ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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第二章に移り変わったので、前回を今回のタイトルに合わせて「ホルスの戴冠編」に改めました。

あとアオバちゃんのキャラ濃くてワロタ。この世に強い不満を抱いているww
それでは、本編どうぞ。



ブルアカVol1「ホルスの戴冠編」その2

 

 

 

 05:新旧生徒会長対決!? 

 

 

 ミコトの帰還に、アビドス校内は湧いていた。

 数少ない二年前を知る生徒は興奮し、その功績を伝え聞く生徒達はそわそわと期待を胸に抱いていた。

 

 彼女のバイクが校門前に止まると、そのエンジン音を聞きつけた生徒達が授業中にも関わらず、BDの再生を止めて教室から手を振ったり声を挙げて歓迎した。

 

 生徒会と言えど、生徒には違いない。

 キヴォトスの生徒会はある程度自治も行うので、一部授業が免除されていたり優遇されてはいるが、学生の本分は学業には違いない。

 

 この日の生徒会の集まりは午後からだったので、それまでミコトは校内を見て回ったり、生徒に話しかけたりしていた。

 

 そうしているうちに、先生と遭遇した。

 

「おい、てめぇがセンコーって奴か」

「“こんにちは、すごい人気だね”」

「ちょっとツラ貸せや」

「“ぼ、暴力はダメだよ……”」

 

 とりあえず、先生はミコトに連れられ屋上に向かった。

 そして、彼女は話を切り出した。

 

「連邦生徒会長とは、知らねぇ仲じゃなかった」

「“彼女を知っているの?”」

「ああ、あいつと急に連絡取れなくなって、しばらくキヴォトス中を探し回った。

 そんで、てめぇが来た。それで思い出した。いつかだかあいつが言ってた、連邦生徒会に一人の大人がやってくるってよ」

「“……そうなんだ”」

「てめぇのタレなんだろ、あいつは」

「?」

「あいつは、お前のオンナなんだろって聞いてんだよ!!」

 

 ここに来て先生はとんでもない誤解をされていることに気づいた。

 

「“ご、誤解だよ!! 私は彼女と会ったことも無いんだ!!”」

「一体どこに、自分の権力やらタワマンやらを貢がれておいて知らん顔する野郎が居るんだよ!!」

「“本当に分からないんだって!!”」

「あくまでシラ切りやがるのか。どうせ手ぇだして表に出せない身体になってんだろうよ」

 

 その後も、とにかく先生はミコトに誠心誠意説得を繰り返した。

 自分がキヴォトスに来たのはつい先日のことだとか、生徒をそう言う目で見たりはしないとか、とにかく思いつく限りだ。

 

「まあいい、あいつが帰ってくりゃ分かる話だ。

 とりあえず圧掛けて出方見りゃいいって、相棒も言ってたからな」

 

 少なくともちゃんとした証拠がない限り、ミコトは決めつけるようなことはしないようだった。

 

「俺にとって、キヴォトスの外はゴミ箱だ」

「“え?”」

「俺が何人クズの大人をキヴォトスの外に追放してやったと思う?」

「“ひゃ、百人くらい……かな?”」

「数万だ。数えちゃいねえが、ブラックマーケット潰した時にはそんぐらい居たらしい」

 

 先生は多めの数を言ったつもりだが、現実はそれを遥かに凌駕していた。

 

「こういうことは他人の俺が口出すことじゃねえのかもしれねぇが、仮にあいつがガキ抱いて戻ってきたら責任取れよ。

 ……てめぇもゴミ箱送りに成りたくなかったら、よく考えて行動するこったな」

「“……わかったよ。ミコトに信じて貰えるように、頑張るよ”」

「そうしてくれや」

 

 先生も言葉だけではミコトは理解してくれないのは分かったので、頷いて見せた。

 そうして話が終わった頃、ノノミが屋上の入り口のドアを開けた。

 

「ああ、先生にミコト先輩、こちらにいらしたんですね。

 生徒会室で皆がお待ちですよ」

「おう、すぐ行く」

 

 ミコトは最後に先生を横目で睨むと、先に下に降りて行った。

 

