ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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第一次トリニティ学園カチコミ騒動 後半

 

 

 

「先生、最強って何だと思う?」

 

 仕事中の先生に、ミコトは問う。

 

「“うーん、かっこいいことかな?”」

「正解だ」

 

 正解なんだ、と先生は呟いた。

 

「俺は、俺の強さに納得したいんだ。

 例えば俺が目の前の生徒を消し去るボタンを手に入れたとして、それを使って強い奴全員消して、それは本当に最強なのか?」

「“私は、ちょっと怖いかな”」

「そうだ。そんなのはただ恐ろしいだけの奴だ」

 

 テーブルに足を乗せて、背を地面に付けぬまま腹筋を繰り返すミコトは言った。

 

「心技体って言葉があるだろ?

 健全な肉体に健全な魂が宿るでもいい。

 俺は自分の強さに、心や体の強さも拘った。

 不良だからって、勉強がどうのこうので誰にも文句は言わせねぇ。

 毎日ちゃんと朝のHRに教室に出席してるし、卒業までの単位は全部取得済みだ」

 

 ゲヘナの校風は自由と混沌。

 つまり、単位を取る為の試験をパスできれば、毎日授業に出席する必要はない。

 そう言う生徒は多いし、ゲヘナ学園に進学する最大の理由の一つとして挙げる生徒も多い。

 ミコトもまた、その一人だった。

 

「てかよ、先生。前々から思ってたんだけどよ。

 キヴォトスの授業ってのは、弱者を切り捨てる勉強方法なんだよ」

 

 なぜキヴォトスそのものが不良天国なのか。

 それはこの世界の教育方法が、効率を重視しているからだ。

 

「毎日学校が定めたカリキュラムに従って、BDでテレビに馬鹿みたいに向かって学習する。

 先生は真面目な学校の授業風景を廊下から見たことあるか? 気味わりぃって俺は思った」

「“……うん、そうかもね”」

 

 先生にとって、それは教育者として耳が痛い話だった。

 

「一度でも勉強の進みに躓けば、それは他人に教わるしかない。

 それが出来ない生徒は転がるようにドロップアウトするしかない。

 そのうち、学籍と一緒に人権もポイする羽目になる。

 学籍の無い人間は、キヴォトスじゃ居ないのと同じだ」

 

 それがキヴォトスの、生徒達の現実だった。

 友人が居ない生徒、塾に通えない生徒、勉強について行けない生徒にとても冷たい。

 

「“最強”ってのは物理的な強さだけじゃねぇ。

 誰もが憧れる偶像なんだよ。俺は、俺の背に続く者を作りたかった。

 そうすりゃ、幾らでも強い奴と喧嘩できる!!

 ……そう思ってた」

 

 彼女が得たのは、結局は孤高の道だった。

 誰もが、彼女のストイックさを理解しなかった。

 

 全ての弱さを切り捨てて、強さを追求する。

 弱者を切り捨てていたのは、彼女も同じだった。

 

「俺が至った“最強”は、諦めだった」

 

 ミコトは腹筋を切り上げると、荷物から何かを取り出した。

 それは、酒瓶だ。

 

「もう俺がこれをヴァルキューレの前で飲んでも、誰も何も言わないし、誰も俺を裁けない」

 

 不良も、政府も、大人たちも、学校も、全部勝った。

 まさに法の外(アウトロー)。彼女は法を超えた個人となった。

 

 しかし、先生は仕事机から立ち上がると、ミコトに近づいてひょいと酒瓶を取り上げた。

 

「“未成年がお酒なんて飲んじゃダメだよ、没収だからね”」

「くくくッ、安心しろよ。そいつはフウカへの土産だよ。料理酒代わりにな」

 

 酒なんてドラッグを飲むか、とミコトは笑う。

 キヴォトスではそれはもう、本当に徹底的に酒類やタバコを生徒が所持するのは規制されている。

 それこそ、塩分を高くして飲料用でさえない料理酒さえ、生徒には手が届かない。

 

「そろそろ武勇伝の続きを話してやるよ。

 生徒会の政権がマコちゃんを頂点にしたものになってすぐだった」

 

 

 

 

 

「ミコトさん、そういや明日、百鬼夜行で桜花祭っすよ」

 

 ふと、一緒につるんでた元レジスタンスの奴が言ったんだ。

 あれを言ったのは誰だっけな。

 

