作者は勝手に三年生って思ってましたが、二年生にしておけば話が広がったのになぁって思いました。
では、本編どうぞ。
「では、こちらの書類にサインと校印を」
「は、はい……」
少し時が過ぎ、リオは正式にミレニアムサイエンススクールの生徒会長に就任した。
彼女の最初の仕事は、アビドス高校との同盟の締結だった。
列車砲から得られる技術やデータは、ミレニアム側からしても非常に利益になる。
そして無駄に広い砂漠化したアビドス自治区では、彼女らの発明品の試験場として打って付けだった。
アビドス高校としても列車砲の運用や管理を任せられるし、彼女らの技術提供で大量の太陽光発電を設置する事業を提案された。
列車砲の運用には莫大な電力を必要とする。殆ど雨が降らないアビドス自治区にも場所だけはあるので、砂嵐に気をつけながら管理運用することになるだろう。
リオと、周囲から推されて生徒会長に復帰してしまったユメが、同盟を証明する書類に先輩達から受け継いできた二つの学校の校印で調印した。
二人は最後に握手をして、調印式は終わった。
それに出席していた両学校の生徒達は、拍手で同盟の締結に祝福した。
「ねえ、ホシノちゃん、やっぱり私が生徒会長で良いのかな」
調印式が終わり、アビドス高校に戻ったユメは生徒会室でホシノに問うた。
ミコトと言う強烈すぎるリーダーの登場に、流石に後任になったユメは不安そうにしていたのだが。
「なに言ってるんですか、ユメちゃん」
「そうですよ!! この学校を一番愛してるのはユメちゃんじゃない!!」
ミコトが去ってから生徒会に入ったアビドス生がそれを否定した。
彼女の姿に触発されたのか、生徒会に入ろうとした生徒が数名現れた。
「ユメ先輩、いつもあたしらに勉強教えてくれるじゃねえっすか。うちらが支えますんで、自信持ってください」
「でも、何かすっ時はちゃんと相談してくださいよ。この間もまた詐欺に引っかかりそうになったじゃないっすか」
そこには、ミコトが連れてきた編入生達も居た。
ユメはそんな彼女らも生徒会として受け入れた。
「そ、それは、ごめんなさい……」
「誰もユメ先輩にミコトみたいなこと、期待してないから大丈夫ですよ。
それより、編入希望がたくさん届いているんですから、処理してください」
ホシノはユメの執務机にどっさりと書類を置いた。
デスサイズの大暴れは、アビドス高校にとっては良い宣伝ではあった。
不良が流入している、なんて噂も流れているが、そこを安住の地と認識した不良は多かった。
過酷な環境でも次々と編入希望が送られるようになった。
「生徒会長、大変です!! 最近流入したチンピラグループがうちの生徒を拉致ったようで!!」
「まったく、ミコトが居なくなって舐められてるみたいだね」
ホシノはラックに置いておいたショットガンを手に取った。
「ほ、ホシノちゃん、お願いね!!」
「ええ。保安部隊に召集を掛けるよ。みんな、手伝って」
アビドスには小さな希望が、徐々に芽吹いて行った。
「法治社会において、自力救済は認められません。
自分達が加害を受けた場合、それに対する報復を自分たちが行っては、法の意味が無くなるからです」
広大な青白い部屋で、連邦生徒会長はミコトに語り掛ける。
「だが、現実はそうじゃねーだろ」
「ええ。このキヴォトスではある程度の自衛は当たり前、場合によっては自ら敵を排除したりします。
そして暴力で解決した後、我々のような政府や警察に丸投げするんですよ」
結局、その方が早いのだ。
生徒達の時間は有限だから、結局暴力に頼ってしまう。
「勿論、行政の力不足や社会保障が行き届いていないことは申し訳なく思います。
そうして慣習的にブラックマーケットのような悪所、社会的影響が高いとカイザーグループのような悪徳企業がのさばるのを許してきました」
連邦生徒会長から見て、ミコトはキヴォトスの闇に進む灯火そのものだった。
「まずは感謝を述べさせてください。おかげで私も大分やりやすくなりました」
「まずは、って言う割には前口上が長かったな」
「それはご勘弁を。政治家とはそういうモノなのです」
ミコトの嫌味に、彼女は苦笑した。
「アビドス高校についても、私の知る予言とは別の方向へ進み始めました。かの学校がミレニアムと手を組むなんて、
「そりゃあ、初めてだろうよ」
もしかして何かしらの政治的な言い回しなのか、とミコトは内心思った。
「あの土地にはいろいろと面倒なモノが埋まっているのですが、それはおいおい解決しましょう。カイザーが完全に手を引いた以上、どうやってアレを掘り起こしたものか……」
