「ありがとうございましたー!!」
「そ、それじゃあ、私達はこれで!!」
ホシノは後輩達のステージを先生と見届けた。
「いやぁ、拙いながらも青春って感じだったねー」
「“うん、眩しいね……”」
先生は微笑ましそうに、生徒の青春を見届けた。
「あ、そろそろ、砂漠焼き芋が出来る時間かな、一緒に行こう」
「“いいね!!”」
先生はホシノに連れられ、近くの屋台へと向かった。
「あ、先生に生徒会長!! よくぞお越しくださいました、丁度砂漠焼き芋ができたところですよ!!」
屋台のスタッフの生徒が、近くの砂を掘り出し始めた。
そこには新聞紙とアルミホイルに包まれた、サツマイモだった。
それは砂漠の熱だけで作った、焼き芋だ。
「んん-、良い出来具合だねぇ」
「“うん、美味しいね”」
焼き芋を受け取り、二人は皮をむいて頬張りながら移動を始めた。
「“ホシノ、あれは?”」
「……ああ、あれね」
先生は道中、石像が置かれているのを見つけた。
その前で生徒達が記念写真を撮ったりしていた。
「あれは、シェマタ像だよ」
「“シェマタ像? あ、もしかして”」
「そう、あのミコトのこっちでの異名は、“アビドスの鉄拳”だから」
あれはそれにあやかったモノだと、ホシノは語った。
確かにどことなくミコトに似ているが、彼女とは言い切れない、と先生は思った。あくまで彼女は像のモデルなのだろう。
先生は記念撮影していた生徒達が立ち去ると、その石像の台座に掛かれている文字を読み始めた。
「“かつて、鉄拳政治で名を馳せ、七十人もの生徒会長を拳の一撃で鎮めた伝説の生徒会長、シェマタを模った像……”」
本当なの、と先生は問うた。
まさか、とホシノは答えた。
「どうせなら思いっきり誇張しちゃえ、って。まあ、悪ふざけだよ。ちゃんと歴史を調べれば嘘だって分かるよ」
「“そ、そうなんだ……”」
イタズラっぽく笑うホシノの言葉に、先生は苦笑した。
しかし、すぐに彼女は真顔になった。
「……でも、ここに書かれていることを疑う人はいないと思うよ」
「“そうかもね……”」
そして二人は、この祭りの最後の目的地に辿り着いた。
「お待ちしてましたよ、先生。特等席を用意しました」
そこには、ミレニアムの生徒が集まっていた。
ありがとう、と先生は微笑み返した。
そろそろ、この砂祭りのメインイベントが始まる。
────“アビドスの鉄拳”がこの学校に遺した、最大の恩寵が。
「く、くるぞ、奴だ、あの鉄拳が!!」
「もッ、もうやめてくれぇぇ!!」
チンピラ達が悲鳴を上げて逃げ惑う。
そんな彼女らに、ミコトは容赦なく襲い掛かって銃撃を加えた。
「まあ、こんなもんか」
ミコトに、ギタギタのボコボコにされたチンピラ達。
「選べ、アビドスから失せるか、アビドスに骨を埋めるか」
ミコトが部下たちに顎をしゃくると、彼女達はスコップを用意して穴を掘り始めた。
「いや、骨を埋めるってそう言う意味じゃ……」
そう言ってから、ホシノはツッコむのを止めた。
「それがイヤなら、お前らのボスのところに案内しろや」
「わ、わかりました!!」
こうして、今日もひとつのチンピラグループが壊滅した。
「なあ、あいつらが言っていた鉄拳って、俺のことか?」
「多分そうだと思うよ」
帰りの道中、ミコトはホシノにそう言った。
「俺ってそんなにぶん殴るようにみえたのか?」
「多分違いますよ、生徒会長」
首をひねるミコトに、治安維持に参加しているアビドス生が答えた。
「鉄拳ってのは、昔の生徒会長の異名ですよ。鉄拳政治のシェマタって言われた、伝説の生徒会長です。
七十人ものほかの生徒会長を制し、アビドスに黄金期を齎したとか」
「へぇ、つまりアビドスで最強のヘッドってことだな。俺がそいつに似てるってことか」
「そうかもしれないですね。
アビドス高校には、蘇り伝説があるんですよ」
「蘇り伝説?」
「ええ、昔の偉人が現代に蘇って復活する、そんなどこにでもある伝説ですよ」
もう百年以上前の偉人ですしね、と彼女は言った。
「面白ぇ、じゃあ今日から俺はアビドスで“鉄拳”を名乗るぜ!!