「お、いいねぇ、偶には他所の学校に繰り出すか」

 

 とにかくそう言うことになった。

 

 そんで次の日に、百鬼夜行の祭りを練り歩いた。

 俺はこれでもバイト(意味深)で羽振りはいいからよ。全員に奢ってやった。

 いざという時は兵隊になってもらうしな。それぐらい安いもんだ。

 

 そうして大勢で祭りを楽しんでると、こんな声が聞こえた。

 

「ねえあれ、見て。ゲヘナの生徒よ」

「本当だわ。全く噂通り品の無い人たちですわね」

 

 それはトリニティの生徒だった。

 俺らと同じく祭りに来てたんだろう。

 

「ミコトさん、あいつら〆ますか?」

「止めとけ」

 

 気分を害したダチの一人がそう言ったのを、俺は止めた。

 

「トリニティは後で〆る。あんな口、二度と叩かせねぇよ」

「流石ミコトさんっすね!!」

 

 そいつは俺の言葉が本気だなんて、そんなこと思いもしない顔をしてたよ。

 

 でも、俺は思った。

 トリニティとゲヘナは同格だろ?

 向こうの不良なんて見たことねぇし、どうやって抗争とかしてんのかって。

 

 だから祭りの次の日にトリニティの自治区に偵察に向かったんだ。

 俺はこう見えて伝統とか大事にする人間でよ。

 トリニティの自治区は初めてだったんだが、今度観光でもしようかって思ったぐらいにはキレーな街並みには感銘を受けたね。

 

 ゲヘナの自治区なんて大半がスラムみたいなもんだからな。

 生徒以外の大人たちが生活してる一部の区画以外、まともな店や建築物なんてないからな。

 

 途中で何人かの正義実現委員会に捕まったけどよ、はいはいうんうん帰りますって適当こいてやり過ごしながら、トリニティ本校の正門まで行ったんだよ。

 

 そこで初めてハスミの奴に出会ったんだ。

 あいつ、今じゃ丸焼きにしたら旨そうなチキンになっちまったが、その時は鶏がらみたいにヒョロガリでよ。

 名前を聞くまでヒョロガリって呼んでたんだ。

 

 そんで、色々と話した。

 なんでトリニティとゲヘナは長年いがみ合ってるのに抗争にならねぇのか。

 

 それは簡単な事だった。

 トリニティが俺らを相手にしてないんだ、とな。

 

 連中が言うには、品位が足りないから喧嘩の相手にはならねえってことだった。

 そりゃ当然だ。ボクシングでもいきなり新人がチャンピオンに挑戦出来はしねぇ。

 

 下剋上も良いもんだが、ゲヘナとトリニティは元々同格だろ?

 精神で同じ立ち位置に行く必要があった。

 

 俺はゲヘナに戻ると、生徒達に呼びかけた。

 

「おいお前ら、校舎の掃除をすんぞ」

 

 皆、えッ、みたいな顔をしてたな。

 掃除なんて風紀委員が捕まえてきた校則違反者が奉仕活動でやるような、そんな仕事だからよ。

 

「今日は一日、全校生徒で校舎の掃除するっつってんだよ。

 終わんねーと帰さねぇぞ」

 

 当然、半分以上が逃げた。ボコボコにした。

 

 掃除の途中で風紀委員が来たり、マコちゃんが文句言いに来たが、ひっぱたいて手伝わせた。

 その日は風紀委員も万魔殿の兵隊も一緒になって大掃除だ。

 

 おかげで掃除は一日で終わったよ。

 なんだやればできるじゃねえかって、俺は清々しい気持ちになったね。

 それから月に一度は全校生徒で校舎の大掃除をすることになったんだわ。バックレた奴は後でぶっ飛ばすがよ。

 

 これでハスミが言う品位が上がったはずだ。

 でも俺は心配になった。もっと品位が必要じゃねえのかって。

 

「なあ、うちの学校にお嬢様っているのか?」

「なに言ってんすかミコトさん。

 うちみたいな名前書けば入学できるような学校に、お嬢様なんて居るわけないじゃないっすか」

 

 俺の質問に、ダチ達はそんな反応を示した。

 それもそうかと俺も納得しかけたところ。

 

「いや、ミコトさん。うちの学校は歴史だけは長いっすから、意外と居るんすよ、お嬢様。

 親や実家が代々ゲヘナ出身とかで」

「マジかよ、そいつから品位を上げる方法を教えて貰おうぜ」

 

