両学校のトップと、次期トップの会談は、何の変哲もない学食のテラス席にて行われることになった。
リオ曰く、移動時間を加味すれば合理的で、他人に聞かれても問題ない話であること。
ミコト的にはどこでもいい、とのことだった。
「では早速、同盟の内容について話し合いましょう」
「内容? 必要あるのか? そんなの」
「文章として明文化の必要性はあるわ」
「面倒だな。お前らみたいな面白そうなやつとつるむってだけじゃねえか」
リオはミコトの物言いに、さっと手にしていたタブレットに目を落とした。
そこには、ミコトと言う人物のプロファイリングがされていた。
曰く。
感情的かつ直情的な表現を好み、言動に表裏は無い。虚言を弄する確率、1%以下。
非合理的な行動や発言は、彼女にとっての経験則による効率性、或いは合理性による可能性がアリ。
他人を巻き込むことで事態の希求性を上昇させ、結果的に問題を解決する傾向を好む。
即断即決を好み、小細工を嫌う傾向アリ。
決定的な責任感の欠如、及び法治社会への非服従、社会的不適合者の可能性99.9%。
結論、逢坂ミコトの政権が今後1か月継続しない可能性は96.5%。
リオはすぐに判断を下した。
「わかったわ、とりあえず現段階は口約束で構わない。
貴女が同盟を組むというのは、アビドス高校全体の意向と言うことで構わないのよね?」
「ああ、
リオは確信した。彼女は既に、自分の進退を決めている、と。
「ではアビドス高校が保有する、ミレニアム自治区周辺の発電会社や発電施設の株券は貴女個人のモノではない、と」
「当たりめーだろ、横領なんてするかよ」
「それを聞けて安心したわ」
「なあ、なんでそんなこと、気にするんだ?」
ミコトは不思議そうに言った。
これには、リオはぽかんとなった。
「順を追って説明するわ」
「おう、俺バカだから分かりやすく頼むわ」
「わかった」
リオはタブレットを操作し、この周辺の地図をテーブルの上に置いて示した。
「これがこの周辺にある、あなた達が株を保有する発電施設やそれを保有する企業の場所だわ。
この辺りはミレニアムの自治区だけど、その技術がこれらに生かされているとは言い難い」
要するに、ミレニアムが意識高いサイエンスな学校でも、そこに住んでいる住人やその生活を支えている企業までも意識高いサイエンスな生活をしているわけではない、ということだ。
「私が生徒会長に就任し、最初に行うのはセミナーの予算でこれらの施設の権利を得ることになるわ」
「セミナーってのが、お前らの生徒会ってわけだ」
「ええ、そうしてこの学校の有する技術の粋を集め、火力、水力、風力、それら問わずに最新式に改修し、最高効率での発電を求めようと考えたわ」
「俺らはその邪魔をしちまった、と」
「言葉を選ばなければそうなるわ。
あなた達はこれら施設の株を三割以上保有している。
この改修作業にあなた達が反対する、と言えば私達は残りの株主を説得しなければならない。
計算では、およそ60%の遅延を要するでしょう」
リオの淡々とした説明に、ミコトとその後ろに佇んでいるユエは顔を見合わせた。
「おい見ろ、ユエ。マジもんのインテリだ。パーセントで会話してるぜ、マンガみたいだな!!」
「私もちょっと感動したわ……。本当に居るのね、こういう人」
リオはミコトの想像する通りの、インテリキャラだった。これで眼鏡でも掛けて縁をくいッとすれば完璧だっただろう。
「説明を続けていいかしら?」
「あ、悪いな」
リオは少しも気分を害した様子も見せず、話を続ける。
「私は当初、他の生徒会長の立候補者の妨害かと思った。
けど実際調べて見れば、アビドスと言う辺境の高校が株を買いあさり、その株の購入等のアクセスはゲヘナ学園から行われた。
私は現時点で、この一連の出来事に関する仮説を有さない。説明をしてくれないかしら?」
「あー、なんかワリーな。特に深い意味は無いんだわ」
ミコトも説明をした。
アビドス高校は借金があること。
ミレニアムがこれから伸びると踏んで、株券を買ったこと。
株取引のやり方がわからないから、ゲヘナの先輩に頼んだこと。
それらを聞いて、リオは目を丸くして思考停止していた。
ミコトは彼女の想像を絶するバカだったのだ。
「と、ところどころ、論理が飛躍してる……!! 合理的ではないわ!!」
「俺からすれば論理的って奴なんだがなぁ」
「なるほど、貴女を既存の常識で図ることは止めましょう」
「そ、それってつまり……」
ミコトはごくり、と唾を飲んだ。
そして後ろのユエの方を向いた。
「おいユエ、データキャラがもうデータを捨てたぞ!!」
「ええ、こう言うのってもっと引っ張るモノだと思ってたけど、流石ミコトね」
「……質問を続けていいかしら?」
「ああ、悪いな」
ミコトは居住まいを正して頷いた。
「貴女の思考にはところどころ論理が破綻しているわ。
まず、なぜミレニアムに、我が校に目を付けたのかしら?
