ゲヘナ学園 園芸部の死神   作:やーなん

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side:万魔殿 「会議は踊る」

 

 

 

 病の兆しは、春休みで閑散としたゲヘナ学園に忍び寄っていた。

 

「マコト先輩、今年のインフルエンザ患者についての報告です!!」

 

 チアキが報告書をマコトに持っていく。

 彼女を含め、この時期は万魔殿全員マスクを着用しての活動だった。

 

「うむ……今年は遅めだな」

 

 時期はもう春先。

 インフルエンザが猛威を振るうのは冬の乾燥した時期なので、マコトはそう呟いた。

 

「これは、数日後の始業式にも影響が出そうですね……」

 

 余計な手間が増える、とイロハは面倒くさそうに言った。

 今年の感染者は少なめだと油断した先に、流行が始まったのだからそうも言いたくなるだろう。

 

「今年の春はいつもより乾燥してて寒いですものね!! 私も広報活動を頑張らないと!!」

 

 チアキも握りこぶしを作って、気炎を吐いた。

 

「そう言えば、初等部の頃は大変でしたよね。

 あの頃は年末に大流行して、十年に一度の大流行だって先輩達は大騒ぎしてましたよね」

「ああ、覚えています。学園中大騒ぎでしたからね」

 

 チアキとイロハがそんなことを言った。

 万魔殿のメンバーは基本的に、身元がはっきりしている人員に限られる。

 ここに居る面々は皆、初等部からの付き合いだった。

 気心の知れ具合ならどこぞの茶会とは比べ物にならない。

 無論、マコトが前政権の生徒会メンバーを全員排除したと言うのもある。

 雷帝の支持基盤だった三年生たちは今年の卒業式でキヴォトスを去った。

 

 クーデターを最後まで警戒していたマコト政権は、ようやく力を抜けた。

 その矢先に、インフルエンザの流行である。

 

「マコトちゃん、大変よ!!」

 

 その時、生徒会室にサツキが飛び込んできた。

 

「どうした、そんなに騒いで」

「ヒナが、インフルエンザで保健室に収容されたらしいの!!」

 

 字面だけなら隣のクラスの知り合いが体調を崩した、だがここはキヴォトス。

 二年生に上がるのと同時に風紀委員長に就任が決まっているヒナはマコトの政敵であった。

 

 権威や権限は万魔殿の方が強いが、実権は間違いなく風紀委員会の方が強い。それがゲヘナ学園の政治構造だった。

 万魔殿の下部組織として風紀委員会は生徒会を立ててはいるが、誰もが建前だと認識している。

 

 仮に万魔殿が暴走した場合、それを止めるのが風紀委員会だからだ。

 キヴォトス最強の戦闘集団という名声が彼女らにはあるが、彼女らは性質上、その暴威は基本的に身内に向けられている。

 無論、逆に風紀委員会が暴走した場合に備えて、万魔殿も独自の兵力を備えている。

 

 そう言った拮抗で、ゲヘナ学園の政治は成り立っているのだ。

 

「なに? ヒナの奴が? それは愉快だな!!」

 

 ヒナの不調を聞いて、ケラケラと笑うマコト。

 身内のノリでやっているゲヘナの生徒会、そこに急に台頭してきたヒナをマコトは気に入らなかった。

 他の生徒会の面々は、あの物静かなヒナがねぇ、みたいな感じだったし、去年の半ばまでマコトはヒナなど眼中に無かった。

 

 しかしヒナはメキメキと実力を付け、半年で風紀委員会にヒナ在りと言われるまでになった。

 マコトが警戒心を抱くのは当然のことであった。

 

「どれ、この私が直接奴の弱り切った姿を見てやろう!!」

 

 彼女はそんなことを言って、嬉々として生徒会室から出て行った。

 

「はあ、肩の荷が降りた途端、あれですよ」

「去年のマコト先輩はかっこよかったですもんね!!」

 

 去年は雷帝関係もあり、マコトは常にピリピリしていた。

 何だかんだで昔から上級生としてマコトは皆を引率したりしてたので、そこそこ頼りにはしていた。

 それはそれとして尊敬できる先輩という感じではなかったが。

 

「まあ、ミコトの件で私達も忙しかったものね……」

 

 サツキが悩まし気な溜め息でそう言った。

 

「だからって、去年の成績を全部病欠でなかったことにするのは流石に呆れましたよ……」

 

 去年、マコトはそれはもう成績表が真っ赤だった。どこぞのバカの所為である。

 イブキに、成績表を見せて、とねだられたマコトは顔も真っ赤にした。

 

