ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

32 / 78
迷い、悩み

 

 

 

「なあ、聞いてくれよ」

「なんだよ」

「こっちの110円のカレーパンと、こっちの180円のビーフカレーパン。

 食べ比べてみたんだけどさ、変わんなくね?」

「そりゃあ、カレーはカレーだろ。それか、お前がバカ舌なんじゃねーの」

「そう思うなら食ってみろよ」

「おう……」

 

 ミコトのチームの不良二人は、二つのカレーパンを食べ比べる。

 

「……同じじゃね?」

「だろ?」

「そもそもうちらに、総菜パンのビーフを感じ取れる繊細な舌があるわけないじゃん」

「じゃあ、こっちの110円のカレーパンを二個買った方がお得ってことか」

「違うよ。ビーフを二個買えば360円。安い方は三つ買えば330円。安い方は三つ買えば量は1.5倍になって、30円ビーフより安いんだ」

「お前……天才じゃん!!」

「これが数学って奴だよ」

 

 不良たちは、そんな下らない話で盛り上がっていた。

 そしてわいわいと、朝食のカレーパンを近くのコンビニに買いに行った。

 

「ミコちゃん、今日はチートデイじゃん? カレーパン食べる?」

 

 本校舎の最寄りと言うことで逆に安全らしいコンビニで安いカレーパンを調達してきたミコトの仲間たちは、そんな風に彼女に話しかけた。

 

「……ああ? なんか言ったか?」

 

 ミコトはぼんやりと、空を見上げていた。

 これには、彼女の仲間たちも顔を見合わせる。

 

「最近、ミコちゃんあんな感じじゃね?」

「この間、カイザーにカチこんででからああだよな」

「不完全燃焼だったんじゃないの? カイザー本社じゃあんまり暴れられなかったらしいし」

 

 彼女達は口々にそう言うのだった。

 

「悩んでいるのね、ミコト」

「……ああ」

 

 全てを察したようにユエがそう言うと、ミコトは頷いた。

 

「迷う奴は弱い。喧嘩では迷ったら負ける。

 だが、俺にもまだ整理が付かねぇこともある」

「私は貴女の悩みには興味ないわ」

「わかってるっつうの、だから相談してねぇだろ」

 

 そんな二人を見て、仲間たちは何でこれで相棒なんだろう、と思った。

 

「うちらもバカなんで、相談するだけ無駄っすよ」

「喧嘩するだけなら迷わないもんね」

「そう言うの、頭の良い奴の方が得意っすもんね」

 

 そんな反応に、ミコトは溜め息を吐いた。

 

「お前らにそういうの期待してねえから安心しろ」

 

 そう言って、ミコトはたまり場から歩き出した。

 

「ちょっと知り合いのところ回って来る」

「いってらー」

「解決すると良いっすね」

 

 そんなサバサバした仲間たちに送り出され、ミコトはバイクでトリニティ方面へと向かった。

 

「俺だ、通るぞ」

「あ、あの……」

「なんだよ」

「ティーパーティーの方から、ミコトさんはうちを出禁になったと伺ったのですが……」

 

 関所に詰めているトリニティの生徒が、おずおずとミコトにそう言った。

 

「何もしねえし暴れねえから、目ぇ瞑れ」

「そ、そう言うわけには……」

「それとも、何かしたり暴れて欲しいのか?」

「い、いえ、お通り下さい……」

「どうせ向こうと連絡付けんだろ、ハスミ呼び出しとけ」

「わ、わかりました……」

 

 彼女は涙目でミコトを通す羽目になった。

 

 

 ミコトはそのままいつもハスミに奢っているカフェのテラス席に座った。

 程なくして、ハスミがやってきた。

 

「……あなたは少し、他人に迷惑を掛けないやり方は出来ないのですか?」

「じゃあお前、ゲヘナに来いって言ったら来るのかよ」

「仕事でなら仕方なく行きますよ」

「ほら見ろよ」

 

 良い笑顔で急に呼び出されたハスミは答えるので、ミコトは鼻を鳴らしてそう言った。

 

「個人的な話がしてぇだけだ。周りの連中は退けとけ」

「……こちらハスミ、周辺の部隊は退却をお願いします」

 

 ハスミは無線でそう周囲を警戒していた同僚たちにそう言った。

 

「まあ、奢るから好きなの食えや」

「……はあ、わかりましたよ」

 

 二人は注文を終えると、話を始めた。

 

「こちらは貴女の所為で大騒ぎです。

 あんな大々的なやり方でうちに意趣返ししてくるとは」

「何の話だ?」

「まさか、わかっていなかったのですか? 