 そう言うことになった。

 んで、舎弟どもにお嬢様を探させたんだわ。

 

 そしたら、地下牢にお嬢様が居るって言うんだよ。

 俺は早速会いに行った。

 

「お前がお嬢様か?」

「誰でしょうか?」

 

 そいつがハルナだった。

 先生も知ってるだろ、美食研究会のハルナだよ。

 あいつ、由緒正しいゲヘナのお嬢様って奴なんだよな。

 

「なあ、お前がお嬢様か?」

「そう呼ぶ人も居ますが、自分で名乗ったことはありませんわね」

 

 なるほど、これが知性や品格って奴かって俺は思ったね。

 

「なんでお前、牢屋に居るんだ?」

「実はわたくし、給食部に配属されたのですが」

 

 雷帝時代、部活の選択の自由は無かった。

 適正に応じて、部活に配属される。そんな状態だった。

 

「機材や食材に拘ろうとしたところ、生徒会からもっとコストを安くしろだの、古い機材のままでやれだの。

 食に対する姿勢がなっていないので、()()()()()あげましたところ、こうして虜囚の身となっている次第です」

 

 ああ、ハルナらしいって?

 俺もそう思う。

 と言うかこいつ、政権が変わったことに気づいていなかったんだよ。

 俺がそれを教えてやると、驚いた顔をしてた。

 

「ほとぼりが冷めてから脱獄をしようかと思いましたけど、なるほど。あの暴君は倒れましたか」

「俺さあ、トリニティにカチこみしようとしてんだ。

 でも品位ってのが足りないと相手にしてくんねぇんだわ。品位を上げる方法を教えてくれねぇか?」

「構いませんわ。よろしいですわよ」

 

 俺達はハルナの指導によって、品位が上がった!!

 いや、ゲームのレベルアップじゃないって?

 

 でも人選は正しかったぜ。

 テーブルマナーとか、紅茶の淹れ方とか、旬の食べ物についてとか、ああ知ってるか先生、ちゃんとしたところじゃ食べ物にも食べる順番とかあるんだぜ?

 

 これで俺達もトリニティみたいなお嬢様になったわけだ。

 つまり、これで俺とあいつらは対等ってわけだ!!

 

 俺は意気揚々と宣戦布告を叩きつけたってわけだ!!

 

 よくわからねえが、学校間には政治ってのがあるんだろ?

 つーことで、俺はマコちゃんを誘ったわけよ。

 

「おいマコト、トリニティ〆んぞ」

「……」

 

 生徒会室に乗り込んでマコちゃんにそう言うと、あいつはポカンとした顔をしやがった。

 

「まず、マコト先輩だ。な?」

「おう、マコトパイセン。トリニティに宣戦布告してきたぜ。これからトリニティのアタマを取りに行くぜ!!」

「アホかお前!!」

 

 マコちゃんが椅子から立ち上がって叫んだ。

 

「なぜそんなことをした!!」

「なぜ? そんなの、ゲヘナがキヴォトスでテッペンの学校だって知らしめん為だろうが」

「やるにしても、もっと準備とかな!!」

「必要ねえよ」

「なに!?」

「俺が居る。立ちはだかる全員を倒す」

 

 俺は自信満々に答えたぜ。

 

「品位も、武力もある。あとは政治力ってのが必要だろ?

 だからマコトパイセンも付いて来い」

「いやだから、おいバカ私を巻き込むな、ツノを掴むな!! そこには神経が通ってるんだぞ!!」

 

 マコちゃんを引っ張り、校庭に出ると今回のカチコミに参加するメンバーが単車に乗って待ち構えていた。

 

「ミコトさん、準備できてます!!」

「何か一言お願いします!!」

「おう」

 

 俺は単車のエンジン音が鳴る中で、こう言った。

 

「今日でゲヘナとトリニティとの因縁を終わらせんぞ!!

 どの学校がテッペンか、教えてやんぞ!!」

「止めろ、私を巻き込むな!!」

「遠慮すんな、前みたいに一緒にテッペン取ろうぜ!!」

 

 俺は単車に乗って、マコちゃんとニケツしてトリニティの自治区に向かったんだが。

 

 商店街の前くらいに、バリケードがあったんだよ。

 そこに正義実現委員会が待ち受けてたんだ。

 俺達は下車して、挨拶をしたんだ。

 

「よう、ヒョロガリ!!