「何か大事なお話をされていたんですか?」

「“うん、まあ、大事な話ではあったよ……”」

 

 割と生きた心地がしなかった先生だった。

 

 

 

 午後になって、ようやく先生とミコトが生徒会の面々と一堂に会した。

 

「……小物が増えたな」

 

 ミコトは生徒会室を見回し、そう呟いた。

 

「まあ、人数が増えたからね」

「で、雁首揃えてこの有様か」

「いきなり嫌味、か」

「お前は頭が硬いんだよ」

 

 ミコトはホシノに溜め息を吐いて見せた。

 

「それで、何の御用でしょうか。先々代」

 

 いきなり嫌味を言われて、アヤネもムッとした様子でそう尋ねた。

 

「いやな、俺の時に砂祭りやろうって言ったくせにその後丸投げだったからよ。

 ……ちょっとした心残りって奴だ」

「私達は貴女の大立ち回りの尻拭いをしてるんですけど」

「借金にあっぷあっぷするよかマシだろ」

 

 セリカにとっても、ミコトは先々代の生徒会長でも他人の、しかも面倒な置き土産を置いて行った相手だった。

 消極的な拒絶も当然だった。

 

「なにか手伝ってくれるってことなの?」

「いや? それはお前らの仕事だろ? 今の生徒会はお前らなんだからよ」

 

 シロコの問いに、ミコトは首を横に振った。

 

「それともなんだ? 商店街の奴らを全員ぶっ飛ばしてくりゃお前ら喜ぶのか?」

 

 これには、全員が沈黙した。

 

「しかし、ミコト先輩。今回はカイザーの手口はかなり合法ですよ。

 流石に今回は貴女も手を焼く案件では?」

「なんでだよ。頼れば良いだろ、ミレニアムに」

 

 事も無げに、ミコトはそう言った。

 

「それじゃあミレニアムにおんぶに抱っこじゃない!!」

「所詮はお祭りだろうが。

 それにミレニアムの連中はそんなの気にしないぜ。あいつらは発明とか研究バカばかりだ。

 うちのゲヘナの生徒会やらトリニティの茶会どもとは違って面倒くさくないしな」

 

 憤るセリカに、ミコトは笑ってそう言った。

 本心から彼女はそう言っているのだ。

 

「なんで同盟組んでる学校同士で、たかが学園祭で一緒に盛り上がろうってのに尻込みしてんだ? ミレニアムの連中より陰キャか、お前ら。奥ゆかしいって奴なのか?」

「ですが、今回は列車砲のデモンストレーションが有ります。あの兵器の存在は否が応でも政治が生じるんですよ」

「じゃあその列車砲は、お前らだけで動かせんのかよ」

「それは……」

「何がおんぶに抱っこだ、アホか。最初からそいつの運用にミレニアムが関わってる時点で同じことだろ」

 

 アヤネはミコトなんかに正論を言われて俯いてしまった。

 このバカにとっては良くも悪くも、学校の垣根なんて無いのだ。

 

「次、ミレニアムでなんか祭りでもあった時に、お前らが手伝いに行きゃいい。そう言うもんなんじゃないのかよ」

「“私も、ミコトの意見に賛成かな……”」

 

 先生は小さく手を挙げてそう発言した。

 

「“物事を大きく捉えるのは大事だけど、君たちが楽しめる砂祭りが出来なければ意味が無いと思うんだ”」

 

 先生もキヴォトスの常識に囚われない、彼女達に子供らしく健全なお祭りをしてほしいと願っての言葉だった。

 

「ホシノ、パシリならこんなことじゃ躓かなかったぞ」

「……ユメ先輩だったら?」

「あいつなら、商工会の連中を説得できたはずだ。

 あの脳みそすっからかんの胸の贅肉しか取り柄の無い、あのパシリでもだ」

「それは言い過ぎ……でもないか」

 

 ホシノは遠い目になってそう言った。

 

「あいつはアホで俺より馬鹿だが、人を動かす力が有った。それはお前も知ってるはずだろ」

「……うん、そうだね」

「なんでそれをお前が真似ないんだよ。ふざけてんのか」

 