 貴女と一緒にカイザーに殴り込んだ不良組織、彼女達の頭目が元ティーパーティーだろうと言うことで議会は紛糾していたんです」

「ああ、アオマのことな」

「あれはどういう意図なんですか?」

「何が? 俺のダチが攫われたから奪い返すぞって言ってたろ」

「……もういいです。どうせあなたは何も考えてないんでしょうから」

 

 ハスミは大きく溜め息を吐いてそう言った。

 

「わかってるなら一々聞くな」

「分かっていても確認しないといけないんですよ」

「メンドくさ……」

 

 今度はミコトが呆れる番だった。

 

「……噂では、聞いたことが有りました。

 ティーパーティー各派閥の議席争い、それらを巡って陰湿なやり取りがあると言うことは。

 特に、家や派閥からの後ろ盾のない生徒は、妬みを買いやすいと」

「へぇ、お嬢様ってのも大変だな」

「……それは正しい、健全な議会の姿とは言えません。

 かといって、我々に口を出す権利もない」

「じゃあ、俺がもう一回殴り込みに行ってやろうか?」

「止めてください」

 

 とは言え、ハスミの表情は苦渋に満ちていた。

 まさにあの動画は意趣返しだったのだろう。わざわざティーパーティーの制服を着てたのだから。

 

「……もし、彼女が復讐をしたいと言ったのなら、貴女は手伝いますか?」

「そいつは面白そうだ、って言っておけよ。

 あいつを蹴落とした連中も、肝を冷やすだろうよ」

「それもいいかもしれません……」

 

 最早ミコトは、個人でトリニティと戦争を出来る存在になった。

 デスサイズを率い、大義名分を翳して嬉々として。

 

「それで、私に何の用なんですか?」

「お前たった今、俺の舎弟どもを連れてトリニティにカチコむんじゃねえかって心配したよな」

「ええ」

「お前はそれに正義がある、と思ったな?」

「……」

 

 ハスミは、答えなかった。

 

「俺もカイザーにカチ込んだ時、迷った」

「……話を聞かせてください」

「最初は全員一人残らず、カイザーって会社を根こそぎ滅ぼすつもりだった」

「まあ、カイザーグループの後ろ暗い噂は、こちらにも届いていました」

 

 二人の前に、注文した料理が届けられる。

 ハスミの前にはドでかいパフェがドンと置かれた。

 

「だがあいつらにもあいつらなりに正しいことをして、それで救われる奴らも居る。

 同時に、その行いで不幸になる奴も居るんだ」

「でしょうね。カイザーグループほどの規模になると、その一挙手一投足が利益を生み、不利益をまき散らすでしょう」

「俺は相棒の言葉で、拳を収めた。

 だがよ、後になって思った。これって妥協じゃねえのかって」

「…………」

「俺は、自分の強さに妥協しねぇって決めた。

 勿論、あのままカイザーを滅ぼしても、大勢が迷惑を被る。俺の自己満足だ。だがそれで仮にも救われた奴も居たんじゃねえかって、思ったんだよ」

 

 俺は別に恨まれてもいいんだ、とミコトは言った。

 だが、それ故に迷った。妥協した自分が許せなかった。

 

「……一先ず、思い止まったのは正解だと思いますよ」

「……そうか」

「ええ、カイザーグループは確かに悪徳企業で、悪い噂も聞きます。

 彼らによって不幸になった人間は数多い。ですが、彼らによって不幸になっていない人間もまたそれより遥かに多いのです」

 

 ハスミは救った救われなかったの話ではなく、今平穏に過ごす人たちについて指摘した。

 

「当然ですが、人数で善悪や正義や不正義を語るつもりはありません。

 貴女は迷った自分を疎んでいますが、自分の行いに疑問を持たない方が遥かに低俗で、おぞましい人間だと思いませんか?」

「前に言ってた、自分を正義だと思い込むって奴か」

「そうして失敗した人たちの歴史の上に、我々は生きているのです」

 

 自分を正義だと確信した人間は、誰よりも残酷になれる。

 少なくとも、ハスミはミコトが思い止まったことを評価した。

 

