理由は、前回の前書きに記載しております。
なので、今回が二年生編の正式な最初のお話になります。
前回の没回と内容が多少重複してますが、全く違う展開にしておりますので、お楽しみください!!
それでは、本編どうぞ!!
アビドス高校、生徒会室。
そこから校庭を見ながら、ホシノは独りたそがれていた。
「ユメ先輩、今年の卒業式は去年より賑やかだって言ってたなぁ」
ミコト達がやってきたのも、もう半年前になる。
年を跨いで、ホシノとユメは生徒会としてアビドス高校の立て直しに奔走した。
ホシノは在校生として、ユメを始めとした十数名の卒業生を見送った。
それが、彼女が生徒会長として最初の仕事だった。
春休みを挟み、入学式で地元の中学校や他所から大勢の元不良を受け入れた。
ホシノが部長を務める保安部にも、元デスサイズ上がりだという生徒が数多く入り、治安維持のノウハウを引き継いで既に活動も順調だった。
春先の涼しさとは無縁のアビドスでも、新学期の爽やかな新風が芽吹こうとしていた。
その時、がらり、と生徒会室の扉が開く。
「ホシノ先輩、今日は私が勝つ」
狂犬のエントリーだ!!
彼女は砂狼シロコ、冬の頃にホシノが保護した記憶喪失の少女だった。
強い者に従うという犬っころみたいな価値観で、群れのトップたるホシノに突っかかるのだ。
そこに、割って入る声があった。
「シロコちゃん、ダメですよ、こんなところで暴れちゃ。ほーら☆」
シロコのその後ろから別の少女が現われ、その身体を抱きしめた。
シロコはむず痒そうに身じろぎする。
彼女は十六夜ノノミ、シロコと共に生徒会の役員に立候補した一人だった。
「ゴメンね、シロコちゃん。今日はあんまりそんな気分じゃないんだ」
ノスタルジーに浸るホシノは、苦笑しながらそう言った。
前年度の生徒会役員は、卒業なり自分なりの目標を見つけ、ホシノの新政権交代に際して入れ替わった。
ホシノは今のところ、記憶喪失で拾われたシロコはともかく、ノノミのことをあんまり信用してはいなかった。
なにせ、彼女はハイランダーに行けば生徒会長待遇も約束されていた地元企業のお嬢様。
アビドス高校なんて元不良が集まっているヤンキー高校と噂されるようになって久しい。その事情に踏み込むほど、ホシノのコミュ力は高くなかった。
ただ、冬の間に何度か校内に来て、ユメと何かを話しているのを見かけただけだった。
何を話しているのか聞いても、雑談しただけ、としかユメは話さなかった。
その時だった、生徒会室の備え付けの電話が鳴った。
「はい、もしもし。こちらアビドス高校生徒会室でーす」
ノノミが受話器を取ってそう言った。
「はいはい、うんうん!! ホシノ先輩、セミナーの方からです」
「えー、なんだろ。面倒ごとかな」
セミナー、それはミレニアムの生徒会の名だ。
ミレニアムの躍進は、飛ぶ鳥を落とす勢いとはこの事だった。
身内からブルドーザーとさえ例えられるリオの辣腕は、まさしく既存のミレニアムサイエンススクールの土壌を丸ごと撤去し、再開発するような勢いだった。
今年の初めに行われたExpoは大成功を収め、ミレニアムの関わる事業に投資家たちはどんどんとカネを投じるようになった。
勿論、それはミレニアム周辺の電機会社や発電施設もそうだった。
リオはそれら施設に投資し改修するだけでなく、それらの会社などに他の発電施設の改修作業の請け負う事業もさせ、それを宣伝した。
それによってキヴォトス中から依頼が殺到し、三年先まで予約がいっぱいになった。
彼らは会社の規模を拡大させ、それに対応。
必然的に、その株価は急上昇。
田舎出身の駄馬の馬券が、万馬券へと化けた。
ミコトが借りた三億円が、数十億円に跳ね上がった。この価値は今後も上がり続け、文明社会が電気を棄てることがなければ永遠に維持されるだろう。
「はい、もしもし、小鳥遊です」
『調月です。ホシノ会長』
「ああ、リオ会長。ご無沙汰です」
『ええ、こちらこそ。本題に入らせてもらうけど』
相手はリオだった。挨拶もそこそこ、飾り気もなく彼女は本題を切り出した。
