ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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評価数100人、お気に入り1000人突破、感謝感涙です!!

いよいよ、アビドス編最終話となります。
それでは、本編どうぞ!!



そして伝説は去りぬ

 

 

 

 集金日当日、カイザーグループ本社。その社長室。

 

「しゃ、社長!! 報告に参りました!!」

 

 アビドス高校から戻ってきた本社員が、社長室へと転がり込んだ。

 

「落ち着きなさい、列車砲の件はどうなったのかね?」

 

 執務机に座り書類仕事をしているのは、老年に見えるロボットの大人だった。

 

 彼こそが、全カイザー系列会社の総帥。

 カイザーグループの創始者にして、一代で財閥を築き上げた傑物だった。

 

 若い頃にこのキヴォトスで起業し、その辣腕を振るいカイザーグループを形成した。

 そしてそれから数十年。老いと言うのか、この場合老朽化というのか、衰えは見せてもただの一度も社長の席を若者に譲ったことがない。

 

「れ、連中は列車砲を手放すつもりは無いようです!!」

「ふ、子供は新しいオモチャを手放したがらないものだ。どうせそうなるだろうと思っておったよ」

 

 部下の報告に、予想通りだと総帥は笑った。

 

「それで、お前はそれだけを報告しに来たのか?」

「も、勿論、アビドス高校再建を条件に、あの土地の権利書は取って参りましたが……」

「はッ、はははッ、所詮子供ではないか!! 目の前にぶら下がった餌にかぶりつきおるとは!!」

「し、しかし、彼らは退去を拒否しました」

「……なに?」

 

 大笑いする総帥は、ぴたりと笑うのをやめた。

 

「奴らは小賢しくも、居住権と学校の運営権を主張すると」

 

 居住権は非常に強い権利である。

 借主は法律によって強く保護されており、この場合学校の運営権も絡んで非常に厄介だ。

 

 家賃滞納などの契約違反や建物の老朽化等の正当な理由が無い限り、居住者を追い出すことはできない。

 そしてこの場合、学校の運営権を保証しているのは連邦生徒会。

 

 そしてアビドス高校の自治を許しているのも連邦生徒会。

 企業と学校の土地のいざこざは、民事の領域だ。カイザーが連邦生徒会に訴えても、そちらで何とかしてください、としか言われないだろう。

 

 つまり土地の権利を持っていても、一方的にアビドス高校の退去を求めることは出来ないのだ。

 それこそ、連邦生徒会が運営権を取り上げ、退去を命じなければ。

 

 ただそれは学校ぐるみで重大な犯罪を犯していたり、自治区への横暴や迷惑行為をしていなければまず行われない。

 

「まったく、手間を掛けさせる」

 

 しかし、キヴォトスで絶大な手を広げている総帥に、それらをクリアする事は難しくなかった。

 彼は執務机の上に備えられた受話器を取った。

 

「もしもし、防衛室かね?」

『はい。こちら防衛室の室長室です』

「おや、いつもの声では無いね?」

『……ああ、この番号はもしやカイザーの。前任者からは聞いていますよ。

 ご挨拶が遅れました。この度室長に就任した不知火カヤです』

「挨拶などどうでもいい。

 少々厄介な出来事が起こってな。力を貸してくれまいか?」

『日頃お世話になっているカイザーの皆様におかれましては、前任者も気を配るように仰っておりました。

 とりあえず、どの様なもめ事で?』

 

「アビドス高校は知っているかね?

 あの学校がそちらとの契約違反をしているそうだ。これは正さなくてはいけないのではないかね?」

 

 あくまで、具体的なことは言わない。

 総帥は善意の通報者なのだから。

 

『確認します……少々お待ちを』

 

 一分ほどして、防衛室の向こうが電話口に戻った。

 

『あー、アビドス高校ですか。たしかに、あれは厄介ですね』

「我々の意図は理解できたかな? 新任よ」

『ええ、しかし私どもでは御力になれないかと』

「……なに?」

『また別方向から“圧力”がかかっているのですよ。

 あなた方企業を忖度するなら、ヴァルキューレ警察学校を物理的に破壊する、と』

「な、なんだと!! そんなのは脅迫ではないか!!」

『脅迫だろうが何だろうが、実際に実行して来る相手なので。生憎と今年の防衛室の予算には限度がありまして。

 その上、前任者もあなた方のような企業の“飴玉”を咎められ更迭された身、出来ればほとぼりが冷めた頃に、またお話を伺います』

 