ゲンを担ぐに丁度いいじゃねえか。最強の生徒会長になって、テッペン目指すぜ!!」
そしてミコトはなぜか乗り気だった。
「良いんじゃない? 親しみやすいキャラクターは大事だと思うよ。
そう言う方向性で、メディアに売り出しましょう」
チンピラ討伐を撮影していたユエがそう言った。
「えー、ダサくない?」
「暁のホルス(ぼそッ」
「むがー!!」
ホシノはユエに飛び掛かった。
そしてアビドスに蘇った“鉄拳”を、チンピラ達は恐れるようになった。
治安が改善されると、住人達はアビドスの最盛期を彷彿とするその異名に、少しずつ期待を寄せるようになった。
「ミコトちゃん!! 住民の説明会が終わったよ、こんなに署名も貰えたんだ!!」
「そうか、よかったな。パシリ」
「うんうん、明日は商工会に行ってくるね!!」
「おう、頑張れよ」
ミコトはユメの活動に特に口を出さなかった。
何だかんだでミコトは彼女をダチだと思ってるし、仲間を学校に受け入れてくれたと思っている。
今日も生徒会を支持するように、呼びかけに行ったのだ。
「そんじゃあ、そろそろ各々の頑張りに応じて生徒会のメンバーを昇格させてやるとするか」
「え、本当!! じゃ、じゃあ!!」
「ホシノ、お前、今日から副会長な」
「え……じゃあ私は?」
「おめでとさん、パシリから永久パシリに昇格だ」
「そ、そんなぁ」
そのやり取りを見ていた横でホシノは、溜め息を吐いた。
「面倒だなあ。まあ、ユメ先輩がなるよりはマシですけど」
「ほ、ホシノちゃんまで……」
「おめえに文句言う権利はねえよ、パシリ」
ミコトは生徒会長の席にどかりと座って言った。
「お前の所為で書類仕事が溜まってんだ。
お前ひとりじゃ終わらねえだろうから、外注で何とかすることにした」
「え、書類仕事に外注とかあるの?」
「そんな話聞いたこと無いですけど……」
ミコトの言葉に、ユメとホシノは困惑するが。
「俺の古巣に、書類仕事が大好きな毛玉って奴が居るんだがよ。
俺が書類仕事の代わりになる奴いないか聞いたら、自分が代わりにやってくれるって言うからよ。さっき溜まってるのをここの資料と一緒に全部ユエに持ってかせた」
「あんたの古巣って、ゲヘナじゃないかッ!!」
これには、ホシノも黙っていられなかった。
「え、ゲヘナって、どういうこと?」
「ユメ先輩、まだ気づいてなかったんですか!? こいつは元々ゲヘナ学園の生徒、退学になったからこっちに来たんですよ!!」
「へー、あんな大きな学校から来たんだ、やっぱりあっちは都会なのかな」
「暢気か!!」
ぽわぽわしているユメに、ホシノのツッコミは二段式に変化した。
「どう考えてもこっちの情報を抜くのが目的でしょう!!」
「えー、でも、うちみたいなちっちゃな学校の情報なんて欲しがるのかな?」
「そ、それは……そうですけど」
ホシノは珍しいユメの正論に、言葉に詰まった。
アビドス高校がキヴォトス最大最強を誇ったのはもう何十年も前のこと。
彼女からしても、このアビドス高校に価値のあるモノなんて全く見当たらないからだ。
「あいつ、書類の虫だからよ。古い書類とか見て悦に浸ってんじゃねえのか?」
「そんな変態イヤだよ……」
「あと、アビドスから見たらゴミでも、ゲヘナからみたら高値になるモノとかあるかもしれないだろ」
まさに無責任の権化。
どうトチ狂っても、自分の生徒会の書類を他校に任せるなんてありえない。ホシノの反応は正しい。
しかも送り先はゲヘナの情報部だと知ったら、発狂モノだったかもしれない。
