trueルートその後 作:幸森
急に恋愛するなの文句はヘクター?(オージェ?)さんへどうぞ(責任転嫁)
「本当、悪趣味な映画ね...」
映画を観終わり、一言感想を言うとソファに座っていたセミロングの女性は隣に座っている黒髪の男に寄りかかり、身を預けた。
「君も出てたのに酷い言い草だね、これでもカゾルミアでは始めての全米で大ヒットを記録したノンフィクション映画なんだけど...ハリウッドから声がかかるかもよ」
「あなた...護衛兵士Hなんて端役、出ているに入らないわよ。ノンフィクションと言いながらフィクションだらけじゃない...特に貴方。名前も階級も見た目も何もかも嘘じゃない、演技もなかなか堂に入ってるわ...合衆国と連合の皆さんからのラブコールでも来ているんじゃないかしら」
「待っているのは映画監督やファンじゃなくて情報局員に保安局員だろうけどね...遊びに行ってあげても良いけども、今度はど、れにし、ようか、なとヤーメス・ボン・ジーベン!これで行こう」
そう言うと彼はテーブルに置いてある様々なパスポートの束から1つのパスポートを取り出す。表紙のマークには連合王国の国章がついてある。偽造パスポートだ。
「また、仕事?」
彼女は、仕事熱心な夫を心配そうに見る。出会ってから数ヶ月、留守にすることが多く、その仕事の危険性も知っている。
「なに、すぐ終わるさ。連合軍も合衆国、連邦王国のこれ以上の介入は嫌だろう。ほどほどに勝ちを宣言できる程度の講和で手を打つさ」
「合衆国と連邦王国が介入するとは未だに思えないのだけど、二国ともこの戦争には今まで連合寄りの姿勢を崩して無かったじゃない...」
国防を煽るプロパガンダにしても、カゾルミアは伊達に世界と戦争していたと言われていた訳では無い。少なくとも地理的に繋がりのある国とは戦争中か国交断絶、離れた国とも交易はほぼ皆無だ。連邦王国は以前より、西部の反乱に援助を続けており、合衆国は周辺国全てに食糧、燃料、武器といった戦略物資の供給を続けている。
「二国とも本気で連合を支援してた訳じゃない。合衆国に関しては貿易ができるのが包囲されたカゾルミアではなく、連合軍の国家相手だっただけだし、王国に関してもあくまで大陸におけるバランス・オブ・パワーの原則に則って、カゾルミアに対する牽制のため肩入れしてただけさ。カゾルミアの滅亡と、それによる大陸中央部の空白や連合軍による大陸の統一を許容してないのさ、それに...」
「それに?」
「合衆国は正義感と物資の消費先を探してる。マルフーシャ姉妹の真実を、悲劇を、愛を知った、虚構と現実の区別のつかない間抜け達は喜んで連合国を叩きに行くだろうさ。まあ、姉妹愛や悲劇は真実だから、間抜けとまで言うのは酷だろうが...なあ、そう思わないか?」
「あの映画で...?プロパガンダの塊じゃない?」
今見た映画を民主主義国家で流す広報担当の頭が理解できない。彼が担当の筈だけど...
「まあ、これはカゾルミア向けのだから...合衆国や王国向けの映画はもっと感情的で、悲劇的さ、革命軍や連合軍のプロパガンダもそのまま使って作ってやった。合衆国の記者に扮して質問してやった時の連合軍広報官の顔見たか...?
あれは、傑作だ!
目が右往左往してしどろもどろ、最期には顔真っ赤にして逆ギレしてカゾルミアのプロパガンダを鵜呑みにしている非国民だ!スパイだ!と。同じ自由を愛する民主国家への回答には0点さ、合衆国民も王国民も早速大規模な反戦デモが起きて、連合軍の大使館員達は真っ青...!暗号電文で本国へ抗議の嵐!
ついでに連合軍自体の不祥事を色々すっぱ抜いてやったから国内もグダクダ。
機械兵の"素材集め"で病んだ兵士たちへインタビューをしようと大手新聞社は取材合戦さ、ただでさえ参ってるだろうに取材で詰めかけられて可哀想に...自殺したら政府が悪い!政府の哀れな被害者!口封じ!で2度、3度美味しいとでも思ってるんだろうかね?これだから自由と勝手を間違えた人達は嫌だねえ...やっぱり民主主義の一歩先を逝く独裁国家はすばらしい!」
すごい早口だ。彼の悪い癖ね...本当、いい性格してる。
「参っていたマルフーシャにスネジンカをプロパガンダに使った人が何言ってるんだか...でも、それ以降は2人を守ってくれてありがとう」
「...?約束したじゃないか?私のすべてをあげるからみんなを守ってって、やっぱりいじらしくて可愛いよ、エクトル」
そう言うと、私を引き寄せる...全く、こんな人を好きになったなんてね...
