主人公のミコトや原作に無いキャラ達が愛されるのなら、これ以上ない喜びです。
これからも拙作をご愛読下されば、幸いです。
それでは、本編どうぞ!!
真夜中に数千人の不良が、ゲヘナの本校舎に集った。
そしてその数は、今も増え続けている。
巨大な学園であるゲヘナの校内はこの人数を収容するキャパシティを当然有している。
一日の食堂の利用人数を考えれば、この数倍は余裕であろう。
そこら中でトラブルが多発し、喧嘩が発生し、風紀委員が怒鳴りつける。
意思統一などされていない。ここに居る殆どが、どこに攻撃するかも分かっていない。
まさに烏合の衆であった。
「おーい、お前ら。注目しろ!!」
校内に幾つものキャンプファイヤーが乱立し、辺りを照らしている。
その中心部に設置された台座に乗り、ミコトが言った。
潮が引くように、あれだけ騒がしかった不良達が静まり返っていく。
誰もが壇上の彼女を見ていた。
「こんな夜遅くにこんなに集まってくれて、ありがとな!!
俺らは明日、ブラックマーケットにブッコむ!!」
ミコトの声に、ざわめきが走る。
ブラックマーケット、このキヴォトスで知らぬ者は居ない悪所中の悪所。
「こん中で、あそこに行って酷い目に遭った奴は手を上げろ」
ミコトの言葉に、数百人は手を上げた。
そうか、とミコトは目を伏せた。
ここに居る不良たちの一部も、行き場が無くてブラックマーケットに流れ着いたりしたのだろう。
そして、悪意を目の当たりにした。
最早、どこにでもある話であった。
「ダチが酷い目に遭わされた奴は手を上げろ」
更に千人近くが、手を上げた。
ざわめきが広がる。何も知らない不良たちも、その現実に驚愕するしかなかった。
彼らを監視していた風紀委員達も、歯噛みするほどだった。
「もういい、手を下ろせ」
彼女達は、手を下げた。
ミコトは確信した。この戦いは、自分だけのモノではない、と。
「俺達は、独りじゃなにも出来ねぇ」
暴虐の化身のように思われていて、ここに居る全員は何らかの形で彼女の銃弾を受けた者ばかりで、その弱音のような言葉に彼女達は揺らいだ。
「俺はあの場所に殴り込めば全部解決すると思ってた。
でも、それじゃダメらしい。ここの生徒会長のマコトパイセンが、そう言ってた。
全員で囲んで、クズどもを全員ぶっ飛ばさなきゃならねぇ」
ミコトの言葉を、誰もが静かに聞いていた。
「その為には、俺らだけじゃ足りねぇんだ。数も、頭もだ。
そこにいる風紀委員も、マコトパイセンの万魔殿も、トリニティの連中も協力してくれる。
それで初めて、お前らに舐めたことをした連中をぶっ飛ばせるんだ。二度と下らねぇことが出来ねえようにしてやれんだ」
ミコトはここに集った全員を、ぐるりと見渡した。
「あのクズどもを逃がして、もう一度痛い目に遭いたい奴は手を上げろ」
誰も、手を上げなかった。
「あそこに居るクズどもを逃がして、ダチが酷い目に遭って笑いたい奴は手を上げろ!!」
誰も、誰も手を上げなかった!!
「お前ら、つまんねーこだわりは捨てろ。
風紀委員と不良だとか、ゲヘナとトリニティだとか。
俺らの想いはひとつだ。あの場所に居る奴らを赦しちゃおけねえ、違うか!!」
「違わない!!」
誰かが言った。
「あいつらを赦すな!!」
「私らを見下す大人どもをぶっ殺せ!!」
「あの犯罪者どもに目に物を見せるんだ!!」
怒声を発するように、無数の声が沸き上がる。
もう、不良や風紀委員も関係無かった。
ブラックマーケットがある限り、自分だけでなく近くの友人や級友が脅かされる危険がある。
誰もがそれを認識したのだ。
もう誰も、他人事ではなくなったのだ。
「そうだ、俺らが食うに困って、住む場所も無い中で、連中はきっと毎日美味いステーキを食って、デカいベッドに寝てやがるんだ!!
奴らに教えてやろうぜ!! 冷たくなった飯の味を、ダンボールに包まって夜空の下で眠るわびしさを!!」
そうだそうだ!!
そうだそうだッ!!
奴らを引きずりおろせ!!
私達の苦しみを味わわせろ!!
