trueルートその後 作:幸森
4:00 隔離施設内通路
ダチカ先輩達が助けに来てくれた。この部屋以外を知らない私の代わりに施設のあらゆる場所を把握しているようで、暗い通路をずんずん進んでいく。
「スネジンカ、大丈夫だった?変なことされてない?」
「大丈夫です、皆さんも大丈夫でしたか?いつもあの女にいびられて...」
「あんなの、ピーコックの頃から慣れっこよ」
「そうよ、そんなことより、スネジンカちゃんの方が大変だったでしょう。変なおじさんたちが毎週のように来て」
アブレック先せ、さんも私のことを心配してくれる。迷惑をかけてばっかりだ、これからは私がみんなを守れるよう、頑張らないと...私はアサルトライフルをしっかりと、しっかりと握り直した。
準備をして警備の隙を突いたとはいえ、警備は全くと言っていい程機能していない。今のところ、警備の機械兵くらいしかいなく、それもダチカさん達は登録されてるため無視して巡回していく。人の警備はいつも以上に少なく感じるとはダチカさんの言だ。
西門から森林地帯へと潜伏しながら政府軍の領域へ逃げる計画だ。脱出の途中でアニタ、デジク、クラサフカとみんなとも合流できた。あとは西門でエクトルさん達と合流できれば脱出出来る。
西門に行くと警備の人間は全員寝ていた。カードゲームに興じてた様子であるが、机や床に突っ伏してる。全員ピクリともしない。エクトルさんがやったのだろう。周囲を見るとリシチカさんがいた。
「リシチカ!エクトルは上手くやったのね。さあ、早く逃げるよ...エクトルはどこ?先に行ってるの?」
「いや...エクトルから伝言。将校と警備の対応してるから先に行ってなさいってさ」
「なっ、またあの子はそういう無茶を...とは言っても時間からして今更引き返せない。エクトルなら上手くやるでしょう。みんな、先に行くよ!」
ダチカさんは少し声を張り上げると警備のいない西門を足早に通って行く。それに合わせピーコックのみんなも、進んでいく。一抹の不安はあるが、捕まればそれこそこれまでの努力が水の泡だ。あのエクトルさんなら...きっと大丈夫だろう。私は、皆とともに西門を超えた。
西門を超えると周囲は閑散とした平地が続く。つくづく脱出にとって不利な地形だ。だが、しばらく無人の野原の先に木々が広がる...東部都市の人々からは独特な白樺の木々が並ぶことから白い森などと言われている森林地帯が見えて来た。ここに潜伏しつつ逃げれば追っ手を撒ける可能性が高まる。私達はこの森林地帯に足を踏み入れようとしていた。
「君たち、そこまでだよ」
すぐ横の小屋の影から男の声が聞こえ、私達は即座に銃を構えた。
「..!あ~、撃たないのか。いや、いい判断だ。止め給え。味方だよ」
小屋の影から手を振って出てきた男は革命軍の制服を着た銀髪の軍人...いや、あの顔はいつも面談に来ていた先生だった。その後ろには車が停めてある。
「エクトルからは話を聞いてるよ。私はエクトルの協力者...いや別件でスネジンカ奪取計画をしていた者だよ」
そういうと男は胸ポケットから政府軍の身分証を見せてきた。
「先生は、政府軍の人間だったんですか...?」
「ふふ、先生なんて仰々しいなあ...ヘクターで良いよ、いつも言ってたでしょう。まあ、あんなカメラと盗聴器まみれの場所で君を助けに来た二重スパイですなんて言う人間はいないよ。まあ、国軍にも忠誠なんかないけどね」
周りのみんなは呆気に取られている。いくら、警戒が疎かとはいえ、早々にスパイに入られているとは思いもしなかったからだ。
「場所がわかったからとはいえ、溶鉄を突入させてもスネジンカごと自爆される可能性があった。まあ、実際に自爆装置は用意されてるからね。溶鉄を道連れにした救国の英雄サマなんて三文芝居されても困るし、溶鉄が今度こそ壊れてしまう。それでは困る。ちょうどよかったよ、スネジンカの回復とともに君たちが脱出計画を立ててくれて」
「全部わかってたんですね...ヘクター...さん」
「いや、全部じゃないよ。エクトルから計画を聞いてびっくりした。逃走用の足がまともに用意されてないんだから。東部都市含め捨てられた自動車も軒並み壊れてるから全て徒歩はさすがに無茶だよ。親から貰った足を大事にするのは良いけども、そこら辺は気をつけよう。
