ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

22 / 78
今回、ミコトの政治力が炸裂する!!



ミコトの政治

 

 

 

 二年前、柴関ラーメン。

 

 

「今日は私が奢るからね!!」

 

 アビドス最後の市街地、その都市部に生徒会の3人とユエは来ていた。

 

「あんまり無理すんなよ。

 お前生徒会長降ろされて給料下がってるだろ」

 

 席に座って、ミコトがそう言った。

 ミコトが生徒会長に就任してもうすぐひと月が経つ。

 

 キヴォトスでは生徒会やそれの傘下等の委員会は役員報酬が支払われるのが常だ。

 ゲヘナ学園でも風紀委員会に所属すれば色々手当てが付いて在学中は食いっぱぐれないとミコトは聞いたことが有る。

 

 生徒会長だったユメは一般生徒会役員にまで格下げされたので、それなりに役員報酬が下がっているのをミコトは知っている。

 なお、給料計算や振り込みはホシノに丸投げされている。

 

「そうですよ、私達ユメ先輩に奢られるほど落ちぶれてないですし」

「ホシノちゃん、そ、そこまで言わなくても……」

「大将、柴関セットをお願い」

「あいよ!!」

 

 ユエは我関せず、マイペースに先に注文していた。

 結局ユメは出鼻をくじかれ、各自支払いのまま注文を終えた。

 

「ううぅ、せっかく皆に感謝を示したかったのに」

「俺らのやってるのは仕事だろ。その報酬が給料じゃねーのか」

 

 ミコトとしては給料分の仕事はしているという認識だ。

 当たり前の仕事をしてる、それだけのことだ。

 

「俺らに感謝したいなら、仕事結果で示せや」

「ひ、ひぃん」

 

 その結果として役員報酬が下がった給料明細が示しているので、ユメは涙目になった。

 

「それより、ユエ。例の投資したカネは増えたのか?」

「まだまだこれからよ。半年もすれば数倍になってるわ、それはリオ次期会長たちの働きで明らかでしょう?」

「……まあな」

 

 あの巨大な列車砲を動かせる、と豪語するミレニアムの生徒達。

 その技術力と熱意は本物だとミコトは感じた。

 

「本当に借金も、砂嵐も、解決の目途が立ったんだね……」

「列車砲もまだ検証や実験も必要ですし、課題は山積みですけどね」

「それでも、借金は確実に返せそうなんだよね!!」

 

 現実的なホシノと対照的に、まるで無邪気な子供のように、ユメは喜んでいた。

 

「だって、これまでなんて全部手探りで、砂漠の中から一粒の正解を探すような、そんな状態だったんだよ?」

「それはユメ先輩が見当違いなところばかり探してたからじゃないですか!! 

 だから給料減らされるんですよ!!」

「ううう、ホシノちゃんが辛辣だよぉ」

「私はよく我慢した方だと思いますけど」

「……でも、砂嵐の問題が解決するところは、私は見れないんだろうなぁ」

 

 ユメも来年で卒業だ。

 そうなったらキヴォトスを去る。学生たちの宿命だ。

 

「……そうですね」

「ホシノちゃん、来年は生徒会をお願いね?」

「私じゃなくてミコトに言ってくださいよ」

 

 若干不貞腐れるように、ホシノは返した。

 

「あ? 来年まで生徒会長やんなきゃいけないのか? 

 ……ダルぅ。なんだか急にやる気が無くなってきたぜ」

 

 なんと、まだ問題解決には時間が掛かると認識すると、急にミコトのやる気が萎え始めた。

 

「なんか飽きた。ホシノ、お前生徒会長やれよ」

「なんでいきなり投げやりになるのかな!?」

「いいえ、ミコトはかなり飽きっぽいのよ。正直、これまでよく持ったとすら言えるわ」

 

 ホシノはそんなユエの言葉に、信じられないようなモノを見る目で見始めた。

 

「あとは借金は待つだけなんだろ? 