 だから無かったことにした。生徒会に在籍しながらも、ずっと療養生活をしていたことにした。

 だからテストなんて受けられなかったし、生徒会の運営は自分が指示していたことになった。

 ゲヘナ学園の政治なんて、生徒達は誰も興味がない。なのでそれで通ってしまった。

 生徒の最終的な成績を管理する連邦生徒会も、はいはいわかりました、で済まされた。きっと政治的なうんぬんかんぬんがあったとか思ったのだろう。彼女らは基本的に学園の自治に関与しない。

 

 そんなアクロバットを決め、マコトは留年を決め込んだ。

 まだ一年長く居る気なんだ、とイロハは他人事のようにそう思った。こんな下らない出来事に関与したと思われたくなかったのだ。

 

「んん~、これはこれは空崎くんではないか!! 

 

 そして、マコトは要人用保健室の扉を開けるなり、そう言い放った。

 

「……マコト、議長」

 

 ヒナはベッドで横になりながら、面倒な相手が来たと思った。

 彼女は熱で顔が赤くなり、汗っぽい。普段にもましてダルそうにしていた。

 彼女だけでなく、他にも数名のインフルエンザ患者が収容されていた。

 

「何か御用かしら。ごほごほッ、貴女にも移るわよ」

「そう邪険にするな。お前が病床に伏したと聞いて心配になって見に来たのだ!!」

「ああそう……」

 

 生き生きとしているマコトを若干恨めしそうにしているヒナだった。

 

「しかしお前らしい。寮室で療養ではなく、保健室で治療とはな」

「緊急の用件が有った時、こっちの方が報告に遠慮をしなくて済むでしょうから」

「キキキ、林檎でも剥いてやろうか? そうだ、このマコト様直々におかゆを食べさせてやろう!! その光景を広報写真にして学校中に掲載してやろうじゃないか!!」

「いいから帰って……げほげほッ」

 

 地味な嫌がらせの内容に、心底億劫そうにヒナは言った。

 

「それに、私より看病するべき相手が居るでしょう?」

「なに?」

 

 ヒナはカーテンで包まれていた隣の病床を開けた。

 

「けほけほッ、その声、マコト先輩なの?」

 

 そこに居たのは、万魔殿のアイドルこと丹花イブキだった。

 

「い、イブキ!!? どうして……」

「ごめんなさい、マコト先輩……皆に心配かけたくなくて、黙っててってお願いしたの」

「気にするな!! 喉は乾いていないか? そうだ、プリンを買ってこよう!! あと、消化に良いものも買ってこなければ……」

 

 マコトにはヒナなど、もう眼中になかった。

 大慌てでイブキの看病を始めたのである。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……イブキね、本当は寂しいの」

「安心しろ、今日は私が付きっ切りで看病するからな!!」

「でも、マコト先輩にビョウキ移っちゃうよ……」

「イブキから貰うものは何でも大歓迎だとも!!」

「……」

 

 すっかりここに居座るつもりのマコトに、ヒナは何か言いたげな視線を送るのだった。

 

 そして、その二日後。

 

「ごほごほッ、死ぬ、死んでしまうぅ」

「見事に移されましたね」

「おのれヒナめ、よくもこのマコト様に移してくれたな!!」

「…………」

 

 ヒナは隣のベッドで恨み言を言うマコトを、毛布を被って無視した。

 イロハは淡々とマコトに報告を行う。

 

「結局、始業式はインフルエンザの流行を理由に、生徒不参加でよろしいですね?」

「げほッ、げほッ、仕方あるまい……」

「あれから患者数の報告はどんどん増えています。

 これはもうインフルエンザハザードの発生と見て間違いありません。

 まさに十年に一度の大流行です」

 

 ゲヘナ学園の校内で衛生環境が整っているのは、救急医療部と風紀委員会の本棟ぐらいである。

 毎年毎年ゲヘナで、インフルエンザの流行は恒例行事なのだが、今年の規模は例年の数倍の見込みである。

 

「連邦生徒会からも早急に対処してほしいと要請がありました」

 

 キヴォトス全域でインフルエンザが流行しているが、ゲヘナ自治区は段違いだった。

 この状況を放っておいたらパンデミックになりうると、行政も危機感を抱いたのだろう。

 

「そこまでか……」

「とりあえず、我々で何とか回しておきますので、今は回復に努めて復帰次第奮闘をお願いします」

「いや、それでは遅すぎる」

 

 インフルエンザウイルスが体内に侵入し、排出されるまでおおよそ一週間。

 熱で鈍った思考でも、マコトは今が分水嶺だと悟った。

 一週間後では遅すぎる。しかも病み上がりのマコトを抱えては不安が残る。

 