 それでは、と向こうの電話が一方的に切られた。

 

「お、お、おのれ!! 我々がいったいどれだけの献金をしたと思っている!!」

 

 これには総帥も激怒した。

 

「所詮は子供かッ、もういい!! アビドス高校や周辺自治区へ圧力を掛けろ!!」

「わ、わかりました!!」

 

 総帥の命令に、部下は立ち去った。

 すると、備え付けの電話がなった。

 

「私だ、いったい何の用だ?」

『しゃッ、社長、て、テレビを見てください!!』

「なに?」

 

 総帥は社長室に置かれている大型の薄型テレビの電源を入れる。

 

 

「こちらはつい先ほど、各メディアに届けられたゲヘナ系超大型不良組織、通称“デスサイズ”の犯行声明です」

 

 ニュース番組で、キャスターがそう言うと映像が切り替わる。

 

「初めまして、そしてキヴォトスの皆様」

 

 映像は、どこかの室内で撮られているようっだった。

 ドクロと大鎌の黒い旗と、ウェイト版の死神のタロットカードの巨大タペストリーが垂れ下がる一室に、異質な少女が佇んでいた。

 

 ペストマスクを被った、黒髪の生徒。

 手入れの行き届いていないくすんだ白い翼と、くたびれたトリニティの生徒会の制服。

 

「私は周りから、アオマと呼ばれています。

 恐れながら我々の組織、“デスサイズ”の宗主代行を務めさせて頂いております」

 

 そう名乗った生徒は、丁寧に頭を下げた。

 

「まず、こちらをお聞きください」

 

 彼女はボイスレコーダーを手に、再生ボタンを押した。

 

『──ええ、梔子ユメさんは社の方に来ていただいて、交渉をさせて頂いております』

『ふざけんな、パ……ユメを返せ!!』

『御冗談を。我々は彼女を拘束などしておりませんよ。

 ただ、“交渉”が終わるまで何日かかるか分からない、ただそれだけのことです』

『そこまでして、アビドス高校の土地が欲しいのかよ!!』

 

 助けてミコトちゃん、という声がして、そこでアオマは停止ボタンを押した。

 

「我々の殆どは、学校から退学を受けたり、犯罪をしないと生きていけない者たちでした。

 そんな我々を、一部とはいえアビドス高校生徒会のユメさんは編入生として受け入れてくれたのです」

 

 だというのに、と彼女は吐き捨てた。

 

「我々の仲間の安住の地を脅かそうとする者達が現われたのです。

 それこそが、キヴォトスに根を張る大企業、カイザーグループ!!

 我々は、我々の仲間を受け入れてくれた彼女への恩義に報いなければなりません。でなければ、いったいどうして宗主様に顔向けできましょうか!!」

 

 アオマは、分かりやすく怒りを示した。

 

「彼女がどこに攫われたか分からない以上、我々はカイザーグループの全ての系列会社に攻撃を宣言いたします。

 ──デスサイズ全部隊に告ぐ、私は宗主の意志を代行し、カイザーグループ全体に“死の宣告”を発令する!!」

 

 その動画を見ているデスサイズ構成員の不良たちが、立ち上がる。

 

「破滅を告げる正位置の部隊よ、カイザーと名の付く系列会社全てに攻撃を加えなさい。

 そして、再生を司る逆位置の部隊よ、監査役として随伴し、攻撃に乗じて略奪や強盗、過剰な暴力が行われないか、或いは正しい攻撃目標か見定めなさい」

 

 構成員はほぼ全員不良なのに、彼女らは理性をもって暴虐を振るう。

 

「我々は道を外した者達。であれば、大切なモノを持つ者たちを守る為にこそ、この大鎌を振るいましょう。

 それでは皆様、ごきげんよう。全ては、宗主の御心のままに」

 

 そしてアオマは、もう一度恭しく一礼をした。

 映像は、スタジオに戻る。

 

『これは同時多発テロです!!

