夜風に当たりながら散歩し、熟考した結果。このお話は没にします。
誰の意見でも何でもなく、私がこれからの二年生編を、これまで培った世界観を崩してまですることか、と己に疑問を抱いたからです。完全に身内のノリですし。
和食を提供していたら、急に中華を出します。なんて言われたら納得できない人も居るでしょうし。
きっとハルナなら爆破し、マエストロなら未熟なものを見せたと言うことでしょう。
なので、戒めとしてこの話は残しておきます。消すのももったいないので。
一発ネタということにしておいてください。
それでは皆様、お目汚しを失礼しました。
開始早々没になった話
※この話は没になりました。一発ネタとしてお楽しみください。
キヴォトスの地下のどこか、奥深く。
異形の修験者と少女がテーブルを挟んでコマを動かしていた。
「さて、キャンペーンは二年目に突入したわね」
暗がりで顔の見えない少女が言った。
「数多のNPCが盤上を去り、新たな生徒が舞台に上がる。
こ、此度の勝負は如何様になりましょうや」
「うーん、そうね」
少女は彼の言葉に、顎に手を当てる。
「勝ち負けにこだわる貴方の気持ちもわかるわ。そういうプレイングも楽しいでしょうね。本当に分かるわ」
「ふ、ふふッ、分かりますかな?」
「でも、テーブルトークRPGの本質とはかけ離れていると思うわ」
「……ほう、その心は?」
これまでのゲームを通じて、異形は自分のスタンスを否定されても激高せず、彼女の言葉を聞き入れる。
「まず前提として、ゲームマスターはプレイヤーの“敵”ではないわ。
勿論、ルールブックのシステムとして、ゲームマスターと対決するものもあるでしょう。それで遊ぶのもアリだわ。
プレイヤーがあまりにも簡単にシナリオをクリアするものだから、意地になって悪意に満ちたシナリオを展開することもあるでしょう。身内のノリならそれもアリよ。
でもゲームとは、楽しむモノよ。ゲームマスターとプレイヤーは、シナリオを通じてより楽しい物語を紡ぐことが目的の筈。少なくとも、私にとってはそうなのよ」
「ふむふむ、ゲームを通じて気づきを得ようとする小生とは違う視点ですな」
少なくとも愉悦を求めてゲームをプレイすることを、彼は否定しない。
ゲームに熱中すれば行動に熱が入り、一喜一憂するのも当然だからだ。
「次のシナリオを用意したわ」
「ほう、用意が良いですな!!」
異形が小さく両手を挙げて喜ぶ。
キャンペーンが続く。それは誰にとっても喜ばしいことだ。
「でも、このシナリオは、ホシノの修験。苦痛から自らを縛る鎖を纏う話」
「ふむ。俗人どもは苦痛を通じて得られる気づきを理解しませんからな」
「ええ、このシナリオのリプレイを公開して辛辣なコメントを貰ったら、
だから、と少女は言った。
「このキヴォトスを覆うテクスチャをそのままに、再解釈しましょう」
「ほほう、ほほう、ほほう!! 舞台設定に疑問を呈すわけですな」
「その通りよ」
テーブルトークRPGは自由だ。
存在しない生徒をNPCにして先輩にしても良いし、カイザーグループのライバル企業を創造してもいい。
自分のプレイしているキャラではなく、NPCを勝手に演じて熱が入るなんてこともある。部長の駒を操る少女なんてその見本だった。
「悲劇を演じ、眉を顰められるというのなら、本人に許可を取りましょう」
「と言うと?」
少女は何も言わず、暗闇の方を見た。
こつこつ、と足音が聞こえる。
「これはッ」
異形が驚愕する。
そこから現れたのは、なんとホシノだった。
しかし、彼女は目の前の二人に、何の驚きも示さなかった。
「ねえホシノ、次はこのシナリオをやるわ。良いわよね」
「うへぇ、これっておじさんが曇る話じゃない」
そう言いながら、ホシノはテーブルに座った。
その手には、自分の顔を模したトークンがあった。
「おじさんも参加するよ。自分役としてね」
異形は悟った。彼女はホシノであって、ホシノではない。
間違いなく本人だが、当人ではなかった。
さながら、コントローラーを握る方と、コントローラーで操作される方が違うように。
「それでは、今回予告を行うわ」
プレイヤーが揃うと、少女がそう宣言した。
今回予告とは、次回予告の反対。
即ち、これから行うシナリオの大まかな冒頭や必要な事前情報を伝えることだ。