 俺らを相手すんのに、二桁ぐらい足りないんじゃねーのか?」

 

 俺はちょっと落胆した。

 連中は三十人も居なかったんだ。

 

「まさか、本当に殴り込みにくるなんて……」

「昨日そう言ったじゃねーか」

「本気でそんなことするとは思わないじゃないですか!!」

 

 だが、ハスミはちゃんと準備していた。

 たった三十人でも、人数を用意してたんだ。俺は嬉しかったよ。

 

「先輩達にもちゃんと報告しました、だけど誰も真に受けなかった!!」

「そりゃあそいつらの責任だろ。お前はちゃんと報告したんだからな」

「……だから、私が同じ一年の仲間に呼びかけて、こうして待ち受けていました」

 

 正直、それで三十人も用意できるんだから、大したもんだと思うぜ。

 

「無理もない、何十年も小競り合いしか我々はしてこなかった。

 歴代の万魔殿も、あっちの茶会どもも、失うものが多すぎて全面戦争なんて出来ないと思っていた……」

「それが政治って奴か? マコトパイセン」

「ああそうだとも!! お前のようなバカを、想定していなかった先輩方の落ち度だ!!」

 

 マコちゃんは丸ごと責任転嫁しやがった。

 やっぱりマコちゃんは政治家に向いてるよな。

 

「聞いたかお前達、トリニティのマヌケどもは油断してる!!

 部隊の集結には時間が掛かる。この人数でもトリニティを落とせる!! 我々は勝てるぞ!!」

 

 そして切り替えの早さも、流石だった。

 すぐさまお得意の演説で、俺達を鼓舞したんだよ。

 俺らはバカだからそれで士気は上がるんだ。

 

「んじゃ、やろうぜ」

「今なら引き返せます、帰りなさい!!」

「ビビってんのか、ああん!! イモ引いてんじゃねえぞヒョロガリ!!」

 

「もういいだろう、ハスミ」

 

 すると、バリケードをひょいと乗り越えて、一人のトリニティ生が前に出てきた。

 

「援護してくれ。荒事は任せろ」

 

 そいつが、当時の剣先ツルギだよ。

 相対しただけで痺れたね。こいつは強いし、これからもっと強くなるって。

 

「期待していますよ、正義実現委員会の新たなホープ!!」

 

 そんでハスミの銃声が、戦いの火ぶたを切ったんだ。

 

 

 ツルギは、マジで強かった。

 両手両足の骨を折っても立ち向かって来たんだ。

 あんなに気合入った奴初めてだったぜ。

 

 ヘイローを壊すってのはシャバい奴のすることだからそこまでは俺もしないけどよ、それが頭に過るぐらいの強敵だったんだよ。

 こいつは、殺さないと止まらない、ってな。

 

 俺も何十発もボコボコ撃たれて、殴られ蹴られたよ。

 まさに俺の望んだ死闘だった!! 本当に楽しかったぜ!!

 

 ただ、そうしてタイマンしてると、周囲も決着がついてた。

 うちのメンバーは雷帝戦にも参加した決戦メンバーだし、奴との戦いまで俺が鍛えた精鋭だった。

 まあ、勝って当然だ。

 

 マコちゃん? 早々に地面で呻いていたな。

 

 正直、半分くらいトリニティにカチこむこと忘れるくらい、ツルギとやり合ってたんだわ。

 

「きひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

「ぎゃはははははははははッ!!」

 

 そうだよ、強敵だよ!!

 強敵を下してこそ、最強に意味がある!!

 スライムだけ倒してレベル100になった勇者に何の意味がある?

 そんな奴を勇者とは言わねえだろ?

 

 ……だけど、あいつが両手両足が使えなくなって、噛みついてまで向かってきた時は正直気圧されかけた。

 

 その時だった。

 

「もうやめてください、ツルギ!! 死んでしまいます!!」

 

 俺のダチ達に制圧されたハスミが叫んだんだ。

 

「私達はもう十分戦いました!! あとは先輩達に任せましょう!! これだけの騒動になれば、流石に向こうも気づいている筈です!!」

 

 すると、俺の腕に噛みついていたツルギの力が抜けた。

 

「よく戦ったよアンタ、尊敬するぜ」

 

 俺は気を失ったそいつを抱き留め、地面に寝かせた。

 この戦いで俺は学びを得た。

 

 次戦う時はツルギ相手でも、もっと楽に制圧できる方法がある筈だと!!

