園芸部の死神
ここはキヴォトスにおける、連邦捜査部“シャーレ”のオフィス。
日夜、先生が生徒の為に書類仕事に励む場所である。
「“そろそろかな……”」
先生が今日初めて当番になる生徒が来るという時間が迫っていることに気づく。
程なくして、オフィスのドアがノックされる。
「先生、来てやったぞ」
「“どうぞ”」
先生が促すと、生徒が入ってきた。
まず目につくのは、ボロボロの外套。
埃っぽく、銃弾らしき損傷で穴だらけだ。
万魔殿を彷彿とさせる制帽も土埃で汚れている。
しかし、その内側に着こむゲヘナの制服はしっかりとアイロンがけされてるのか皺ひとつない。
キヴォトスでは珍しい弊衣破帽の見本のようなバンカラなスタイルに目に向くが、その容姿は先生が少し心配になるほど青白い肌をしている。
短く切り揃えられた黒髪と同じ瞳は、自信に満ちていた。
「“アリウスの件以来だね、ミコト”」
「ああ、そうだな」
ミコト、と呼ばれた生徒は年上の大人にまるで敬意を示さぬまま、応接用のソファーにどかりと深く腰掛けた。
「それで」
ミコトは先生に尋ねた。
「誰を〆ればいいんだ?」
その中性的な美貌からは想像もできない野蛮な言葉。
先生は思わず苦笑した。
「“誰とも戦わなくてもいいよ”」
「……は?」
「“君がこうして私の当番として、ここに居ること自体に意味があるからね”」
「そう言うことかよ」
ミコトは全てを察して舌打ちした。
「用事が出来たら言え。俺はトレーニングでもしてる」
彼女は外套や帽子を脱ぎ捨てると、先生の書類仕事を手伝う仕草も見せず腕立て伏せを始めた。
先生は苦笑いを継続することしかできなかった。
そして先生は、彼女が提出してくれたプロフィールに目を落とした。
名前:
所属学園:ゲヘナ学園 3年生
部活動:園芸部
年齢:17歳
身長:163㎝
趣味:自己鍛錬、三度の飯より喧嘩
──以下省略──
先生は、もう一度ミコトを見やる。
周囲の、いや、キヴォトス中の彼女への評価はただひとつ。
──戦闘狂。
自分の全てを戦いにのみ費やし、目に映る全てに喧嘩を売る狂人。
ゲヘナ学園も。
トリニティ総合学園も。
ミレニアムサイエンススクールも。
ヴァルキューレ警察学校にもSRT特殊学園も連邦生徒会もそれ以外の主要な中小学校も。
全て喧嘩を吹っかけた。
そして勝って来た。
それだけでなく、ブラックマーケットを始めとしたキヴォトス各地の悪所で暴れまわり、彼女に倒産させられた企業は目録が無いと数えきれない。
ボコボコにされた不良や大人たちやの恨みを一身に受けて、それに喜んで立ち向かう骨の髄まで戦闘狂。
もう誰も彼女に挑むモノが居なくなると、つまらなそうに園芸部を立ち上げそこの部長になって植物の世話を始めた。
連邦生徒会も、各学園も、大人たち企業も。
全て屈服させた。それが彼女だった。
彼女への認識は、歩く災害。
彼女がシャーレに所属することになって、先生はリンに口が酸っぱくなるほどこう言われた。
──とにかく、目が届くところに置いておいてください、と。
暴力の化身、死神、破壊神、そして、キヴォトス最強。
彼女の異名は数多かった。
「“ねえ、ミコト”」
「なんだよ」
「“武勇伝を聞かせてよ”」
最強と聞いて、先生も男の子として心躍らないわけがない。
先生は書類仕事の間際に、彼女に訊いてみた。
「ふーん、どの話が聞きたいんだ?」
ミコトは片腕で、いやよく見たら小指だけで腕立て伏せをしながら問うた。
「入学初日の入学式で暴れまわった話か?