「ユメ先輩が卒業して、胸にぽっかりと空いた気持ちのホシノ。
彼女が、私からおじさんになる、そんなお話よ」
「わかった。シロコちゃん、ノノミちゃん、出番だよ」
ホシノが暗がりに呼びかけると、シロコとノノミが当たり前のようにやってきて、席に着いた。
「お菓子、買って来たよホシノ先輩」
「飲み物も必要ですよね☆」
袋菓子やペットボトルがテーブルに並べられ、アビドス高校の校舎の図面に二人は自身の顔を模ったトークンを置いた。
「うーん、じゃあおじさんは生徒会室でたそがれてようかな」
ホシノが、生徒会室に自身のトークンを置いたところから、物語は始まった。
「ユメ先輩、今年の卒業式は去年より賑やかだって言ってたねぇ」
ホシノ:そんな感じで未練たらたらな感じの台詞を言うね。
シロコ:じゃあ私がそこに突っかかるね。
がら、と生徒会室の扉が開く。
狂犬シロコのエントリーだ!!
「ホシノ先輩、今日は私が勝つ」
シロコ:確かこの頃はこんな感じで毎日ホシノ先輩に突っかかってたはず。
ノノミ:うんうん、そんな感じでしたね!! でもいきなり戦闘、しかも生徒会室でそんなことをされては困るので、私が合流します。
「シロコちゃん、ダメですよ、こんなところで暴れちゃ。ほーら☆」
シロコのその後ろからノノミが現われ、その身体を抱きしめた。
シロコはむず痒そうに身じろぎする。
「ゴメンね、シロコちゃん。今日はあんまりそんな気分じゃないんだ」
ホシノ:そんな感じでもっとたそがれるね。
シロコ:せっかくダイス用意したのに……。
さて、シナリオを進めさせてもらうわ。
前年度の生徒会役員は、卒業なり自分なりの目標を見つけ、ホシノの新政権交代に際して入れ替わりになってしまいました。
ホシノの目の前の二人も、新しい生徒会役員に立候補した新入生でした。
記憶喪失で拾われたシロコはともかく、ホシノは今のところノノミのことをあんまり信用してはいませんでした。
なにせ、彼女はハイランダーに行けば生徒会長待遇も約束されていた地元企業のお嬢様。
アビドス高校なんて元不良が集まっているヤンキー高校と噂されるようになって久しいのです。
果たして、これは同族嫌悪なんでしょうか、ねえ、ホシノ?
ホシノ:いやぁ、ノーコメントで。
ノノミ:え、ホシノ先輩、そんな風に思ってたんですか?
ホシノ:もう、このお話ではそうなってるってだけでしょ!!
シロコ:ノノミ。それをここで聞いたところで、こっちの私達は知る由もないから。
ノノミ:それは、そうですけど……。
そう、プレイヤーと、彼女らの操作するキャラクターは別の存在。
プレイヤーは目の前の宝箱の中身がミミックだと分かっていても、キャラクターはそれを何の情報も無しに知り得ないのです。
なのでノノミは、ホシノにちっとも信用されてないことも知らずに、ニコニコと微笑んでいるのです。
さて、ここで生徒会室に入って来る会計役の生徒が来ました。
「生徒会長、保安部から報告があります」
「はいはい、どれどれ、見せてちょうだい」
ホシノは報告書を受け取りました。
どうやら最近不審者の情報が見受けられるようでした。
想像系の技能をどれかでダイス振って下さい。
ホシノ:うへぇ、おじさん戦闘系以外の技能死んでるんだけど……はい、失敗。
ノノミ:私は成功しました☆
シロコ:私は失敗した。
ではノノミは、今年も大量に元不良がアビドス高校に流入したのでチンピラなどは見かけなくなった、という情報を知っていました。
ノノミ:ホシノ先輩、じゃあ私が話を振るので何らかのロールプレイをお願いします。
ホシノ:はいはい、りょーかい。
「不審者ぁ? またチンピラとかじゃないの」
「いえいえホシノ先輩、通学路の商店街の皆さんの話だと、都市部にそう言った危険なチンピラ集団は流入してないそうですよ」
軽く考えているホシノに、ノノミはそのように言いました。
シロコさん、こちらの資料をどうぞ。
「でも偵察かもよ。ミレニアムの支援で大量の太陽光パネルを買ったんだよね? それを盗む気かも」
「ちょっとまってください」
ノノミが手を挙げて、プレイヤー発言した。物語のキャラクターとしてではなく、プレイヤーとしてのメタ発言である。
ノノミ:ゲームマスター。入学早々のシロコちゃんが、こんな賢そうな発言は無理だと思います!!