 カイザーグループの系列会社に居られる方々!! 彼女らは社外に居る者を攻撃しないと宣言しております!!

 直ちに避難してください!! 近くに居る市民の皆さんも、どうか──』

 

 総帥はテレビの電源を切った。

 そして、繋いだままの受話器に怒鳴りつけた。

 

「すぐにでもカイザーセキュリティやPMC、系列軍事会社にあのクソガキどもを排除するように伝えろ!!」

『か、かしこまりました!!』

 

 子供と大人の、戦争が始まった。

 

 

 

 

「ぎゃは、ぎゃはは!! 最高に盛り上がってきたじゃねえか!!」

 

 カイザーローンの本社。

 自分の舎弟たちの宣戦布告に、ミコトは大喜びしていた。

 

「ごくろうさん、いい演技だったぜ」

「しくしく……ううう、こんなことに私を使うなんて」

 

 たった今大人の職員を脅して録音させたユメとの会話を、ついさっきミコトはアオマに送ったのだ。

 

 がんがん、とその横でホシノが金庫の扉をぶち破った。

 鍵が壊れて、金庫の扉が力無く開く。ユエが中身を即座に確認する。

 

「ミコト、アビドス高校の借金の借用書の元本を見つけたわ」

「燃やせ」

「わかったわ。あと、返済のやり取りの証拠があると面倒だわ」

「なんかあっても、“圧力”掛けっから安心しろ」

「じゃあ、その必要が無いように確認だけしとくわ」

 

 ユエがバックパックから着火用のライターを取り出し、借用書に火をつけた。

 瞬く間に、11億5000万円の借金が灰になる。

 

 ユメとホシノは、その瞬間を複雑そうに見ていた。

 

「わかったか、クズども。これが現実なんだよ」

 

 突入時にボコボコにされて床で呻く、カイザーローンの大人たちにミコトはそう言った。

 

「こ、こんなことが許されるとでも!!」

「なんだ、まだわかんねーのか?」

「とッ、とっくにヴァルキューレに通報済みだ、カイザーセキュリティの者達もすぐに飛んでくる!!」

「何だお前ら、さっきの奴から聞いてないのかよ」

 

 生憎と先ほど本社員と一緒に現金回収車で来たここの職員は、まだ他の借金を回収している最中だった。

 ミコト達の行動が早すぎるのだ。

 

「け、警察」

「本当に大丈夫なんだよね、ミコト」

 

 怯えるユメと、念を押すように確認するホシノ。

 ここの管轄はヴァルキューレなので、すぐにでも飛んでくるだろう。

 

「だから、何度も言わせんなって──」

「失礼。こちらヴァルキューレ警察学校、公安局のモノです。通報を聞いてやってきました」

 

 噂をすれば影。

 ヴァルキューレの警備部隊がぞろぞろと突入してきた。

 

「……お前ら、いつもこんぐらい早けりゃ、舐められずに済むんじゃねえのか?」

「貴様がマークされているというだけだ、ミコト」

 

 すると、警備部隊の後ろからカンナが現れた。

 

「よう、直接会って祝えてなかったな。出世おめでとさん」

「私は捜査局の方が性に合っていたんだがな」

「んじゃ、軽くのしといたから、こいつらは任せたわ」

「……はあ、お前達。捜査に掛かれ」

 

 はい、と警備部隊の生徒達が手分けして書類や債券などを回収し始めた。

 

「あ、あの、なぜそこのチンピラを逮捕しないのですか?」

「ええ、あなた方の通報で、チンピラが暴れた証拠を確保しているのです」

 

 カンナは職員たちに、冷たい目でそう言った。

 

「ああ、こいつらは俺らのダチでな。

 お前らがクズだってのも、そこのカンナが教えてくれたんだぜ」

「あ、ミコトさん、ドーナツ食べます?」

「おう、サンキュー」

 

 ミコトは警備部隊の生徒の一人から、ドーナツを受け取った。

 

「言ったろ、これが現実なんだよ。三下ども」

「そもそも私は公安局で、普通の通報なら生活安全局のモノが来ます」

「だとよ」

 

 ミコトはドーナツを食べながら鼻を鳴らした。

 

