ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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あの、その、なんて言いますか。
正夢って本当にあるんすね……。



盾と矛

 

 

 

 ヴァルキューレ警察学校を後にしたミコトとユエは、そのままサンクトゥムタワーへと徒歩で向かった。

 

「ねえ、ミコト」

「なんだよ」

「多分だけど、このまま連邦生徒会に乗り込んでもあんまり歯ごたえ無いわよ」

「……だよなぁ」

 

 たった今ミコトはゲヘナ学園で言うところの、風紀委員会を倒してきた。

 じゃあ万魔殿に乗り込んで、風紀委員会ほど楽しい喧嘩が出来るか、という話だ。

 

「弱い者いじめして勝っても、なんか面白くねーよな」

「それにさっき大々的に宣戦布告したけど、逆にこのままミコトにSRTの連中をけしかけたら、なんか口封じみたいじゃない?」

「……確かに」

 

 ユエがたった今思い当たった可能性に、ミコトも頷いた。

 

「どうせ、連邦生徒会長なんてお偉いさんがミコトの退学に関わってるとは思えないし。

 私が政治家なら、さっさと非を認めてテレビで公式見解を発するわ」

 

 要するに、損切である。事態が悪化する前に、非を認める。それが一番ダメージが少ない。一番賢い選択だ。

 ただそうなるまで、恐らく数時間のタイムラグがあるということだ。

 

 二人がサンクトゥムタワーへと到着するまで、あと徒歩で一時間も掛からない。

 

「それが最善ってことか。じゃあ最悪は?」

「彼女らにとって最悪は、頑として非を認めないパターンね」

 

 ミコトは結局のところ一個人の一生徒に過ぎない。

 そんな事実はなかった、という姿勢を貫いてもおかしくはない。

 政治家と言うのはそう言う生き物だ。

 

 その時は、連邦生徒会に“最悪”を教えるだけのこと。

 

「私達にとって最悪のパターンは」

「最悪のパターンは?」

「連中の対応が決まらないパターンかしら」

 

 政治家とは、結局のところ一枚岩ではない。

 意見をぶつけ合わせて、最善を模索するのが民主主義。

 その民主主義最大の欠点が、意思決定に時間を要することである。

 

「この場合は、何の面白みも無くこのままミコトがサンクトゥムタワーに行って大暴れすることになるけど、それって割とマズいのよ」

「なんでだ?」

「だって、サンクトゥムタワーを全部破壊して機能停止したら、最低でも電車や水道、電気が止まるわよ」

「……」

 

 ミコトはユエの指摘にポカンとなった。

 まるでその可能性に気づきもしていなかったようだ。

 

 ユエはその姿勢から勘違いされがちだが、ミコトの起爆剤であり()()()()()

 彼女が一線を超えないようにいつも助言しているのだ。

 

「あれだけの宣言をしてしまったのだから、乗り込まない訳にはいかないでしょう?」

「……そうだな」

 

 サンクトゥムタワーはキヴォトスの行政を司る、まさに心臓部。

 そこに居る行政官達を全員ぶちのめしたら、キヴォトスのあらゆる業務が停止する。

 ユエ的にはそんな阿鼻叫喚も面白そうだが、ミコト的にはそこまでしたいわけではないのを、彼女は察していた。

 

「ユエ、お前はどうすべきだと思う?」

「私なら、兵糧攻めかしら」

 

 ユエは既に解答を持っていた。

 

「ミコト、貴女の舎弟を呼んで、サンクトゥムタワーを完全に包囲すればいいわ。

 誰ひとり出られない状態にするのよ。あとは相手の出方次第だけど、騒ぎが大きくなればなるほど損をするのはあちらの方だわ」

「じゃあ、それで行くか」

 

 何だか不完全燃焼気味だが、ミコトは納得した。

 

 その時である。

 二人の歩く道の横に、スクーターが停車したのだ。

 それに乗っていた生徒が、荷台の箱を開けて中身を取り出した。

 

「どうも、"FOX Eats"です。お食事のお届けに上がりました」

「なんだユエ、お前メシ頼んだのかよ」

「人違いじゃないかしら?」

「いいえ、間違いありません。逢坂ミコトさんに、月見ユエさんですよね?」

「ねえミコト」

「まあいいだろ、くれるって言うんだからよ」

 