ホシノ:あ、確かに、それは同感かも。
シロコ:……遺憾の意を示すよ。
はい、そうですね。では、会計役の生徒が発言したと言うことで。
「ホシノ会長、もしかしたらミレニアムから提供された大量の太陽光発電システムを狙った偵察かもしれませんよ」
「考え過ぎだと思うけど、一応見て回った方がいいよね」
ホシノ:そうしないと、シナリオが進まないからね!!
えー、どういうわけだか、ホシノは独りで目撃情報があった周辺を探すことにしました。
多分他の二人が付いてくるのが面倒だったのでしょう。
ホシノ:要するに、これっておじさん個人のシナリオってことでしょ。
身も蓋も無いことを。お二人は次の出番までお菓子でも食べて待っていてください。
シロコ:ん、敵が出てきたら言ってね。ホシノ先輩をやっつけるから。
ノノミ:あらら、シロコちゃん。戦闘特化のガチビルドのホシノ先輩を、そこらへんでエンカウントするようなチンピラ側で勝つつもりですか?
シロコ:クリティカル十回ぐらい連発すれば勝てる。
ホシノ:完璧な作戦だねぇ、シロコちゃんのリアルラックに目を瞑れば。
シロコ:プレナパテスキャンペーンで即キャラロストしたセリカほどじゃないよ。
話を進めるわ。そして、ホシノは逃げるように生徒会室を後にした──。
ホシノは後輩達から逃げるように砂漠化した廃墟を歩く。
「はあ、生徒会長か……」
ユメからその職位を受け継いだホシノはそう呟いた。
生徒会長らしさとは何だろうか?
選挙でも何でもなく、民意でも何でもなく、当たり前のように後継者に選ばれたホシノ。
誰もそれを疑わなかった。新入生も、在校生も。
やるべきことは山積みだが、どれも手につかない。
鉛のように身体が重かった。
後輩達の期待。同僚たちの信頼。
そのどちらも、ホシノには過分に思えたのだ。
自分はそんな人間では無い。古巣から逃げるようにアビドスにやってきた、逃亡者だ。
逃げて、全てを無かったことにして、知らんぷりをして過ごす。
それが自分の望んだことではなかったのか?
そこまで思い返して、ああ、とホシノは思った。
楽しかったのだ。ユメとの馬鹿馬鹿しい毎日が。それはさながら、夏休みの終わり頃に行ったお祭りの日が終わってしまうような虚無感。
最も自殺者が増えるという、始業の鐘をホシノは聞いてしまったのだ。
それは死神の異名を持つあの友人とも言いたくない相手の所業なのか、それともそれに付き従う不気味な魔女の呪いなのか。
まるで慕っていた従妹が遠くに行って、寂しがるような幼さ。
懐古の足枷が、鎖につながれた鉄球のように重い、想い。
逃げてきて本当に良かった、とホシノは思った。
勉強も、戦闘も、ホシノは完璧だった。
どこぞの白い毛玉が心の底で嫉妬を抱くぐらいには、ホシノは周囲から期待されたエリートだった。
その先に待っていたのはなんだったのだろうか?