「あッ、そうか。そうだよね。いろいろな契約書とか有ったし、権利を譲渡する代わりにお金に換えられるかもしれないね」
「だろ? 今はとりあえず、借金返済分のカネがいるからよ。なんか良いのあったら教えてくれって言っといたんだよ」
「この間言ってた三億はどうしたの?」
「全ブッパ」
「ダメだこの二人、計画性皆無だ……」
ホシノはコンプラの概念の無いこの二人に呆れ果てて天を仰いだ。
「投資の方はちゃんと大丈夫なんだよね?」
「ああ、俺の先輩に、マコトパイセンっての居てよ、あの人いろいろ事業をやってんだけど、生徒会の運営とか投資のやり方とか、アドバイス貰ってんだ。ってか、面倒だから投資全部やって貰った」
「へえ、スゴイ人も居るんだね!!」
「ど、どこからツッコめばいいんだろう……」
それもう実質ゲヘナ学園なんじゃないか、と思わないでもないホシノだった。
ただこの時ホシノを含め、ここに居る全員が知る由もない事だったが……。
アビドスの書類からとんでもないモノが発掘され、万魔殿も情報部も大騒ぎになっているのを、誰も知らないでいた。
「もう、うちはアビドスなんだけど!!
なんで他の学校がしゃしゃり出てくるのさ!!」
「え、でも、親切に手伝ってくれてるなら良いと思うけど」
「ユメ先輩は黙っててください!!」
ひぃん、とホシノの剣幕に押され、ユメは涙目になった。
「アビドスのことはアビドスで解決するべき、そう思わないの!?」
「そう言うお前は、半年前はどこに居たよ」
「……そ、それは、揚げ足取りでしょ!!」
「ならお前は今のアビドスは、正しいアビドスじゃないって言うのかよ」
「そ、そこまでは言わないけど……」
ホシノの脳裏に、新しい生活に笑顔になる編入生たちの顔が過った。
在校生たちと一緒になって頑張ろうとする姿に、何だかんだで絆されかけていた自分も。
現在のアビドスは七割が編入生だ。それで何とかやって行けているのも事実だった。
「ねえホシノちゃん」
怒りや困惑に戸惑うホシノに、ユメが声を掛ける。
「私は時間なんて関係無いと思うよ」
「ユメ先輩……」
「ホシノちゃんが心配なのも、一生懸命なのもわかるけど、もっと他の人の親切を信じても良いと思うんだ。
ミコトちゃんだって、全部が全部ホシノちゃんと喧嘩する為に、生徒会長になったわけじゃないと思うから」
相変わらず嫌な先輩だ、とホシノは思った。
自分の心にずけずけと踏み込んでくる。そして、その距離感がイヤじゃなくなってくる自分が、もっとイヤだったのだ。
「まあ、な。パシリ、お前だけだったよ。俺のダチ達を笑顔で受け入れるって、言ってくれたのは。
お前にはマジで感謝してるんだ」
それはミコトの嘘偽りない本心だった。
彼女の舎弟たちも、今は組織の実績や信用作りに奔走している最中で、受け入れてくれる学校なんて殆どないとミコトは聞いていた。
それをユメだけは偏見無しで見てくれた。手を差し伸べた。受け入れてくれた。それが無かったら、ミコトもここまで大嫌いな責任のある役職をやろうなんて思わなかっただろう。
全ては本気のホシノと戦う為だが、半分はユメに恩義を感じてもいるからだった。
「ところで、ミコトちゃん」
「なんだよ」
「私の名前はなにかな?」
「……パシリ?」
「ひぃん……」
ユメは涙目になって肩を落とした。
それから、数日後。アビドス高校の昇降口前にて。
「ミコト、どうやら今日、例の学校で生徒会長の選挙期間が始まるらしいわよ」
