『魔王』 アルバート・ソーン   作:アーっr

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彼ら(・・)は家族を求めた。


みぞの鏡

 

 

 さて、そろそろ冬休みだ。

 

 「じゃあ試作の魔法外套(ファンタジスタ・ガウン)を100着、君のお父さんに渡してね」

 

 「ああ。父上から魔法省に魔法外套(ファンタジスタ・ガウン)を持ち込む手筈になっている」

 

 あの後ドラコやスリザリンの先輩方から金を借りて魔法外套(ファンタジスタ・ガウン)を量産した。

 

 お礼に出資者には特別製魔法外套(ファンタジスタ・ガウン)を贈った。

 本人の名前を刺繍したり、わざわざ自腹で素材を持ってきた先輩には動く蛇の刺繍をしたりした。

 

 「知名度を上げることが重要だし、値段はそっちで決めていいよ」

 

 タダでもいいが、あの(・・)ルシウス・マルフォイのことだ。いい感じの値段を付けて高く売るだろう。

 

 「でも、いいのか?お前の作品に他人が値段を付けて売るなんて」

 

 「そんなもんだよ。結局、買うか買わないかは客の自由。客が価値を付けるんだ」

 

 マグルのオークションなんて、その筆頭だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ひ〜ま。暇すぎる!」

 

 スリザリン·········どころか、ホグワーツ自体生徒がほぼいない。

 クリスマスは家族で過ごすというイギリスの文化は、魔法族でも同じようだ。

 

 俺は暇だった。図書館の本は読み終わったし、

魔法薬学の自習はまだ禁止されている。

 

 呪文の練習も大体終わったので、本当に暇だ。

 

 「·········探検、するか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツは生徒の安全を守るため、さまざまな魔法の仕掛けが施されている。

 

 外から野生の動物やマグルが入って来ないようにする結界。

 侵入者が入ってきた場合の連絡網として絵の中の住民やゴースト。

 特定の条件を満たさなければ入れない寮。

 動く階段。

 

 軽く考えてもこれだけの仕掛けがある。

 しかも、これを越えた先に待っているのは教師陣との戦いである。

 

 まず間違いなく、正面から挑むのは無謀だ。

 だからこそ、『闇の帝王』は教師に取り憑いたのだろう。

 

 

 さて、そのような防犯的(・・・)な仕掛け以外にも、ホグワーツには隠す(・・)ための仕掛けもある。

 

 その筆頭が『秘密の部屋』。正直あるのかわからないが、他にも隠された教室などはあるだろう。

 

 

 『闇の帝王』の復活の手段は『賢者の石』だ。

 おそらくはあの禁止された廊下の先に、保管されている。

 

 あの場所には近づかないほうがいい。少なくとも、時が来るまでは。

 

 

 

 

 

 

 「というわけで、俺はホグワーツツアーをしてたんだ」

 

 「何か面白い部屋はあった?」

 

 「さっき調理場を見つけた。屋敷しもべ妖精たちが働いてたが、あいつらすごいな」

 

 「屋敷しもべ妖精?」

 

 「そういう魔法生物だよ。杖無しで魔法を使えるんだ」

 

 散歩してたらハリーに会った。彼女も冬休みに帰らず、ホグワーツに残っていたようだ。

 

 「一緒に探検する?」

 

 「うん!」

 

 

 

 

 

 

 「ここの壁叩いたらなんか起こんないかな」

 

 「この絵、なんかありそうじゃない?」

 

 「この部屋、怪しい·······」

 

 

 

 

 

 

 

 「··············結構いろいろあるな」

 

 「ホグワーツってすごいね············」

 

 はちゃめちゃな探検だった。正直、友達と一緒に遊ぶのは初めてだった。

 母さんが倒れる前からずっと成績と家事ばかりで、こんなことはやってこなかった。

 

 「··············あ、ここにも部屋がある」

 

 その中には··············

 

 「──鏡?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母さんが、立っている。健康で、笑っていて、幸せそうだ。

 隣に男が立っている。俺はこの男を知っている。

俺はこの男になっていた(・・・・・)から。

 