きっと武力集団の長やら、生徒会の重役やら。
ホシノを望む期待の手から、彼女は逃げた。
後悔はない、だが悔いはある。もっと別の生き方があったんじゃないか、と。
初めから期待させなければ、失望もまた無い。
なんか他人より強くなれただけ。なんか他人より勉強が出来ただけ。
人付き合いも、周囲を取り巻く政治も、からっきし。
それがホシノと言うちっぽけな生徒の正体だった。
ザっと、自分以外が誰かが砂を踏みしめる音が聞こえた。
「そこに居るのは、誰?」
ホシノが銃を向ける。
すると廃墟の影から、誰かが出てきた。
「……おっと、撃たないでくれないか?」
知らないロボットの大人だった。
くたびれた薄汚い格好の、見るからに世捨て人じみた初老くらいの外見だった。
「あなた、誰?」
「おじさんはただここに住んでいるだけの、無害な浮浪者だよ」
「ここはアビドス高校の土地だよ。勝手に住んだりしちゃダメなんだけど」
「ははは、そうなんだけどね……」
彼は、力無く笑った。
「君、アビドスの生徒だよね? どうか見逃してくれないかな。迷惑はかけないよ。だからどうにか、生徒会に通報とか、勘弁してくれないかな?」
「……」
自分がその生徒会の人間、そのトップだと知ったら彼はどう思うだろうか。
見るからに弱々しい、覇気も精気も失せた、取るに足らない浮浪者。
ホシノの想像する大人とは、彼女がこれまで接してきた大人とは違っていた。
「私は保安部の人間だよ。貴方の住処に案内して、違法品が有ったらすぐに警察に突き出すからね」
「わ、わかったよ……」
ホシノは、オジサンの背に銃口を向けながら彼の住処へと向かった。
彼の寝床は、とある廃墟を間借りした場所だった。
そこには、周囲の廃墟から入手しただろう家具や日用品が積まれていた。
「おじさんはこれらを売って生活してるんだよ……」
「要するに、空き巣じゃない」
「もう放置されて何年もたっているんだからいいじゃないか」
そんなことを嘯くオジサンに、ホシノは目を細める。
「そう言う問題じゃないでしょ」
「お願いだよ、人助けだと思ってさ?
この家具たちも、もう一度人に使われた方が喜ぶと思わない?」
まさに生活能力のない、ダメ人間そのものだった。
「……うちの生徒に迷惑かけたら、許さないよ?」
少なくとも明確に違法なことをしているわけではなかったので、ホシノは見逃すことにした。
「ありがとう、ありがとう!! 助かるよ……」
彼は目に涙を浮かべ、そう言った。
その後、ホシノは学校に戻って何も問題なかった、と皆に告げた。
数日後には学校近くの旧市街地に住み着いた浮浪者の話は、噂になるようになったのだった。
「なるほど、このオジサンに関わってホシノ先輩の心境に変化が出るわけですね」
「ねえ、ふと思ったんだけどさ」
シナリオを先読みするノノミを他所に、シロコがこう言った。
「このシナリオ、要するに合流セッションみたいなものだよね。
バラバラな年齢や性別、職業の人間を同じ事件や境遇に巻き込む為に使う、すぐ終わるシナリオをプレイする奴」
「たしかに、ホシノ先輩の前日譚と言えますね」
例えば、トリニティ、ゲヘナ、ミレニアムの生徒が一人ずつ存在する場合、彼女らに共通点なんて無いだろう。
だから趣味やらなにやらの催しに参加したり、共通の友人から孤島に招待されて顔合わせたりして、三者の協力関係を構築するのだ。
プレイヤーは顔見知りでも、その世界でのキャラクターは他人同士なのだから。
「でもこれって、ホシノ先輩が面倒なあざとい一人称を使わなかったら必要のない行程じゃない?」
「うへ!?」
急にそんな身も蓋も無いことを言い出すシロコに、ホシノは動揺した。
「べ、別に一人称ぐらい、個性を出したって良いじゃない。
シロコちゃんだって、記憶喪失でミステリアスなキャラで当初は行こうってしてたのに、すぐに化けの皮剥がれて脳筋キャラになったじゃない」
「そ、その話はいいじゃん!!