「おい待て、今なんつった?」
「さて、私の予言を活用したと言うことは、私の話を聞くということでよろしいですか?」
彼女は笑顔でミコトの問いをスルーした。
「……まあ、あんたの言うことはひとまず信じてやるよ。
リオの奴も列車砲のヤバさから独自の調査を始めたらしいし」
列車砲の射程は500㎞、もはや弾道ミサイルレベルだ。
最大射程にまでプラズマ弾を届かせる場合、仮に時速1800キロで進んでも五分近く掛かる。
リオも言っていたように、プラズマとは瞬間的な物。その状態を500㎞先まで届けるその異常性を持つ機関。その由来や起源を調べようとするのは当然のことだ。
「リオ会長が既に? それは朗報ですね。
彼女は来年も会長職を続投されるので」
「そいつも、お前の言う予言か?」
一年生で生徒会長になり、卒業まで在任すると言うのはキヴォトスでも割とよくある話だ。
その生徒会長が有能だったり、独裁だったり、それ以外にやりたがる人が居なかったり、理由はまちまちだが。
「ミコトさん、貴女にこちらの活動証明証を渡します。
これがあれば連邦生徒会の管理する、危険区域などの立ち入りが自由になります。
どうぞ、リオ会長共々役立ててください」
「つまり、体よく扱き使おうってことじゃねーか」
しかし、ミコトはそれを受け取った。
まだ見ぬ強敵、自分を高めてくれる強い奴を求めて。
「まあまあ、色々と便宜を図ってあげたじゃないですか」
「やっぱり学籍やマコちゃんの件もあんたの差し金か」
「リオ会長にもお伝えください。──これより我々は、同志だと」
その物言いに、ミコトは気に入らなそうに鼻を鳴らした。
「まあいい、この世界を滅ぼせるっつうほどの強えぇ奴をぶったおせりゃ、俺は間違いなく最強だろうぜ。
嘘こいたらしょーちしねえぞ」
「私としては、嘘であってほしいのですけどね……」
連邦生徒会長は儚い笑みで、そう答えた。
その数日後。
「リオ、こいつが連邦生徒会長から預かった奴だ」
「なるほど。彼女もそれほど、あの未知の技術の出所を警戒してるのね」
ミコトは面倒なので、活動証明書をリオに丸投げした。
「それで、そいつが」
「なんだてめぇ、なにガンつけてんだ」
「はあ? ガンつけてんのはテメェの方だろ」
ミコトと、メイド服姿の小柄な生徒がお互いに因縁をつけ始めた。
そう、彼女こそ当時一年の美甘ネルその人だった。
「止めなさい、ネル。不良は卒業するんでしょう?」
「ちッ、命拾いしやがったな。都会で名が通ってるからって、偉そうにすんじゃねーぞ」
「それで凄んでるつもりなのか、チビ。メイド服のコスプレも似合っててカワイイでちゅねぇ」
「──やっぱり表出ろや!! 私をチビ呼ばわりした奴は全員〆るって決めてんだ!!」
「おうおう、ぎゃあぎゃあ叫んで、おむつの時間かぁ? そこのリオのデカいおっぱいでもしゃぶったらどうだ、ああん?」
「てめぇ、生きて帰れると思うなよ!!」
「ミコト、私はネルの母親ではないわ」
真顔でそんな的外れな指摘をするリオ。
「彼女は私のシークレットサービスとして新しく創設するメイド部の最初のメンバーで……」
ちゃんとネルを紹介しようとしたリオの言葉は、しかし二人が外に出て行った事で途切れてしまった。
「はあ、先が思いやられるわ」
外から銃声と、あとミレニアム生の悲鳴が聞こえ始め、リオは溜め息を吐いた。
キヴォトスのどこかにある、薄暗い廃墟の一室。
そこに、みっつの異形の影があった。
彼らはゲマトリア。キヴォトスで暗躍する結社。
今日は彼らの、集会の日であった。
「……マダムは不在か」
二股に分かれた二つの顔を持つ木人形の異形、マエストロが身体を軋ませそう言った。
「ええ、彼女はアリウスの生徒の教育に御執心のようです」
黒い影のような人型が、裂けたような光の亀裂が目や口を模っている怪人、黒服が応じた。
「たまの定例会にくらい、参加すればよろしいのに。そこが女性の気難しさと言う奴なのでしょうかね」
「まあ、そう言うこった!!」
そして後頭部の顔写真というゴルコンダと、その身体を代行する首無しのデカルコマニー。
三人、いや四人の怪人がここに集結した。
さて、ゲマトリアという組織がなぜ成り立つのか。
彼らは各々の解釈や手段を用い、“崇高”に到達することが目的である。
要するに、各々目的は同じでもその過程や結果は異なるのである。
そもそも彼らは基本的にお互いに干渉しないし、有っても技術提供するぐらいだ。
共通の敵は居るには居るが、それはまた別としておこう。
それでなぜ、組織が成り立つのか?
