵は使えない。
ここで俺が離れれば、ハリーは死ぬ。
………やるしかない。
「………
「おっと」
あまり効果はないが、イラつくだろ。
「そんなに欲しいなら………
カウンターが帰ってきた。
俺の呼び寄せと、
まあ、キャッチするけど。
「ぐ、おおお───ッ!!」
「へえ………!」
感情を爆発させ、押し込む。
4人の繋がりが、断ち切れて───
「ハリー!優勝杯を!」
「分かった!」
ハリーに優勝杯をとってもらう。
その間に、左手で『鍵』を頭に押し付ける。
「「
「
仲良く死の呪文を放ってきたので、ハリーを拘束していた石像を動かし、盾にする。
記憶を遡る。───これだ。
「掴まれハリー!」
「うん!」
ハリーが俺の腰を掴む。
準備は、完了だ。
右手で、指を鳴らして───
「───
バチン、という音とともに。
「おめでとう!」
「勝った!ハリーが勝った!」
「おい、あれ………」
「嘘だろ!?」
ホグワーツに、帰ってきた。
「良かった、帰ってきた!アルバート、ありがとう。………アルバート?」
どさり。
「───え?」
アルバートが倒れた。
よく見ると、左腕がない。
何故かはわからないが、遠くにある。火が燃え上がっているようだ。
そして、血を、吐いている。
「アルバート………アルバート!」
「退けポッター!早く処置しなければ死ぬぞ!」
「先生、ソーンが僕に薬を………」
息をしていない。
心臓が、止まっている。
「やだ………やだやだやだ!」
離れてしまう。
「いやだよ、一人にしないで………」
母さん達のように、離れてしまう。
「行かないで………」
「………あ?」
家にいる。なんでだ?
さっきまで、墓場にいたのに。
とりあえず、ドアを開ける。
………開かない。立て付けが悪いのだろうか。
窓も開かない。
一体、何が───
「おかえりなさい、アルバート」
「───かあ、さん?」
「ここはなんなの?どうして………」
目の前の女性は、間違いなく俺の母さんだ。
だが、おかしい。
母さんは、俺が殺したんだから。
「ここは………そうね、休憩所よ。あなたが休む場所で、いつか旅立つ場所でもある」
「だって、ここは家でしょう?遊んで、休んで、帰ってくる場所」
「なら、
「母さんは………俺のこと、嫌い?」
ずっと、聞きたかった。
「あら、どうして?」
「だって、俺が母さんを………殺した」
あれは、正しいことだったのか。
母さんにとって、良いことだったのか。
「アルバート」
名前を、呼ばれる。
「私は、アルバートがどんなことをしても」
「いつだって、あなたを愛しているわ」
「アルバートは、どうしたい?」
「どう、って───」
「私と一緒に行きたい?それとも、元の場所に帰りたい?」
………俺は───
『行かないで………』
「………ハリー?」
声が、聞こえた。
「………ごめん、母さん。俺は、帰るよ。まだ、一緒にはいられない」
「いいのよ。あなたが頑張る様子を、ずっと側で見てるわ」
あれ、でも………
「どうやって帰るの?」
「玄関のドアを開ければいいのよ」
当然のことのように、母さんは言った。
でも、ドアは開かなかった。
「大丈夫。もうすぐあの人が帰ってくるわ」
ガチャ、と。
ドアの外は、光に溢れている。
「さあ、行きなさい」
「………うん!」
ドアに向かう。
外から、誰かが開けているようだ。
「覚えているか?」
「………はい!」
「ならいい。
顔は見えない。でも、わかる。
「───行ってきます」
ドアを開けている彼に向かって、言った。
「………行ってらっしゃい」
男が、そう言った。
アルバート・ソーン・ジュニアは死んでいる。
心臓は動かない。呼吸は止まっている。確認していないが、おそらくは脳も働いていないだろう。
今世紀最も偉大な魔法使いと呼ばれた老人はこの事実を認め、しかし抗っている。
その他、さまざまな要素がアルバートを生かすために動いている。
だが、足りない。
何か、別の要因が必要だ。
