ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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過去のアビドスの借金を原作一章時点から大雑把に逆算して11億5000万に設定しましたが、よく考えたらこれは元本で、月々の返済額には当然利子が入ってるはずですよね。
設定では返済に300年掛かるらしいので。

その辺は作者は詳しくないので、ふわっとしたものと言うことにしておいてください。





ミコトの辣腕

 

 

 

 先生、元々いたアビドスの生徒も全員ユメ先輩に罷免を望んだの、薄情だと思う?

 

 おじさんはそう思わなかったな。

 あの当時残ってたアビドスの生徒は、みんな地元出身で学校に愛着が有ったり、最後の最後まで踏ん切りが付かないでいてくれた、そんな子たちばかりだった。

 

 あの子たちも限界だったし、おじさん達もそうだった。

 それに、そのすぐ後に理由も聞けたしね。

 

 とにかく、がーん、ってしていたユメ先輩を押しのけて、おじさん言ったわけよ。

 

「どうせ、最初からこうするつもりだったんでしょ。私達を裏切るつもりだったんだ」

 

 え、おじさんの一人称が違うって? だから若かったんだってば!!

 おじさんも若い頃は色々あって、嫌気がさしてアビドスなんて適当な、自分を誰も知らないだろうなって高校に来たつもりだったんだよ。いやー、もうちょっと調べてから入学すればよかったとは思ったけどね!!

 

 ……まあ、要するに他人を信じられない、イヤなクソガキだったんだ。

 

「裏切る? 何言ってやがる」

 

 でも、ミコトの奴は臆面もなくそう言ったんだ。

 

「俺の目的は何一つ、最初から変わらねぇよ。

 本気のお前とやり合う。ただそれだけだ」

「こんなことをすれば、私が本気で怒ると思ったのかな?」

「は? だから、何を言ってやがる」

 

 あいつ、それでこう言ったんだ。

 

「俺が吐いた唾を飲むと、そんな汚ねぇことすると思うか?

 アビドスの借金は何とかしてやる。俺は自分が納得できねえような、そんな筋の通らねぇことはしない」

 

 生徒会長を簒奪したのは、どうせあの女の入れ知恵だったとは思ったけどさ、ミコトはミコトで本気だった。

 まったくさ、ユメ先輩と同じくらいあいつはバカだと思ったよ。

 

 それでさ、あいつってば、自分の魅せ方ってのを分かってた。無意識にだと思うけど。

 

「そこのお前、前からアビドスに居たよな。

 何で俺が生徒会長になるのに賛成した?」

 

 壇上から、ミコトが手短な生徒に問いかける。

 

「……だって、私はバイトしたお金で、来年転校するつもりだったし、どうせ誰がやったって同じだし。代わって貰いなよ、ユメちゃん」

「そうか。そこのお前は?」

「私も、ユメちゃんももういいんじゃないかなって。見ていて痛々しいよ」

「そっちのお前は?」

「こんな学校だけど、新しく来た子たちの居場所になるならそれで良いって思ったから。それでほんの少しでも、アビドス高校の名前が残るならって……」

 

 彼女達も別に、おじさん達を裏切ったわけじゃなかったんだ。

 ユメ先輩は見当違いで危機感無しのアホアホだけど、その姿勢だけは皆に認められてたんだって、おじさんは思ったんだよ。

 

「よくわかった。そこのお前はバイトしたカネは取っとけ。

 俺がアビドス高校を変えてやるよ」

 

 ミコトは本気で、本気でそう言ったんだよ。

 

「まず俺らにしてほしいことを言ってみろ」

 

 ちなみにだけど、この場にあの魔女は居なかったよ。早朝だったし。

 完全にミコトのアドリブだと思う。でもあいつ、馬鹿だけど頭はキレるんだよねぇ。最悪なことに。

 

「……登下校の最中に、チンピラとかよく見ますんで、何とかしてほしいです」

 

 すると、そんなことを言った生徒が居たんだ。

 

「わかった。ホシノ、生徒会長命令だ、お前を保安部長に任命する。俺と一緒に俺らのシマを荒す奴にヤキ入れんぞ。

 それに参加する奴は手を上げろ」

 

 ミコトの言葉に、あいつが連れてきた生徒の全員が手を上げた。

 元々いた子たちはびっくりしてたよ。

 

「ミコトさん、いや生徒会長!! うちも頭数に入れてください!!」

「うちらもミコトさんの喧嘩、一緒にさせてください!!」

「私ら新顔だけど、学校やみんなを守りてぇって気持ちは同じっす!!」

 

 血の気が多いってミコトは言ってたけど、本当だったんだって思ったよ。

 

「いいぜ、そこのホシノはチビだけど俺と同じくらい強えぇかもしれねえ。

 俺とホシノで二手に分かれて掃除すんぞ。あいつに従うのは嫌だって奴は今この場で言えや」

 

 先生、小学生の頃って足の速さがステータスみたいなことってあるじゃない?