 じゃあ明日から俺はフケるから、あとは任せた。なんかあったら呼べ」

「なんて無責任な──!!」

 

 ホシノが激高しようとしたその時。

 

 

「果たして、そう上手くいくかしら」

 

 

「その声、お前毛玉か!!」

 

 後ろの席から声がしたと思えば、そこにはだれあろう、空崎ヒナが座ってメニューを開いていた。

 

「毛玉? 毛玉ちゃん?」

「あー、ミコトが書類を投げてたっていう、あの」

 

 ユメは困惑し、ホシノは何か察したように呟いた。

 

「どういうことだ、毛玉」

「先日の件は聞いたわ。

 列車砲の検証は実際に撃つしかない。けど、今のアビドスにそれは難しいわ」

「なんでだ? 砂漠ならいくらでも打ち放題だろ」

 

 この場合の砂漠とは、砂漠化した自治区の話だ。

 

「もしかして気づいていなかったの? 

 アビドス自治区の大半の土地の権利が、とっくにアビドス高校生徒会から離れていることに」

「え、なにそれ、どういうことなのかな!?」

 

 これには、ユメも驚愕した。

 

「いや、お前が驚くなよ。先代から何も聞いてないのか?」

「うん。まったく何も聞いてない……」

 

 ミコトの問いに、ユメはふるふると力無く首を横に振った。

 

「マジかよ……」

「このままでは列車砲は張り子の虎よ。

 仮にあれが完成しても、砂嵐に向けて撃つことすらできない」

「なんで大事な自治区の土地を売っちまったんだ?」

「大事じゃなくなったから、でしょうね」

 

 その理由を、ユエはすぐに察していた。

 

「砂漠化した都市部の使い道は無いらしいわね。

 地下を掘っても碌な資源が見当たらないって、生徒会室の調査記録にあったわ。

 だから端金で売り払って、現金に換えた。そんなところでしょう」

「ええ、その通りでしょうね」

 

 ヒナは前を向いたまま、土地の権利を譲渡するとした書類を後ろの席に渡した。

 

「ほ、本当だ……今のアビドス高校周辺と、一部の場所以外のほぼ全部がカイザーの会社に売り払われてる……」

 

 ユメが受け取った書類の内容を読んで、そう言った。

 その書類を持つ手が震えている。

 

「なんだよ、また問題かよ。要するに、買い戻さなきゃならねえってことだろ。まだカネが掛かんのか」

「問題は、そのカイザーグループが簡単に土地の権利書を手放すか、という話よ」

「どういうことだ、毛玉」

「カイザーグループは要注意企業として、私達もその動向を監視していた。

 彼らはいつもグレーすれすれの方法で勢力を拡大してきたから」

 

 ヒナは淡々と、事実を語る。

 

「その彼らが先日、ネフティスと接触したという情報が入ったわ」

「なるほど、それはつまり」

「ええ、連中も列車砲の存在に気づいた可能性が高い。

 当然ね。一応はネフティスの所有物である格納庫の、カイザーグループの土地でゲヘナの正規部隊が大暴れしたんだから。事実確認ぐらいはするはずよ」

 

 マズいわね、とユエは呟いた。

 

「連中に列車砲を横取りされるかもってことか?」

「その為にあらゆる手を打ってくるでしょうね。

 連中の野心は底なしよ。油断しないようにね」

「おう、サンキューな」

「あと、今日はあなた達の書類を返却しに来た。もう向こうに届いていると思うわ」

 

 そう言って、ヒナはテーブルを立った。

 

「あれ、嬢ちゃん。注文は良いのかい?」

「すみません、財布を忘れてしまいました。また来ます」

「あー、それはしょうがねえよな」

 

 柴大将も苦笑し、ヒナは店を立ち去ろうとする。

 

「貴女が、小鳥遊ホシノなのね」

「……」

 

 去り際にそう言って、ヒナは店から出て行った。

 

「はあ、次から次へと問題が湧いて出てきやがる。いい加減にしろっての」

 

 やる気の下がったミコトはうんざりしたように言った。

 

「ど、どうしよう……」

「とりあえず、現状をミレニアムに連絡した方が良いと思うよ」

「そうだな」

 

 動揺するユメを尻目に、ホシノの提案を受けミコトはスマホで電話を掛ける為に店外へと向かった。

 

「へい、お待ちどう!! 