「んじゃお前ら、次はカイザーの武闘派組織を潰しに行くぞ」

「おい、堂々と犯罪の宣言をするな」

「どうせ俺の舎弟共の動画見てんだろ。こいつは戦争なんだよ」

「分かっているのか、ミコト。

 カイザーグループは市民の生活やインフラにも関わる巨大な財閥だ。

 仮に彼らを滅ぼせば、大量の失業者が溢れる。彼らの全ての事業が不健全なわけでもない、そこに所属する職員全てが悪人と言うわけでもない。このままだとキヴォトスは地獄となるぞ」

「わかってねえのはおめえだ、カンナ」

 

 ミコトは、淡々と事実を口にするカンナの胸倉を掴んだ。

 

「このクズどもは、キヴォトスの癌なんだよ。

 お前が癌になったらどうする? 手術すんだろうが。

 体中に病巣が転移したら、それをひとつ残らず取り除くだろうが!!

 麻酔なんてねーんだよ。なんの痛みも無く、病気が治ると思うのかボケが!!」

「……」

「これは、俺の救護だ。ミネも部長もそうするはずだ。俺が特別だと思うなよ」

「……時々、お前の無鉄砲さが羨ましくなるよ」

「てめえこそ、覚悟が無いなら警察なんて辞めちまえ」

「恨まれるぞ、それでもいいのか?」

 

 ミコトはカンナを話すと、笑って言った。

 

「望むところだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 デスサイズの構成員は、手あたり次第カイザー系列の本社や支社を的に掛けた。

 

 彼女ら正位置の部隊は、マップアプリで近くにあるカイザーグループの系列会社を検索し、ぞろぞろと大勢で向かい始めた。

 

「おい、あれ、カイザー系列のコンビニじゃね?」

「あ、そう言えばそうじゃねーか」

 

 そしてその道中、カイザーという名前こそ付いてないが、カイザーコンビニエンスが経営するコンビニを発見した。

 

「……まあ待てよ、あそこで働いてんのはバイトの学生だろ。

 カタギの客もいる。そいつらボコボコにすんのは違ぇだろ」

 

 血の気の多い正位置の部隊を、同行する逆位置の部隊の不良が諫めた。

 

「でもよぉ、あれの売上ってカイザーの資金になんだろ? こういうの、将軍撃つなら馬を先に撃てって奴じゃねえの?」

「関係ねえ奴ぶっとばしたら、姐御の顔に泥塗るっつってんだよ!!」

「……そりゃあ、ダメだな」

「だろ? どのみち指示出してんのは会社の奴らだ。そこで大暴れすりゃいいんだ」

 

 そして彼女らは、カイザーの系列会社へと歩み始めた。

 

 

「バラバラで襲撃するなよ!! 数集めて囲んでフクロにするんだ!!」

「とりあえず社員は全員縛り上げろ、降参した奴は攻撃すんな!! 悪党だって分かってからボコボコにすんだよ!!」

「会社襲撃しても金目のもんに手ぇ付けた奴はアオマさんにチクるから覚悟しとけ。勿論、終わったら身体検査すっからよ。何か見つけたらその時点でデスサイズ追放だから、覚えとけよ!!」

 

 部隊運用、戦術、監査、補給。デスサイズは連邦生徒会の一件からほんのひと月程度で高度に組織化されていた。

 

 把握しているだけでも総兵力約4万の軍勢が、バランスよく配分されカイザーの系列会社に向かう。

 特に、カイザーの警備会社や軍事企業にはそのうち一万以上の兵力を差し向けられた。

 

「なあ、アオマさんってトリニティの生徒会に居たってマジか?」

「マジらしいよ。結構期待されたらしいけど、政敵に蹴落とされていじめられまくって自主退学したんだと。意外にそう言う奴、多いらしいぜ」

「こわ……お嬢様学校の闇見た気がするわ」

「似たような境遇の奴集めて、今のデスサイズのルール作ったんだってよ」

「頭良くてもうちらみたいな不良になっちまうのか。悲しいな」

 

「来た。お前ら、お喋りは終わりだ。カイザーPMCの奴らだ。

 あいつらが他のところ行けねぇように、足止めすんぞ」

 