 俺にはまだ伸びしろがあるってな!!

 

 ……ん? なんだ先生。お説教? やり過ぎだって?

 勘弁してくれよ、もうあんな無様な決着は俺が赦さねえって。

 

「ミコトッ、生徒会室だ、ティーパーティーの生徒会室を落とせ……それで我々の勝ちだ」

 

 地面で呻いているマコちゃんが言った。

 

「おう、任せろ。動ける奴は着いて来い!!」

 

 俺はツルギに夢中だったが、俺らの精鋭も半分ぐらいに減ってた。

 ハスミ達も一年なのに最後の一人まで戦ってたんだよ。すげえよな。

 

 そんで、俺らはトリニティの正門に辿り着いた。

 そしたら連中、どうしてたと思う?

 

 右往左往してたんだ。

 多分、情報が錯綜してたんだろう。

 まさか俺らが二十人程度でカチこみに来たなんて思ってなかったんだろうな。

 ゲヘナとの境界を固めろだの、増援を送れだの、そんな指示が聞こえたよ。

 マコちゃんの言う通り、平和ボケしてたんだろうな。

 

「トリニティの皆さん、ごめんあそばせ!!

 すぐそこで温かな歓迎をして頂き、心より感謝申し上げます。

 皆様と喧嘩をご一緒させて貰えることを、とても喜ばしく思ってます!!」

「思ってマース」

「思ってますぜ!!」

 

 俺は丁寧で品のある挨拶で、正門を突破した。

 

「ゲヘナよ!! ゲヘナが攻めて来たわ!!」

「落ち着いて、落ち着いてください!! 皆さん大聖堂に避難を!!」

 

 校内は既にパニック状態だった。

 シスターさん達が避難誘導をしてたが、焼け石に水だった。

 

「邪魔だお前ら!!」

「待て、戦う意思の無い奴は撃つんじゃねえ」

 

 弾の無駄だ、と俺はダチ達を諫めた。

 

「生徒会室ってどこっすかね?」

「一番デカい所に決まってるだろ!!」

「ちげえねえ!!」

 

 俺達はパニックに陥った群衆を押しのけ、進んだ。

 そのパニックのお陰で、俺達は簡単に本校舎に辿り着いたんだ。

 

 すぐに出迎えはあった。

 

「くそッ、まさかゲヘナの連中に本校舎にまで踏み入られるとは!!」

「ってことは、ここに生徒会室が有るんだな? 教えてくれてサンキュー」

 

 そいつらが正義実現委員会や一般生徒とは違う制服なのはすぐに気づいた。

 

「狙いは生徒会長か。ならばこの私を倒してからいけ」

「なに?」

「私は現パテル分派の生徒会長にして、正義実現委員会の長。

 我が祖先はまだトリニティがひとつになる前より、最前線でゲヘナと戦っていた武門の生まれ!!

 我が武闘派揃いのパテル分派は、こうして校内が戦場になった時に矢面に立つ最終防衛ラインを担うと決まっている」

 

 長々とした口上だったが、要するにこいつを倒せば勝ちだってのは分かった。

 こいつは総長。皆がそう呼んでた。名前は……えーと、最近会ってねぇから忘れちまった。

 名前覚えるの苦手なんだよ。

 

 うん? ああ、そうそう、この頃はトリニティの三羽ガラスどもは他の役職も兼任してたんだってよ。

 政治的な権力を高めるだとかなんだとか。

 今のティーパーティーのアタマを見てると勘違いするかもだが、元々あいつらの派閥って仲悪いんだよ。

 

「ゲヘナの悪鬼どもよ、いざ尋常に勝負!!」

「ああ、望むところだ!!」

 

 こう言うの武人肌っつうのか?