 今すぐにでも対処が必要なのだ。マコトはその辺りの判断を間違えない。

 

「……非常に遺憾だが、イロハ」

「はい」

「──ミコトを担ぎ上げろ」

 

 これにはイロハも、ヒナも毛布を捲って驚きを示した。

 

「奴は元救急医療部であの先代部長の薫陶を受けた。

 この状況で奴以上の適任はいまい。ごほごほッ、奴ならこの状況で、必ず引き受けるだろう」

「し、しかし、マコト先輩!!」

「つべこべ言うな!! げほげほげほッ、インフルエンザはキヴォトスの外では死病だと聞く、ただの風邪だと甘く見るな!!」

「りょ、了解しました!!」

 

 議長の命令に、イロハは従った。

 すぐさま彼女は病室を出て行った。

 

「……ふん、この面倒な貧乏くじを引き受けるなどと、ミコトの奴もざまあない」

「…………」

 

 ヒナは、普段からこうならなぁ、と言わんばかりの視線を隣に注いでいた。

 

 

 

 

「え、マコちゃんの代理? いいぜ、やるやる」

 

 ミコトは一も二も無く頷いた。

 内容も聞かずに、である。

 

 そんなたった三行でしか説明できないノリで、ミコト議長代理が爆誕した。

 

「で、俺は何をすればいいんだ?」

 

 常より数の少ない万魔殿の生徒会室の上座に座ったミコトがそう言った。

 権威を引き継ぐ、というパフォーマンスで彼女はマコトの制服を借りてその身に纏っていた。

 

「とりあえず、マコト議長の復帰まで現状問題となっているインフルエンザの大流行に対処して頂きたいです。

 それ以外の業務はこちらで行いますので」

 

 代表して、イロハが彼女にそう言った。

 

「おう、マジで今年のはヤベーらしいな。

 俺のダチの半分は家で休んでる」

「ええ、既に授業が始まる前から30クラス分が学級閉鎖している有様です。元救急医療部に在籍した経験から、対応をお願いしたいのです」

 

 このままでは授業なんて出来ません、とイロハは溜め息を吐いた。

 出席なんてしないで割と好き勝手しているゲヘナ生でもちゃんと授業を受けている層もそれなりに居る。

 生徒会としてはそんな彼女達を守らねば、それこそ学校の意味がない。

 

「たしかにな、インフルエンザウイルスってのは弱い奴を狙って悪化させるシャバイクソウイルスだ。

 俺らの生活守んために、〆なきゃなんねぇ。ダウンしたマコちゃんの代わりに、俺はやるぜ」

「助かります、ミコト先輩」

 

 普段からこうならいいのになぁ、と思わなくもないイロハだった。

 

「その前に、お前らに聞きてぇことがある」

「なんでしょう」

「俺が今日から代理じゃなくて、ヘッドとしてここを仕切る、つったらどうする?」

 

 一瞬で、空気が凍った。

 

「お前らが俺を歓迎してねぇってのは目で分かんだよ」

 

 ミコトは議員全員を見回してそう言った。

 

「俺に従えないってなら、出てけ。勿論、後ろから撃ったりしねえよ」

 

 その言葉に、議員達はすぐに席を立った。

 

「ええと、ミコト先輩。ミコト先輩のことは尊敬してますけど、それは違うって言いますか……」

「そうよ、私達はマコトちゃんだからついて行ってるのよ。

 ミコトちゃんがそういうことをするなら、私達は従えないわ」

 

 これにはチアキも、サツキも同じような反応を示した。

 

「……はあ、皆さん落ち着きましょう。ミコト先輩も、わざわざ皆を試すような真似はしないでください」

「ああ、悪かったって」

 

 イロハに諫められ、まあ座れよ、とミコトは議員達に着席を促した。

 

「俺もマコちゃんとはマブダチだ。

 だがよ、そんなマコちゃんの周りを固める奴らが、ここで俺に媚び売るようなら、そいつは二度とゲヘナの地を踏めねえ身体にしなきゃなんねえ。違うか、お前ら?」

 

 議員達から返答は無かった。ただ、着席でその意志を示した。

 

「俺が飽きっぽいのなんて知ってるだろ、お前ら。

 頼まれたってこんな面倒な仕事するかってんだ。

 だがインフルエンザのウイルスはちげぇ。このゲヘナから全部潰すまでは手伝ってやる。これはそう言う同盟だ。今はそれで納得しろや」

 

 ミコトは嬉しそうにそう言った。

 もし全員がミコトを歓迎するなんて言ったら、それこそ全員を殴り飛ばしていただろう。

 彼女は気合が入った奴が大好きなのだ。そう言う意味では、彼女らは合格だった。

 