 あれ、あの嬢ちゃん電話掛けにいったのかい?」

「あ、そこに置いておいてくれれば大丈夫です」

 

 タイミングが悪く、柴大将とアルバイトの生徒が注文したラーメンや餃子などをお盆で持ってきた。

 ホシノがそう対応すると。

 

「あ、あれ、なんか多くないですか?」

「ああ。こいつはちょっとしたサービスだよ」

 

 全てのラーメンが大盛になっているのを見て、ユメは目を見開く。

 

「あの嬢ちゃんだろ? アビドスに蘇った鉄拳ってのは。

 あの子のお陰で、ここら一帯やこの店も少しだけ昔の活気が蘇った気がするのさ」

「大将……」

「あんたらも生徒会だろ? だからこいつは俺のちょっとした感謝の気持ちさ」

 

 ユメがその事実に感動していると。

 

「申し訳ないけど、大将」

「ん、おっといけねえ、食べきれねえか?」

「そう言うことじゃないの、作り直してほしいの」

 

 急にユエが早口で話し始めた。

 

「こんな話があるわ。ある有名なラーメン職人が、催事でお祭りに出店することになったらしいの。

 でもグルメフェスなどで出店する場合、麺や具材を容器に合わせてその量は少なめになることが多いわ。

 ただ彼がいつも頼んでいた製麺所は、ついいつもと同じ麺の量で現地に届けてしまったの。製麺所の社長は差額は要らない、と言ったそうなんだけど、そのラーメン職人はちゃんと少なく作り直してくれ、と怒ったそうなのよ。

 曰く、その少しの麺の量でラーメンの味は変わってしまう、そう言ったそうよ。このラーメンは催事用に開発したものだから、って」

 

 ユエは柴大将に、真摯な視線を向けた。

 彼女は分かっていたのだ。常連が頼んだ普通盛りと、大盛りのラーメンどんぶりが同じ大きさのものだと。

 つまり、麺の量が増えた分、スープが薄まってしまうことを懸念したのだ。

 

「私は大将、貴女の最高の一杯を食べたいの。作り直しをお願いするわ」

「……へへッ、こいつぁいけねえや。

 学生の皆さんに一杯食べて貰うのが嬉しくて、ラーメン屋の本質を忘れちまったよ」

 

 感動した様子の柴大将は、目元を拭ってそう言った。

 

「おーい、こいつは賄いだ、悪いがそれでいいか? 今から休憩に入っていいからよ」

「え、いいんですか? やったー!!」

「今すぐ作り直す。必ず美味いって言わせてやるから待ってろよ!!」

 

 柴大将はユエの分のラーメンをアルバイトの生徒に渡し、厨房に戻った。

 

 ユメとホシノは、ぽかんとその様子を見ていた。

 

「おう、連絡しといた。お、もう来てんのか」

 

 すると、ミコトが店外から戻ってきた。

 

「……どうしたんだお前ら、そのアホ面」

 

 ミコトは不思議そうにユメとホシノの顔を見ていた。

 

 

 そして、食後。

 

「ごちそうさまでした。大将、美味しかったわ。また来ます」

「おう、次は大盛りでも同じ味を出せるよう準備しとくからな!!」

 

 各々の食器が下げられ、ユエは柴大将にそう告げた。

 

「さて、これからどうするべきだと思う?」

「う、うーん」

「結局、カイザーグループの出方に依るかな」

 

 あんまり役に立ちそうにないユメとホシノから、ミコトはユエを見た。

 