 ミコトの連れてきた子たちって、その言葉でおじさんをキラキラした目で見てくるんだよ……。

 

「文句ねえみてぇだな。

 あとユメ、お前雑用係……俺のパシリな」

「……え、ええ!?」

「俺は面倒だから書類とか、お前が全部やれ」

「わ、わかりました……」

「使えるなら副生徒会長にしてやる」

 

 これはネタバレになっちゃうけど、ユメ先輩が副生徒会長になることはなかったよ……。

 

 あと一応さ、聞いてみたんだ。

 

「ユメ先輩、それで良いんですか?」

 

 おじさんはユメ先輩がアビドスの生徒会長にふさわしいなんてこれっぽっちも思ってなかったけど、むしろユメ先輩のアホアホな謎の行動力に振り回されなくていいならそれで良かったんだけどさ。

 ほんのちょっと、ほんのちょっとだけだよ? それはそれで寂しいかなって、思ったわけなんだよ。

 

「……みんながそれでいいって言うなら、私はなにも言えないよ」

「ユメ先輩……」

 

 ユメ先輩は少しだけ悲しそうにしてたけど、すぐにいつもの笑顔に戻ったんだ。

 

「それに何より、みんながアビドスの為に動いてくれることの方が大事だと思うんだ」

 

 まるで成果は上がってなかったけどさ、ユメ先輩はいつも自治区の住人に協力を呼び掛けてたんだよね。

 うちの生徒も、みんな諦めてたんだ。

 

 でもさ、数が多くなって、ミコトを支持する声が大きくなって、するとなんだかやれるんじゃないかって、変な気持ちになるみたいでさ、集団心理って奴なのかな。

 

「借金も俺がなんとかしてやる。

 下向いて、諦めてぇ奴は遠慮なく出てけ。気合の無え奴は要らねえ」

 

 ミコトはさ、簡単にそんな風に言えるわけだよ。バカだから。

 でもここに居る元々いた子たちは、みんな諦めきれないからここに居たんだよ。

 

 ただ、限界だった。それだけなんだよ。

 

 彼女達の諦めが、希望に変わったような気がしたんだ。

 カリスマって力は、本当にあるんだねぇ。

 

「俺らで、アビドス変えんぞ」

 

 ミコトは、本気だった。

 

 

 

 こんな話は聞いたことある、先生。

 組織のトップってのは、ある程度馬鹿な方が良いって。

 

 ミコトみたいに表裏の無いタイプって、逆に信頼されやすいってことなんじゃないかな。

 ミコト新会長様……ああ、この呼び方は皮肉ね? おじさん内心全く認めてないから。

 

 とにかく、ミコト新会長様の行動力は一級品だった。

 

 具体的には一週間で無法地帯だったアビドスに秩序を齎したんだよ。

 どうやったかって?

 

 おじさん達、田舎者だったからさ、ミコトの奴が都会の方で名前が通ってるって全然知らなかったんだよね。

 連邦生徒会でなんか大騒ぎがあったとか、そんな感じだったし。

 そもそも連邦生徒会はおじさん達に何もしてくれなかったから。

 

 アビドス自治区にも一応、地方のメディアがあるんだけどさ、ミコトはそれで大々的に新会長就任を発表したんだ。

 勿論、あの女の入れ知恵だったけどね。

 

 後は動画を撮って、アビドスを縄張りだって主張して、実際にチンピラをボコボコにしてる様子をあいつの舎弟に拡散させたんだ。

 

 それで、あれだけ治安の悪かったアビドス自治区がぴたりと静かになった。

 自治区の都市部じゃ毎日のようにチンピラや不良の抗争があったけど、登下校中にそれを一度も見なくなったって、皆言ってたよ。

 

 勿論、アビドスにいるチンピラも田舎者だったから最初は舐めてたけどさ、すぐに徹底的に掃除された。

 ミコトの奴、そう言うの手慣れてる様子だったから、昔からそう言うのよくやってたんだろうね。

 

 とにかく、それで治安は改善したんだ。

 ……ミコト新会長様の実績になっちゃったんだよねぇ。

 

 それで次にあいつは何をしたと思う?