言ってしまえば、サイエンス系の学校はキヴォトスに幾らでもあるし、ここより大きな専門学校が起こしている学生向けの事業は更に沢山あるわ」
「そいつは単純だ」
ミコトは、答えた。
「お前が最強に天才だって、話を聞いたからだ」
これにはリオも面食らった。
「私が、ミレニアムの改革を推し進めると知っていたから?
でも、株の購入は私の選挙期間の前、ミレニアムの生徒でも無ければ私の公約なんて知らなかった筈よ」
「てか、そもそも、お前の公約ってのは何なんだ?」
リオはポカンとなった。
目の前のバカに理解が追いつかないのだ。
「そ、それを知らずにッ、私を買っていたって言うわけ……?」
「ぷッ、ふふふふッ、くふふふッ」
混乱するリオを見て、ユエが顔を背けて笑い出した。
お前もそんな風に笑うんだな、と思ったミコトだった。
「ごく、ごく、ふう、落ち着いたわ」
リオはテーブルに置いておいた水を飲んで、思考を整えた。
「私の公約と言うのは、大まかに言えばこの学校で開発された技術や発明を発信する場を設けること、それに伴い各部活の予算の割り振りや慣習的に残っている不合理な校則などの改善、セミナーでの包括的で合理的かつ効率的な管理体制の構築など、他にも細かいところを挙げればキリが無いわね」
「私からも質問を良いかしら」
ここで珍しいことに、ユエが小さく手を挙げ発言した。
「ええ、構わないわ」
「サイエンス系の学校が共同で開催している催しなら年に幾つもあるじゃない。
そちらで活躍した方が、知名度や出資者も得られるんじゃない?」
「それではダメなのよ」
彼女の質問に、リオは即座に断言した。
「結局のところ、それらに出品したとしても、選び抜かれた数名の作品に過ぎないわ。会場の広さと言う都合もあるわ。
脚光を浴びるのはその数名だけで、残りは見向きもされない」
リオはキャンパスに居る生徒達を見渡した。
皆、思い思いの発明に勤しみ、楽しんでいた。
「この学校にある多くの発明や研究成果が、そんな、数少ない発表だけが選ばれる催しに弾かれて、埋もれるなんて惜しいと私は思うの」
「千年難題の解明、でしたっけ?」
「ええ、その為にあらゆる研究は肯定される。それがこの学校の校是」
発明とは、意外と副産物の方が普及したり、偶然から産まれたりするものだ。
どれが難題の解になる数字になるか、誰も分からない。数撃ちゃ当たる!!