当時の生徒会をぶっ潰した話か?
トリニティに正面からカチこんだ話か?
ヴァルキューレの公安に捕まって、連邦生徒会長に土下座させるまで暴れまわった件か?
退学になったから今の生徒会と風紀委員どもにヤキ入れた奴か?
ホシノの奴と戦う為にカイザーどもにカチこんだ奴か?
それとも──」
「“ああうん、最初からでいいよ……”」
話に聞く以上の暴れん坊だった。
先生もちょっとドン引きだった。
「ありゃあ、俺がゲヘナ学園の高等部に入学した日だ」
もう二年半ぐらい前になるのか?
当時はまだ二大学校って呼ばれてたゲヘナ学園に入学したんだ。
ミレニアムが台頭してきたのはその年からだったから、よく覚えてるよ。
ゲヘナってバカみたいに生徒がいるだろ?
マコちゃんとかもう管理するのを放棄するぐらいだしな。
え? マコちゃんって誰かって?
マコトだよ、ほら、今の生徒会長。
あいつと会ったのもこの日だったな。
ゲヘナの生徒ってのはどいつもこいつもゴロツキばかりだろ、先生?
それでも一応は入学式ぐらいは出るもんだ。学生って自覚はあるんだろ、バカでも。
ギラギラしてて尖がってる奴ばかりで、俺もウキウキしてたもんだ。
在校生が銃撃戦やら手榴弾を投げてるのを尻目に、俺ら入学生は生徒会の面々に引率されて体育館に入っていくわけだ。
ちなみに。
「キキキ!! 私は万魔殿の議員である羽沼マコト様だ!!
お前達、大人しく私についてくるのだ!!」
マコちゃんは当時からこんな感じだった。
面白かったのはここからだ。
近くで銃撃戦をしてた在校生どもが、風紀委員に叩きのめされ連行されていったんだよ。
「あいつら、どこ連れてかれたんすか?」
「地下牢だ」
マコちゃんはそう言った。
「ゲヘナは今年から生まれ変わる。現生徒会長の方針だ」
俺達の引率も万魔殿の兵隊が随行していてな。
調子こいた奴がいたら即ぶちのめすって感じだった。
俺は思ったわけよ。──どんな風にブチかましてやろうかってな!!
「今の生徒会長ってどんな奴なんだ?」
「あんたゲヘナは初めて? 今の生徒会長は雷帝って呼ばれるくらいヤバい奴だよ」
俺が近くの奴に尋ねると、中等部から進学してきた奴がそう言ってたな。
今のノー天気なゲヘナの連中からは想像できないだろうが、中等部の奴らは皆雷帝を恐れていた。
つまり、強い奴だ。とりあえずゲヘナのアタマだから、そいつを〆るのは確定したわけだ。
え? 生徒会長だからって強いわけじゃないだろうって?
アホか、先生。不良学校のエリートが弱いわけないだろ。
実際、そこそこ強かった覚えがある。あれで本職は政治や研究畑だってのが信じられねぇよな。
まあ、それはおいておいて入学式が始まったわけだ。
俺達は順番に並んで椅子に座らせられる訳だが、俺以外にもかまそうとしてた不良が居たわけよ。
「おい、椅子に座れ」
「うちらはこっちに座りたいんだよ。文句あんのか?」
何人かが床に座って、先輩達に楯突いたんだわ。
俺はそう来たか、と唸ったね。先にやられたってな。
だがそいつらのヘラヘラした顔はすぐに消えた。
警告なしで発砲されたんだ。
体育館ってほら、上に通路みたいなのあるだろ?