 ミコトは配達員からお弁当を受け取った。

 中身は、お稲荷さんだった。

 

「ほら」

「わかったわ」

 

 ミコトは警戒心を露わとするユエと、お稲荷さんを分け合って食べた。

 

「んぐんぐ、美味いな」

「そうね、お茶が欲しいわ」

「美味しいですか? 美味しいですよね。だって──」

 

 配達員の目が細まった。

 

「今日の私達のお昼ご飯だったんですから」

「ふーん、連邦生徒会長ってのも粋だな。気に入ったぜ」

 

 ミコトはプラスチックのお弁当を近くのゴミ箱に捨てた。

 

「まさか、本当にデリバリーしてくれるとはなぁ!!」

「美味しかったですか? ──シャバで最後のご飯は」

 

 その直後、ミコトは前のめりに倒れた。

 狙撃だ。

 

「こちらFOX2、対象の沈黙を確認」

 

 配達員、いやFOX小隊のニコが無線を取り出し、そう仲間に告げた。

 

「残り一人は?」

『拘束しろ、彼女は共犯だ』

「了解」

 

 彼女のやり取りを見て、ユエは思った。

 速い、個人で動いている二人を捕捉し、強襲に成功した。

 連邦生徒会長の直属の特殊部隊、SRTは想像以上に有能だと。

 

 ただ、こうも思った。

 

「ねえミコト。このままだと画が地味なんだけど」

 

 どうせなら、もっと派手な方がいい、と。

 

「しょーがねえだろ」

 

 むくり、とミコトは起き上がった。

 ニコが目を剥いた。

 

「多分一キロ以上離れて撃たれた。生物が反応できるかよ」

「12.7x99mm弾の直撃を受けて、なんでピンピンしてるの!?」

「鍛え方が違うんだよ」

 

 狙撃可能なライフルを所有する生徒は多いが、ライフル弾一発ぐらいではキヴォトスの住人は戦闘不能にならない。

 だから狙撃で確実に対象を無力化するには、対物ライフルが用いられる。

 

「スナイパーに無線で伝えとけ、俺を倒したいならアタマ狙えってな」

「くッ」

 

 基本的に銃撃と言うのは、胴体を狙う。

 頭部を狙うのはリスクが高い。例えば偶然くしゃみをしたり、ちょっと頭を下げただけで外れる可能性があるからだ。相手が移動中なら尚更である。

 しかも一キロ以上の超長距離狙撃、射手の一ミリのブレも命中率に影響する。

 胴体を狙うのは当然だし、普通の生徒ならそれで身動き取れない筈なのだ。

 

「どうする、ミコト。一人でやる?」

「流石にスナイパーは面倒だ。手を貸せ」

「了解したわ」

 

 ユエは背負っていた防弾盾を構えて、ミコトの背後に回った。

 二人は何を暢気に余裕そうに話をしていたかと言えば、基本的にスナイパーは一射ごとに位置を変える。

 今頃狙撃手はもっと近距離で狙撃しないと効果が無いと認めて、移動している頃だろう、と踏んでるのだ。

 

「流石に12.7x99mm弾相手に長くは持たないわよ」

「後ろに壁が有れば十分だ」

 

 ミコトは銃を構えた。

 

「仲間呼べよ、待っててやる」

「もう来てるわよ!!」

 

 近くの建物の塀を乗り越え、クルミが飛び掛かってきた。

 シールドバッシュ!! 防弾盾での殴打だ!!

 超至近距離、銃を封じたクルミの脇からショットガンを構えたニコが銃撃を加える。

 

 しかし銃弾は虚空を切る。

 あっさりと銃を手放したミコトがショットガンの重心を手で逸らしたのだ。

 ショットガンを掴まれたニコとミコトの膠着が一瞬、産まれる。

 

「なにやってるのよ、ニコ!!」

 

 クルミが叱咤し、サブマシンガンをミコトに向ける。

 2点バースト、しかし踊るようにくるりとミコトの前に現れたユエが銃弾を防弾盾で防いだ。

 

 くるり、とまた二人の位置が変わる。

 ユエの背からくるり、と回し蹴りをクルミに放った。

 それと同時に、ユエは盾を押し込む。

 