その見た目でおじさんなんて、あざといって話!! ずっと成長しないじゃん!!」
「お? それ言っちゃう? テラー化する? テラー化しちゃうよ?」
「その持ちネタは自分だけのものだと思わないでよ、ホシノ先輩」
「まあまあ、二人共。そう言う話は後にしましょう。どちらも可愛らしくて、私は好きですよ」
二人の微笑ましい言い争いを、ノノミは仲裁するのだが。
「ノノミだって先生相手にアプローチがあざといのに、何言ってるの!!」
「まあ、確かに……ASMRまで出してる人は違うねぇ」
「や、やめてくださいってば、二人共!!」
急に自分に矛先が向けられ、顔を赤らめるノノミだった。
「あざといと言えば、セリカちゃんのキャラもあざといよね。猫耳で今時古典的なツンデレキャラなんて。おじさん懐古厨になりそうだよ」
「こてこてのテンプレ悪かったわね、ホシノ先輩!! ふんだ!!」
暗がりからセリカが顔だけを出して、ホシノに文句を言ってから引っ込んで行った。
「あらら、怒らせちゃったかな?」
「そうですね、ホシノ先輩後で謝っておきましょう」
「それより、シナリオを進めよう」
シロコの視線を受けて、少女は進行を始めた。
「おじさん、うちの生徒が声を掛けられたって言ってたんだけど」
程なくして近所に住み着いた浮浪者は、学校では周知の事実になっていた。
「誤解だよ。ちょっといい感じのアクセサリーとか見つけたから、学生なら買ってくれるかなって思って」
最近買い叩かれるんだよ、オジサンは力無く言った。
「お金が欲しいならバイトでもすればいいじゃないですか」
「おじさん、そういうのももうお腹いっぱいなんだよ」
彼は遠い目でそう言った。
「おじさんはね、これでも仕事一筋の人間だったんだ。
でもそれが災いして、妻に三行半を突き付けられてね。
子供の養育費や慰謝料もたっぷり支払ったさ。それで何も無くなった。笑っちゃうよね」
くたびれたその姿に、ホシノは何も言えなかった。
「こうして仕事も辞めて何も無くなるとおじさんの人生って何だったんだろうなって思ってね。
惨めだけど、楽にはなったよ。全てから解放された気分さ。
もう年下の上司にぺこぺこしなくてもいいし、納期におわれることも無い!! 部下から営業成績で陰口を叩かれたり、営業先でグチグチ言われたりもしないのさ!!」
ホシノは思った。それって今と昔、どっちが惨めだったんだろう、と。
「苦しい環境から逃げて、自分の心を守ることは悪じゃないのさ。
聖典にも書かれてるしね。神は不可能な試練を与えない、と。これは必ずしも目の前の試練に立ち向かえってことじゃない。神様は必ず試練からの逃げ道を用意してくれている、ってことなんだ」
「そんな風に言い訳ばかり探してるから、おじさんはダメ人間なんじゃないの?」
「ははは、これは一本取られたね!!」
ホシノの辛辣な言葉に、オジサンは道化のように笑った。
「まあ、君も大人になればいずれわかるよ」
それは人生経験からの助言なのか、お前もいずれこうなるという呪詛なのか。
ホシノは時間と言う後ろから迫る壁に目を背けるように、その場を後にした。
ミレニアムの躍進は、飛ぶ鳥を落とす勢いとはこの事だった。
身内からブルドーザーとさえ例えられるリオの辣腕は、まさしく既存のミレニアムサイエンススクールの土壌を丸ごと撤去し、再開発するような勢いだった。
今年の初めに行われたExpoは大成功を収め、ミレニアムの関わる事業に投資家たちはどんどんとカネを投じるようになった。
勿論、それはミレニアム周辺の電機会社や発電施設もそうだった。
リオはそれら施設に投資し改修するだけでなく、それらの会社などに他の発電施設の改修作業の請け負う事業もさせ、それを宣伝した。
それによってキヴォトス中から依頼が殺到し、三年先まで予約がいっぱいになった。
彼らは会社の規模を拡大させ、それに対応。
必然的に、その株価は急上昇。
田舎出身の駄馬の馬券が、万馬券へと化けた。
ミコトが借りた三億円が、数十億円に跳ね上がった。この価値は今後も上がり続け、文明社会が電気を棄てることがなければ永遠に維持されるだろう。
それを見届け、ホシノは決意した。
ほんの少しの株券を換金し、三億円を用意すると彼女はゲヘナ学園へと向かった。
このお金が、とんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに……。
「不穏なモノローグだね。ワクワクする」
「ゲヘナでは不良のエンカウント率が高いですよね?