「とりあえず、こう言うのは専門家を呼ぶべきだな。

 俺達はどこまで言っても病気には素人。知り合いに声を掛けっから、その時になったら改めて対策会議すんぞ」

「では、それまで状況の確認を皆で急ぎましょう」

 

 ミコトの意見は理に適っていたので、イロハが両者の間に入って話を進めることにした。

 

 それで、現れたのが。

 

「今年より救護騎士団の副団長に任命されました、蒼森ミネです」

 

 彼女だった。

 

「どうぞお見知りおきを」

 

 ミネは見事なカーテシーを披露し、そう言った。

 

「先日の勉強会振りですね、ミネさん」

「こちらこそ、セナさん。部長就任おめでとうございます」

「そちらも副団長だとか。貴女の熱意あってこそでしょう」

「より多くを救護する為には、肩書も必要ですから」

 

 生徒会室にすでに呼ばれていたセナが、ミネとそんな会話を交わした。

 実はいつぞやのブラックマーケットの一件以来、学校を超えてお互いの知識を高め合う場を設けたりしていたのだ。

 

「明日にはミレニアムから保健委員会が応援に来るってよ。

 ミネなら呼んだらすぐくるから、今からとりあえず会議すっぞ」

 

 専門家はこれで揃った。

 ミコトは議員を召集し音頭を取った。

 

「ちょっと待ってください、議長代理」

「なんだよ」

「専門家なら救急医療部だけで十分では? 

 なぜトリニティにまで声を掛けたのです?」

「納得いかねぇってか」

「その通りです」

 

 ミコトに意見した議員は頷いた。

 

「今俺らとトリニティは同盟組んでんだろ。別に構わねえだろ、手が足りないのは事実だ」

「我々はトリニティに借りを作るのを危惧しているのです!!」

 

 主語が大きい言葉だったが、彼女の意見には数名が頷いたので彼女個人だけの言葉とは言えなかった。

 

「じゃあ次トリニティでなんか大流行したら救急医療部を送る。ミネ、それでいいよな?」

「そちらがそれで納得し、円滑に救護が行えるのならなんでも構いません。

 ですが、私もティーパーティーに議席を持つ派閥の一人として、今回の救護騎士団派遣には如何なる政治的な理由も存在しません。そう宣言させていただきます」

 

 救護騎士団はシスターフッドと並んでトリニティで歴史のある古い部活動だ。

 ホストの席こそ回ってこない比較的小さな派閥だが、その存在だけで一定の発言力は存在するのである。

 

「それよりも、私の立場の表明が此度の会議の主題ですか? 

 であれば、私は現場に速やかに赴きたく思います。たとえあなた方が拒否しても、あの惨状を見て救護の手を差し伸べない理由にはなりません。もう良いですか? では行きますよ行きますそれでは」

「まあ待てよ、まず全員で今どうなってっか把握した方が効率的だろうが」

 

 ミコトの方が諫める側と言う状況に、議員達は戦慄していた。

 

「……それもそうですね。効率と連携は重要です」

「わかったろ。こいつは先代のうちの部長と同じだ」

 

 これには議員達も何も言えなかった。

 

「皆さんは私がここに来てトリニティに何の利益があるのか疑問でしょうが、我々が水際でウイルス拡散を防げれば、それ自体がトリニティの利益なのです。

 こうして議会で四苦八苦しながら対応に追われる必要が無くなる意義は、皆さんも理解できるのではありませんか?」

 

 そしてミネはただの脳筋ではなかった。

 救護とインテリを兼ね備えた脳筋なのである。

 

「では、会議を始めましょうか」

 

 そしてミネは勝手に仕切り始めた。

 

 

 会議が始まり、踊る。

 

「セナ。救急医療部はどれぐらい数出せる?」

「実働を兼ねる高等部の部員以外なら」

 

 ミコトは会ったことがないが、救急医療部には中等部の生徒も所属できる。

 ただし、彼女らが現場に出るのは高等部になってから、十分に医学に対する学習が済んでからになる。

 だからミコトはチナツとは面識が無かった。

 

「おい、何言ってんだ。ちゃんと技術も知識もある高等部の部員がなんで出せねぇんだ」

「緊急事態だろうと、通常の業務が無くなるわけではありません。

 休憩の為に後ろで待機する人員も必要ですから、全力投球は難しいでしょう」

「なあセナ、なんだそのヌルぃ救護はよう!!」

 

 ミコトが席から立ち上がる。

 

「てめぇそれでも救急医療部か!! 