余りにも非効率的な、同時にロマンのある理念だった。
「私は、その理念を体現しているに過ぎない。
私が次期生徒会長に選ばれたのは、その理念に他の立候補者の誰よりも沿っていると判断されたから。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「よくわかんねーけどよ」
ミコトは若干眠そうになりながら、こう言った。
「お前が誰よりもこの学校のことを考えて、誰よりもこの学校が好きだって分かって貰えたから、お前は次期ヘッドに据えられた。それだけのことじゃねーのか?」
リオはまたポカンとなった。
そんなこと、思っても無いと言った表情だった。
「まさか。感情論なんて非合理的だわ」
「俺はその感情だけで、ここまで来たんだよ」
まるで正反対の二人。
だが不思議と噛み合わせは悪くなかった。
「じゃあ次はお前は非科学的だって言う」
「何をそんな」
「俺がお前を選んだのは、予言されてたからだ」
「予言なんて、非科学的だわ」
これには、ミコトもユエもお腹を抱えて大笑いした。
それはもう、文字で表現できないほどの、大爆笑だった。
周囲の生徒が、なんだなんだ、と三人を見ていた。
「そんなに笑うことかしら?」
「だがホントなんだよ、ふひひッ、お前マジでおもしれ―奴だな」
ミコトは目元を拭ってから、何が可笑しいのか分かっていないリオに言った。
「とにかく、まとめるなら貴女たちアビドス高校は単純な投資目的で周辺施設の株を購入し、我が校への害意は無いと言うことね?」
「そんなこと、わざわざ確認しないと安心できねーのかよ」
「言質は必要だわ。
あなた達に敵対されたら、施設の改修は私の代で終わらない可能性が高いもの」
「なるほどな、これが政治って奴か」
ミコトの、政治の能力が1上がった!! (現在値3)
「気になるところもあるけど、次の質問に移行しましょう。
ミコト、あなたは元ゲヘナ生よね?」
「そうだぜ」
「なら貴女はゲヘナ学園の意向で動いているのかしら?」
「えーと、90%は関係無いぜ」
ミコトはリオをマネしてそう言った。
「では、言えないと思うけどその一割と言うのは?」
「雷帝って知ってっか?」
「……ええ、この田舎にもその雷名は轟いていたわ。その末路も、貴女が倒したという話も」
「ああ、俺が特攻かまして、今あいつはゲヘナのどこかに幽閉されて卒業を待ってる」
「ミコト」
ザルに水を入れるように情報がガバガバと漏れていくのを見かね、ユエがミコトの名を呼んだ。
「それ以上はゲヘナに反目することになるわよ」
「なあ、つまりそれって、俺らアビドスとミレニアムの連合軍で喧嘩できるってことか?」
「…………」
「冗談だよ、やっと居場所が出来たあいつらにそんなことさせられるか」
ユエの視線に、ミコトは億劫そうに溜め息を吐いた。
「なるほどな、これがマコトパイセンの感じてる責任の重さって奴か。やっぱ俺には生徒会長なんて向いてねえな」
「……わかったわ。それを聞いたら巻き込まれる、そう言う話ね?」
「だがよ、この話を聞けねえなら同盟は無しだ」
数秒の、沈黙が訪れる。
「それは、脅しかしら?」
リオの赤い瞳が細くなる。
同時に、ミコトの口角が吊り上がる。
「居るな、見える範囲に、強えぇ奴が」
「…………」
「驚いたぜ。こんなインテリ学校に、俺と張れるって度胸がある奴が居るとはな」
「何が目的なのかしら?」
「足し算だよ。残り90%が、その理由になんだ」
ミコトは自信満々にそう言った。
「ミコト」
そんな彼女に、ユエは言った。
「全然インテリっぽくないわ。むしろバカっぽい」
「良いんだよ、どうせ俺はバカだからよ!!」
ミコトは開き直ってそう怒鳴った。
「まあ、俺もよ、全部予言を信じてるわけじゃねーんだ」
「……予言、ね」
「お前に代替わりして、ミレニアムは化ける。今年から、来年にかけて。そんな内容だったはずだ」
「…………」
「俺はお前の器を試してんだ。ミレニアムを押し上げんなら……俺の話を聞く度胸もねーなら、ゲヘナやトリニティに潰されて終わりだ」
「少なくとも」
リオは脳内で演算を終え、最適解をはじき出した。
「貴女と敵対することはない、と」
誰が一番、恐ろしいか。
キヴォトスに存在する巨大な空白の、その変数。
この世で何が一番怖いのか、それは未知。
何をするか分からない相手こそ、一番恐ろしいのだ。
彼女の頭脳は、誰を味方にすればいいか、それを算出した。
「わかったわ、話を聞きましょう。場所を移すわ、それでいいでしょう?」
「おう、今日からアビドスとミレニアムは
こうして、アビドスとミレニアムの歴史的会談の最初の一幕は終わりを告げた。
その繋がりは、偶然だった。
「ミコト、あなたアビドス高校に居るって本当?」