 カイザーの軍事基地の近くの道路を封鎖していた部隊が、一斉に攻撃を開始した。

 PMCの装甲車が地雷で走行不可になり、中から兵士が出て応戦を開始する。

 

「なあ、ところでよ」

「どうしたよ」

「俺らの勝利条件ってなんだ?」

「決まってんだろ。────姐御の勝利宣言だ」

 

 

 

 

 まさに戦争。

 本隊が軍需企業と警備会社を足止めし、それ以外の支社を攻撃する。

 相手の嫌がることだけを徹底した、弾圧は元トリニティのお家芸だと言わんばかりの、アオマの戦略。

 

 カイザーグループは企業である以上、指示を出す会社が襲撃されては営業ができない。

 それが長引けば長引く程、現場が混乱する。

 とにかく相手の被害を拡大させることだけを目的とした、まさに死の宣告。

 

 それらはカイザー本社にも、次々と被害報告が成された。

 

「カイザーPMCは基地周辺で交戦し、各地へ応援に行けない状況です!!」

「カイザーローン、カイザーインダストリー、カイザー物流、カイザーエネルギー各本社とも連絡が取れません!! 既に陥落したものかと……」

「壊滅したカイザーローンの本社に、ヴァルキューレの捜査が入ったという情報が……」

「現状、把握しているだけで50以上の系列会社が攻撃を受けています!!」

「ほ、報告ッ、カイザーセキュリティの本社が壊滅したとの情報が!! 襲撃犯は、アビドスの逢坂ミコトだと……奴は次にここに向かうと言っていたと……」

 

 次々に社長室へ、部下たちが報告にやって来る。

 系列会社を統括するはずのカイザーグループ本社が、完全に麻痺していた。

 

「現状、把握できるだけでも総被害額は数十億はくだらないかと。

 明日以降の業務停滞の影響による損害は……考えたくありませんな」

 

 不良たちは的確に、物流会社や石油会社を狙って攻撃している。

 それらを一括で管理することでコストを削減できるのが利点だが、今回は露骨な弱点となっていた。

 キヴォトスの明日は、各地で物流が停滞し、ガソリンが行きわたらなくなるだろう。

 ライバル会社たちに大きく後れを取るのは明らかだ。

 

 最早、カイザーグループの信用問題にまで発展しようとしていた。

 

「い、いかがしましょう、社長……」

「……」

 

 総帥は、怒りに震えて何も言えない。

 怒鳴り散らしても何も解決しないという理性と、一秒ごとに状況が悪化する現状に打つ手がないのだ。

 これらすべて、ミコトが喧嘩を行うと決めて4時間での出来事だった。

 

 その時、社長室の扉が開いた。

 

「打つ手ならありますよ、社長」

「お前は、副社長!! 何か手が有るというのか!!」

 

 現れたのは、40代後半に見える杖を突いたロボットの大人だった。

 それに付き従う軍帽とロングコートのロボットの大人も。

 

「おお、ジェネラル!! 貴様が居ると言うことは打開策があるというのだな!!」

「ええ、我々大人にしかできない、唯一の手段が」

 

 

 

 カイザーセキュリティを壊滅させたミコトはユエを伴ってカイザーグループの本社へやって来ていた。

 邪魔になるのでユメはアビドス高校へ帰らせ、ホシノはカイザーPMCへの対応に向かわせた。

 

 カイザー本社は黒塗りの高層ビルで、まさに悪の巨塔と言ったところか。

 

「意外ね」

「何がだ?」

「もっと警備を固めているものかと」

 

 カイザー本社はミコトの獲物なので手出し無用、とデスサイスには伝えていたのだが、当然彼らはそれを知らないはずだ。

 

 入り口が警備の者で固めるくらいするだろう。

 

「罠なら別にそれでもいいだろ。それを踏みつぶして行けば良いだけだ」

「ふふふ、ミコトらしい。それもそうね」

 

 ミコトは堂々と、カイザー本社へ足を踏み入れた。

 

「逢坂ミコト様、ですね……」

 

 二人が入って来るのを見た受付の女性ロボットが、怯えながら確認してきた。

 