 ミコトにとって、この状況はホシノの怠慢にしか見えなかったのだ。

 なんで簡単に解決できる方法を選ばないのか、ミコトには理解できなかったのだ。

 

「おじさんをミコトと一緒にしないでほしいな、誰もがあんたみたいに簡単に物事を解決できるわけじゃないしさ」

「俺がここに居た時、いつ簡単に物事を解決したよ」

 

 ミコトは座っていた椅子から立ち上がった。

 

「俺は独りじゃ何もわかんねぇし、何もできなかった。

 だからできる奴にやってもらった。これはうちの生徒会のマコちゃんだってそうだ。トリニティの茶会どもも、ミレニアムのセミナー連中だってそうだ。

 いつからてめぇはそんなデカい学校のトップよりスゴクなったんだよ、舐めてんのか」

「それを簡単に選べる行動力が、誰にも備わってるわけじゃないって言ってるんだよッ」

「じゃあ生徒会長なんて辞めちまえ。決断力が無いならどんなところでもヘッドは張れねえだろうがよ」

「……おじさんが、何度もそれを考えなかったと思うの?」

 

 二人の言い合いを見る周りは、固唾を飲んでいた。

 ホシノ先輩、とノノミが痛ましそうに呟いた。

 

「なにがおじさんだテメェ。

 知ってっか? 男どもにとっちゃ、“おじさん”は別に蔑称じゃないんだとよ。逆に、女にとっては“おばさん”は蔑称なんだとよ。おもしれえよな。

 ならてめえはおじさんを自称して何を守りてぇんだ、耄碌チビババア」

「何も考えてないくせに、偉そうに講釈垂れないでよ。説教なんてガラじゃないくせにさ!!」

「お前がそんな体たらくじゃ俺が困んだよ!!」

 

 いよいよミコトはホシノの胸倉を掴んだ。

 

「俺はキヴォトス最強なんだよ。お前がそんなんじゃ、お前を倒した俺の格が下がんだ」

「いつもいつも……自分の都合ばかりッ」

「じゃあ辞めるって考えるのは自分の都合じゃねーのかよ」

「それは、あんたが言って良い言葉じゃないよねッ!?」

「じゃあ何なら言えるんだよ、言いたいことも言えねえのか?」

 

 ミコトはホシノから手を離した。

 

「それなら俺が代わりに言ってやろうか?」

「な、何をさ……」

「お前ら!! なんで昨日、こいつが風紀委員会のところに来るのが遅れたと思う?」

「や、止めろ!!」

「このチビ、貧相な身体してるくせに身売りしようとしやがったんだぜ!!」

「止めろって言ってるだろ!!」

 

 ホシノのその態度が、何よりも雄弁にミコトの発言の正しさを証明していた。

 

「ほ、ホシノ先輩、嘘ですよね?」

 

 ノノミが唖然とそう呟いた。

 

「なあ、こいつ昔なんて言ったと思う? 

 俺が大人ってのは騙すし、人生が滅茶苦茶になるまで搾り取るって言ったら、それが大人の汚いやり方だって分かってるって言ってたくせに、自分が犠牲になればカイザーに手を引かせるって契約を飲もうとしたんだぜ!!」

 

 とんだお笑い種だ、とミコトは吐き捨てた。

 

「他人を疑う前に、自分を疑ったらどうだ。チビ助。

 そう言うのはあのパシリみたいなのがやるから価値があんだろ?」

「あんたに、あんたに何が分かるって言うのさ、ミコトッ!!」

 

 ここに居る誰もが、聞いたことも無いホシノの怒声だった。

 

「表出ろや、現実を教えてやるよ」

「いいね。今日はあんたをとことんギタギタにしてやりたい気分だよ」

 

 こうして、誰も止めることが出来ないまま、二人を校庭へ出て行ってしまった。

 

「“ま、待って、喧嘩はダメだよ!!”」

 

 先生が我に返って、外に向かった。

 他の生徒会の面々も、外へと走り出す。

 

 

「……」

「……」

 

 校庭で、対峙する二人。

 かつての生徒会長と、今の生徒会長。

 