熱狂、狂乱、絶叫、狂奔。
ミコトの言葉は、彼女達の胸を打った。
「……素晴らしい映像だわ」
その光景を、ユエはスマホで撮影して愉悦に浸っていた。
一方で、その光景を遠巻きに見ていたカンナは戦慄していた。
「羊が率いたライオンより、ライオンが率いた羊の方が強い、という言葉がある……実際にそれを目の当たりにするとは」
本物の将器、カリスマ。
何の根拠もなくその戦いに勝てると思わせる、武将が持つべき資質の発露だった。
「俺らがぶんどったブラックマーケットの土地に、マコトパイセンが住む場所を作ってくれる。そうだよな、マコトパイセン!!」
「ん!? あ、ああ、そうだな……」
出兵の陣頭指揮を執っていたマコトは、急に話を振られて反射的に頷いてしまった。
彼女の言葉に、不良たちは湧いた。
ここに居るのは本当に、住む場所も食べ物にも困るような不良ばかりだったのだ。
「それじゃあ、みんな!! マコトパイセンの指示に従ってくれ!!
んじゃ、マコトパイセン。何か一言頼むよ!!」
「ああ……」
内心また勝手な事を言いやがって、と怒りを内側に抑え込み、マコトが壇上に上がる。
「えー、ゲヘナ生やそれ以外の生徒も多数見受けられるが……」
マコトは本来長々とした演説を好むが、こいつらには自分の高尚な演説は理解できないだろうな、と思いながらビシッと決めることにした。
「聞くところによると、ブラックマーケットはこの世の地獄みたいな場所らしいな。
しかし、それは今日、思い上がりだと知るだろう」
マコトは静まり返って彼女の声を聴いている観衆に言った。
「諸君、────我々が
これにはゲヘナ生は歓喜の声を挙げた。
ビシッと決まったマコトは、ドヤ顔を披露した。
なお、肝心の万魔殿の議員たちは、普段からこれくらい短ければいいのに、と思っていたそうな。
「まあ、そんな感じで大事になってしまったんです」
そこまで語ってから、カンナは先生が黙りこくって何かを考えているのに気づいた。
「あ、すみません、楽しい話ではないですよね」
「“あ、いや、気にしないで!! ちょっと引っかかっただけだから”」
先生は慌ててそう言った。
生徒に気を遣わせるつもりは無かったのだ。
「“それにしても、異常な弾丸、か”」
しかし生憎、先生には心当たりがあったのだ。
そんな代物を作り出せる、そんな集団を。
「安心してください、製造拠点は破壊し、その弾丸の製法は出回っていません。
いえ、誰も真似できなかったというのが正しいでしょうか」
「“……それを聞いて安心したよ”」
それを聞いて確信にも至ったけど、と先生は内心付け加えた。
「私も戦場には同行したので、大変でした。
警備局のビーコン代わりに位置情報を伝える役目もあったので」
そしてカンナは続きを話し始めた。
「作戦は簡単だ、お前たちは指定した場所に網を張っていればいい。
ひとつの経路につき、二百人も居れば流石に取り逃がしたりはしないだろう」
流石に全員が輪になってブラックマーケットを囲むわけにもいかない。
そんなやり方では今の十倍の人数が居ても足らない。
なので、ブラックマーケットへの主要な道路や小さな侵入経路を封鎖する作戦をマコトは取った。
要するに、不良たちを戦力として期待していなかったのだ。
訓練もしていない不良たちに作戦行動を期待するだけ無駄なので、それは当然なのだが。
「逃げてきた奴ら全員敵だ。ぶっ飛ばして捕らえろ。お前達が頼りだ、任せた。
そうだよな、ミコト?」
暴れに来た不良たちが不満そうにしているのを見せると、そのように鼓舞する。
ゲヘナの本命は万魔殿の兵隊と風紀委員会。
そして、ミコトの率いる精鋭。その総数約1200名。あとその他後方支援が約50名。
ゲヘナ側の担当地区を封鎖すると、マコトの搭乗する指揮車両を先頭に戦車隊が進撃を始める。
「キヒヒヒ!! やはりマコト様スペシャルの乗り心地は最高だ!!」
金ぴかに塗装された重戦車、その後部にマコトの等身大の銅像と大型のスピーカーを二機搭載。
その名も、マコト様スペシャル号。彼女の特注の専用車両だ。
なお、運転しているのは羞恥の極みに居るイロハで、当人はハッチの上で高笑いしていた。
「ヤベーな、マコトパイセン。
戦車をあんなにデコるなんてよ、ハンパねーぜ」
「そ、そっすねー」
「ヤベーセンスってのは同感っす」
ミコトは感心してたが、他の面々は微妙な反応をしていた。
ともかく、数十の戦車隊の上にヤンキー座りで乗るミコト達。随伴歩兵と言うより、完全に切り込み隊長だ。
戦車は基本的に強力な武器だが、接近されると死角が多い。
それをカバーする為に歩兵を随行させるのが基本中の基本である。