 

「この砂、どうにかなんねえのか?」

 

 ミコト新会長様は、校舎が砂まみれなことがいたく気に入らないご様子だった。

 

「毎日みんなで少しずつ掃除してるけど、やっぱりどうにもならないから先輩達もどうしようもなかったんじゃないかな」

 

 って、ユメ先輩は言ったんだけど。

 

「おいパシリ、お前流砂って知ってっか?」

「え、勿論知ってるけど……」

 

 流砂って、要するに底なしの泥沼のことね。

 乾いてるけどアビドス砂漠にもそこそこ見かけるんだ。落ちたら大変だよ、先生。

 

「流砂から這い出ると、体中が泥だらけになる。

 その場合の対処法はなんだ?」

「えーと、たしか泥の付いた服を脱ぐ、だったかな」

 

 ユメ先輩はそう答えたんだ。

 この人、しょっちゅう流砂に落ちてたから……。引っ張り上げるこっちの身にもなって欲しかったよ。

 

「正解だ。すぐに身体を洗えない状況なら、その方がマシなんだよ。

 それはなぜか? 乾いた泥と服についた泥が渇いて、擦過傷が出来てばい菌が傷口に入って破傷風になっからだ」

 

 ミコトって、なぜかそんな医療知識があったんだよね。

 

「つまりだ、砂ってのは汚いんだよ。

 うちの部長がこの校舎見たら、爆薬で吹っ飛ばすぜ。絶対」

「そうでしょうねぇ……砂埃塗れだし」

 

 ミコトとあの魔女はしみじみとそう言ったんだ。

 つまり、ミコト新会長様の次の改革は、衛生面だったんだ。

 

「とりあえず、三億用意した」

「さ、三億円!? ミコトちゃん、どうやってそんなお金を!?」

「知り合いの金持ち三人から借りた。手切れ金にしては安いって言ってたから、意地でも返してやるつもりだ」

 

 あいつはニヤリと笑ってそう言った。

 いや、三億をポンって貸せる知り合いってなんなのさ。

 

「それで、借金を返済するんだね!!」

「お前バカか、俺より馬鹿なのか、一生パシリな、パシリ」

「ひ、ひぃん」

「この三億を種銭にしてどうにか増やすんだよ」

 

 ユメ先輩、ミコトの奴にさえバカ呼ばわりされるって、ホント恥ずかしかったなぁ。

 

「ミコト、衛生面の改善は最終目標になりそうよ。それだけはまず頭に入れた方が良いわ」

「まあ、それにこだわって先代どもは失敗したんだからな」

 

 あの魔女の助言に、ミコトは頷いた。

 

「お金はお金のある所に集まって来るものだわ。

 個人的には投資をおススメするけど、生憎私もその経験は無いのよね」

「投資か、知り合いのインテリに詳しい奴がいるか、探すか」

「そうね。でも確実性はないわよ。投資なんてギャンブルですもの。

 絶対に伸びるって企業なんて、そんなの分かりっこないんだから」

「……いや、待て」

 

 あの女が投資のリスクについて語ってると、ミコトはハッとなって言ったんだ。

 

「ドローンだ。ドローンの開発してっとこだ」

「え、ドローン? ドローンってあの玩具のこと?」

「聞いたんだよ。ドローン技術は……なんていうか、注目されてるって」

 

 おじさん、この時は流石に呆れちゃったよ。だってユメ先輩とやってることは大差ないって思っちゃったから。

 でも、ミコトは当てた。大金を産み出す、金山を。

 

「そんで、ミレニアムって学校が将来性があるって」

「ミレニアム? 知らない学校ね」

 

 あの魔女はスマホを取り出し、いろいろと調べ出したんだ。

 

「ミレニアムサイエンススクール。この学校かしら」

「ああそこだ、その学校だ!!」

「小さな学校ね。仮にこの学校がこの先伸びるとしたら、少なくとも発電施設は必要になる筈よ。

 まずこの学校周辺の発電施設の株を買い、投資するべきだと思うわ」

「じゃあ詳しい奴に手伝わせるか。

 それと、その学校も直接見に行きてぇ、砂漠化対策や校内の砂対策にも当てが出来るかもしれねぇからよ」

 

 何と言うかさ、持ってる奴って、本当に持ってるんだなって、おじさん今になって思うよ。

 

 今でこそドローンって人一人くらいなら運べるし、なんか立体映像とか出せるし、うちでもいくつか持ってるけど。

 最近キヴォトスに来た先生には想像できないかもだけど、この当時は本当に、カメラが搭載できるオモチャ、その程度だったんだよ。

 

 そのドローン技術の革新に関わったのが、ミレニアムサイエンススクール。

 それだけじゃない、ありとあらゆる科学技術が、今ではあの学校から発信されているよね。

 