あそこに何人も万魔殿の兵隊が詰めてて、そいつらに撃たれたんだ。
「お望み通り、床に這いつくばってろ」
しん、と空気が静まり返ったね。
そんで入学式が始まったんだわ。
俺は生徒会長のご尊顔を見た後、奴が祝辞を述べたぐらいで手を上げてこう言ったんだ。
「なあ、この中で一番強い奴を決めようぜ!!」
即座に銃撃を受けたよ。
ただ、全員狙撃が上手い奴を集めたのかしらねえが、全員狙撃銃での射撃だったんだ。
俺は挙げた手で全てのライフル弾を掴んだ。
くるり、ってな。多分五,六発ぐらいだったかな?
雷帝が指示した。取り押さえろって!!
それからは大乱闘よ。
外から万魔殿の兵隊がなだれ込んできてな。
新入生も入り乱れて大混乱!! あれは楽しかった。
この時は流石に多勢に無勢でな。
それに雷帝の野郎、鎮圧の為に体育館に戦車に榴弾を何発もぶち込んだんだよ。勿論、味方ごとだぜ?
イヤぁ、流石に本場は違うねぇ。
ああそうそう、実はよ、この場にあのヒナが居たらしいんだよ!!
あいつ、この一年ぐらいあとに俺に嫌味を言ってきたんだよ。
え? ……ああ、マコちゃんもその場に居たよ、当然だろ。
その後、流石に独房にぶち込まれてよ。
檻ぐらい破れたんだが、その時の俺は楽しくて楽しくてな!!
しばらくずっと独房で身体を鍛えてたんだ。
うん? 何が楽しいかって?
わからないのか? 俺はその時100の敵と何百の有象無象が居たんだ。
それで負けた。つまり、だ。
次に同じ数と戦った時、勝てるってことだ。
意味が分からない?
先生分からないのか? 勝負には勝ちと負けが有るんだぜ?
俺は負けた。じゃあ鍛えれば勝てるってことだ。
俺は全ての戦いが好きなんだ。
一対一が好きだ。
一対多が好きだ。
多対多も好きだ。
不利な戦いも好きだ。ぎりぎりの戦いも好きだ。有利な戦いも好きだ。
屋内で。路上で。市街で。山岳で。海で。森で。火山で。極寒で。
お互いに銃弾を撃ち切り、殴り合いにまで発展した喧嘩が大好きだ。
大勢に囲まれ、ボロクズになるまで足蹴にされる中に噛み締める悔しさは計り知れないもんだ。
俺は、俺の強さを証明する、ありとあらゆる真剣勝負が大好きだ。
最強以外に興味無い。
その全てで、勝利を追求する。
次は全員倒す。それだけだ。
それで、1週間ぐらい独房で鍛えてるとな、檻の鍵を開ける奴が居たんだ。
いよいよお勤め終了かと思ったら、そいつはこう言った。
「私達はレジスタンスだ。これまでのゲヘナ学園を取り戻すために、貴女の力を貸してほしい」
俺は一も二も無く答えた。
「イヤだね」
「……え?」
「お前らはお前らでやれ。俺は俺でやる」
そいつはポカンとしてたぜ、傑作だったな!!
だってよ、俺の目的は最強だ。
「生徒会の連中を〆たら、次はお前らだ」
「狂犬め……いいから、着いて来い!!」
そいつも危ない橋を渡って俺を引き抜きに来たって、あとで言ってたな。
とりあえずレジスタンスって連中の顔も確認したかったんで、俺は着いて行った。
んで、連中のアジトに行ってそいつらの顔を見て、萎えた。
弱者の顔をしてたんだ。
それがどういう顔かだって?