それこそ、御伽話の魔法のような………
シュッ。青い光線が、老人を襲った。
持っていた杖が、アルバートの右手に収まった。
左腕だ。姿あらわしによってばらけたアルバートの左腕。
悪霊の火によって燃やされ、分霊箱である杖ごと真っ黒な炭になっている。
最後の抵抗として、
ふと、アルバートの右手を見る。
そこには、石がはめ込まれた指輪が、あった。
あのマークが刻まれた石が、アルバートの手の中にあった。
「ハリー、ハリー!」
「いやだ………アルバート………」
「聞くのじゃハリー!今すぐマントを持ってくるのじゃ!アルバートのために!」
「アルバートの………?」
「急ぐのじゃ。一刻も争う!」
何かに、突き動かされた気分だった。
ニワトコの杖、蘇りの石。
間違いなく、死の秘宝の二つだ。
そして、ポッター家に受け継がれるマント。
あれこそ、『死』が自らのマントを切ってイグノタスに渡したと言われる、死の秘宝。
「持ってきました!」
「アルバートに被せるのじゃ!」
死の秘宝。
三つを手にする者は、死を制する。
もしかしたら。そんな、魔法のようなことがあるかもしれない。
上手く行った。とても喜ばしいことだ。
我が君に救われ、その命に従い、マッドアイに成り変わった。
ゴブレットに錯乱の呪文を掛け、ハリエット・ポッターの名前をゴブレットに入れた。
様々な手助けをし、ハリエット・ポッターが我が君の元へ行くよう、
念の為、帰りの
ハリエット・ポッターは生きているが、いい。
我が君は復活した。邪魔者のソーンは死んだ。
俺が、ここでハリエット・ポッターを始末すれば、あの方は褒めてくださるだろう。
「ポッター、離れるのだ。今はここにいない方が───」
そんなことを言って、ポッターを孤立させ、始末しようとした。
ポッターに、触ろうとして───
「俺の女に触るな」
───『死』が、俺を見ていた。
『死』が、立ち上がる。
「アルバート………?」
失った左腕が引き寄せられ、くっつく。
その腕は黒く、爪は鋭く、何より蒼く妖しい炎が燃え盛っていた。
開いていた傷口は閉じ、流れていた血が戻る。
右手に指輪と杖が。
そして、透明なマントを着ている。
「
「う、ぐぐううううううっ!」
『死』が、男に杖を向けた。
男の義眼は外れ、義足は弾かれる。
「やあ、ジュニア。元気そうだな」
「俺をその名前で呼ぶな!」
変身が解けた。
バーティ・クラウチ・ジュニア。
3人目の召使いにして、復活の影の立役者。
「もう俺の目的は果たした!『闇の帝王』は蘇ったのだ!俺は英雄として迎えられる!」
「闇の、あのお方の支配する世界が、訪れる!」
熱に浮かされたように、夢を語るように話した。
「その世界は訪れない」
『死』が、それを否定する。
「なぜなら」
「俺たちは、自由だ」
「アルバート、良かった───!」
医務室。なんだかんだで、俺は生きている。
「ごめんねハリー。痛かったでしょ?」
ナイフでハリーの腕を切りつけた時のことを謝った。やりたくなかったけど、必要だった。
「いいよ。ちゃんと守ってくれた。ちゃんと帰ってきてくれた」
「全部、許すよ」
「ハリー………」
ハリーは本当に優しい。
自分を切りつけたやつを許すなんて。
「わん!わんわん!」
「
もふもふが帰ってきた。
生きていけるか心配だったけど、良かった。
「そんなことはない!『闇の帝王』が復活したなど、そんなことはありえない!」
「コーネリウス、現実を見るのじゃ。我らは協力して闇と戦わなければならぬ」
言い争っている。
阿呆らしい。人の上に立つには弱すぎる。
まあ、どうでもいい。
「爺さん」
「おお、アルバート。あまりにも眠りが長いのでこのまま優勝パーティも寝坊するかと思ったが」
流石にそこまでねぼすけじゃない。
「俺、決めたよ」
「おや、何を?」
「───俺が、王になる」
覚悟を決めた。
俺が、この魔法界を治める。
人の上に立って、俺を受け継がせる。
俺が、
闇の帝王を打ち破る力を持った者が───