『魔王』 アルバート・ソーン   作:アーっr

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無知なる者とは、知らない者。
愚かな者とは、考えない者。
賢者とは、その叡智を他者に与える者。


賢者

 

 

 

 ああ、なんということだろう!

 『石』を狙っていたのはスネイプじゃなくてクィレルだったんだ!

 しかも、ヴォルデモートが頭に憑いてる!

 

 「捕まえろ!捕まえるのだ!」

 

 「ご主人様、こやつを押さえていられません…手が…私の手が!」

 

 でも、何故かクィレルが僕に触ったら焼けたように火ぶくれが出来て苦しんでる。

 今のうちに『石』を持って逃げなきゃ!

 

 「それなら殺せ!愚か者め、始末してしまえ!」

 

 まずい、魔法が────

 

 「────武装解除呪文(エクスペリアームズ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうも。忙しそうですね、先生(・・)

 

 「アルバート・ソーン!貴様、なんのつもりだ!」

 

 間一髪、と言ったところだった。

 あと数瞬遅れていれば、ハリーに魔法が放たれるところだった。

 さて、なんのつもり、か。

 

 「見ての通り、友達(・・)を助けに来ました」

 

 「愚かだな。情が湧いたか?あるいは、あの老いぼれが言う『愛』か?」

 

 「くだらん。『誓い』を守らなかった以上、貴様は死ぬ!」

 

 「────なぜ?」

 

 何故俺が死ななければいけないのか。謎である。

 

 「何故、何故だと!?貴様は俺様の復活に手を貸すと 『破れぬ誓い』を立てた!にもかかわらず、貴様は俺様の邪魔をしている!」

 

 「だから(・・・)?」

 

 まさかわかっていない?

 おやおや、まったく。これではどちらが老いぼれか笑えないなあ。

 

 「確かに、今は邪魔をしています」

 

 「ですが、必ず『誓い』は果たしますよ、そのうち。百年後には必ず復活の手助けをしますよ」

 

 「百年後まで、あなたという存在が保っていられたら、ですけど」

 

 「アルバート・ソーン!俺様の言うことを聞け!そうだ、母親を蘇らせたいとは思わないのか?二人なら、死すら操れる!」

 

 「いや、いいよ。母さんには悪いけど、俺は前に進みたい」

 

 ありがとう。そう言われたのだ。

 なら、もう終わりだ。

 

 「じゃあね先生(・・)。いろいろ教えてくれてありがとう。次、いつ会えるかわからないけど、楽しみにしてるよ」

 

 「貴様ァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ···············ふう。どっか行ったか。

 霊魂のような存在になってなお、俺ではまだ殺しきれない(・・・・・・)

 間違いなく深い闇の魔法による『不死』を実現している。

 

 「『闇の帝王』、か」

 

 あながち、間違いでもないのだろう。

 あれはまさに深淵。誰よりも『闇』にその身を沈め、なお生きている『怪物』。

 

 「········あ、ハリー」

 

 そうだった。ハリーが倒れたままだ。

 

 「あ、『石』だ」

 

 赤い、宝石のような『石』が、ハリエット・ポッターのすぐそばに落ちていた。

 

 これこそ『賢者の石』。不老不死を実現する、最高位の魔法道具。錬金術の到達点である。

 

 「················」

 

 『石』を掴む。

 ほんとに石みたいな感触だ。

 

 「············起きて」

 

 倒れているハリーのほっぺに『石』を当てる。

 ········どう使うんだ?

 

 「···········起きてくれ、ハリー」

 

 『石』でハリーのほっぺをつつく。

 起きない。触らせるだけではダメなのだろうか。

 

 「癒えよ(エピスキー)癒えよ(エピスキー)癒えよ(エピスキー)癒えよ(エピスキー)癒えよ(エピスキー)

 

 回復系の呪文は数が少ない。

 エピスキーでは効果が薄いようだ。

 

 頑張って医務室まで運ぶか?いや、罠がどういう挙動をするかわからん。

 ハリーを庇ってあの炎を超えることは出来ない。

 

 

 ───ああ、眩暈がする。

 母さんを助けられなかった時も、この無力感を感じた。結局、俺は何も変わっていない。

 

 何も学んでいない。何も成長していない。

 俺の怠惰で、また。

 ハリー(・・・)が苦しんでいる。

 

 「アルバート。よくぞ儂の留守を守ってくれた」

 

 「───爺さん!」

 

 「さあ、ハリーを医務室へ。マダム・ポンフリーならこの程度、簡単に治せるじゃろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、ハリーは助かった。

 

 「面会は5分です!それ以上は認めません!」

 

 「やあハリー。生きてるね」

 

 「生きてるよ。その───」

 

 「俺と先生の関係?」

 

 「うん。ダンブルドア先生は本人に聞いた方がいいって」

 

 爺さん、気をつかったな。

 思えば、助けられてばかりだ。

 

 「そうだな··············俺は先生の中に“もしもの自分”を見たんだよ。そして先生は俺に“理想の自分”を見たんだ」

 

 「もしも俺が弱かったら、先生のようになっていたかもしれない」

 

 「もしも先生が強ければ、俺のようになっていたかもしれない」

 

 あり得ない想像だ。結局、力と資格があったのは俺やハリーで、先生にはなかった。

 だから、死んだ。

 

 「だから、俺は先生を責められない。俺が弱かったら、先生と同じことをしていたかもしれない」

 

 彼は愚かで、臆病で、特別であることを求めた、弱い人間だった。

 でも。

 