 まあ堅苦しい奴だったよ。意外と抜けてて面白い奴だったけど。

 

 ただ、俺はツルギみたいな奴を想像していて拍子抜けした。

 だってツルギは一年だぜ? あれ以上の猛者がうじゃうじゃいるもんだと思ってたんだよ。

 

 そこそこ歯ごたえが有ったが、所詮は政治屋だったな。

 俺の敵じゃなかった。尤も、俺のツレも全滅しちまったが。

 

「無念……」

「あんた、もったいねぇよ。鍛え直したらまたやろうぜ」

 

 総長は倒れた。

 もう本校舎を守る者は誰も居なかった。

 

 と、思ったらよ。

 

「止まりなさい!!」

 

 なんと、中等部らしいガキが銃を向けて来たんだ。

 思わず満面の笑みを浮かべちまったよ。

 こんな小さいガキが、俺に立ち向かってくるんだぜ?

 

「退け、ガキ。俺に銃を向けたら、手加減できねぇぞ」

「黙りなさい、この不審者!!

 私は将来、正義実現委員会に入るのよ!!

 先輩達が負けたって、逃げるわけにはいかないのよ!!」

「そうか」

 

 俺はそいつに近づいた。

 発砲されたが、銃弾を掴んだ。

 そいつを投げ返した。相手の投擲物を投げ返すのを、忍法で車返しの術って言うらしいぜ。前に見た動画で解説されてたのを試してみたんだ。

 

「ぎゃん!!」

 

 銃弾が額に当たったガキは、目を回して倒れた。

 

「気に入ったぜ、ガキ。舎弟にしてやるよ」

「きゅぅ……」

 

 俺はチビを乗り越え、生徒会室に向かった。

 

「待ちたまえ」

 

 ここで次の刺客が現れた。

 

「私はサンクトゥス分派の長にして、図書委員を統べる者。

 この先の生徒会室に踏み入ると言うのなら、私と勝負したまえ」

 

 コイツは歴女。歴史オタクだから俺はそう呼んでた。

 そうそう、セイアの前任だよ。

 

「いいぜ、じゃあやろうか」

「では、第一問」

「ッ!?!?!?」

「──必ず“ら”が付く料理はなーんだ?」

 

 俺は慄いた、こいつ、インテリだってな!!

 え? 流石はセイアの前任者だって? だろ、先生。あいつを後任に選ぶだけあるだろ?

 

 時間稼ぎだと分かってても、俺は勝負から逃げられなかった。

 喧嘩の最中に謎かけをしてくる想定をしてなかった俺の落ち度だからだ。

 俺はこれに学びを得た。

 

 次からはどんな謎かけをされても、必ず答えるってな。

 成長の余地があるってのはいいもんだ。

 

 ……ああ、その時はどうしたって? まあ聞けよ。

 

「ふふふ、私を殴り倒して進むのならそうすればいい。

 しかし、私だけは君たちに勝利したと後日喧伝させてもらうがね」

「くそ、流石インテリ……これが政治ってやつか」

 

 俺はこの時ほど、マコちゃんを連れてこなかったのを後悔したことはなかった。

 

 その時だよ。

 

「答えは、てんぷら、ですわ」

 

 俺が振り返ると、そこにはハルナが居た。

 

「遅ればせながら援軍に来ましたわ、ミコトさん」

「ハルナ!! 助かる!!」

「いえいえ、事前にした約束さえ果たして下されば良いのです」

 

 それで、とハルナは歴女を見据えた。

 

「答えは、てんぷら、です」

「ぐぬぬ、正解だ。

 だが、第二問!! 戦う相手をイライラさせる飲み物はなーんだ!?」

「テキーラですわ」

「ぐぬぬ、正解だ」

 

 流石はお嬢様、本場のお嬢様学校のアタマ相手に一歩も引かねえでやりあってやがった!!

 

「さあ、お行きなさい。ゲヘナの英雄たる貴女が、こんなところで踏みとどまってはいけません」

「……この場は任せたぜ!!」

 

 インテリの相手はハルナに任せて、俺は奥に進んだ。

 

 本校舎はデカい建物だからよ、途中の廊下の壁に地図があったんだ。

 それを確認して、俺は生徒会室の目前まで辿り着いた。

 

「お邪魔しまーす」

 

 俺は躊躇いなく、その扉を開けた。

 トリニティの生徒会室は、……ああ、先生は行ったことあるんだ。

 

 こう、広い教室の部分と、デカいベランダみたいな部分が有るんだよ。

 

 そいつは一人で、長テーブルに座ってお茶してた。

 

「まさか、トリニティの長い歴史でこの生徒会室に我々以外で初めて踏み入るのが、ゲヘナの生徒だとは」

 