「そ、そちらのエレベーターから最上階の社長室へどうぞ。

 ……新社長が、貴女とお話になりたいそうです」

「なるほどね」

「新社長って、ことは……」

 

 まあいいか、とミコトにとってはカイザー社内のゴタゴタなど、どうでもいい事だった。

 

 受付に言われた通り、最上階へとエレベーターで向かった。

 ちん、と何の妨害も無く最上階へと辿り着いた。

 

「なんだ、途中でエレベーターを落とされるぐらいのアトラクションはねーのかよ」

「それをやっても困るのはここの社員たちだけよ」

 

 これだけ大きいビルなので、エレベーターは複数あるが、その一つが使えないのは大分不便だろう。

 

 そして二人は、社長室と掛かれた部屋のドアを開けた。

 

「……ノックぐらいはするものだと思っていたが、常識を知らないのかね」

「悪党が常識語るんじゃねーよ」

「ふふ、悪党。悪党、か」

 

 執務机で二人を待ち受けていた新社長は、不敵に笑った。

 

「おっと、自己紹介が遅れたね。私は先ほどの緊急重役会議で新しくカイザーグループ本社の社長となったモノだ。気軽にプレジデントとでも呼んでくれ。

 そちらは側近の、職位はジェネラルだ」

「こんな子供が、これだけのことを仕出かしたのか……」

 

 プレジデントは慇懃に、そう名乗った。

 

「誰がアタマでも関係ねーよ。

 アビドス高校の土地の契約書、あとネフティスから買い取ったっていう列車砲の権利を寄越せ。じゃねーと」

「ふむ、良いだろう」

「なんだと?」

「欲しいモノが有るんだろう? くれてやるとも」

 

 プレジデントは備え付けの電話で連絡を入れる。

 すると、すぐに書類を持った社員が現れた。

 

「こ、こちら、です……」

「確認するわ」

 

 ユエがそれを受け取り、内容を改める。

 

「間違いなく、アビドス自治区全ての権利書と列車砲の権利書、あと私達が知らないアビドスの債権もあるわね」

「私の知る限りそれで全部だ。間違いなく、勿論、騙していたり隠していたりもしていない」

「ならよ、あとは詫び入れろや。

 そうすりゃ、お前らへの攻撃を辞めてやる」

 

 ミコトは高圧的にそう言い放つ。

 

「それに関しては、もう準備を進めている」

「なに?」

「前任者……このカイザーグループの創始者がこの度の騒動の責任を取って辞職すると記者会見をするからだ」

「要するに、尻尾切りかよ」

「この場合は頭を切ったと言うべきだろうがね」

 

 それは皮肉か嫌味か、しかしプレジデントは上機嫌だった。

 

「どさくさに紛れて社長になったのが、そんなに嬉しいのかよ」

「ああ、嬉しいね。あのご老人は老衰して死ぬまで社長の椅子を私に譲らなかっただろう。

 そして新社長の私は、君たちの起こした混乱を治めたとして、新たな社長としての威厳を示せる。

 この私がこれほどまでに気前が良いのは後にも先にもありはしないぞ?」

 

 プレジデントは本当に、本心からそう言っていた。

 

「こんだけ派手にやられても、会社を立て直せるってのか」

「当然だ。お前達は所詮、物理的な物しか壊せていない。

 しかし、我々には販路がある。伝手がある。他人の弱みも幾らでも持っている。幾らでもやり直せるのだよ」

 

 彼はこの事態を利用しようとしただけあって、実にしたたかだった。

 

「つまりよ、てめぇは悪事を再開するってことだよな?」

「ふっふ、ふふふ。これだから物事の一側面しか見えない子供は」

 

 すると、プレジデントは引き出しから書類を取り出した。

 

「見たまえ。これは我が社がやっている慈善事業の数々だ」

「どうせ裏があるんだろ」

「物事には何事にも表裏がある。

 例えば、トリニティのシスターたちがやっている炊き出しもそうだ」

「ありゃあ善行って奴なんじゃねえのか?」

「それもあるだろう。

 だが君たちみたいな奪うことしか知らない不良たちは、一食を得ることでその分を奪わなくて済む。即ち、治安が改善されるのだ。

 それは巡り巡って、彼女達の利益になる」

 