 クルミは盾と盾がぶつかる衝撃で、ミコトの回し蹴りに対応できなかった。

 位置的に真横に居たニコも、回し蹴りに巻き込まれんと咄嗟に飛び退き、ショットガンで応戦する。

 しかし、後ろ手で自動拳銃を受け取っていたミコトが反撃する。

 

 横に移動しながらニコは蹴り飛ばされたクルミの方へ寄り、防弾盾を立てて仲間をカバーする。

 

 その直後、ミコトに狙撃の弾丸が飛来する。

 だが、ミコトの背後に回ったユエが、防弾盾に12.7x99mm弾の穴を開ける。

 

「それは、読めてたわ」

 

 狙撃手も仲間のカバーに動いて、絶好のタイミングで撃つことができなかった。ユエはそれを読んでいた。

 くるり、と二人の位置が変わる。体勢を立て直した二人の銃撃が火を噴く。

 

 後ろに回ったミコトは、ゆっくりと彼方を指差す。

 

 その動作に、スコープを覗いていた狙撃手──オトギはぞくりと背筋が凍った。

 まるでサイコパス判断の問題のように、マンションの対岸から何人殺せばいいか指を差して数えるような、そんな仕草だった。

 

 つまりミコトはこう言っているのだ、────そこにいるな、と。

 

「ユキノ、あっちに回って」

 

 オトギはスポッターを務めていたユキノに言った。

 

「しかし……いや、そうさせて貰おう」

「気を付けて。私ももっと接近する」

 

 ユキノはオトギの判断に頷き、即座に建物の屋上から飛び降りた。

 狙撃兵は時として、一人で1000人の兵隊を足止めできる。

 

 兵士と言うのは、戦う時に自分は生き残れる、死ぬのは自分以外の他人だという心理で命を賭けることができる。

 だが、狙撃兵はその真理を逆手に取る。自分が狙われている、と敵兵に突き付ける。

 

 そうして、最初の一人に成りたくない1000人が棒立ちになるのだ。

 

 だというのに、ミコトは狙撃をまるで恐れていない。

 それどころか、逆に威圧さえしてくる。

 

 戦場では、こんな常識がある。狙撃兵は捕虜になれない、と。

 兵士たちは狙撃兵を絶対に赦さないからだ。

 だから彼らは捕まるとなると、狙撃銃を隠すという。

 

 つまり、ミコトは言っているのだ。

 お前絶対ぶっ飛ばすから覚悟しろ、と。

 

「これじゃあ役目があべこべだよ……」

 

 狙撃兵が敵兵に威圧される。

 恐怖で戦場を支配する狙撃兵が、恐れを抱かせる。

 そんなミコトに得体の知れないを感じながら、オトギは移動を始めた。

 

 

「ヤベーな、つえーぞこいつら!!」

「そうね、個人レベルでミコトとここまで戦える相手を私は初めて見たわ」

 

「あいつ、ワカモより直情的で戦闘能力は上かも……はあ、はあ」

「はあ、はあ、SRTで学んだことが、全然通用しない……」

 

 攻撃のミコト、守りのユエ。

 完全な役割分担。どちらも逆のことを一切しない。

 攻守を的確にスイッチし、相手の消耗を敷いている。

 

 10キロ走りこんでも息切れしない特殊部隊の二人が、ジリ貧になるまで追い詰められている。

 

 SRTの小隊思想は、器用万能な前衛と特化型の後方支援によって成り立つ。

 そうして如何なる相手にも迅速かつ、柔軟に対応できるのだ。

 

「……仕方がない、FOX4。狙撃手の矜持を捨ててくれ」

『……了解、リーダー』

 

 ここで、現場へと駆けるユキノが判断を下した。

 

 ダン、ダン、ダン!!

 

「これは、まさか!!」

 

 ユエの防弾盾に、次々と穴が開く。

 そう、オトギの持つ対物ライフルはセミオート。

 狙撃による威圧から、制圧に切り替えたのだ。

 

 ダン、ダン、ダンッ!!

 

 大口径の銃弾による暴力。

 それによって盾役を釘付けにする。

 

「いたッ、もう、イヤになるわ……」

 

 貫通した弾丸が次々とユエを襲う。

 防弾盾とは言え、対物ライフルの銃撃には耐えられない。

 

「ねえミコト、あと二……三発よ」

「了解!!」

 

 目の前の二人に応戦してるミコトが応じた。

 

 ダン、ダン、ダンッ!!