『そちらから運用を任された株式投資の件だけど』
「ああ、あれね……」
ミコト政権時代、アビドスの保有する株式運用はマコトに丸投げされていた。
彼女の政権がユメに移るに当たり、その株式運用はユメ政権に移行したわけなのだが。
「あのパシリに財布の紐を渡せるかよ」
と、ミコトはバッサリそう言って、信頼できる相手に任せることにした。
その相手が、リオだった。いやいや、とこれにはホシノもツッコミを入れた。
ユメも、それなら安心だね、と言った。いやいやいや、とホシノの二段ツッコミが炸裂した。
アビドスの心臓とも言える株券の資産運用を、よりによってミレニアムに代行してもらうとはこれは如何に。
思いっきり弱みを見せる行為に等しかった。
が、リオはクソ真面目で、クソ有能だった。
生徒会同士のやり取りを経て、ホシノは思った。あ、この人割とお人好しだ、と。
恐らくリオは丸投げされた株式運用で、アビドスを害するなんて発想は皆無だったろう。ホシノはユメとは別の意味で心配になるくらいだった。
『ユメさんに依頼されていた、三億円の借金一括返済の目途が立ったわ』
「もうそんなに膨れ上がったんだ……」
『ええ。株式運用なんて簡単な数字パズルのようなものだもの』
「それは会長ちゃんだけだと思うよ……」
キヴォトス最強の
『ほんの一部を現金化しておいたから、そちらに送るわ』
「うん、ありがとう」
『直接ゲヘナのミコト宛てに送金しなくていいのね?』
「そう言う約束だからね」
『わかったわ。健闘を祈らせてもらうわね』
用件だけ伝えて、リオは通話を切った。
彼女もそのお金が返済されると何が起こるのか、聞いているのだろう。
そして、翌日。現金輸送車で三億円がアビドス高校に送り届けられた。
アタッシュケース三つ分。流石にホシノも運ぶのは苦労する。
「手伝いましょうか、ホシノ先輩?」
「いや、これは私の問題だから気にしないで」
ノノミから借りたキャリーカートに三億円を積んで、ホシノは特に事情を説明せずに出張だとだけ言った。
「ホシノ先輩。先輩に勝つのは私だから」
「全く。最初はもっとミステリアスな子だと思ったんだけどねぇ」
ホシノの闘志をなんとなく察しているのか、シロコの言葉に苦笑いする彼女だった。
「それじゃあ、行ってくるよ」
そうして、ホシノはアビドス高校を発った。
このお金が、とんでもない騒動を巻き起こす発端になるとは知らずに……。
「はあ、生徒会長か……」
ユメからその職位を受け継いだホシノはそう呟いた。
バスを乗り継ぎ、ゲヘナ学園までの道中、彼女は物思いに耽っていた。
生徒会長らしさとは何だろうか?
選挙でも何でもなく、民意でも何でもなく、当たり前のように後継者に選ばれたホシノ。
誰もそれを疑わなかった。新入生も、在校生も。
やるべきことは山積みだが、どれも手につかない。
鉛のように身体が重かった。
後輩達の期待。同僚たちの信頼。
そのどちらも、ホシノには過分に思えたのだ。
自分はそんな人間では無い。古巣から逃げるようにアビドスにやってきた、逃亡者だ。
逃げて、全てを無かったことにして、知らんぷりをして過ごす。
それが自分の望んだことではなかったのか?
そこまで思い返して、ああ、とホシノは思った。
楽しかったのだ。ユメとの馬鹿馬鹿しい毎日が。それはさながら、夏休みの終わり頃に行ったお祭りの日が終わってしまうような虚無感。
最も自殺者が増えるという、始業の鐘をホシノは聞いてしまったのだ。
それは死神の異名を持つあの友人とも言いたくない相手の所業なのか、それともそれに付き従う不気味な魔女の呪いなのか。
まるで慕っていた従妹が遠くに行って、寂しがるような幼さ。
懐古の足枷が、鎖につながれた鉄球のように重い、想い。
逃げてきて本当に良かった、とホシノは思った。
勉強も、戦闘も、ホシノは完璧だった。
どこぞの白い毛玉が心の底で嫉妬を抱くぐらいには、ホシノは周囲から期待されたエリートだった。
その先に待っていたのはなんだったのだろうか?