「本気で良いよな?」

「まさか手加減するつもりだったの?」

「まさか」

 

 ミコトはニヤリと笑った。

 

「一撃でも当てたらお前の勝ちにしてやるよ」

「笑えない冗談だよね」

「ホントだよ」

 

 そして、ミコトは言った。

 

「リミッター解除だ」

 

 その直後、彼女の制服の下に紫電が走る。

 幾何学的な文様が浮かび、稼働する。

 

「なに、それ……」

「正直、喧嘩でこれを持ち出すつもりは無かったんだけどよ。お前の目、覚まさせてやる」

 

 そして始まる、バトルパート。

 ホシノのみを強制編成で、バトルが始まる。

 

 一歩も動かず、攻撃もしないミコトに攻撃を加えるホシノ。

 しかしその攻撃の全てはミスで、ミコトのHPは少しも減らず、30秒の制限時間が終了し、リザルト画面へと移る。

 

 

「え、なに、あれ……何が起こってるの?」

 

 セリカが目を疑う。

 ミコトは一歩も動いていないのに、攻撃がまるで当たっていない。

 しかしそれはこの場に居る誰もが目撃した現実だった。

 

「……まるで手ごたえがない、いったい何なの、それ」

「スゲーだろ。俺が手に入れた科学のパワーって奴だ」

 

 ミコトは高価なオモチャを自慢するようにそう言った。

 

「俺は自分が納得できる最強であるために、トリニティの救護、ゲヘナの医療、そしてミレニアムの科学力を手にした。

 そして、他にも有名らしい司祭ってのが遺した文献から解析した技術やら、変人共の集まりから貰ったテキストってなんかスゲーアイテムのパワー……。あと百鬼夜行学園で忍術とかも学んだりしたな」

 

 つまりだ、とミコトは言う。

 

「お前の前に居るのは、俺だけじゃねえ。キヴォトスの全ての力がここに在んだよ」

「……」

「なのに、お前は独りだ。それが俺とお前の差、現実って奴だ」

 

 その時である、ミコトのスマホが鳴った。

 

「もしもし」

『ミコト、対デカグラマトン用超薄型パワードスーツの起動を確認したわ。

 でも対象らしき反応は見当たらないのだけど』

「ああ悪い、ちょっと喧嘩しててよ」

『喧嘩!? それを人間相手に使おうとしてるの!?』

「ちょっと見栄張っただけだよ。これで誰かを殴るわけ無いだろ」

『とにかく、こちらで使用を強制終了させるわ。下らないことに使わないで頂戴』

「ああ、悪かったよ」

 

 ミコトはスマホの通信を切った。

 すぐに彼女の纏っていた紫電が収まる。

 ゲームをプレイしているプレイヤーに最強格のキャラがこんなのを使わないといけない敵が今後出てくると匂わせつつ、話は戻る。

 

「俺は自分の最強を高めるために、手段は択ばねぇ。それが俺の“崇高(さいきょう)”だ。

 俺は二年前より格段に強くなった。先史文明を崩壊させた大魔王だろうが、変人たちの言う……えー、カラフル? *1 だろうが勝利してやる。俺はこの力をこの世界の為に使って、俺の最強を証明すんだ」

「……バカみたい、中学生の頃に卒業するでしょ、そう言うの」

「なに言ってんだ、お前」

 

 もう既に喧嘩の雰囲気ではない二人。

 そんな中、ミコトは言った。

 

「俺は、()()()()()()()()()になるんだよ。誰もが想像する強さを、誰もが一度は憧れる強さを!! 