「まず我々の障害に成りうる、二つ勢力が存在するわ」

「ふ、二つもあるの!?」

「ああ、カイザーグループと、ネフティスだね」

「その通りよ」

 

 ホシノはすぐに気づいて、ユエも頷き返した。

 

「まず最初に、ネフティスとアビドス生徒会で列車砲の権利を有していることになるわ。例の契約書の代金は投資分の残りで入金しておいたから、そこは心配しないで良い。まずここまでは良いわね?」

 

 三人は、ユエに頷き返した。

 

「でも先方は列車砲を動かせない、と断念し放置した。

 ネフティス側がこれに執着するかどうかは、正直判断材料が無いから五分五分としておきましょう」

「連中にとっては不良債権なわけだ」

「そこに、カイザーグループが出てきたらどうかしら?」

 

 カイザーグループは、キヴォトスに君臨する言わずと知れた多角化企業の一大財閥。

 買収を繰り返し、新たな事業を立ち上げ、成長を繰り返して今に至る。

 

 基本的に大企業が新事業を行う場合、仮にそれが携帯会社だとすれば、それを一から会社を立ち上げたりはしない。

 なぜなら、既に事業を営んでいる携帯会社を買収し、それを自分たちの色に染めて開始した方が遥かに早く、安上がりだからだ。

 

 そうやってカイザーグループは、タコが多くの手を伸ばすように多角化してきたのだ。

 

「私なら、カイザーグループに列車砲の権利を売り渡すわ」

 

 それが、今現在アビドス生徒会における最悪のパターンだ。

 

「ネフティスは所詮地方の鉄道会社に過ぎない。買収をチラつかせたり、嫌がらせをすれば音を上げるのはどちらが先か火を見るより明らか。

 そして、カイザーグループは軍事産業にも力を入れている。

 自分達なら列車砲を動かせる、そう思ってもおかしくはないわ」

 

 ユエの想定に、重い空気が落ちる。

 

「一応、ミレニアムの連中は列車砲をなんとか移動して隠すとは言っていた。あれを絶対他人に渡すものか、ってマイスター達は言ってたぜ」

 

 ミコトには現在列車砲の格納庫で作業中のミレニアムの生徒達と直通の電話番号がある。

 それで先ほど警告してきたのだ。

 

 動かないのは現在未検証の砲塔部分で、それを動かす車両部分は当然動かすことは出来る。

 ただ、あの列車砲は巨大で、二本の線路を使用してようやく移動できる代物だ。

 

「ええ、でもあれほどの大きさよ。

 時間稼ぎにしかならないと思った方が良いわ。

 最悪、問題が解決するまで砂の中に隠した方が安全まである」

 

 それでも先延ばしにしかならないけど、とユエは言った。

 

「向こうから接触はあると思うか?」

「当然あるでしょう。協議と言う名の恫喝ぐらいしてくるはずよ」

「……って、あれ、ミコト、もしかして──」

 

 ホシノはミコトの反応を見て、こう言った。

 

「まさか、うちが借金してるのって、カイザーローンだって分かってないの!?」

 

 これには、ミコトも面食らった表情になった。

 

「それ、マジか?」

「それはこっちの台詞だよ……」

「だから、マズいのよ」

 

 当然それくらい把握してこの話をしていたユエは、そう言った。

 

「連中次第で、うちの借金の返済額なんて幾らでも増やせるはずよ」

「ど、どうしよう……」

 

 儚い希望の芽が、今まさに摘み取られそうになっている。

 ユメはその事実に泣きそうになっていた。

 

「……いや、俺に考えがある」

「へえ、それってどういう手?」

「くっくっく、政治って奴だよ……」

 

 ホシノが尋ねると、ミコトは似合わないあくどい笑みを浮かべてそう言った。

 

「とりあえず、直近の問題に対処すべきでしょう」

「直近の問題?」

「ええ、アビドスの借金の支払日が、──明日ということよ」

 