 こいつがトリニティの三バカの最後のひとり、お嬢だ。

 まさにお嬢様のアタマって感じの、縦ロールの髪の毛の女でな。

 

「あんたひとりか?」

「他の者は下がらせました。

 あなたのような下郎の手に掛けられるわけにもいきませんもの」

「お前は逃げなかったのか?」

「フィリウス分派を取り纏める、そして現ホストたる生徒会長のこのわたくしが、命惜しさに逃げる等と誇りが赦しませんわ」

 

 まあ、見た目通りプライドの権化みたいな奴でな。

 勿論、これですんげー強いとか、全く無かった。

 

「弱い奴をぶちのめす趣味はねぇ。

 だが俺と戦うか、ゲヘナに降伏するか選べ」

「いいでしょう。降伏を選びますわ、生徒達の安全には変えられませんもの」

「なんだ、拍子抜けだ」

 

 ……ここまでで先生も気づいたかもしれねぇが。

 こいつら、名乗らねぇんだわ。

 いや、俺らに名乗る価値なんて無いってことなんだろうが。

 

 この三バカ、三人揃って俺らを見下してやがんのよ。

 何より舐めてやがんのがよ。

 

「それで、何が欲しいんです?」

「ん?」

「お金ですか、土地ですか、利権ですか?」

 

 こいつにとっちゃ、俺らの喧嘩は政治に過ぎないってことだよ。

 だから俺は言ってやった。

 

「なにも。何も要らない」

「なにも、いらない?」

「お前らから奪うものなんて何一つないってことだ」

 

 俺らは強盗じゃない。そんなダサい真似するか。

 

「では、では!! 何のためにここまで来て、ここまでの騒動を起こしたのですか!!」

「多分、お前らと同じだよ」

「……?」

「セージで自分らの権力ってのを高めるんだろ、お前ら。

 俺は俺が強いことを周囲に知らしめたい。ただそれだけだ。それだけだよ、それだけが俺の満足だ」

 

 お嬢は信じられないモノを見る目で俺を見ていた。

 

「ゲヘナがキヴォトスでテッペンの学校だって、お前が認めろ。それだけでいい」

「名誉、優越、勝利、そう言うことですか?」

「言葉にするならそれで良いんじゃねえのか? 頭良いんだろ、お前」

「そうして、我々を辱めたい、そう言うことですか」

「は?」

 

 最初意味わかんなくて、俺は真顔になっちまった。

 

「そこまで、我々が憎いですか、ゲヘナめ!!

 古から続く因縁により、我々や先輩方が紡いだ歴史を貶めたいと!!」

「お前、いつの話してんだ?」

 

 なんでこいつ、急に歴史の話を持ち出してきたんだって、思ったね。

 

「俺がゲヘナに入学したのは、ここ二か月のことだ。

 それまで、ゲヘナとは縁も所縁も無いぞ」

「馬鹿な……なんの憎しみも無く、悪意無く、ここまでの事をしたというのですか!?」

「そうだよ、なんか文句あるのか?

 お前の言う昔話なんて関係ない。わかったら、広いところに生徒を集めろ、そして自らゲヘナへの降伏を告げろ」

 

 ぽかんとしたお嬢の顔は傑作だったぜ。

 

「…………わかりました」

 

 こうして、俺らゲヘナは勝利したんだよ。

 

 そんで、ここからは政治の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 




簡単な人物紹介。

先生:みんなお馴染みの先生。主人公にシャーレの部員になるまで色々あった。

マコト:主人公はこいつに政治は丸投げすれば良いと思ってる。

ハルナ:この時はまだインテリお嬢様だと思ってる。ぶっちぎりでイカれた女だった。

ハスミ:主人公は頭がいいって思ってる。でもインテリだとは認識してない。

ツルギ:つよい、と主人公は思ってる。また喧嘩したい。

お嬢:当時のホストにしてフィリウス分派生徒会長、三年。すげー政治に強いキングオブお嬢様って主人公は認識している。生徒会長に就任早々主人公に襲撃される可哀想な人。

総長:当時のパテル分派生徒会長、三年。そこそこ強い、と主人公に認識されている。家柄だけなら三人の中で一番古いが、政治はお嬢に丸投げしてる。

歴女:当時のサンクトゥス分派生徒会長、三年。主人公は超インテリだと認識してる。なぞなぞが好き。普段は哲学に思慮を巡らせるために、政治はお嬢に丸投げしている。


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