ユエがそんな情報を持ってきた。
「なるほどな、じゃあ次期ヘッドが留守の可能性は低いってことか」
「そうなるわね」
「んじゃ、行くか」
そう言ったミコトだったが、決まりが悪そうにユエに尋ねた。
「……マコトパイセン、怒ってたか?」
「ケロリとしてたわ。それよりも、
「相変わらずタフだな、マコトパイセン」
ミコトは一瞬目を細めたが、ふうぅ、と溜め息を吐いた。
「ちょっと留守にするって、パシリに言っとくわ」
「わかったわ」
ちょっと歩けば会える距離なので、電話を使わずミコトは直接伝えに行った。
「……あら、もう芽が出てる」
ユエは近くに置かれたプランターの前にしゃがみこんだ。
これはユエがアビドス生たちと一緒に植えたハーブだった。
医療品代の節約の為に、薬草を植えることになったのだ。
「お水をあげましょう」
砂漠の強い日差しを避けるために日陰に置かれているのに、もう芽が出ていた。
暇つぶしにユエはジョウロで水をあげ始めた。
そこに、偶然ホシノが昇降口から現れた。
「ふんふふーん」
「ねえ」
「なあに? 小鳥遊さん」
「あんたの目的はなんなのかな?」
「目的?」
ユエは水を撒きながら、小首を傾げた。
「ミコトはバカだから、まあいいよ。百歩譲って、私と戦いたいって。
でもあんたの目的がわからない」
「疑っても良いけど、何も無いわよ」
「あんたはゲヘナの生徒でしょ」
「だから? じゃああなたは半年前に居た中学校からのスパイなの?」
「惚ける気なの?」
「本当に何もないのに」
くすくす、とユエは笑った。
「そう言えば、この間の砂嵐は大変だったわね」
「それがなに?」
「あれだけ頑張って校舎を掃除したのに、全部無駄になった。
ミコトがあんな表情をしてるのを見たのは初めてだったわ」
くすくす、とユエは笑っている。
「ミコト言ってたわよね、お前らはこんなのにずっと耐えてきてたのかって。
絶対に、絶対に、何とかしてやるって」
「……馬鹿な奴だよね。災害はどうにもならない。
あいつ、本気でどうにかしようと思ってるみたいだし」
「私はちょっと失望したわ」
「ミコトに?」
「いいえ、貴女に」
ユエはジョウロをおいて、ホシノを見やった。
「貴女って、そういう
黄金の瞳が、夜空の月光のように上からホシノを見ていた。
まるで、虫の生態を観察するような視線だった。
「ちょっと残念」
「それではぐらかしてるつもりなの?」
その気味の悪さから語気を強めてホシノは返した。
「ひとつだけ忠告しておくわ」
ユエは微笑みを湛え、彼女に言った。
「ミコトがすべきことの全てを終えた時、貴女が応じなかったり、逃げたり、適当にごまかしたりしたら、──ミコトは何をするか分からない」
「…………」
「私の目的は、それを見届けることだけ。
私のことは、その辺の顔の区別もつかない他人と同じ扱いで構わないから」
足音が近づいてくる。
ミコトが昇降口に戻ってきた。
「お、ホシノ、お前居たのか。ちょっと留守にする。
お前、あのパシリ見とけ。俺らが見てねーと何しでかすかわかんねーからな」
「……そうだね」
ホシノは、昇降口から校内に入って行った。
「なんか話してたのか?」
「世間話よ」
「お前が他人と話してるなんて珍しいな」
「そうかもね」
「んじゃ、行くぞ」
ええ、とユエは頷いた。
二人はミコトの単車に乗り、ミレニアムサイエンススクールへと走り出した。
ミレニアムサイエンススクールはどこにでもある、中小規模の学校と自治区が集合した都市部に存在する専門学校だ。