 だが、この強さは俺一人のモノじゃねーんだ。学校も同じだろ」

 

 急に話のスケールが、小さくなった。

 

「ユメの奴にできて、なんでお前が出来ねーんだ。

 昔はエリートだったんだろ。勝手にくたびれてんじゃねーぞ」

 

 ミコトは言いたいことを言い終えると、校門の方へと歩いて行った。

 

「……喧嘩、しないの?」

「腑抜けたお前と喧嘩しても、つまんねーんだよ」

 

 じゃあな、と言ってミコトは去って行った。

 

「……あーあ、ついにミコトにまで相手にされなくなっちゃったか」

 

 ホシノは青空を見上げて、そうぼやいた。

 

 

 

 

「いいの? 喧嘩しなくて」

 

 謎のシルエットの生徒が、ミコトに話しかける。

 

「いいんだよ。俺がどんな喧嘩をしたいかは俺が決めんだ」

 

 校門の外に停められていたバイクに跨るミコト。

 ホシノは言うなれば、高級食材だ。

 風紀委員会を相手にしたように、雑多な闇鍋に投じる具材とはわけが違う。

 そんな相手なら、食べ方もこだわるというものだ。

 

「それより、本命はこっちみたいよ」

 

 謎の生徒が、スマホで撮った写真を見せる。

 

「ったく、プレジデントの奴も食えねえな。

 とりあえず、様子見で良いよな?」

「今のところ、そうするほかないわね」

 

 行動方針が決まると、二人はバイクに跨ってアビドス高校を去るのだった。

 

 

 

 

 06:それぞれの物語

 

 ホシノが何も言わないことに、気を遣うアビドス生徒会の四人。

 彼女から話してくれるのを待とう、というノノミの意見に賛成したのだ。

 

 しかし、時間は待ってくれはしない。

 シロコは開催委員長として、なにか使えるモノはないかと倉庫を漁っていると古い砂祭りのポスターを発見した。

 

 それを生徒会室に持っていくと、百年以上続く伝統あるお祭りなんですね、とアヤネは気が引き締まる思いだった。

 逆に言えば、それ以上前からアビドスは砂に埋もれたとも言える。

 必ず成功させよう、と意気込む面々だった。

 

 

 

 07:信じる決意

 

 

 ホシノは放課後、誰も居なくなった生徒会室で去年の砂祭りを思い返していた。

 本当に小さな、商店街のお祭りレベルの小さな催しだった。

 それでもみんなは楽しみにしていた。生徒も、住民たちも。

 

 何十年振りの開催に、皆は喜んだのだ。

 かつてはユエが言ったように、お祭りは心の支えであり、誇りなのだ。

 

 なぜこうなったのか、ホシノは思いに耽る。

 テーブルを見れば、かつての砂祭りのポスターが置かれていた。

 

 それを見て、ふとホシノは生徒会長の執務机の引き出しを開けた。

 その奥に、楽しいバナナとり、と書かれたどこにでも売っている学習帳が目に入った。

 

 それは、先代会長のユメの残したメモ帳だった。

 ホシノはそれを一枚ずつ捲り、当時の思い出を振り返る。

 

 二人でバカなことをしていた思い出、ミコト達がやってきてドタバタの毎日、その後の学校の立て直しの日々。

 ユメの卒業の日を境に、その更新は途絶えていた。

 

 ミコトが心残りだと言った砂祭りについての記述を、ホシノは読み返す。

 

『他の学校もいっぱい参加するような大きな砂祭りを取り戻したい』

『ミコトちゃん達を呼んで、びっくりさせたいな』

 

 ホシノはテーブルの古いポスターを見た。

 25校参加、という今では想像できない規模の砂祭りの賑わいを夢想する。

 それをこれから開催する砂祭りに重ね合わせる。

 だが、そこにはユメは居なかった。

 

「……今更になって、すみません。ユメ先輩。

 ユメ先輩の想いを、私が引き継ぎます……」

 

 彼女は決意を胸に、そして本来なら手にする筈の無かった王冠を手に、今ようやく本当の戴冠は為されたのだった。

 

 

 

 08:真なる始動

 

 

「ねえ皆、生徒会長としてお話があります」

 

 その日、生徒会室に集まったみんなと先生は、いつものホシノと違うとその言葉だけで悟った。

 

「ミレニアムにもお祭りに参加して貰おうよ。

 列車砲の技術的な話じゃなくて、何か屋台とか出し物とかさ」

「あ、それ良いですね!!」

 

 ノノミが笑顔でそう言った。

 

「どうせだから、ゲヘナも巻き込もう。風紀委員会には借りもあるし」

「それならトリニティにも依頼してみませんか? 