 それが社会の本質だと、彼は言う。

 

「企業の本質、その目的とは何だと思うかね?」

「金儲けだろ」

「違う。まったく違う。企業の本質とは、社会貢献なのだ」

「……どういう意味だ?」

「私の講演料は高いが、まあ特別に我が社の経営戦略を教えてやろう」

 

 プレジデントは饒舌に語り出す。

 

「近年、地方の過疎化が進み、ガソリンスタンドが次々と廃業することが社会問題になっている。

 それら過疎化の進んだ自治区ではそのガソリンスタンドが潰れれば、十キロ以上離れたところに行かないと別のガソリンスタンドがないと言うのはざらにある話だ。

 企業が決してやってはいけないことの一つに、そう言った店を畳んでしまうことにある。

 なぜなら、そうなっては皆が困るからだ」

 

 それが、企業の本質。経営店が存在することで、結果的にみんなの生活を維持させること。

 

「そこで我々のような大企業が手を差し伸べる。

 すると大して儲からないガソリンスタンドの経営ができるようなり、住民も助かるわけだ」

「でも、お前が言うには裏が有るんだろ?」

「ふふふ、その通りだ。

 そこで私はその過疎地に、そうだな、大型の商業施設を立てると計画したとしよう。

 結果的にそれは周辺からの客を呼び込み、何百人もの雇用が生まれる。

 地元の商品かなにかを何かと理由を付けて売り出せば、地元への還元もされる。良いことずくめだ」

「でもそう言うのって、地元の商店街からすればメーワクなんじゃねーのか?」

 

 ふむ思ったよりバカではないか、とプレジデントはミコトの評価を上方修正した。

 

「勿論、地元の商店街は反対するだろう。

 そこで、最初にガソリンスタンドを手にしていたことが響くのだよ。

 我々が撤退すると、それも撤退しなければならなくなる、と。そう住人に説明したらどうなるかね?」

「ひでー」

「ここまでの話を聞いて、君はどう思った?

 我々は悪かね? それとも善かね?

 違うのだよ、会社経営とはその両方、清濁を併せて持つものなのだ」

 

 我々は犯罪者とは違う、とプレジデントは言う。

 

「誰かが得した時には誰かが損し、その逆もあり得る。ただそれだけのことだ」

「そうやって誤魔化して、お前らは暴力を振るうんだろうが」

「これは帝王学の話になるが、それによるとリーダーの残虐性は否定されないのだ。

 仁君でも舐められれば反乱を起こされるし、暴君でも適切に暴力を使いこなせば反乱は起こされない。

 つまり、暴力とは使いどころを見極めなければならないモノなのだ。

 勿論、近年我がグループの社員の質の低さや、暴力を振るうのが常態化しているのは問題だと思うがね」

 

 プレジデントの長話にミコトが眠気を誘われていないのは、それだけ彼の話術が優れている証左だった。

 

「君がそこまで我々を信じられないのなら、私は業務改善と社員教育の徹底を命じよう。

 勿論、自浄作用を証明する為に監査室を設置し、連邦生徒会側の人員も配置しよう。

 まあ、手の打ちどころはこの辺りだろうな」

「ミコト、私は矛を収めるには妥当だと思うわ。むしろ今までなかったのかって言いたいことは色々あるけど」

「そうか」

 

 ミコトも内心、貰うものは貰ったしな、と思った。

 

「あと一つ聞かせろ、なんでそこまでして俺の機嫌を取るんだ?」

「なぜって? 君と戦ったところで、我々は一円も儲からないからだ」

 

 プレジデントのこれ以上無い説得力のある言葉に、ミコトは呆れた。

 

「……アオマ、俺だ。カイザーは俺らに詫びを入れるってよ。

 ああ、ユメなら助け出した。お前らも撤退させろ」

 

 そして、ミコトも電話で終戦を告げた。

 

「おめえらが居ないと迷惑被る奴が居るのはわかった。

 だが、俺はそんなの関係ねえ。覚えとけ」

 

 そして、二人は踵を返す。

 ばたん、と彼女達は社長室から立ち去った。

 