「トリニティとてそうです。

 我が校の生徒はみな真面目で誠実な方ばかりです。

 その影で陰湿なことが行われているとしても、その事実は揺るぎません」

「その一部を無くすために、トリニティって学校に攻め込むってのは違ぇって言いたいんだろ?」

「貴女は一々物事を大きくし過ぎるんですよ!!」

 

 ぱくぱくとパフェを食べながら、ハスミは言った。

 

「……総長からの伝言です。あの不良たちの上層部と話をしたい、と」

「ふーん、まあ別にいいけどよ」

「あなたも、総長のように正しいやり方を追求するべきです。

 我々とて、他人を蹴落とすようなやり方を肯定しているわけではないのですから」

 

 ミコトは、わかった、と言って、紙ナプキンに電話番号を書いた。

 ハスミはパフェを食べながら器用にスマホでそれを撮影し、上司に送った。

 

「私個人からひとつだけ言わせてください」

「なんだよ」

「我が校を去った者を、受け入れてくれて感謝します」

「……お前が頭下げることじゃないだろ」

「いえ、知らんぷりをしていた我々の咎です」

 

 ハスミは生真面目にそう言った。

 ただより大昔のより大きな咎が二年後にトリニティに迫っていることなど、この時この二人は思いもしなかった。

 

「自主退学に追い込むなんて卑劣で非道なやり方が、まかり通るなんてことはあってはならないのですから」

「まあ、お前の意見が多数派なら、まだトリニティは大丈夫なんじゃねえのか。お前んとこの学校、思い込み激しいところあるけどよ」

「何も考えてない人たちの筆頭が何か言いましたか?」

「ちげえねえ!!」

 

 そうして、ある程度自分の中で整理を付けるとミコトはトリニティ自治区からさっさと退去した。

 

 ゲヘナ自治区に戻ると、ミコトはスマホに着信が入ったことに気づいた。

 

「げ、部長からだ……」

 

 今すぐ部室に来い、とモモトークに表示され、ミコトは粛々と救急医療部の部室に赴いた。

 

「部ちょ──」

 

 ドアを開けた直後、ミコトはサブマシンガンの銃火を受けた。

 数秒で30発を撃ちきるフルバーストの一斉掃射。

 リコイルの反動を片手で容易く制御し、全弾をミコトに直撃させた部長は椅子から地に伏したミコトを見下ろしていた。

 

「てめぇの所為で、キヴォトス各地に医薬品の納品が遅れてやがる。

 ここにあるドナーの意思表示にサインしろ。てめぇの臓器をひとつ残らず必要な奴のところに届けてやる、お前の臓器は移植されて生き続けられるんだ、嬉しいだろ?」

 

 ガチギレだった。怒鳴らないところが特に恐ろしい。

 ミコトは流れるように土下座の姿勢を取った。

 

「すみません、部長!!」

「その口と脳みそは医療の役に立たねえからバイオハザード用のゴミ箱行きだ。てめぇも救急医療部に居たなら医療に尽くせることに万歳三唱しやがれ」

「お、俺は!! 部長なら同じことをしたと思うっす!!」

「遺言はそれで良いんだな?」

 

 部長は怯える部員たちに、手術の準備をしろ、と命じた。

 

「今カルテを書いてやる。逢坂ミコト、心臓麻痺で死亡。死後の臓器提供の意志あり、と」

 

 まるでどこぞの死のノートみたいなノリでカルテを書き終えると、部長は言った。

 

「てめぇ、私なら同じことをするって言ったな? 

 もう一回そのスカスカの脳みそに教えてやらないといけないらしい。

 手術を行うには、患者の体力も考慮しないといけないんだよ。

 手術の負荷で患者が死んじまったら、元も子もない。

 今のキヴォトスに、カイザーっていう腫瘍を全部取り除く手術に耐えられんのか?」

「……そいつは」

「腫瘍にも良性のモノは経過観察したり、血管などの場所によっては手術を行わない方が安全と判断される場合もある。

 お前は私が、病巣を見つけたら何でもかんでも切りたがるイカレ女だって言いてぇのか!!」

 

 ついに部長は怒鳴り散らし始めた。

 

「私はお前みたいな、気に入らねえもの全部に喧嘩売るほどガキじゃねえんだ!! 