 あの学校って都会にあるから、自治区もその周辺も開発され尽くしてて、新しい発電所を作るなんて難しいみたいでさ。

 ……そんな学校の近辺の発電施設の株券。

 アビドスはあの学校が小さいうちに、その急所を手にすることが出来たんだ……。

 

 無意識かもしれないけど、あいつはその学校の心臓を持って、そこに向かうつもりだったんだよ。

 

 

 投資って、やっぱり時間が掛かるからさ。

 その間に次にすることを、ミコト新会長様は考えてたんだけど。

 

「砂祭り、砂祭りを復活させたいな!!」

 

 ユメ先輩がそんなことを言い出した。

 

「なに言ってるんですか、先輩。

 それどころじゃないでしょう?」

 

 当時のアビドスは新たな動乱の真っ最中。変革の時で、そんな余裕なんて無かった。

 

「砂祭りってなんだ?」

「えーとね、昔アビドスで行われてたお祭りなんだ!!

 沢山の人が来てて、オアシスにはいっぱいの露店や出し物があって!!」

「全て想像じゃないですか。オアシスもこの間干からびましたし、私達の産まれるずっと前に開催されなくなったはずでしょう?」

 

 ……いや、ホント、我ながらイヤなガキだったよ。

 おじさんは否定するばかりで、何も代案も出せなかったのにさ。

 

 もうこの際だからハッキリ言うよ、コンプレックスだった。

 こうして今でこそアビドスの生徒会長におじさんはなったけどさ、あの行動力と豪運は真似できないかなって。

 

「いや、なんだか面白そうじゃねえか」

 

 そう、ミコトはおじさん……私とは違ったんだ。

 

「砂祭りってことは、アビドスが砂だらけになってから始めたってことだろ?

 ネガティブなことをポジティブにするって、気合入ってんじゃねえか」

「そうね、お祭りとは即ちその土地に根付くもの。

 信仰や文化に深くかかわり、それは住人の尊厳に結びつくもの。

 苦しい生活でも、祭りを目標にしてそれを楽しみに生きることは出来るわ。昔の人達はそうやって生きてきた」

「なら、今のアビドスに必要なモノじゃねーか」

 

 最初で最後だったよ。ミコトの奴がユメ先輩の意見を取り入れたのは。

 

「でも、オアシスはもうないよ」

 

 おじさん、内心認めたくなくて食い下がるように言ったんだ。

 

「だったら、掘り起こせばいいだろ」

「そんな、簡単に言うけどさ」

「実は俺、タダでやってくれそうな連中を知ってんだ」

 

 ミコトは自信満々だったからさ、私はあの魔女の方を見たんだ。あの女も、あー、って心当たりがありそうな顔をしてた。

 

「え、タダでやってくれるの? そんな良い人たちがいるの!?」

「ああ、いつも()()()()()()やってるから、俺が言えば喜んで手伝うはずだ」

「本当!? それってどんな人たちなのかな?」

 

 ユメ先輩は大喜びでミコトに尋ねると、あいつはおもむろに生徒会室のテレビのリモコンを手に取って、電源を付けた。

 

 丁度、ニュースがやってたんだ。

 

『本日未明、D.U.のシラトリ区近辺にて、指名手配中の鬼怒川カスミ率いる温泉開発部による破壊活動が行われ──』

「こいつらだ」

 

 ミコトはリモコンを持った手で、壮絶に破壊された現場の映像と指名手配犯の顔を示した。

 

 

 

 

 

「ハーッハッハッハ!!

 今日も温泉開発日和だ!!」

 

 C4爆弾のスイッチを押し、道路が爆破される。

 この日もカスミは温泉開発に勤しんでいた。

 

「ドーリールッ!! 回転はロマンの塊だ!!」

 

 そして、露出した地面にドリル車が今まさに突入しようとしていた。

 周囲では部員たちがヴァルキューレの警備部隊と戦闘を繰り広げている。

 

「部長!! 今日は上機嫌だね!!」

 

 副部長のメグが、いつも絶えない笑顔で言った。

 

「ああ、そうだとも!! なにせ、あのミコトが退学になったからな!! 我々を邪魔する者は居ない!!」

「あ、そうか、もうミコトさん来ないんだね!!」

「ああ、しかも今はアビドスだとか、辺境の方でくすぶっているという話だ!!」

 

 カスミは敵の情報収集に余念は無い。

 ちゃんとミコトがゲヘナどころかキヴォトスの田舎で暴れているのを知っている。

 

 カスミ達温泉開発部と、ミコトの因縁は深い。

 なぜなら、カスミは温泉開発を絶対に諦めない。

 ミコトはそんなカスミ達をボコボコにすると、バイト代が手に入る。

 独房にぶち込まれたカスミが脱獄する。ミコトがボコボコにする。カスミが捕まる。脱獄し、またボコボコにされる。永久機関が完成しちまったなぁ!!