「止まれー!!!」
ゲヘナ学園がブラックマーケットに侵入してすぐである。
「ほう、意外と早いお着きだ」
マコトは鼻を鳴らしてそう言った。
これだけの大兵力を動かして、相手も対応しないほど愚鈍ではなかった。
ブラックマーケット側の戦車と歩兵が並び、完全に戦闘態勢だった。
「我々はマーケットマーシャルズ、この地域の治安組織である!!」
彼らは数あるブラックマーケットの治安組織のひとつであった。
「即刻、立ち去れ!! さもなくば、武力行使も辞さない!!」
と、向こうの指揮官らしき大人がそう言った。
対して、マコトはマイクを手に取り言った。
「どうやらブラックマーケットの商売人どもは、金勘定も出来ないらしい。
これだけの大部隊を動かすのには、当然それ相応の費用が掛かるのだ。
我々が、今更後に引くと思うのか?」
戦車に搭載されたスピーカーが大音量でマコトの声を周囲に届けた。
マコトのキレのある返しに、ミコトとその不良仲間たちは笑い声を上げた。
これには彼らも、顔を真っ赤にした。
「総員、攻撃態勢!!」
「イロハ、曲を流せ」
「選曲は何にします?」
相手が激怒しているのにも気にせず、マコトは暢気に車内のイロハにそう言った。
「我がゲヘナ学園の校歌、と言いたいところだが。
万魔殿の行進曲といえばあれだろう」
「了解しました」
「よし、──ミコト」
今度は背後の戦車に居るミコトに、マコトは目を向ける。
「仕事の時間だ、やれ」
「了解、マコトパイセン」
ミコトと彼女の仲間たちが立ち上がる。
指揮車のスピーカーから、音楽が奏でられる。
────“Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?”
ミコト達が、敵勢に特攻する。
ライオットシールドを構えたユエ達前衛が弾丸の雨を受け、相手の喉元へ飛び込んだ。
────“Mein Vater, mein Vater, und hörst du nicht,
Was Erlenkönig mir leise verspricht”────
ミコトが敵の陣形に飛び込み、無理やり乱戦に持ち込ませる。
銃を乱射し、弾切れになったら銃剣を振り回し、戦車を蹴飛ばし横転させる。
「ミコト!!」
「ああ!!」
弾切れになる度、バックパックを背負ってガンベルトを巻いたユエが盾を構えたままミコトの背を守り、マガジンを手渡す。
救急医療部時代に培った、絶妙な連携であった。
「なあ、この曲なんだ? 聞いたことはあるんだけどよ!!」
「知らねえ!! でも有名なのは知ってる!!」
万魔殿の戦車隊の砲撃が彼女達を支援する。
「知らないの? この曲名は──」
ユエが楽しそうに、雑談する余裕がある仲間たちにこう言った。
──
「──
重厚なクラシックの音楽に合わせ、魔の軍勢が進行する。
マーケットマーシャルズを撃退して、彼女達は進む。
出くわす相手は、全員敵だ。
別動隊の風紀委員が、次々と悪徳企業の本社ビルを制圧している。
当然、この地に根差す悪党どもは阿鼻叫喚だ。
「マーケットガードは何をしている!! 奴らにいったいどれだけ出資したと!!」
「くそッ、書類だけでも処分しろ!!」
「もう嫌だ、俺達は逃げる!!」
犯罪企業なので、その企業体制も当然ブラックだ。
一部の経営陣以外は、当たり前のように社員の労働もブラック。
ただの労働者階級は我先に逃げ出すが。
ゲヘナの進行と反対方向に逃げた大人たちは、目にした。
「これは、歌声?」
「讃美歌……」
「あ、あれは──」
讃美歌を謳いながら行進する、黒い制服の集団。
トリニティの、正義実現委員会。そして、シスターフッドだ。
シスターたちがラッパを鳴らし、それに合わせて歌い出す。
『世の終わりのラッパ 鳴り渡る時 世は
ひゅーーーーぅ、と言う低い音が、彼らに聞こえた。
それはまさに、終末のラッパの音のようで。
彼らの頭上に、──榴弾の雨が降り注いだ。
「えー、こちらアルファ1。ゲヘナ学園の万魔殿、正規部隊です。トリニティの正義実現委員会も確認しました。
事前情報と異なります、オーバー!!」
『うーーーん、まあ提供された情報が常に正しいわけじゃありませんからね』
「それじゃあ、全機帰投しますか? 警備局長」
『……いやぁ、ここまで来ちゃったし、燃料代が勿体ないから、お前達の状況判断に任せるわね!!』
「……了解しました!! こちらの判断で悪党を検挙します!!」
ヴァルキューレ警察学校のヘリ二十機が、ブラックマーケットの上空に達した。
「総員、今までの鬱憤を晴らす時だ!!