 そう、ミコトはちょうど前回の支払いの直後に、アビドス高校にやってきたのである。

 

「……約七百万円、用意できるの?」

 

 恐る恐る、ユメが尋ねた。

 

「だから、当てがあるって言ってるだろ。俺を信じろ」

「大丈夫よ。私から助言もするから」

 

 とは言え、猛烈に嫌な予感がするユメとホシノだった。

 そして大抵の場合、その予感と言うのは的中するものだ。

 

 

 

 

 一応これまでの実績を踏まえ、ミコトを信じることにした二人だったのだが。

 

 翌日、校門に現金回収車がやってきた。四人はそれを待ち受けていた。

 しかしそこに現れたのは、二人のロボットの大人だった。

 

 一人は集金で、ホシノが見たことのある相手だった。

 ただ彼はどうやらやつれているようだった。前回もそうだったが、今回はそれ以上に。

 

「ど、どうも、本日の集金に来ました」

「おう、ご苦労さん。そっちは?」

「私はカイザーグループ本社のモノです。今日はアビドス高校の生徒会と、我々が手に入れたとある権利についての協議に参りました」

「へえ、そいつはわざわざ。俺がこの間アビドスの生徒会長になった、逢坂ミコトだ」

 

 ミコトは尊大に振舞った。

 カイザーローンの職員は、そんな彼女を恨めしそうに見ていた。

 

「で、どっちから話をすんだ?」

「では手短に、集金からお願いします」

「おう。じゃあその話は終わりだな」

「へ?」

 

 ミコトは言った。

 

「カネは、無い」

 

 これにはユメもホシノも唖然となった。

 

「そ、それは、返済できないと言うことですか!!」

「お前らにやるカネは無いってこった」

「そ、それは……我々は、すぐにでも差し押さえの強制執行をできるのですよ!!」

「やってみろよ」

 

 ミコトは、一歩前に出た。

 

「俺のダチに、ヴァルキューレの公安局長が居てな」

 

 ミコトは連邦生徒会に宣戦布告した時の、例の動画をスマホの画面に示した。

 彼女ら公安局長と肩を組み、その後ろにヴァルキューレ警察学校の校章が大きく掲げられている。

 

「俺の一言で、いつでも“圧力”かけられんだ。

 なあ教えてくれよ、探られると痛い腹があるのはどっちだ?」

「そ、それはッ」

 

 これにはユメとホシノもドン引きだった。

 ミコトは完全に、借金を踏み倒す気なのだ。

 

「最近俺のダチがよ、公安局に出世したんだ。

 そいつから色々教えて貰ったよ。どうせ違法なことしてんだろ? 

 お前らの強制執行とやらが先か、お前らの職場が消えるのが先か。教えてくれや」

「こ、このッ、クソガキ!!」

「文句あるならいつでも言えよ、三下。まあ、うちの借金の契約書を持ってくんなら見逃してやるかもしれないがよ。……いや、やっぱり契約書はあとでそっちに取りに行くわ」

 

 ミコトは職員を突き飛ばした。

 職員はたまらず尻もちをついた。

 

「おっと、手が滑っちまった。こりゃあ信用が下がっちまったか? 

 おら、どれだけ利子を引き上げるか言ってみろよ!! 

 立派な大人なんだろ。ああすまねえな、もう立派じゃなくなって、ホームレスの仲間になるのか。ぎゃははは!!!」

 

 もう完全にヤクザのやり口である。

 どちらが悪役か分からない。

 

「……で、話は終わりか?」

「そのようですな」

 

 カイザー本社の社員が、カイザーローンの職員を見下しながらそう言った。

 

「お、お許しを、お慈悲を!!」

「貴様らが失った資産を補填したのは誰だ? 貴様の次の給料査定を覚悟しておくんだな、役立たずは失せろ」

 