 

 アルバート・ソーン・シニア。俺の父、母の夫。

 

 この男に関する記憶は、少ない。俺が生まれてすぐに死んだからだ。

 それでも、覚えていることはある。

 

 

 

 「産まれた、産まれましたよ!」

 

 産まれてすぐ。母さんの声を聞いた。

 

 「ほら、あなたの息子よ。手を、握ってあげて」

 

 「··············ああ」

 

 次に、男の声を聞いた。低く、重く、強い声。

 声を聞いただけなのに、俺は男に偉大さを、強さを。そして何より、母さんへの愛を、感じた。

 

 「··············分かるか。お前は、俺の息子だ。お前に一つだけ、教えよう。これだけは覚えておけ」

 

 「俺たちは、自由だ(・・・・・・・・)

 

 「··············いつか、お前にも分かる日が来る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なあ、ハリー。この鏡、どう見える?」

 

 「父さんと母さんがいる!真ん中に僕がいて···········みんないる!」

 

 ハリーにも、家族が見えたらしい。違いは、自分がいるか(・・・・・・)

 

 俺は母さんが幸せならそれで良かった。

 ハリーは、家族と一緒にいることが幸せだから、そう見えたのだろう。

 

 「ハリー、もう帰ろう。この鏡、見過ぎちゃいけない」

 

 「··············うん」

 

 ハリーは渋々俺の言うことを聞いてくれた。

 ··············これは、後でまた来るだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほら、やっぱり来た」

 

 「アルバート、何で··············」

 

 「いつまでも見ていたいって顔だったからな。来ると思ったよ」

 

 明らかに心を囚われている。この鏡、闇の魔術でも掛かってるのか?

 

 能力の詳細は、おそらく開心術の応用。

 観察者の『幸せ』を見せる魔法道具。

 

 俺も、母さんの愛に気づいていなければハリーのようになっていただろう。

 

 「やあハリー、そしてアルバート」

 

 「あ、爺さん。この鏡、爺さんの?」

 

 「おお、この鏡は“みぞの鏡”と言うての。見る者が真に望む物を見せるのじゃ」

 

 「やっぱり?俺の閉心術を抜けて心を読むとか、すげえ道具だな」

 

 「間違いなく優秀な魔法使いによって作られた道具じゃ。そして、恐ろしい道具でもある。この鏡に心を囚われ、廃人となった者が多くいる」

 

 「みんな見たいものだけ見るからね」

 

 俺も、かつてはそうだった。

 母さんの心を、見ようとしなかった。

 

 「じゃが、これが見せるのはまやかし。夢のようなものじゃ。見続けたところで、今が変わるわけではない」

 

 「だろうな。自分から行動して努力しなきゃ、良くはならない」

 

 母さんに誇れる俺にはなれない。

 

 「この鏡は移動させるつもりなのじゃ。決して、この鏡に囚われてはいかん。夢に浸って、生きることを忘れてはいかん」

 

 「··············はい」

 

 ハリーもわかってくれたようだ。

 

 「··············あの、先生!先生には、この鏡がどう見えるんですか?」

 

 老人は、少し考えて。

 

 「儂かね?厚手のウールの靴下を一足、手に持っておるのが見える」

 

 それが本当かは、心を覗かなくてもわかった。

 

 

 

 

 

 ────ああ、なんて残酷なのだろう。

 

 ハリーは家族を知らなかった。

 俺は家族を見なかった。

 爺さんは、きっと。

 

 あの場の全員、同じものを見ていたのだ。

 

 まったく。酷い話だ。

 俺達は、みんな。『家族』を求めた。

 

 

 

 「··············ねえ、アルバート。僕、悪いこと聞いちゃったかな」

 

 「········まあ、そうだな。でも────」

 

 悲しいけど、求めているけど、それでも。

 

 「────まあ、爺さんは許してくれるよ」

 

 それでも、みんな前に進もうとしている。

 

 

 

 

 




ここで列車の時の言葉(今を頑張る)が効いてくるんですね。
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