ベッドで目を覚ます。気がつくと居なくなっていた彼は...果実水の入ったコップを持って戻ってきた。
「喉乾いてるでしょ?」
「ありがとう、そういえば...あなた下戸だったわね...」
「...? そうだね、ああ...あの時は焦ったよ、君がグラスごとくれるからつい嬉しくてそのまま飲んでしまって、飲んだあと、あっこれ盛られたら終わりだ...ってなったけど、普通に酔っただけで良かったよ。良くないけど...」
薄ら寒い笑顔で私からお酒を貰ってた時のことを思い出す。そういえば、あれだけ余裕のある状況から急に勝負を仕掛けてくるなと思っていたが...
「ちょっと気持ち悪いわよ、あなた。あの時はあなたの目が厳しかったから入れれなかったのよ...やたら高圧的になったのって酔ってたのね...」
「あの時はゴメンよ、まあ、解毒剤あって良かったよ。リペアキットは酔いにも効く。カゾルミアの大発明の1つさ」
「あの時、殴りかかっていれば勝てたのね...」
「怖いこと言わないでよ、血の雨が降るよ...僕の」
「ふふ、何よそれ」
真面目な顔をして冗談を言う彼に笑ってしまう。本当にここはカゾルミアなのだろうか...こんなふうに笑うようになったのは何時以来だろうか...
「やっぱり今の君が好きだ。前の少しツンツンしてた君も好きだけどね。」
「何よ...急に...もう」
「昔の君、今みたいな感じだったよ...死にかけてた所を助けてくれた...あの時のことは今でも覚えてるよ... ブルーピーコックで見た時は驚いたよ、部下や上司に変な渾名つけてるんだもの」
「やめなさい、あの時は少しピリついてたの...助けた?私が...?」
「そう、君に救われた。子供のころ、野垂れ死ぬ所を君の優しさに救われた。決して忘れないさ、決して、決して... 絶対に君を護ると決めた。
革命軍があちこちに潜伏してる間じゃあこっちのやりたいことが出来ないからね、暴発させて情報抜いて、骨抜きにさせて...ようやく君と一緒になれたよ、いやそういう運命を手繰り寄せたんだけどね...」
「全く覚えがないけど...それでその若さで少佐になるなんてね...すごい執念ね」
「僕が覚えてればそれでいいさ...王党派の重鎮から引き立てられてね。諜報、軍事、工業とこの辺は今も2等級のユンカー様が要職や主要企業を独占している。母が弱小とはいえ貴族のご令嬢だったことから声がかかってね、そこからは君のためにと頑張ったのさ。まあ、あの脱出の時はまだ大尉だったけど、佐官を名乗った方が融通が利くからね」
「あなたの人生の方が映画向きじゃないかしら」
「やめてくれ、情報部の人生なんて墓場まで知られるべきじゃない、君たちだけが知ってくれ」
「悲しいことね...たち?」
「えっ...?気づいてなかったの!?3ヶ月かなと思ってたんだけど...わかってて許してくれたのかと」
「早く言いなさいよ!」
「つわりとかで本人が先に気づくもんでしょうよ!」
その後、彼の見立ては事実で、出張から帰ってきた彼と私の両親との間に一悶着あったけども...それはまた別のお話。
「まったく、本当...私のこと全て知ってるのね」
「知らないことばかりさ、君の人形趣味とか。知ってたらあの時持ってきてたのに...」
「やめなさい!」
狂想曲 End-2
あとがき
諜報員が本当の名前、素顔を信頼できる相手以外に伝えるはずも単純に見せる筈もないです。
彼の一部はヘクター履歴書の行間の空間を読んでみて下さい。ヘクター、オージェは無論、本名ではないです。本当の名前はこの時点ではエクトルしか知らないです。
髪の色や階級も第一章のエクトルが言うように信用できないです。
狂想曲は彼のエクトルへのイカれた思いを示して名付けていました。
曲調のホ長調(E音) 2番は end-2(ゲームにおけるエクトルのエンド番号)を示してました。
言わぬが花とは言いますが、ネタばらしをした方が第一章の見る目も変わるかなと。本心(下心)がわかると、結構少佐(大尉)がキモく見えるように書いたつもりです。
毛糸玉さんのイラストからこんな話になった理由は自分でもよくわからないです。隠れて書いてる長編から設定を流用したのが原因かもしれません。
いつか長編を出すつもりです。また、会いましょう。
ちなみに、第2話の心理戦は
少佐)やっべ!飲めないのに飲んじゃった!でも間接キスやったー!(薄ら寒い笑顔)
エク)毒を気にせず一気に...余裕の表情ね...毒を盛られてないという自らへの絶対の信頼があるのね、油断できない...
少佐)あっ...ちょっ待って、酔い早いって!酔いつぶれる前に勝負決めなきゃ! surrender? yes or no !?(マレーの虎並の威圧)
エク)これ以上は譲歩するつもりはないということね...もう...無理か... yes...
みたいなすれ違いコントしてました。