 カイザーどもは生かしてやってるに決まってるだろうが、ボケが!!」

「すみません!! すみません!!」

「てめぇは喧嘩しないと相手をぶっ殺せねえが、私は死亡診断書一枚書くだけでてめぇを殺せんだ。

 どっちが上等だ。言ってみろエテ公が!!」

 

 部長はミコトの胸倉を掴んで、膝蹴りを何度も入れながらそう言った。

 

「部長っす、部長っす!!」

「ホントに強ぇ奴は戦うまでもねぇんだよ。

 戦わないって選択を取れる奴が一番賢いんだ、その判断ができねぇ奴はどれだけ強くても三下なんだよ」

「……」

 

 ミコトは、ハスミの言う通りだと思った。

 ハスミと部長の言葉を統合すると、迷わない奴はシャバい。

 喧嘩になったら迷ったら弱いが、その前にはいくら迷っても良いのだと。

 

「それによぉ、お前は悪性と良性の判断が出来んのか!! いつからそれが判断できるほど偉くなったんだ!!」

「出来ません!! 出来ません!!」

「素人が他人の話だけで鵜呑みにしてんじゃねえ!! 

 何の為に専門的な知識が必要だと思ってんだボケナスが!!」

 

 その時、部員たちがおずおずとやってきた。

 

「あの、部長、手術の準備が終わったんですけど……」

「おう。それじゃあ始めっか」

 

 ガチである。自由の名の下に、合法的に部長はミコトをぶっ殺そうとしていた。かつての自分の発言の、有言実行である。

 

「お前らー、検体の提供に感謝しろよー」

「待ってください、部長、部長!! 

 俺はまだ部長の、医療の役に立てます!!」

「……言ってみろ」

「……そうだ、病院、病院建てます!! 部長専用の病院建てますんで!!」

 

 ミコトの命乞いに、部長はパッと手を離した。

 

「面白ぇな、やってみせろ」

「はい、直ちに!!」

 

 

 

 

「ハーッハッハッハ!! 今日は温泉開発日和だ!!」

 

 ドリル車が横転ドーン!! ミコトがバーン!! 

 

「よう、カスミ」

「あばばばばばば!!!」

「カスミ、病院作れ」

「なに、湯治が出来る病院だと!!」

 

 

 数日後。

 

 

「どうぞ、お納めください」

「悪くないな」

 

 ゲヘナが獲得した再開発地区。

 かつてブラックマーケットの有った一角に、旅館風の病院が建てられた。

 ゲヘナ自治区は火山があるので、大体どこを掘っても温泉が出る。まさに、長期入院で湯治が出来るオサレな病院だった。

 

「設備は伝手が無かったんで、ほぼ空っぽらしいっすけど」

「いや、気に入った。残りは私の私財と伝手で何とかする」

 

 こうして、勝手に部長は病院を運営し始めた。万魔殿に許可? ゲヘナ生がそんなことするわけないでしょ。

 

 ミコトはここのすぐ近くにデスサイズの本部を設置することを命じた。

 そしてこの病院に銃弾一発でも当てた奴は九割殺しにしろ、と。

 

 その後、この病院は巷では闇病院と呼ばれるようになり、それを頼りにしたキヴォトスでも最底辺の弱者たちが寄り添うように集まって、必要悪の市場が形成されるようになったのはすぐのことだったのである。

 

 この後、部長が卒業するまでの間、ミコトは大分大人しくなったそうな。

 

 

「カレーパン、うめぇな。臓器があるって実感できらぁ」

「ミコちゃん、やっぱりビーフと大して変わんないよね」

「アホか、祭りの屋台の焼きそばと同じだろ。あっちは高いけどなんか雰囲気で美味いだろうが。こっちのビーフカレーパンも、なんか意識高いビーフな雰囲気で美味いって思うんだろ、多分」

「あ、そっかぁ」

「じゃあ私もステーキ食べたいときは、こっちのビーフカレーパンで我慢しようっと」

 

 ミコトは仲間とそんな下らない話ができるくらいに、ゲヘナ学園は今日も平和に周囲でドンパチしているのだった。

 

 

 

 




まさかの闇病院の誕生秘話。

なお、大人しくなっても万魔殿の胃に直撃する行動は減らない模様。
温泉が絡めば大体の建物を作ってくれるカスミえもんは便利枠。そのうち妹にリオミちゃんも加わると思われ。

それでは、また次回!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。