それは、──他者と言う観測者が必要だからだ。
後に彼らが度々先生にダル絡みするのは、それが理由である。
仮に彼らの言うところの“崇高”に至ったとして、それが本当に目的としたものなのか、自分だけでは判断しきれない。
それは他人から見れば勘違いや、間違いなのかもしれないからだ。
彼らは探求者であり、求道者。究極的には他人を必要としないが、その成果や結果は他者の観測を必要とするのだ。
つまりは、発表が必要なのである。
それらは或いは、承認欲求に類するような、世俗的な、彼らの人間性を示すモノなのかもしれなかった。
「では、まずは私から。
此度の成果物である“普通の弾丸”は、恐らく失敗に終わったと思われます」
「そう言うこった……」
「恐らくもっと不特定多数に流通し、認知度が上がれば効果が上昇すると見込まれますが……それはキヴォトス住人の過半数を必要とするでしょう」
この銃弾で撃たれれば死ぬ、と皆が認知するから、それで撃たれれば死ぬ。
しかし結果として、それは難しい。生産力の面でも、その普及を妨害する勢力を加味しても。
「このキヴォトスという世界を覆うテクスチャに挑んでみようと思ったのですが、なかなか上手くはいきませんね」
「そう言うこった!!」
「ふむ、面白い試みだ」
マエストロは、彼らの挑戦を賞賛した。
「しかし、私の実験は継続しております。今は経過段階かと」
「逢坂ミコトですね?」
黒服が問うと、ええ、とゴルコンダは頷くように返した。
「彼女の持つ神秘がどのように干渉し、結果が現れるのか。どのような文脈が優先されるのか、興味深いと言えましょう」
「なるほど、ここがゲマトリアという違法な集団の集会場なのですね」
「誰だ?」
マエストロが問う。
暗がりから現れたのは、白い髪の生徒だった。
ウサミミを模したヘッドセットを着用し、SRTの制服を着用している。
だが矛盾している。
ミヤコは現在13歳の中学生、RABBIT小隊のらの字も関係無い生活をしている。
そこに居るのは、実在するのに、今存在しない姿の生徒だった。
「ああ、あなたは」
しかし、記号を象徴とするゴルコンダはすぐにその正体を見破った。
「ゲヘナの魔女。何か御用ですか?」
「……ゲヘナの魔女、ね。そんな風に呼ばれるつもりは無かったんですが」
美しいのは罪ですね、とミヤコの口調で、ミヤコではない誰かが言った。
「このキヴォトスで魔女と言う言葉は重要な意味を持ちます。そんな立ち位置に居ようなんて、そんなつもりは無かったのですよ」
「なるほど、貴女が」
くっくっく、と黒服は笑った。
「では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
彼は、彼女に問うた。
「……では、代弁者、と。それが一番ふさわしい呼び名だろうな」
ミヤコだった誰かは、今度はサキの姿と口調でそう言った。
「あ、あの、別に御用といったことはないのですけど、ひ、一言だけ……」
今度はミユの姿と口調で、怯えたように振舞う。
「くひひ、ミコトはね、私のモノなの。私だけがどうにかしていいんだ。私の邪魔をしたら、私も大人げないことをしなくちゃならないよ?」
モエの姿と口調で、狂気的な笑みで彼女は言った。
「私は何もしません。あなた達にも、このキヴォトスにも。だから、私の邪魔をしないでください。用件はそれだけです」
そしてミヤコの姿に戻り、代弁者は警告した。
「では、失礼しました」
彼女は一礼をして、踵を返した。