ああ、そいつらは絶対に勝つ、じゃなくて、一矢報いるって顔だったんだ。
そう言う奴は役に立たねぇ。
でも世話係には丁度良かった。独房の飯は栄養価が低かったからな。
俺はレジスタンスの連中をすぐに舎弟にしてやったんだ。
全員ぼこして、連中のアタマになったわけだ。
話によると、レジスタンスと似たような連中は数多くいるらしい。
そいつらと一斉に決起する日まで、俺はとにかく自分を鍛えた。
ついでにレジスタンスどもの根性も叩き直してやった。
そうしてしばらくつるんでると、情が湧くってもんだ。
身の上話とか、流行りのファッションとか、ソシャゲの話とかしたり、……まあ下らない話ばかりしてたぜ。
……あいつら、中等部からゲヘナに居たんだとよ。
自分らで勝手な部活を作って、適当につるんで、偶に撃ち合ったりしたり。
でも当時の生徒会に取り潰された。何の活動実績も無いからって。
あいつらは居場所を奪われたんだ。
そう言う話は当時、一山いくらだった。
ゲヘナの部活なんて、予算をちょろまかす為のペーパー部活なんて有り触れてる。
でもあいつらは悪さをしたり、違法部活だったから部費を貰ったことさえなかった。
まあ、風紀委員会に潰されない程度にはどうでもいい連中だったわけだ。
そんなふわっとした連中でも、戦う理由はあったわけだ。
そして、決起の日は訪れた。
俺はレジスタンスを連れて正面から生徒会本棟に殴りこんだ。
だが生徒会長、あの雷帝は居なかった。
反乱を察知して、ゲヘナ自治区にある軍事基地に移動してたんだと連絡があった。
そこで情報部を制圧した別動隊から、雷帝はそこで秘密兵器を建造しているって情報も入ったんだよな。
あいつはその秘密兵器を学園に向けかねないって話になった。
俺は軍事基地の強襲に志願した。
その基地には搬入用の路線があったから、ハイランダーにナシを付けて廃棄寸前の列車で特攻をかましたわけよ!!
その作戦を考えたマコちゃんもキレッキレだったぜ。
……ああ、実はマコちゃんは生徒会の反抗組織に支援してたんだとよ。後から聞いたが、いろいろと貸しだって言いやがるんだよ。
「それからは、まあ面白くもない話だ。
雷帝を見つけて、ぶちのめして、基地を爆破して終わりだ」
「“基地を爆破!! 爆破だね!!”」
「まあ、ヤバいモン作ってたのはマジだったしな」
先生が楽しそうにしているので、ミコトも語り甲斐があったようだった。
「これは話のオチなんだが。
その後、新しい生徒会を発足するのに学校内選挙があったんだ」
「“マコトが当選したんだよね?”」
「ああ、ただ無効票が六割、残りは不投票で、あいつの対抗馬が数十票ぐらいだったかな。
なんでそんなに無効票があったと思う?」
「“さあ……”」
「選挙に参加してない、俺の名前が書かれてたんだよ!!」
一連の戦いで、ミコトは武名を上げた。
じゃあ彼女に投票しよう、とゲヘナの生徒達は思った。
生徒会長に立候補してるかどうかも確認せずに。
「この間、キララの奴とつるんでたら、ミコちゃん生徒会長の仕事は大丈夫なのって言われて思わずポカンとしたっての!!」
「“それは……名前も似てるしね”」
大笑いするミコトに、先生は流石に同情を禁じえなかった。
「でだ、次は第一次トリニティカチコミ遠征の話になるんだが」
「“……第二次もあるんだ”」
「ああ、その時〆たのはナギサどもの先代の生徒会長三人だったからな。
任期がギリギリで二度手間になっちまった」
「“生徒会が変わるごとなんだ……”」
そしてミコトは語り出す。
当時のゲヘナで、
ちょっとした息抜きに書いたので、反響があれば続きを書きます。
こんな古臭いこてっこての最強主人公モノの続きを読みたい人が居ればの話ですけどね!! ハハハ!!
ちなみに主人公のヘイローは、ウェイト版タロットの死神のカードに掛かれた軍旗のバラをモチーフにしたものという感じの設定があります。
ちなみに、本作のマコトは完全に苦労人枠です。
そして、主人公の所為で相対的に知名度が下がったヒナが伏兵になっているという恐怖。
感想とかがあれば、お待ちしてます。それでは次回があれば、また!!