 

 しかもカスミはしっかりミコトの舎弟が居ない場所を選んでいる。

 最近は彼女らにも追い回され、金づる扱いされてたのだ。

 

「でも寂しいなぁ、前に温泉を掘り当てた時は一緒に入ったのに」

「何が寂しいものか!! あいつは敵だ敵!! こちらは清々した、ざまあみろだ!!」

 

 ハーッハッハッハ、とカスミが大笑いしてると。

 

「──誰がざまあみろだって?」

 

 どかん、とドリル車が横転した。

 カスミの背筋が、凍った。毎回毎回、同じように登場する奴の心当たりしかないからだ。

 

「よう、カスミ」

 

 反射的に逃げようとしたカスミの尻尾の先っぽを、誰かが踏みしめビタンとすっ転ぶ。

 

「あ、ミコトさん!! 退学になったんじゃないの?」

「ああ、今はアビドスってところでアタマ張ってんだ」

「へぇ、スゴイね!!」

 

 小学生の会話か、とカスミは内心突っ込んだ。

 

「相変わらず派手な事してんな、カスミ」

「う、うう、うわぁぁぁん!!」

「中坊にもなって、泣けば済むと思ってんのか? クソガキ」

 

 数々のトラウマがフラッシュバックしたカスミは泣き出し、そんな彼女のツノを掴んで引っ張り上げるミコト。

 

「俺ぁ言ったよな。温泉開発はお前の自由だってよ。

 でもな、関係ないとこをぶっ壊すのは筋が通らねえって」

 

 がくがく、とミコトはツノを持ったままカスミの顔を揺さぶった。

 

「前の約束通りツノ一本だ、ケジメしろや」

「ひ、ひぃぃぃ」

 

 カスミのツノがミシミシと嫌な音を立てる。

 ミコトは本気だ。本気でカスミのツノをへし折ろうとしている。

 彼女が心の底から悲鳴を上げた、その時だった。

 

「だが、今回は許してやる」

「は、はい?」

「ちょっとアビドスまでツラ貸せや」

 

 カスミの尻尾を踏みつけたまま、ミコトは彼女のツノから手を離した。

 尻もちをつくカスミを他所に、怯えた温泉開発部の部員たちをミコトは見渡した。

 

「お前らも、文句無いよな?」

 

 彼女達は一斉に、頷いた。

 

 

 

 そして、場所は変わってアビドスのオアシス跡。

 

「ここだ、お前ら。ここを掘ってオアシスを復活させろ」

「こ、ここで、か?」

「何か文句あるのか?」

 

 ミコトはすかさずカスミのツノに手を掛けた。

 

「や、やります!! やらせてください!!」

「おう。もしオアシスを復活させたら、アビドスで温泉を掘る権利をやるよ」

 

 温泉、の二文字が頭をよぎった瞬間、カスミの脳内から恐怖が消えた。

 

「それは、本当か?」

「忘れたのかよ、アビドスの今のヘッドは俺だ」

「砂漠の熱を利用したサウナ、砂風呂、蜃気楼を楽しめる露天風呂……」

 

 カスミの脳内に、アビドスに建築した様々な温泉宿の構想が目まぐるしく駆け巡る。

 彼女の表情が、変わった。

 

「その話、乗らせてもらおう」

「じゃあ、任せた」

 

 ミコトはそれだけ言って、カスミと部員たちを置いて去った。

 監視も何もない。ミコトはもう彼女らが逃げることは無いと知っているからだ。

 

「オアシスの水を利用した水風呂も捨てがたいな!! サウナの後に整うのにうってつけだ!!」

「流石部長!! もういろんな温泉宿を考えてるんだね!!」

「ああ!! やるぞ諸君、砂漠温泉宿の開発だ!!」

 

 こうして温泉開発部は、砂漠と言う慣れない地形に苦戦しながらも、オアシスの掘削を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 




簡易人物紹介

カスミ:まだ中等部なのにテロリストとして名を上げてるキヴォトス屈指の危険人物。しかし主人公にとってはリスポーンする稼ぎ要員でしかない。

メグ:この時期からカスミに付き従ってる頭ワンコ。人懐っこいので偶にミコトに餌付けされてるし、ダチ認定されてる。


主人公はバカだけど行動力があるだけで、ユメ先輩より有能に見えてしまうの悲しすぎる……。人にはやっぱり向き不向きがあるんすね。

ではまた次回。
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