「ひとつだけ、疑問に答えて貰ってもよろしいですか?」
黒服が、彼女の背に向けて言った。
「あれー? ゲマトリアの人達の探求って、他人に答えてもらえれば得られる程度のモノなんですかぁ?」
振り返った彼女は、モエの姿で嘲笑した。
「これは手厳しい。ですが好奇心とは抑えられぬもの。
本当に一つだけですので、少々お時間を」
「まあ、いいですけど」
「では。なぜ貴女は、──梔子ユメを救ったのですか?」
黒服の疑問は、それだった。
「貴女は何もしないと言いながら、彼女の悲劇的な運命を変えた。
それは貴女の言動と矛盾するのでは?」
「なるほどな」
再び彼らの方を向いた代弁者は、サキの姿で手に持っているモノを示した。
それは彼女が持ち歩く手帳ではなく、恋愛小説のようだ。
「そもそもその認識は間違いだ。私は何もしていないし、私の意志でもない」
「ほう?」
「仮にだが、連載されている恋愛小説があるとしよう。
主人公とヒロインが出会い、艱難辛苦の末に恋人関係に発展したとしよう。
二人は初々しく関係をはぐくみ、キスをして抱き合い、そしてその最終回で──」
サキは、当人が絶対に浮かべないだろう、裂けたような笑みを浮かべた。
「ヒロインが強姦魔に襲われ、その尊厳の全てを踏みにじられ、運ばれた病院で主人公が駆けつけた目の前で飛び降り自殺をしたとしよう。
……この作品の評価はどのようなものになる?」
これに、マエストロが答えた。
「作者が意外性を狙っただけの、大して面白くもない展開だ」
「少なくとも、読者はそのような展開を求めてはいないでしょう」
そして、ゴルコンダもそれに追従する。
「このキヴォトスは生徒達が無邪気に学園生活を謳歌できる場所でしょう?
この場所では死はご法度なのに、なんで陰惨な死に方をする者が出るの?
ねえ、正しいのはどちらなの?」
故に、ユエに、代弁者。
彼女は本当に、何もしていない。
「私は何度もミコトを止めたわね。
けれど、この世界で死が当たり前で、血と血で洗い合うような場所なら、こう背中を押したでしょう。──ミコト、皆殺しにしましょうって」
もはや口調など取り繕うまでもなく、彼女はそう言った。
「言うことは言ったし、私は何も知らない私に戻るわ。
なんだかんだで私もこの場所を楽しんでるし、私はミコトを側で見ているだけで良いの。ただそれだけなの」
それが、彼女の嘘偽りない全てだった。
「なるほど、実に興味深いお話でした」
「それじゃあ、あなた達の探求が成就することを願っているわ」
黒服の疑問は解消された。
代弁者の少女は、今度こそ踵を返し、帰ろうとした。
「……タロットカードにおいて、最も不吉なカードは“塔”であるな。正位置でも逆位置でも、ろくな意味が無い」
そんな彼女の後姿に、マエストロが声を掛ける。
「勿論“死神”のカードも死を連想させるから不吉なカードであるとされる。
しかし、“死神”よりも不吉とされるカードが──」
「“月”のカードだそうだな」
足を止めた彼女が、ゆっくりと振り返る。
見る者の場所によって、月の模様に違いがあるように、その姿は様々だった。女性か、ウサギか、カニか、それとも男性か。
振り返った彼女は、ただただ不気味に笑っているだけだった。
これにて、一年生編は終了です。
あえて二年生になるまで、残り半年の空白期間を設けることで、いろいろあったってことにできると言うことで。
昔のティーパーティーや部長を掘り下げても仕方ないので、高等部に進級する原作キャラ達の絡みを重視する予定です。
それではまた、次回!!