まあ、逃さないために施設内にまともに自動車がないってのは有効だよね、特に外に伝がない人間にとっては逃走能力の低さは死活問題だ。周辺基地の追っ手から逃れなくなる」
「エクトルさんは...どこに居るんですか?」
「車の中で休んでるよ。スネジンカ、君は彼女と共に溶鉄の...マルフーシャお姉さんに会いに行かせる。他の君たちは残念だけど別に行ってもらうことになる。南東部のロスヌイ郊外にある農村地帯だ。あそこなら戦火もまだないし、人手を欲しがってる。伝もあるから潜伏も容易だ、偽の身分証も用意はしてるよ。君たちも嫌だろ?裏切った国軍につくのも、どんな目に遭わされるのか分かったものではないだろうし」
「ずいぶんと用意が良いのね、ヘクターさん?」
ダチカ先輩が疑問を口にする、確かにそうだ。エクトルさんからはこの将校との協力についてなんの連絡も無かった。かなり直前に関わってきたのだろう。
「ズヴョウズダチカ、言っただろ。元から奪取計画のさなかだったんだ。それに僕の立場なら簡単に身分証を作れる。それこそもう一つの本物すらね、ダチカ名義にしたのでもあげようか?」
「信用しろと?」
「しなくても良いさ、その時は歩いて国軍地域まで行き、国軍の説得から始めると良いよ、逃亡兵や反動分子と思われないように気をつけてね。あっ、でもスネジンカは連れていくし、できれば安全な選択をとってほしいな。そういう契約だしね」
「契約?」
「そう、エクトルからね...頼まれたんだ。みんなの安全とスネジンカをマルフーシャに会わせてあげて欲しいって。まあ、元々そのつもりだけど優しい子だね、本当」
「契約と言うにはあなたにメリットが薄いように思うのだけど、こうしてのこのこ逃げてきた所を連れ去ればいいだけじゃない」
「突っかかるね...まあ、信用がないのは理解してるよ。でもそれをしてないのが答えじゃないのかい?埒が明かないな...エクトルを連れてくるかな」
肩を竦ませ、将校は後ろの車をチラリと見る。車の助手席の窓は空いており、一人の女性が見えた。エクトルさんだ...
「ずっと気が張り詰めて疲れたみたいでね...寝ているよ。心配しないで悪いようにはしてないさ」
「...わかりました、ついて行きます」
「スネジンカ!?エクトルとの話も本当かなんてわからないのよ!それに...「スネジンカの方がよくわかっているじゃないか。素直で頭の良い子は好きだよ。ダチカ、わかってるのならここでゴネても貰いは少なくなるだけだよ。追っ手については心配ないから、時間は幾らでもあるが僕も暇ではないんだ...よっ!」
唐突に話を切り上げにかかるとヘクターさんはポケットをまさぐり、1つのリモコンを取り出した。するとおもむろにボタンを押した
背後が一瞬光り、その後数秒としないうちに凄まじい爆発音が...更に振り返ると衝撃波の突風が私達を襲う。私達が見た光景は数時間前まで居たはずの隔離施設から立ち昇るきのこ雲だ。更に周囲を見ると遠くにも複数のきのこ雲が出ており、複数の光の瞬きが、銃撃音が遠くに響く。周囲にあるという基地が攻撃を受けているのだろう...
「溶鉄部隊を連れて来るのには苦労したよ。ああいう精鋭部隊は前線ですり潰すんじゃなくて後方浸透と補給基地の破壊にこそ真価を発揮する。敵の広告塔の奪取のためだと言ってようやく許可がおりたからなあ」
「あの中に姉さんがいるの...!?」
溶鉄部隊と聞き、ヘクターに詰め寄る。銀髪の軍人然とした将校は爆風でズレた軍帽を直しながらこちらの目を見て呆れたように言う。
「まさか、今の上層部にマルフーシャを広告以外で使える胆力のある人間はいないよ。実際...怪我もまだ治ってないから長距離行軍なんて出来なかっただろうしね」
その言葉を聞きホッとする。それとともに未だ病床の...姉を傷つけた、あの時の銃声を思い出し、胸が締め付けられる。呼吸が荒くなる...
「うん?ああ、気にしなくていいよ...スネジンカ、君は悪くない。それに、そんな顔をしていたらお姉さん...マルフーシャが悲しむよ。ほら、車に乗ってまずは落ち着こう。お姉さんも待ってるよ...そんな悲しい顔でなく、にっこり笑顔で会いに行こう」
そう言うと、先生はにこやかに笑いながら手を差し出して来た。私は、その手を取った...