『ああ、しかもアビドスのヘッドになったんだ。すげぇだろ』
「まったく、なにをやってるんだか……」
ヒナはアビドス高校の生徒会を乗っ取ったという話をキャッチし、すぐにミコトに連絡を入れた。
「目的はどうせ、小鳥遊ホシノでしょう?」
『おう、アビドスの借金返したら、本気で戦うっつう約束なんだ』
「それでなのね」
ヒナの脳裏に、以前渋々渡したゲヘナの要注意生徒のリストが頭に浮かんでいた。
それを頼りに、ミコトはアビドスに向かったのを理解した。
「……ミコト、あなた、私に借りがあるわよね?」
『ああ? まあ、お前にはいろいろ世話になってるが』
「私達情報部は、小鳥遊ホシノがアビドス高校に入学した理由が知りたいの。彼女ほどの実力者が、何を求めてあの学校に行ったのか。或いは何かが隠されているのか……」
『相変わらず、疑り深いな、お前』
「それが仕事だから」
電話口のミコトは、まあいいけどよ、と面倒くさそうに言った。
『じゃあ、明日直接聞いてくるわ』
「それは止めて。出来れば、生徒会室の資料や書類があれば嬉しいんだけど」
『──おい、俺にアビドスの連中を裏切れって言うのか?』
流石のミコトも、アビドスの資料や書類をゲヘナに差し出すのはマズいことぐらいわかっていたのだ。
「誰のおかげで、アビドスの生徒会長になれたと思うの?」
『……まあいいや、適当に理由つけて、お前のところに書類とか全部送る。それでいいか?』
「ええ、ありがとう」
『その代わり、なんかカネに換えられそうな権利とか有れば教えてくれよな』
「……一応聞くけど、本当に良いのね?」
『何言ってんだ。今のアビドスのヘッドは俺だぜ? 俺がアビドスの意志だっての』
こうして、数日後ヒナの元にアビドス高校の生徒会室に保管されていた書類がどっさりと届いた。
彼女はそれを三日徹夜して、読み解いた。
そして、見つけてしまったのだ。
「これは、アビドス生徒会と、地元の鉄道会社ネフティスの契約書類?」
こう見えて頭脳明晰なヒナは違和感を抱いた。
契約書の日付は数か月前で、調べればネフティスはもうアビドスの鉄道事業から撤退しているという。
鉄道とはそれを走らせるのに膨大な手順があり、特に線路の保守点検は人力だ。
普通の線路なら年に一度くらいの頻度だが、それが砂漠となればそうもいかない。
砂嵐が起こればすべての線路を点検し、場合によっては掘り起こさないといけない。
どう考えても、最初から成功する見込みのない事業だ。
そんな中での、契約書類。
瞬時に、ヒナは嫌な予感が過った。
かつてミコトが特攻した、前生徒会長の軍事基地。
その資材搬入には鉄道が使われていた。
だが、そこから見つかった資料に書かれていた資材の数が全く合わないことを、ヒナはずっと引っかかっていたのだ。
「まさか!!」
ミコトの偶然が、とんでもない爆弾を掘り当てた。
ヒナは即座に、万魔殿に連絡を入れた。
「これは本当か、空崎」
「可能性は高いと思います、マコト議長」
「……いや、ありうるかもしれん。あの女は戦略の天才でもあった。
戦力を他の自治区に分散して隠していてもおかしくない」
マコトは席から立ち上がる。
「奴を直接尋問する。最低限の人数だけ、付いて来い」
そして、二人の最悪の予感は的中した。
「他の自治区にも奴の発明品が存在する可能性がある!!
ふざけるな、ふざけるなよ!! あの女!!」
「心中察するわ」
尋問に付き従ったヒナも、マコトと同じ気持ちだった。
二人がかつて生徒会室を制圧した時、かの雷帝の発明の設計図を幾つも見た。
それを見て、二人は震えあがった。
どれも空想科学の域を出ないような、そんな荒唐無稽な代物ばかりだった。
だが、かの天才の頭脳は十数年先を行っていた。
そしてそれを実際に組み立てようとしていた形跡が幾つもあった。
キヴォトスを焦土にするような、破壊兵器もあった。
「奴の痕跡を、髪の毛一つすらキヴォトスに残してなるモノか!!
ありとあらゆる記録、記憶、名簿から名前も消し去ってやる!!」
「他の自治区と言うのが面倒だけど、あそこにはミコトが居る。不幸中の幸いね」
「辺境の猿山で満足しているかと思えば、こんな大事にしおってからに……いや、今回ばかりは奴の手柄、か」
心底不愉快そうに、マコトは吐き捨てるようにそう言った。
「ミコトに連絡を入れろ。奴の件に関しては我らは同志だ。
手続きを終えたら、すぐにでも爆薬を用意して奴の発明品をこの世から葬り去ってやる!!」
マコトの指示が、生徒会室に轟いた。
「それで、どのような話かしら? 結論から話してちょうだい」
「ああ、アビドスの砂漠にあるっつう、────列車砲を、俺らのものにすんだよ」
アビドス編は一年生編の最終章なので、派手に行きますよ!!
それでは、また次回。