『魔王』 アルバート・ソーン   作:アーっr

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言葉は、何よりも強い魔法だ。


開心

 

 

 「お、ドラコ!ちゃんと売れたらしいじゃん!」

 

 おかげで魔法外套(ファンタジスタ・ガウン)の知名度も……

 

 「…………誰だよお前!」

 

 嘘だろ!?冬休みを挟んだだけで俺を忘れたのか!?俺ってそんな影薄いの!?

 

 「違う!明らかにおかしいだろ!」

 

 何が?

 

 「お前、なんかデカくなってるだろ!」

 

 「そうなんだよ。みんないないから暇すぎてさ」

 

 暇すぎてつい2cmほど背が伸びたし、体重も8kgくらい増えた。*1

 

 「つい……?お前、そんな感覚で大きくなるのか?本当は巨人の血とか入ってるんじゃないか?」

 

 「いやいや、もしそうだったらもっとデカくなってるよ」

 

 信じられないものを見る目で俺を見るドラコ。

 魔法があるんだから、これくらい普通だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………」

 

 「…………」

 

 生徒と教師が向かい合う。どちらも何も言わないが、ただ向かい合っているわけではない。

 

 「(へえ、こんな魔法が。………『におい』って、そういう仕様なのか)」

 

 開心術(レジリメンス)。互いに心を読み合い、言葉を使わずに魔法を教えるのにピッタリの手段。

 開心術が使えない限り、この授業(・・)を妨害したり、盗聴することは出来ない。

 

 「(………あ、いいとこだったのに)」

 

 当然、ただ知識を見せるだけではない。

 類稀な閉心術の使い手である両者は、どの知識を見せるか選べる。

 

 「そ、ソーン君。君はじゅ、純血主義について、どど、どう、思っていますか?」

 

 だからこそ、彼の質問は突然だった。

 

 「………どう、と言われても」

 

 「き、君は、とても優れた魔法使いです。才能があり、た、弛まぬ努力をする」

 

 「そうですね。大抵の同級生よりは真面目に授業を受けてます」

 

 「だ、だからこそ。血筋によって、き、君は貶められている(・・・・・・・)。こ、これは、不当な扱い、です」

 

 ………意外だった。

 優秀ではあるが、臆病で愚か。それが、俺から見たクィレル先生だった。

 主人(・・)と俺の会話(授業)の最中に口を挟むことは、今までなかった。

 

 「き、君は、怒らないのですか(・・・・・・・・)?」

 

 「怒りませんよ、そんなことで(・・・・・・・・・・・・・)

 

 その程度で、俺は怒らない。

 

 「な、何故です?あなたの努力が、否定されている。生まれという、ただ一つの理由で!」

 

 「だって、かわいそうでしょう(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 本当に、可哀想だ。

 

 

 

 

 

 

 

 「………は、はい?かわいそう?」

 

 「純血主義には、限界があります。新しい者を『穢れた血』として認めず、自分たち(純血)以外には冷ややかで、恨みを買ったらその血は呪われる」

 

 「ホグワーツが出来てから千年。純血は苦しい状況にいます。次の千年を迎えられないほどに」

 

 「彼らが誇る思想(純血)は、消えていってしまう」

 

 当然の事ではある。マグルの王家も、ギリギリのところがある。

 

 

 純血達は、数百年遡って親族がほとんど魔法族なら、尊い血(純血)を認めることがある。

 多少怪しくても、気にしない。

 

 始まり(・・・)は気にしないのだ。真に純血主義を掲げるのなら、マグルの血が絶対に(・・・)入っていない、一部の存在だけを認めるはずなのに。

 

 つまり、彼ら(純血)もわかっているのだ。

 完璧な純血主義は、もはや不可能に近いと。

 

 「実際、真に純血主義を掲げたスリザリンの末裔、ゴーント家は滅びました」

 

 彼らは間違いなく純血(・・・・・・・)だったのに。

 

 確かに相続などで問題が起きたらしい。

 それでも彼らは純血で、しかし他の純血は彼らを助けなかった。

 

 「純血主義は、次の千年に耐えられない(・・・・・・)

 

 彼らは、滅びてしまう。

 

 「だからかわいそう(・・・・・)なんです。穢れた血()には関係ないところで、彼らは苦しみ、壊れていく」

 

 ああ、本当に。

 

 「哀れだ」

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 それでも、クィレル先生は腑に落ちないという顔だった。

 

 「何か言いたげですね」

 

 「き、君の考えはわかりました。で、ですが今はまだ、純血主義は健在です」

 

 「そうですね。だから?」

 

 「今君が受ける屈辱を耐える理由には、ならないはずです」

 

 「………まあ、そうですね」

 

 その通りだ。いつか滅びる彼らを憐れむことと、今の侮辱を耐える事。

 これらは、関係ない。

 

 「もし俺が弱ければ、恨んで、怒って、何か(復讐)をやったでしょう」

 

 だが、俺は強い。

 

 「見下してるわけじゃないんですけど、正直俺の方が()なので」

 

 俺たちには力の差がある。

 

 「多少不快になることはありますが、その程度です。精神的にも、肉体的にも。もちろん魔法的にも、俺のほうが上なので」

 

 強さ故の余裕。結局、それが理由なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………」

 

 クィレル先生は、言葉を探している。

 

 「あなたは、何か得意なことはないんですか?」

 

 「………は、はい?」

 

 「これなら負けないと、自信を持って言える何かは、ありますか?」

 

 開心術の影響で、彼の心を、俺は知っている。

 

 「………トロールの、扱いは」

 

 「なら誇るべきです。魔法族は、基本的に魔法生物に興味を示さない。その中であなたは、更に興味を示さないトロールという存在を知っている」

 

 彼は特別を求めた。誰かに誇れるような自分を。

 

 「ですが、トロールなど………」

 

 「じゃあトロールを題材にしたクイズをしましょう。ほら、問題を出してください」

 

 「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやあ、負けました。ここまで詳しいとは」

 

 「しゅ、趣味の延長です。き、君がやろうと思えば私を越えられるでしょう」

 

 ああ、確かにそうだろう。

 爺さん(ダンブルドア)や『闇の帝王』、俺のような存在には絶対に勝てない。

 

 彼は力がなく、資格もない。

 それでも。

 

 「二度目です。人生で負けたのは、二度目です」

 

 「そ、そうですか」

 

 「一度目は、ダンブルドアでした」

 

 「!」

 

 「今までダンブルドアしかできなかった偉業を、あなたはトロールという狭い分野ではありますが、成し遂げました」

 

 「あなたは、誇るべきだ。今までのあなたの努力は、無駄ではなかった」

 

 それでも、彼は特別だ。

 誰もそれを見ようとしなかった。知ろうとしなかった。

 

 ただ、それだけなのだ。

 

 

 

 

*1
全部筋肉




クィリナス・クィレル

 吃音とその性格で友達はいなかった。
 トロールに関することなら誰にも負けないが、誰もトロールなんかに興味を示さない。
 彼は特別を求め、ある噂を聞き、そして。
 彼は、闇に負けた。
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