キヴォトスにおいて学校は国家に相当するが、この場合は村の隣は村で、そのまた隣がまた村みたいな、そんな感じだった。
そんな感じだから、自治区に入るのは簡単だった。
そもそも警戒すらされていない。ゆるい村文化の典型みたいな、そんなところだった。
流石に本校舎があるキャンパスには正門を通らなければならないが。
「あ、見学ですか? じゃあゲストID発行しますね。
こちらパンフレットです、よければどうぞ。いやぁ、お客さんなんて久しぶりだなぁ」
守衛らしい大人の職員に、あっさりと中へと通されてしまった。
ミコトは急に不安になった。
これが最先端の科学を牽引する学校のセキュリティなのか、と。
「当学校は千年難題の解明を目的として設立した学校であり、ありとあらゆる科学分野を専攻し、その過程で難題解明に役立つ可能性を追求することにある、だって」
パンフレットを広げてるユエがその内容の走りを読み上げる。
「要するに、インテリばかりが集まる学校だってことだろ」
「そう言うことね」
二人は周囲を見渡す。
キャンパス内には生徒がドローンで遊んでいたり、生徒達が操縦するロボット同士で銃撃戦をしたりしていた。
「なんか、悪い意味で緩い専門学校にしか見えねーな」
「私もそう思うわ」
何と言うか、慣れ合いの中で好き勝手やっている田舎の専門学校、そんな印象を受ける二人であったが。
「おや、他所の生徒とは珍しい」
そんな中で、二人に話しかける生徒が居た。
「あんたは?」
「私は白石ウタハ。エンジニア部期待のホープと言ったところさ」
彼女は、当時一年だった頃のウタハはそう名乗った。
彼女の表情から、好奇心が見て取れる。
「俺はミコトで、こっちはユエ。
俺らアビドスから来たんだが、ここで一番頭が良いのは誰だ?」
「それは勿論、現在一年にしてマイスターの資格を手にした私……と言いたいところだが」
ウタハは後ろを振り返った。
校舎には巨大なモニターが設置されており、普段は伝達事項を表示する為に使われているだろう代物があった。
「彼女には適わないね」
そこに映されていたのは、一人の生徒の演説の光景だった。
「彼女が唯一、一年生で生徒会長に立候補している調月リオ。
他にも先輩達が立候補してるけど、下馬評は断トツだよ。もう決まったようなモノだね」
「あいつがここで最強のインテリか」
「最強のインテリ? ふふふ、面白い表現をするんだね」
ウタハは思わず笑ってしまった。
「あいつはそんなに頭が良いのか?」
「そうだね。うちは見ての通り閉じた田舎の学校だけど、彼女はそれを変えるつもりみたいだ。
合理性の塊と言うか、管理魔と言うか、それはそれで窮屈そうだけど、みんな期待してるよ。
私達は科学者だからね、もっと大きな場での発明を発表したいってうずうずしてるんだ。彼女はそう言った場をもっと提供したいって言っているね」
ウタハはリオの演説の内容を掻い摘んで説明してくれた。
「堅物そうに見えて、学校への愛は皆感じてる。
特に彼女の発明はユニークでね」
「なあ、あいつに会うことはできるか?」
ミコトは話が長くなりそうなので、ウタハの言葉を遮って問うた。
「それは流石に選挙期間中だしね、今は無理だろうけど一週間後には投票は終わるよ」
「じゃあとりあえずあんたでいいや。頭は良いみてーだしな。
ちょっと話を聞いてくれや」
ウタハはそんな割と失礼なミコトの話を、親身に聞いてくれた。
「なるほど、砂嵐対策や室内に入り込んだ砂の除去か」