 利用するわけじゃありませんけど、ヒフミさんがティーパーティーに顔が利くみたいですし」

 

 シロコとアヤネが、そう意見を出した。

 

「うん、良いね!! 面白そう、折角だからみんな巻き込んじゃおうか!!」

「ちょ、ちょっと待って、皆!! そう簡単に上手くいくと思うの!?」

 

 セリカが慌ててそう言った。

 一人くらいは反対意見が無いと、論議は発生しないので必要なことだ。

 

「じゃあ、今から頼みに行こうか」

「え?」

「先代のユメ先輩も、先々代のミコトも、そうやって足で稼いでたんだよ。

 お願いをするんだから、直接行かないと」

 

 ホシノはラックに掛かっている愛銃と荷物を手に取った。

 

「“私も協力するよ”」

 

 先生も、彼女達に助力するならここだと思い、そう力強く言った。

 

「じゃあ全員で頼みに行きましょうか!!」

「ん、当たって砕けろ」

「砕けるのは、勘弁ですね」

 

 テンションの高いノノミ、グッとガッツポーズするシロコ、苦笑するアヤネ。

 そんな彼女達を見て、仕方なそうについて行くセリカ。

 

 彼女達は、流れが変わったのを肌で感じていた。

 

 

 

 セミナーに話を通すのは簡単だった。

 元々アビドスとは同盟関係であったし、シャーレの部員には丁度いいことに、先生の彼女面してるセミナー会計が居たからである。

 

「わかりました、こちらから掲示板や広報部に出し物をしたい部活や個人を募集しておきますね」

 

 ミレニアムにアポなしで出向いたのに、イヤな顔せずユウカは対応してくれた。

 

「“ありがとう、ユウカ”」

「いえいえ、これくらいはどうってことありませんよ。

 我々ミレニアムとアビドス高校の仲じゃありませんか」

 

 アビドスの面々はあまりミレニアムに足を運んだことはないが、向こうとの友誼は思った以上であった。

 

「それより、列車砲の件で揉めていると聞きました」

「いやぁ、生徒会長として情けないけど、そうなんだよねぇ」

「なら、こちらから資料を提出します。住民に説明が必要でしたら、人員を手配しますが」

「え、そこまでしてくれるの?」

「私の権限ではこの程度しかできないことが申し訳ないくらいですよ。

 あの列車砲から還元された技術の価値は値千金では足りません」

 

 見てください、とユウカは机の引き出しから資料を取り出した。

 

「こちらのプラズマ式超高出力発電機なんて、実用化が成されれば既存の発電機とは比べ物にならない出力を発揮する筈です。一種のブレイクスルーですよ。巨大な船舶に搭載すれば航行速度が格段に向上し、世界は縮まるのです!! 輸送技術の革命ですよ」

「大量輸送は文明発展の礎ですもんね☆」

 

 実家が鉄道輸送を担っているノノミは深くユウカに共感して頷いた。

 

「二年前までは空想科学一歩手前だったあの列車砲に、今は現実が追いつこうとしている。

 我々セミナーはそのきっかけをくれたと考えています」

「“ユウカは、知ってるんだよね。アレがその、ゲヘナの……”」

「ええ、まあ。これでもセミナーでの地位は高い方なので」

 

 高い方、というのは謙遜で、会計の彼女は財布を握ってるのと同じなので、実質的にナンバー2であろう。

 

「アレで砂嵐に立ち向かおうとしているんですよね? 