 そう、カイザーローンの資産は、あのブラックマーケットの闇銀行に収められていた。

 それがそこにいるバカの襲撃で、ブラックマーケットが丸ごと壊滅した。

 闇銀行の金庫の中身は連邦生徒会が徴収し、それを再開発の費用に充てた。

 

 一夜にして経営が破綻したカイザーローンは本社に助けを求めた。

 本社は一応彼らに慈悲を掛け、資金を注入。経営は持ち直したが、本社からの扱いは当然下がったのである。

 

「さて、立ち話もなんですから、ちゃんとしたところで話し合いをしましょう」

 

 職員が打ちひしがれているのを尻目に、本社員はそう言った。

 

 

「我々カイザー本社は、列車砲の存在を認識しています。

 こちらはネフティスから買い取ったあの周辺駅の権利です」

 

 カイザー本社員は、生徒会室の応接机の上にネフティス側の書類を提示した。

 

「ご存じの通り、アビドス自治区の大半の土地の権利を我々本社が保有しております。

 それを運用するにしてもまず実際に稼働可能か実験や検証が必要だと存じます。

 しかしあれほどの兵器だ。それの稼働や試射が可能なのは、砂漠化したアビドス自治区だけでしょう」

 

 全て、ユエの想像通りだった。

 つまり、最悪のパターンだ。

 

「どうでしょうか、ここはお互いに権利を持つ者同士として、共同で開発、運用しようと言うのは」

「話になんねーな」

「それはつまり?」

「列車砲は俺らのもんだ」

 

 彼は、沈黙した。

 ユメとホシノははらはらと交渉を見守っている。

 

「てめーらに指一本触れさせねえ」

「では、こうしましょう」

 

 本社員は代案を提示した。

 

「我々があらたな土地と校舎を、貴女方に用意します。

 そこでアビドス高校を再出発すれば良い」

「どういう意味だ?」

「その代わり、この校舎周辺の土地の権利を欲しいと言っているのです」

 

 馬鹿げた提案だ、それはユメにさえそう思えた。

 土地を渡してしまったら最後、ここの生徒達は退去しなければならない。

 それはもう、列車砲を差し出すのと同義だ。

 

「あー、てめぇ、ふざけ──」

「ミコト」

 

 その時だった。

 ずっと黙っていたユエが、魔女が、ミコトの耳元で囁いた。

 

 ミコトが、嗤った。

 

「たしか、ここの権利書ってのはこの辺にあったか」

「ミコトッ、何をする気なの!!」

 

 ミコトは金庫から、この土地の権利書を取り出し、テーブルに投げた。

 

「それはくれてやるよ」

「では、交渉は成立したということで、こちらに書類のサインを」

 

 あらかじめこうなるパターンを見越して、彼は書類を持参していた。

 それにミコトはサインをした。

 内容を見てすらいない。

 

 これにはホシノが飛び出しそうになったが、ユエが制した。

 

「それでは、即刻この校舎からあなた達は退去し──」

「あー、気が変わったわ!!」

 

 しかし、自分でサインをしておきながら、惚けたようにミコトは言った。

 

「やっぱこの校舎好きだわ、出て行きたくねー」

「何を言っているのです? 契約はもう締結したのですよ」

「実は俺、ここに住んでんだよ」

 

 ミコトはここ毎日、アビドス高校で寝泊まりしていた。

 彼女は別に寝床を気にしないのだ。

 

 そして、彼女は言った。

 

「俺ら生徒会は居住権と、学校の運営権を主張する」

「あ、あなた、まさかッ」

 

 そう、ミコトは人権を主張したのだ。

 そして同時にこのキヴォトスという学生社会で最強の、学校の運営権。

 それを取り消せるのは、連邦生徒会長だけだ。

 

「追い出したきゃ追い出してみせろよ。

 あー、でも、こう言うのってまず、立ち退き交渉ってのがあるんだっけ? いいぜ、立ち退いてやる。一億万円でな!!」

 

 だん、とミコトは片足をテーブルに乗せて、本社員に言った。

 

「勿論、全部現金でだ。それ以外じゃ受付ねぇ。

 俺はキヴォトス全土に主張するぜ、お前らに無理やり退去させられそうになってるってな!! 