あのままオジサンに関わる問題を解決するシティシナリオ*2かと思いましたけど、一旦ゲヘナ学園まで行くんですね」
「ねえねえ、私達もこっそり付いて行こうよ」
「それはダメよ」
いっぱいサイコロを振りたそうにしているシロコとノノミの二人を、少女は諫めた。
「このキャンペーンにおいて、二人はミコトと「ホルスの戴冠」シナリオで初めて対面するのよ。時系列に矛盾が生じるから、今回は我慢して」
「ん、ならしょうがない」
「ですね。その代わりエデン条約編シナリオでは出番下さいね☆」
「約束するわ」
そう言うことなので、シロコとノノミはテーブルの席を立った。
「それじゃお二人ともまたねー」
舞台が変われば、演者も変わる。
少女はテーブルの上のアビドス高校の図面から、ゲヘナ学園の図面の束に交換した。
「いやぁ、流石三大学校のひとつ。校内も校庭の広さも、うちと違うね」
「えーと、校舎裏の資料はどれかしら」
「こちらではありませんか?」
各校舎の校内、各教室に校庭まで網羅したゲヘナ学園の資料から、異形が必要なページを引き抜いた。
「ああ、そうそう、これよこれ。ありがとう」
「いえいえ。此度はサブマスターに徹しましょうぞ」
異形にとって、苦痛とは死に通じる真理への道。
しかしこの少女にとって、苦痛とは愉悦。修験ではなく悦楽。
敵や味方とかではなく、解釈が違う。
それはそれとして、同行の士は貴重だ。少女もこの異形は和マンチ*3野郎だと理解しているが、同好の士なのでテーブルを囲んでる間は笑って流す。
「ではサブマスター、ミコトの戦闘ダイスや行動選択の代行をお願い」
「ひ、ふひひッ、腕が鳴りますなぁ。
お互いに戦闘特化のガチビルド。なかなかの好マッチですぞ」
「そうね。楽しみだわ。
少女と異形は笑い合っている。
「……ねえ、過去ログを漁ったんだけどさ、ゲームマスター。ちょっと提案が有るんだ」
「どうぞ、ホシノ」
「これってさ、別に今回────私が勝っても問題ないよね?」
ホシノのとぼけたような笑みに隠された、鋭い闘志。
それは間違いなく、彼女が小鳥遊ホシノ本人であることの証左だった。
「そうね、ミコトは性格上敗北を許容する。その後のシナリオで一度でもあなたを叩きのめせば、前のセッションとの辻褄は合うわ」
「じゃあ、負けイベントじゃないんだね? この時点でのミコトのステータスは現実的だから、できるかなって思ってさ」
「ええ、ゲームが楽しくなる提案はどんどんするべきだわ」
ホシノの位置を示す彼女のトークンが、校舎裏に集まる不良達とミコトとユエを示すトークンが集まる場所に近づいて行く。
「それでは、シナリオを進めましょう」
登場する生徒達さえ自らの意志を代弁できると再解釈された卓上で、物語の駒が進んでいく。
さて、読者の皆様に問う。
──二人の勝敗は、如何に?
登場予定が無かった地下生活者くん、サブマス枠に収まる。
とりあえず、リプレイ風にしてみました。
悲劇を悲劇として、それを笑い飛ばせる世界観として再解釈。
生徒達って神性のアバター説があるので、違和感はないと思います。
それはともかく、二人の勝敗はアンケートで決めようと思います。
下の奴から、投票を行ってみてください。期限は、更新速度の関係上作者の気分で決まります。意図的に切り上げるようなことはしないつもりです。自分が投票した結果にならなくても、あしからず!!
ではまた次回!!
追記※
あとでこの話を再構築した内容を続けて投稿します。
アンケート結果は勿論反映しますので、引き続き投票をお願いします。