 常識では考えられない発想です。ですが、正しい科学の使い道だと思いますよ。

 我々の発信した技術が、いったいどれだけ悪用されていると思いますか?」

「それは、残念だよね」

 

 シロコもユウカの憂いが理解できた。

 セミナーの本棟に来るまでの道中でも、ここの生徒達が心から科学を楽しんでいるのが分かるからだ。

 

「ええ、だからこそ、正しいことにどんどん使われるべきなんです」

 

 ユウカはそう言って、話を締めくくった。

 

 ミレニアムはこれで話が付いた。

 

 

 

 ゲヘナ学園には、風紀委員会から万魔殿に取り次いでもらうルートに行こうとしたのだが。

 

 嫌がらせか何かか、先生と生徒達は引き離された。

 そして巻き起こる、先生とイオリの珍事を生徒達は知る由もなかった。

 

「そもそも、ゲヘナ学園で生徒会の了解を取ろうなんて、的外れですよ」

 

 全身包帯でぐるぐる巻きのアコが、片手で反省文を書きながらそう言った。

 

「どういうことでしょう?」

「政治的要素の無いただのお祭りの出し物なら、やりたい生徒が勝手にやる。それが我が校なのです。

 あなた達だってあの身勝手の極みを知っているでしょう?」

「ま、まさか、ミコト先輩がうちで生徒会長をしていたのも勝手だったってことですか……?」

「あの人が我々に了解を取るなんて、殊勝なわけ無いでしょう」

 

 これにはアヤネも引きつった笑いを浮かべる他なかった。

 

「なんだ、じゃあ先生が委員長ちゃんにアポを取ろうとしたのは無駄だったんだ」

「まあ、風紀委員会は校内でそれなりに影響力はありますし、まったく無駄ということはありませんけど」

「じゃあ、風紀委員会も当日に来たらいいよ。

 折角のお祭りだし、派手な花火もあるからさ」

「……」

 

 包帯の隙間から、アコはしばしホシノを見やった。

 

「……出し物でしたら、美食研究会のハルナさんに話を通しておきましょう。

 彼女もミコトさんに叩きのめされてから会社経営などを始めて、複数の料理学校に影響力があると聞きます」

「あ、そうなんですか、助かります!!」

「いいえ、これで借りは返しましたと言うことで」

 

 アコは包帯に隠れた口元をにっこりとさせ、ノノミにそう返した。

 

 

 

 流石にトリニティは当日のアポ無しじゃ無理だろう、と全員が思っていたのだが。

 六人は貴賓室に通されていた。

 

「ヒフミ、どんな伝え方をしたんだろう」

「さあね……」

 

 シロコとセリカが座り心地の良すぎるソファーや調度品に囲まれ、そわそわしていると。

 

「ようこそ、アビドス高校の皆様」

「こ、こんにちは、皆さん」

 

 ノックの後、二人の生徒が貴賓室に入ってきた。一人はヒフミで、もう一人が。

 

「私が我がトリニティ総合学園の生徒会、ティーパーティーのホストを務める桐藤ナギサです」

 

 まさかトップの中のトップが現れるとは思わず、面を喰らう面々だった。

 

「いやぁ、いきなりそちらの生徒会長が来るなんて、ビックリだなぁ」

「そちらも生徒会長が直々にいらしたのですから、こちらもそれ相応の対応を致しますとも」

 

 ヒトの良さそうな微笑み、しかしその視線は細くホシノを見据える。

 

「あの、アビドス高校からの直接、となれば猶更です」

「あー……うちのミコトが迷惑をお掛けしてます」

「ええ、あなた方の一挙手一投足に、あの悪夢の意思が反映されていないか、我々は注目しなければならないのです」

 

 つい最近も貴校にいらしたようですし、とナギサは言った。

 ホシノも慣れない敬語で、ぽりぽりと頬を掻く。

 

「“初めまして。今回は、お祭りの誘いに来たんだよ”」

「ああ、貴方がシャーレの先生ですね。

 お話はそちらのヒフミさんから伺っております。我が校の生徒がご迷惑をお掛けしたようで」

 

 ナギサが頭を下げるので、ヒフミは居心地が悪そうだった。

 

「列車砲の実演と言う政治的な要素の強いパフォーマンスを為さるそうですね」

「あまりそう言うのは気にしないで欲しいんだけどねぇ」

「いえ、何事にも口実は必要です。

 我が校はそれの牽制の為に貴校のお祭りに参加する、そう言った判断材料があるとこちらもスムーズに議会で話が通りやすくなるのです」

「ミコト先輩の言う通り、めんどくさい」

 

 ホシノとナギサのやり取りを見て、シロコが毒づいた。

 