 お前ら勘違いしてるから教えてやるよ」

 

 ミコトは本社員を見下し、こう言った。

 

 

「──この世界(キヴォトス)は、子供(俺ら)のもんなんだよ」

 

 ミコトはたった今サインした書類をびりびりと破いて、それを彼に投げつけた。

 

「俺らがこうしようと思えば、いつでもそうできる。

 お前らクズの大人は、俺らのおこぼれを預かって足元を這いずり回るゴキブリなんだよ。

 てめーらの社長に伝えとけ、来りて取れ、ってな!!」

「くッ、後悔するぞ!!」

「ああ。お前らがうちの自治区の権利書を置いて、手を引かないなら、お前らがそうなるな」

 

 彼は破けた書類をかき集め始めた。

 一応、書類の原本はびりびりに破けても有効なのだ。

 

「話は以上だ。おいパシリ、お客さんがお帰りだ!!」

「は、はい!!」

 

 ユメは慌てて生徒会室の入り口のドアを開けた。

 

 本社員はひったくるようにアビドス高校の土地の権利書を奪い、逃げるように立ち去った。

 

「しょ、正気なの、ミコト!!」

 

 最初に声を挙げたのは、ホシノだった。

 

「あいつらは何もかも奪っていく!! もっとうまいやり方があったはずだよ!!」

「なに日和ってんだ、ホシノ」

「あんたはあいつらの、汚い大人のやり口を何も知らない!!」

「ああ知ってるよ、あいつらは俺らを騙すんだ。そんで人生が全部無茶苦茶になるまで搾り取りやがるんだ」

「わかってるなら、どうして!!」

「あいつらは、俺らを騙せたか?」

 

 ミコトは、ホシノの目を見て言った。

 

「これは俺の政治なんだよ、腑抜けは黙ってみてろ」

 

 二人の視線が、交錯し、沈黙が訪れる。

 

「で、でも、ここの土地の権利書を渡しちゃったら!!」

 

 とにかく話題を出そうとユメが声を挙げるが。

 

「安心しろ、すぐに取り返す。他の土地も全部だ」

「ど、どうやって……?」

「言っただろ、この世界は俺らのもんだって。

 喧嘩のやり方、教えてやる。世の中ってのは声が大きい方が勝つんだ」

 

 ミコトは楽しそうに笑った。

 ぼ、暴力は良くないよ、とか細い声でユメは言ったが、当然聞き入れられない。

 

「ユエ、先手打ってカイザーと喧嘩すんぞ。あいつらに宣戦布告をさせろ」

「わかったわ。じゃあ、ビデオを撮る必要があるわね。役者は……」

 

 心底楽しそうにしているユエは、生徒会室を見渡し、ユメに視線を合わせた。

 

「丁度、か弱そうだし、彼女にしましょう」

「ああ適任だな」

「ホシノ、今からカイザーローンに殴り込みを掛けんぞ。借金の借用書の原本を奪いに行く、ユメもついて来い」

「え、私も!?」

「もう、私は知らないからね……」

「ああ、全部俺がケツ持ってやるよ」

 

 無茶苦茶を言うミコトに肩を落としてホシノはもう何も言う気力も無かった。

 

「さぁて、楽しい戦争(マツリ)の始まりだぜ!! ぎゃはッ、ぎゃはははッ、ぎゃははははは!!!」

 

 愉悦に顔を歪ませ、ミコトはこれから始まる嵐を想い笑った。

 

 

 

 

 

 





ミコトの卓越した政治力により、一年時代最後の大喧嘩が始まる!!(なお、ミコトは政治を勘違いしてる模様

では次回、アビドス編最終話!!
それではまた、お楽しみに!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。