我々はこれまで、いったいどれだけの犯人をこの場所に逃がした?
この囲いの中から我々を嘲笑う連中に、目に物見せてやれ」
警備部隊の隊長は、ヘリに搭載されているスピーカーから音楽を鳴らした。
その曲名は当然、『ワルキューレの騎行』だ。
「諸君、悪党の魂を刈り取れ!! 一斉検挙だ!!」
その言葉と共に、ヘリから警備部隊が投下される。
こうして、戦場は更に混迷を極めていく。
ブラックマーケットが燃える。悪徳の都が、溶けていく。
あちこちから火の手が上がり、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる。
それはさながら、魔王の降臨か、終末のラッパが吹かれたのか、戦乙女が魂を取り立てに来たのか。
「ちッ、誰かがナパーム弾を使いやがったな。
普通の火事じゃこんなに火の手が回らん」
後方に詰めていた救急医療部の部長は、前線から送り込まれてくる患者を敵味方区別無く治療しながら、そうぼやいた。
これだけの人数を完全に統制するのは難しい。
外周を封鎖している不良たちが勝手に突出し、攻撃し始めているのは明らかであった。
「う、うう、助けて、痛い」
「おいてめえ、最近出回ってる違法銃弾はどこで作られてるか知ってるか?
教えりゃ、治療代はタダにしてやる」
部長は怪我人の大人全員にそう言って尋問も並行していた。
「ぶ、武器商の連中から聞いたことが有る!!
だ、だから、助けてくれ!!」
「おう、知ってること吐きながら黙って治療されろ!!」
『ミコト、私だ』
マーケットガードの事務所を襲撃していたミコトのスマホに、電話が入った。
その名前が画面に表示されると、ツーコールで電話に出た。
「はい、部長。なんすか?」
『違法銃弾の製造拠点が分かった。そっちに地図を送る』
「はい、了解っす」
通話を切ると、すぐに地図アプリの画像が送られてくる。
「おいカンナ、製造拠点が分かったぞ!!」
「なに!?」
マーケットガードの事務所の資料をひっくり返していたカンナに、制圧を終えて周囲を警戒していたミコトが言った。
「よし、ここから近いな、すぐに行くぞ!!」
「おう!! お前らはここの資料、マコトパイセンに持って行っておけ」
「うっす!!」
ミコト達一派は敵自治組織の拠点を次々襲撃し、その度に資料を運び出させている。
その度に数を減らしているが、ミコトを止められる者はいなかった。
違法銃弾の製造拠点はとある軍需企業を隠れ蓑としていた。
残り十人程度に減ったミコト達が突入すると、社員たちが悪事の証拠を処分している現場に直面した。
「くそッ、もうここまで来やがった!!」
「運動会じゃねーんだぞ、アホみたいに大音量で鳴らしやがって!!」
「ここから先に行かせるな!!」
武装した社員たちは、事務職らしいのに精いっぱい抵抗をした。
「ミコト、お前は先行しろ!! 証拠をこれ以上処分されるわけにはいかない!!」
「おう!!」
カンナの指示に、ミコトは敵の防衛網を突破した。
そうして、彼女は地下に工場があるのを発見したのだ。
地下なので小規模だったが、それは間違いなく銃弾の工房だった。
「おや、もうここまで来たのですね」
一人の大人が、振り返ってミコトを見た。
「……まさか、ゲヘナの死神。貴女がやってくるとは」
「誰だ、てめえ」
ミコトは見たことも無い大人その姿に、警戒を露わにした。
「ああ、失礼しました」
杖を突いたコートの男は、頭部が無かった。
まるで煙のように、影が揺らめいているだけだった。
その代わりと言うように、その手には帽子を被った後頭部の写真が遺影のように抱えられていた。
「わたくしはゴルコンダと言います。どうも初めまして、お嬢さん」
怪人は、恭しくミコトに一礼して見せた。
簡易人物紹介
ゴルコンダ:みんな大好きゲマトリアのひとり。原作でああなってるので、今回悪役として起用。多分彼なら出来ると思ったので、適役である。
連邦生徒会編はこれで起承転結の承まで終わった形です。
次回からは転の段階に移行します。
それでは、また次回!!