 先代から何を教わってんだ、舐めてんのかお前!!」

「先代は先代、私は私です。

 それに救急医療部は外科、インフルエンザは内科の領分。人員を増やしても効果的な処置は難しいでしょう」

「それでもできることをすんのが、お前らだろうが!!」

「それとこれとは別問題ですよ、議長代理。貴女こそ何を先代から教わったのですか?」

 

 ミコトの拳がセナに飛んだ。

 

「立てよ、その冷めたツラ真っ赤にしてやる」

「……」

 

 殴り飛ばされても、セナは何も言わなかった。

 しかし、その視線が横に逸れた。

 

「ミコトさん」

「なん──」

 

 ミネの拳が、ミコトの顔面に炸裂した。

 

「お互いに救護性の違いがあるのは理解できます。

 ですが今は拳は必要ないかと。貴女は一度頭を冷やすべきです」

「……おう、悪かった。効いたぜ、目ぇ覚めたわ」

 

 激高していたミコトは、ミネの一撃で落ち着きを取り戻した。

 

「悪かったな、セナ。お前も俺を殴っていいぞ」

「いえ、ミネさん以上の威力は出せませんので」

 

 ミコトはセナに手を差し出し、彼女はそれを手に取った。

 それで三人は何事もなく席に戻った。

 

 いや救護性の違いって何? 拳を使ってるじゃん、と言ったツッコミを言える雰囲気ではなかったので、議員達は空気を読んだ。

 

 

「とりあえず、このリソースを割り振って対処するしかねえな」

 

 各々の学校や部活が出せる人員で、事態に対処することになった。

 

「あと議長代理。毎年必ずワクチン接種を拒否する生徒が一定数現れるのですが」

「なんですかそれは、いったいどういう理由で? なぜですか?」

 

 ミネの圧に気圧されながらも、イロハは言った。

 

「注射が、怖いそうです」

「……は?」

「ワクチン反対だのなんだの言ってきますが、彼女らの主張はそれに尽きます」

「それは、初等部の生徒ですか?」

「いえ。バリバリの高等部の生徒です」

 

 ミネが真顔になった。然もあらん。

 

「そんな顔すんなよ、ミネ。ここはゲヘナだぜ。

 注射がイヤならそれでもいいじゃねえか。ゲヘナの校風は自由と混沌。そいつの意志を尊重してやろうぜ。

 その場合、ミネ、どうすれば良いと思う?」

「最低限、自室での自宅学習を認めるべきだと思います。出席に関しては、後日テストなどを行うべきでしょう。トリニティではそうなる筈です」

「じゃあ自宅学習を認める方向で良いな?」

 

 ミネの意見を取り入れつつ、ミコトは議員達に意見を求める。

 

「それ自体は構いません。

 ですが、ミコト先輩は知らないでしょうが、うちの生徒は──」

「報告です!!」

 

 その時、万魔殿の部隊の制服を着た生徒が駆け込んできた。

 

 そう、ミコトは忘れていた。

 

「インフルエンザのワクチンを輸送していた車両が、襲撃を受けました!! 

 犯人は、自称ワクチン反対派だと思われます!!」

 

 ここが、ゲヘナであることを。

 

「……おい、それはちげぇだろうが」

 

 ミコトはブチギレて、席を立ちあがる。

 

「自由ってのはよ、他人を尊重して成り立つって話だろ? 

 注射がイヤなのはてめえゴトだろうが、なんで他人の邪魔すんだよ。いつ俺らが注射は強制だっつった!! 俺らがてめえらの自由を奪うっつたよ!!」

「議長代理、強度の強い救護が必要だと思われます」

 

 ミネが小さく手を挙げてそう言った。

 彼女も無表情に見えて、身体が小刻みに震えていた。テーブルがミシミシと悲鳴を上げている。

 

「強度の強い救護。そう言うのもあるのか……ミネ、お前はいつも俺に新しい世界を見せてくれんな」

 

 ふう、とミコトは一旦落ち着いてから、そう言った。

 

「血祭りだ。他人の自由を奪う奴は、自分の自由も奪われるって教えてやんぞ」

「すぐに我々もトリニティから部員を招集します」

「おう、それまではひとまず、校内でやれっことは終わらせんぞ」

 

 こうして、暫定ミコト政権は始動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 





キヴォトスの生徒にも感染するインフルエンザって、何なんですかね?
邪神の呪いかなんかでしょうか。特にゲヘナの生徒が病気で参ってる姿なんて想像できないですよね!!

とりあえず二章の初めは、こういったミネたちとのかかわりから始めようかと思います。
あと、何気にセナはミコトに殴られてるという掲示板回の伏線も回収、と。
それではまた、次回。
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