 「勿体無いなぁ」

 

 彼の、トロールに関する知識は素晴らしいものだった。

 あれを失ったのは、勿体無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また一年が過ぎた!」

 

 「さてごちそうにかぶりつく前に、老いぼれのたわごとをお聞き願おう。なんという一年だったろう!」

 

 「君たちの頭も以前に比べて少し何かが詰まっていればいいのじゃが…新学年を迎える前に、君たちの頭がきれいさっぱりからっぽになる夏休みがやってくる」

 

 「それではここで、寮対抗杯の表彰を行うことになっておる。点数は次のとおりじゃ。

四位、ハッフルパフ、三百五十二点。

三位、グリフィンドール、三百六十二点。

レイブンクローは四百二十六点。

そしてスリザリン、四百七十二点」

 

 スリザリン生の喜びが爆発する。

 嵐のような歓声と足を踏み鳴らす音が上がった。

 

 「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定にいれなくてはなるまいて」

 

 静まり返る。

 スリザリン生から笑いが少し消えた。

 

 「かけ込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう…まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」

 

 「この何年間か、ホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」

 

 これでグリフィンドールは四百十二点。

 大きな加点だったが、順位変動はない。

 

 「次に…ハーマイオニー・グレンジャー嬢に…危険な植物に囲まれながらも、冷静に対処したことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」

 

 これでグリフィンドールは四百六十二点。

 グリフィンドールから歓声が上がる。

 スリザリンに並んだ。

 

 「三番目はハリエット・ポッター嬢…」

 

 「…その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」

 

 グリフィンドールは五百二十二点。

 スリザリンを追い越し、堂々の一位になった。

 耳をつんざく大騒音の喜びの声がホグワーツ中を駆け巡った。

 

 「勇気にもいろいろある」

 

 「敵に立ち向かっていくのには大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に十点を与えたい」

 

 最後のひと押し。

 これで、五百三十二点になった。

 スリザリンはもう笑っていない。

 

 勝ったのだ。まさかまさかの逆転劇。

 あのスリザリンに、勝っ───

 

 「おっと。諸君、少し待ちまたえ。まだこの老いぼれの話は終わっておらんのじゃ」

 

 再び静まり返る。

 無音。まさか、これからまだ加点するのか。

 

 「最後に。熟練の魔法使いでも苦戦する魔法生物(トロール)を打倒する魔法力。

 火に囲まれながらも論理を組み立てる頭脳。

 そして、他者を思うその心。

 これらをもって、六十点を───」

 

 「───アルバート・ソーン君に」

 

 「したがって、飾りつけをちょいと変えねばならんのう」

 

 スリザリンの象徴である緑の垂れ幕に、グリフィンドールの象徴である赤が混ざる。

 

 「おめでとう!同時優勝じゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やあ、爺さん」

 

 「優勝おめでとうアルバート」

 

 さて、俺は校長室に来ていた。

 

 「儂に何か、用があると聞いたが?」

 

 「ああ、俺に投資して欲しいんだ」

 

 多分世界で爺さんにしか頼めない。

 

 「ほう?それはそれは。一体どのような頼みなのじゃ?」

 

 「ニコラス・フラメルに会いたい」

 

 

 

 

 

 「············ふむ。確かに儂とニコラスは友人で、連絡も出来る。じゃが、何故会いたいのじゃ?」

 

 「クィレル先生が死んだ時、“ああ、こんなにトロールのことを知ってる人がいなくなってしまうなんて”って、思ったんだ」

 

 勿体無いと思ったんだ。

 

 「その人が今まで積んできた経験が、努力が、その研鑽が、死んだだけで失われるのは、勿体無い」

 

 せめて何か書物に、後世に残しておくべきだ。

 それほどまでに、価値のあるものなのだ。

 

 「しかし、君がいる。クィリナスの叡智を理解し、記憶に残し続けている君は、彼の跡を継げる」

 

 「そう。俺がいる。一度見たものを忘れなくて、見たものを再現出来る俺がいる」

 

 俺なら継げるだろう。

 それでは、それだけでは駄目なのだ。

 

 「後に繋げなきゃいけないんだ。母さんは俺に繋げてくれた」

 

 「それだけじゃ無い。今ある教科書も、設備も、何もかもが『前の人』が繋げてくれたものだ」

 

 だからこそ、俺は。

 

 「俺は人より優れている。間違いなく、あと数年で『今世紀最も偉大な魔法使い』は俺になる」

 

 「俺は、より多く繋げたい。俺の生きた証を、残しておきたい」

 

 「錬金術はその第一歩だ。ニコラス・フラメルの数百年を、俺が受け継ぎ、未来へ残したい」

 

 俺で止めてはいけないのだ。

 俺は受け継ぎ、さらに先へ進めなければ。

 そう。

 

 「───大いなる善のために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の説得は、爺さんの心に響いたのだろうか。

 わからない。開心術を使わずに他人と話すのはやはり緊張する。

 

 「·············わかった、アルバート。ニコラスに話をしてみよう」

 

 「!!!よっしゃぁ!ありがと爺さん!」

 

 「ただし、これだけは覚えていてくれ。

たとえ善意から来る行為でも、他者を傷付けることがあるのじゃ」

 

 「───ああ、わかった」

 

 知っているとも。

 

 俺も、愛していたのに。

 愛していたから(・・)間違えた。

 

 それでも、前に進むのだ。

 

 

 

 




全てを背負って、前に進む。
そのあり方はまさに、王の───
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