きっと武力集団の長やら、生徒会の重役やら。
ホシノを望む期待の手から、彼女は逃げた。
後悔はない、だが悔いはある。もっと別の生き方があったんじゃないか、と。
初めから期待させなければ、失望もまた無い。
なんか他人より強くなれただけ。なんか他人より勉強が出来ただけ。
人付き合いも、周囲を取り巻く政治も、からっきし。
それがホシノと言うちっぽけな生徒の正体だった。
ゲヘナ自治区でも比較的安全な都市部を経由し、ホシノはゲヘナ学園の正門までやってきた。
「本当に大きいなぁ。前の学校も、ここに比べれば田舎だよ」
小中高合わせて数万の生徒が通う二十を有に超える分校舎。
生徒会や風紀委員会がまるまる一つ占有する校舎。
そこらかしこで聞こえる銃声や爆音。
「あー。そこの君、なにか御用かね」
普段全く機能していない校門脇の守衛室から、のんびりとした大人の職員がホシノに声を掛けた。
彼は制服のカタログを手に、ホシノがこのゲヘナの生徒ではないと確認しながら誰何を行った。
「ちょっとミコトって子に用事があって」
「あー、はいはい。ミコトちゃんね。すぐ取り次いであげるよ」
「お願いします」
ホシノも流石に他校の校内に入るほど非常識ではないので、取り次いでもらうことにした。
一応事前にミコトに今日、そちらに向かうと連絡は入れているので、スムーズに行くはずであった。
「
「え……?」
「運が良いよ、君。ここ一週間は恐らく、ゲヘナ学園の歴史上で最も平和な時期だろうから」
連絡を終えると、内線の受話器を置いて守衛のおじさんが言った。
「よう、ホシノ」
そしてすぐに、ミコトは現れた。
いつものバンカラ装束ではなく、軍服を思わせる制服に裏地が赤いコートを纏っていた。
それは紛れもなく、万魔殿の制服だった。
ぞろぞろ、と他の議員も追従している。
「あれ、ミコト。何その格好……」
「実はよ、マコちゃんとヒナがインフルエンザでダウンしててよ。代理やってくれって頼まれてんだ」
ミコトはスッと、ホシノに白い不織布のマスクを手渡した。
よく見なくともミコトや議員達も皆マスクをしていた。
「今ゲヘナはインフルエンザが大絶賛流行中でよ、トリニティから救護騎士団も来て予防対策中なんだわ」
「それは、大変だねぇ」
ホシノはマスクを付けつつ、そう言った。
歴史上最も平和の意味を、彼女は理解したのである。
「とりあえず、予防対策が終わるまで待てや。
お前もあそこで予防注射しとけ、タダだからよ。
俺は今からワクチン反対派なんつう、クソガキどもを血祭りに上げてくんだ」
「議長代理、戦車隊の準備が完了しましたよ」
まるで初めから秘書であったかのように、ミコトに自然と侍るイロハがそう言った。
ミコトの指差す先には、救護騎士団と救急医療部の合同のテントが設置され、予防注射を待つ列が出来ていた。
「おう、戦車内でもソーシャルディスタンスは徹底しろよ。定期的にハッチ開けて換気しやがれ」
「全部隊に通達しておきます」
「議長代理」
そこにミネが部員を引き連れ現れた。
「取り急ぎ救護を、患者は刻一刻と増えています」
「おう、ミレニアムや他のインテリ学校にもワクチンの増産を頼んでっから、そう逸んなよ」
「いえ。予防注射を受けたくないから、ワクチン反対など狂った思想に傾倒する憐れな者達に救護の手を差し伸べなければなりません。一刻も早く、可及的速やかに、今すぐにでも!!」
「だから、焦っても薬は増えねえっつってんだよ」
「しかし、隔離の意味はあります」
「わかってる。各々するべきことをしろって奴だ。とりあえず俺は連邦生徒会のケツ蹴り飛ばして消毒液ぶんどって来るわ。鎮圧作戦の指揮は、お前に任せた」
「ええ、そちらはお願いします」
阿吽の呼吸だった。
お互いに、己のやるべきことを理解し、実行しようとしている。
「風紀委員ども!! お前らは、自治区内の全スラム街を封鎖しろ。
俺の舎弟どもも貸してやる。ウイルス一匹もゲヘナから出すんじゃねぇ。逃げる奴には銃弾とワクチンをぶち込め!!」
「はい、議長代理!!」
風紀委員会も総動員の大忙しだった。
「議長代理、この際だから衛生任務を円滑にする為に面倒な校則を変えるべきかと。
マコト先輩その辺を変えるのをめんどくさがって」
「おう、どんどん変えろ。俺はよくわかんねえから全部お前らに任せる」
「ありがとうございます♪」
イロハは資料を口元に当てて、ニヤリと笑った。
ゲヘナ学園は歴史が古いだけあって、時代に合わない無意味な校則や回りくどい規則が数多いのだ。
マコトが変えれば角が立つかもしれないが、ミコトに文句を言う奴はいない。
「つーか、手が足りねぇ。ホシノ、お前も手伝え」
「え、私もぉ!?」
「滅菌が終わるまで誰もゲヘナ自治区から出さねえ。同じことだ」
「実働部隊は全員ワクチン接種が義務です」
ミネが注射器を片手に、ホシノに迫る。
「この面倒ごとを終わらせたら、最高の喧嘩の舞台を用意してやる。だから今は手伝え」
「わ、私は別に楽しみにしてるわけじゃないんだけど……」
こうして、ホシノはこの大騒動と、その後の超大騒動に巻き込まれることになるのだった。
早速万魔殿を乗っ取っているミコトww
救護は最優先だからね、仕方ないね。
第一話と言うことで、ほとんど導入の五千字程度の短いお話になりました。
二年生編はこのように、各々の視点から物語が進むオムニバス形式で行こうと思います。
ではまた、次回!!