 

 防弾盾に穴が開く。

 

「今よ」

 

 盾の影から、ミコトが野獣のように飛び出した。

 

 オトギの持つ対物ライフルの装弾数は10発。そして薬室に一発。

 僅かなリロードの合間を縫って、ミコトは特攻をかました!!

 

「オラオラオラ!!」

 

 サブマシンガンとショットガンの銃弾を物ともせず、ミコトは二人に襲い掛かった。

 

 クルミが前に出る。

 しかし防弾盾の防弾ガラス部分を右ストレートでぶち破り、クルミの腹部を殴り飛ばした。

 

「かはッ!?」

 

 まるで漫画のように、クルミの身体が宙に浮いた。

 

「やっぱステゴロが喧嘩の華だよなぁ!!」

「ば、化け物……」

 

 続けてニコに殴り掛かるミコト。

 救急医療部仕込みの、麻酔パンチがニコに突き刺さる。

 

 舗装路に崩れ落ちたニコは、的確に自分の身体の感覚を遮断され身動きが取れずにいた。

 

 ミコトは愛銃を拾い、クルミに歩み寄る。

 

「お前ら、三人か?」

「狙撃手が居たなら、観測手(スポッター)が居る筈よ」

「じゃあ四人か、早く呼べよ」

 

 ユエがミコトの背をカバーしながらそう言った。

 ミコトが屈んで苦痛に呻くクルミに言葉を投げかける。

 

「ば、馬鹿ね、私たち二人がこうなった以上、あいつらは撤退してるわ……」

「そうでしょうね、銃撃が来ないもの」

 

 ユエは盾を下ろして呟いた。

 もう、狙撃は来なかった。

 

「久々に良い喧嘩だったぜ。

 エリートなんて鼻につく連中だと思ってたが、お前らはガチだわ」

「う、嬉しくなんて、ないわよ……」

「動くんじゃねえ、今応急処置してやる」

「触らないで!!」

「黙れや」

 

 満足げなミコトは容赦なく、クルミに“麻酔”を施した。

 

「今からうちの救急医療部を呼んでやるから待ってろ」

「ううッ、なんでこんな奴に……」

 

 プライドの高いクルミは悔し涙を流した。

 彼女達は常に偏見と闘ってきた。

 連邦生徒会長の贔屓によって生まれた学校。そんな偏見と。

 三年後、連邦生徒会長が代替わりすれば、あっさり捨てられて無くなるかもしれない、そんな現実と。

 

 勝利を、実績を。彼女達は証明し続けなければならないのだ。

 

「ほら、ミコトも傷を見せて。……ほら、痣になってる」

 

 ユエがミコトの制服をはだけさせると、12.7x99mm弾を受けた右肩が内出血で紫色になっていた。

 

「とりあえず、薬を塗っとくわね」

「おう、サンキュー」

「この後どうする?」

「おかわりはあんのか?」

「あったらとっくに来てるわよ」

「そいつは残念だ」

 

 ミコトは本当に残念そうだった。

 緻密な連携、個々の強さ、そして気合。彼女がこれまで戦ってきた強者と、甲乙つけがたい強敵だったのだ。

 

 そして十数分後。

 

 救急医療部の救急車が交通ルールを無視して超特急でやってきた。

 部長及び部員が降車する。

 

「おいミコト、患者はどこだ?」

「ここっす、部長」

「てめえもだろ」

 

 クルミとニコ、そしてついでにミコトも、救急車の手術台に括りつけられた。

 

「お前ら全員大暴れしやがって、今日は全員検査入院だ。文句ある奴はひき殺す」

「……うっす」

「私もですか、部長」

「例外は無い」

 

 こうして、激戦を繰り広げた四人は最寄りの病院に叩き込まれた。

 

 翌日、サンクトゥムタワーが大変なことになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 





十二時間前までの自分なら、高評価を二十件以上貰ったなんて信じられなかったでしょう。
と言うか、現実が夢を超えてるし!!

私にできることは、この過分な評価に納得できる内容を読者の皆さんに提供することだと存じます。
FOX小隊戦が思ったより描写が長引いたので、次回こそいよいよ連邦生徒会長と対面します。
それでは、また次回!!
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