「……プレジデント。良いのですか、あそこまで譲歩して」

「ふん、あのデカい赤ん坊が卒業するまで、我々はおしゃぶりであやしてやればいい。……我々には、いくらでも時間が有るのだからな」

 

 

 

 こうして、宣戦布告から半日も経たずに戦争は終わった。

 カイザーの創業者は記者会見で辞任し、キヴォトスを去った。

 カイザーグループはほんの数時間でグループ全体の二割近い損失を被ったが、現場の混乱も直に収まるだろう。

 

 そして、必要な権利書を全て取り戻したアビドス高校も、嵐が過ぎ去ろうとしていた。

 

 

「ワリィなお前ら、連邦生徒会から怒られちまった」

「え、なにが?」

「実は俺、ゲヘナ学園にまだ学籍が残ってたんだってよ。俺も忘れてたわ!!」

「ええ!?」

 

 色々な問題が発生する為、生徒は同時に二つの学校には在籍できない。

 

「つーことで、俺はゲヘナに戻るわ」

「そ、そんなぁ」

 

 急な別れに、ユメは涙ぐんだ。

 

「じゃあ、どうしてあんたの編入や、生徒会長として登録が通ったのさ?」

「さあな、向こうで()()()があったんだろ」

 

 ミコトは、あの連邦生徒会長の顔を思い起こして、ホシノにそう言った。

 

「さて、ホシノ。俺は約束を果たしたぞ。本気で戦えや」

 

 アビドス高校の借金は消滅。

 ミコトは当初の目的を果たしたのだ。

 

「……いいや、まだだよ。アビドス高校にはまだ借金がある」

「なんだと? 聞いてねえぞ」

「知ってるはずだよ。三億円」

 

 あ、とミコトはハッとなった。

 そう、ミコトは三億円を借金と言う形で工面したのだ。

 それはアビドス生徒会長としての、借金と言える。

 

「あんたに三億円、返せてない。

 それを返し終えるまで、借金が無いとは言えないよ」

「あー、あんなの気にすんなよ」

「そんなのダメだよ!!」

 

 ここで、ユメが声を挙げる。

 

「ミコトちゃんにはいろいろとお世話になったのに、今度こそお金はちゃんと返さないと!!」

「……はぁ、もうそれでいいよ」

 

 色々あって、ミコトも正直面倒臭かったのだ。生徒会長なんてもうとっくに飽きている。

 

「近いうちに必ず、借金は返すから。

 その時は、約束通り、あんたをギタギタにしてあげるよ」

「おう、やってみろや」

 

 こうして、ミコトはやるべきことを全て終えた。

 

 

 校門から立ち去るミコトとユエを、アビドス高校全生徒で見送った。

 誰もが彼女の退陣を惜しみ、或いは居なくなることに涙した。

 

「ねえ、やっぱりミコトさんって、鉄拳の生まれ変わりなんじゃ」

「そうかもね。伝説は、本当だったのかも……」

 

 かくして、新たな伝説を“鉄拳”は残し、去った。

 

 

 

 

「ミコト先輩、期末試験すっぽかしましたね?」

「え、マジ?」

「ええ。三日前が最終日でした」

 

 イロハにそう告げられ、ミコトはマズいと思った。

 卒業には単位が必要だが、進級には試験の参加が必須なのだ。たとえどれだけ酷い点数でも。

 

「でもミコト先輩はうちのマコト先輩が潜入捜査中ってことにしておいたので、追試を受けられるようにしておきますね」

「おお、マコトパイセン……いや、マコちゃん!! きっと俺をマブダチだって思ってくれてんだな!!」

「(あの人も試験全日寝落ちして、補講なんですけどね)」

 

 その後、マコトは難問だらけの期末試験をミコトに出したが、全て満点で返され、歯噛みしたマコトが居たとか居なかったとか。

 

 

 

 

 

 




時系列的には、このすぐ後にカヨコのあの話になります。
どうしよう、半年で大体の敵を倒しちゃったよ……。

殆ど書きたいことは書いたので、二年編は各生徒から見たミコトというキャラのオムニバス形式にしようと思います。
更新頻度は、流石に落ちるかなぁ。

それでは、次回。一年生編のエピローグになります!!
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