彼女はノートを取り出し、すらすらと設計図を書き始めた。
「砂嵐の根本的な対策は難しいだろう。いっそのこと巨大なドーム状の建物に校舎や自治区の機能を移動するとか、砂漠化そのものに抵抗するのは労力の無駄だろうね」
「なるほどな、やっぱり難しいのか」
「しかし校内の砂の除去なら、ちょっとした掃除機のような機械を使えば難しくない。
少なくとも、手作業よりは何倍も楽で、効率がいい筈だ」
「おお、流石インテリ学校の生徒……」
ここに来てミコトの不安は払拭されつつあった。
「これ、作るならどれくらいで出来そうなんだ?」
「これくらいなら手慰みみたいなものだよ。
ちょっと部室の3Dプリンターを使えば、三十分で完成するさ」
「ぱねぇな」
「ミコトの勘は正しそうね」
「どんぐらいカネは必要だ?」
ミコトが問うと、ウタハは首を横に振った。
「わざわざうちの学校を頼りに来てくれたんだ。これぐらいの仕事で依頼料なんて取れないよ」
「マジか……なあユエ、決めたぜ。俺らアビドスと、こいつらミレニアムと同盟すっぞ」
「それは良い考えだと思うわ」
ユエはたっぷり間を取ってから、こう言った。
「ね、ミコト生徒会長」
これには、ウタハも面食らった様子だった。
「なんだ君、生徒会長だったのか」
「おう、地元じゃ“鉄拳”って名前で通してるぜ」
「うーん、君もなかなかユニークな人間なようだね」
好奇心と創作意欲が刺激されるよ、とウタハは微笑んだ。
「見て見て、ホシノちゃん!!
スゴイよ、この吸い取る君(仮)!! どんどん砂を外に吐き出してくよ!!」
ミレニアムから戻った二人は、早速ウタハが作ってくれた掃除機の親戚みたいな機械を実践していた。
吸い込み口から吸い込んだ砂をそのまま窓の外とホースで排出できる仕組みで、砂で床が埋まっていた教室の砂が見る見る室外へと放出されていく。
「子供みたいにはしゃがないでくださいよ、ユメ先輩……」
と言いつつも、ホシノも未知の機械を使ってみたくてうずうずしている様子だった。
「これが十台、いえ五台も有れば校内の砂対策はバッチリね」
「ああ、しかもウタハが言うには、改良の余地がありって話だ」
「そうでしょうね。砂漠と言う環境下では機械の消耗は激しいから。大型化するにしても、利便性を上げるにしても、現場で使用して逐次問題点を洗い流す必要はあるでしょう」
こうして、校内の衛生対策は何とか目途が立ったのだった。
そして後日、お礼以外にも正式な発注依頼を持ってもう一度ミレニアムに向かった二人は、正門前に待ち受けている人物に遭遇した。
「あなたが、アビドス高校の生徒会長ね」
ミレニアム屈指の天才の一人。
生徒会長に当選し、引継ぎの真っ最中の次期生徒会長。
「私は調月リオ。挨拶は終わったから、手早く合理的に本題に移りましょう」
「おう、同盟すっぞ」
「ええ。話が早くて助かるわ」
アビドス高校の歴史が、動こうとしていた。
エジプトが元ネタのアビドスなら、蘇り伝説ぐらいあるでしょう。
簡易人物紹介
ウタハ:一年にして既にマイスターの資格を有している天才技術者。後日彼女はアビドス高校から正式に表彰されたが、辞退した。自分の腕がこの程度ではない、と言うことらしい。
リオ:次期生徒会長に当選したての天才中の天才。ミコトはバカだが理解力があるので、とんとん拍子で話が進むので合理的な相手だと思っている。この時はまだ、ミコトと長い付き合いになるなんて思いもしていなかった模様。
それでは、また次回。