「これでも大分風通しは良くなったのです。

 聞いておられるかもしれませんが、あのミコトさんは二年前、思い立った次の日にはトリニティに襲撃を掛けたそうです。

 生徒会室に押し入り、当時の私の先代が対応する羽目になったとか」

「あ、相変わらず無茶苦茶すぎる……」

 

 自分の先輩が三大学校にカチコミを掛けた事実に、セリカは頬を引きつらせた。

 

「とにかく、御自分達の影響力をご理解下さい。ええ。こちらも会議を抜けてきましたので」

「あー、うん、忙しいところをありがとう?」

「あ、皆さん良ければ紅茶をどうぞ」

 

 その時、紅茶を入れていたヒフミがティーカップを各自に配った。

 

「ふう、ヒフミさんの入れる紅茶は格別ですね」

「きょ、恐縮です」

「さて出し物でしたか。紅茶とロールケーキなど如何でしょうか?」

「あ、いいですね!! こちらの紅茶も美味しいですし。茶葉は百鬼夜行のモノですか?」

「おや、お分かりになりますか?」

「ええ。あちらで有名な緑茶のお店が、ごく少数に向けて生産している紅茶だと思いますが──」

 

 なぜか急に紅茶の話で盛り上がるナギサとノノミだった。

 

「お、お嬢様の会話だわ……」

「ええ、香りも素晴らしいですし、凄く美味しいのはわかりますけど……」

 

 庶民のセリカとアヤネにはついて行けない話だった。

 

「では、こちらから出店を希望する生徒を募集しておきましょう」

「いやぁ、ありがとうねぇ」

「あと、こちらは差し出がましいようですが、御助言を」

 

 ホシノに、ナギサはこう言った。

 

「地元よりも、まず周辺自治区に話を通すのが肝要かと。それでは、私はこれにて」

 

 ナギサはソファーから立ち上がり、カーテシーをしてから優雅に貴賓室から立ち去った。

 

「いやぁ、流石三大学校のトップ。おじさん、敵わないなぁ」

「いえ、ナギサ様があんなに上機嫌なのは久しぶりですよ」

 

 一行はヒフミに案内され、校内から出る。

 

「私もお祭り、楽しみにしていますので、絶対に行きますから!!」

「うん、楽しみにしてて!!」

 

 セリカを始めとしたアビドス高校の面々が、正門から戻っていくヒフミに手を振り見送った。

 

 

「周辺自治区、かぁ」

 

 帰りの電車の中で、ホシノはナギサの助言を思い出していた。

 

「確か、商工会の皆さんも周辺自治区の動向を気にしていましたね……」

「まああんな列車砲が自分の自治区の隣に有ったら、そちらに撃ちませんなんて言われても信じられないわよね」

「そうですね、私達も配慮が足りませんでした……」

 

 ノノミも、セリカも、アヤネもどこか悔いるようにそう言った。

 

「私達、自分達のことしか考えてなかったんだね」

「まあ政治って奴だよね」

 

 割と名ばかりだが開催委員長を拝命しているシロコもしょんぼりしているので、ホシノは軽く笑って言った。

 

「……明日、改めて皆に話したいことがあるんだ」

「……はい」

「ホシノ先輩の話したいタイミングでいいですから」

 

 ふと漏らしたホシノの言葉に、ノノミとアヤネは優しく受け止めた。

 それ以上の言葉は必要無かった。

 

 今日は一日中歩いて回った五人は、疲れていつの間にか眠ってしまった。

 先生は、そんな彼女達を見守るように、優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
「モモイ並みの語彙力ね」byユエ




ホシノとのガチバトルは二年生編でやるので、期待していた皆さまにおかれましては悪しからず。
あそこでホシノと喧嘩して勝っても、それはただの俺ツエ―に過ぎないので。
暴力は適切に使用してこそ、って奴ですね。やっぱりブルアカ本編を始めてから低評価が増えた印象なので、安易な展開にはしたくないのです。

そして、自動伏線バラまき機と化したミコト。
彼女の台詞の回収される日を、どうかお待ちください。

それではまた次回!!
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